2019.05.06

新現代の借地・借家法務 第8回 定期建物賃貸借の裁判例概観(その6)

定期建物賃貸借にまつわる重要判例について、契約締結前説明と定期建物賃貸借条項(その1)、賃料不減額合意(その2)、中途解約禁止(その3)、終了通知(その4)、再契約(その5)などをご紹介してきました。今回も、引き続き、定期建物賃貸に関するものをご紹介します。今回は、普通建物賃貸借の定期建物賃貸借への切替えをテーマにして裁判例を紹介します。
定期建物賃貸借は、既に説明してきたとおり、期間満了による終了や家賃減額請求を合意により排除できるなど賃貸人にとって多くのメリットがあります。そこで、従前の更新型の契約を定期建物賃貸借に切替えできないのかとのご相談を受ける場合があります。

 

平成12年2月までの居住目的旧賃貸借からの切替え まず、改正借地借家法施行以前の建物賃貸借を定期建物賃貸借に切替えることはできるのでしょうか。改正借地借家法は、制定時に附則で、借地借家法改正による定期建物賃貸借の規定の施行前にされた居住の用に供する建物の賃貸借の当事者が、その賃貸借を合意により終了させ、引き続き新たに同一の建物を目的とする賃貸借をする場合には、当分の間、定期建物賃貸借の規定を適用しないとしています(良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法附則第3条)。改正法の施行は平成12年3月1日ですから、同年2月末日までに締結された居住用の普通借家契約を、定期借家契約に切替えることできないことになります。借地借家法改正に伴う経過措置において、定期借家契約の意味や法的効果を十分に理解しないまま切替えに応じてしまった賃借人が不利益を受ける危険を避けるという趣旨です。

 

新法施行後の居住目的普通建物賃貸借からの切替え では、改正後の普通建物賃貸借は、定期建物賃貸借に切替えることはできるでしょうか?
この点、前回再契約に関して紹介した東京地裁平成27年2月24日判決は、第2契約を普通建物賃貸借と認定していることから(第1契約は定期建物賃貸借)、第3契約で普通建物賃貸借を定期建物賃貸借に切替えようとした事案ともみることができます。この事案では、判決は、本件契約は、普通建物賃貸借である前賃貸借契約の期間満了に伴って合意されたものであるところ、更新に際し作成された契約書が、定期建物賃貸借に使用される契約書であり、その旨の説明書が交付されたとしても、そのことのみでは、前賃貸借契約の更新契約が定期建物賃貸借に変更されるものではないとしており、普通建物賃貸借を定期建物賃貸借に切替えることを認めなかった事案とみることができます。

 

事業用賃貸借の場合 改正借地借家法制定時の附則は、先に述べたように「居居住の用に供する建物の賃貸借」を定期建物賃貸借に切替えることを禁止していますが、「事業の用に供する」場合には、切り替えを禁止していないように読めます。しかし、第7回でご紹介した平成27年2月24日判決(REITO No101・114頁)の事案は、実は賃借人は賃借物件を調剤薬局として使っていた事案であり、事業の用に供する目的での賃貸借の事案でした。この裁判例では、事業の用に供する目的での賃貸借といえども、改正借地借家法施行前後を問わず、旧賃貸借契約終了時に事前説明と定期建物賃貸借の書式での新契約書を作成しただけでは、更新型の賃貸借契約を定期建物賃貸借に切替えることはできないとしたと考えられます。

 

どのような場合に切替えができるか そこで、どのような場合に旧借地借家法下の建物賃貸借契約や新法下での普通賃貸借契約を定期建物賃貸借契約に切替えることができるのでしょうか。
まず、旧借地借家法下の建物賃貸借契約については、居住用の建物賃貸借を現時点では、定期建物賃貸借に切替えることはできないことは、前述のとおりです。
これに対し、事業用建物賃貸借(改正前後を問わず)や改正借地借家法施行後の更新型建物賃貸借(居住用事業用を問わず)の場合、一定の要件を充たせば、定期建物賃貸借に切替える余地があると考えます。
この点、前述の平成27年2月24日判決が次のように述べている点が参考になります。すなわち、「第2契約は普通建物賃貸借契約であるから,借地借家法26条,28条により、約定の賃貸借期間が満了する1年前から6か月前までの間に更新しない旨の通知をし,当該通知に正当の事由があると認められる場合でなければ賃貸借が終了することはない」とし、また、「本件契約が定期建物賃貸借として契約されるためには、賃貸人である原告が、賃借人である被告会社に対し、普通建物賃貸借として更新された第3契約を終了させ、より不利益な内容となる定期建物賃貸借契約をすることの説明をしてその旨の認識をさせた上で合意することを要するものと解すべきである」としています。
この判決からは、私見ですが、定期建物賃貸借への切替えの要件は、①1年前から6ヶ月前の間に更新拒絶の通知、②正当事由、③定期建物賃貸借が従来の更新型の契約に比べ不利益であることの説明となると考えられます。

 

まとめ・実務的な対応方法 いったん更新型契約を締結している場合、定期建物賃貸借に切替えることは、難易度が高いと考えるべきでしょう。正当事由の存否の判断は弁護士に相談すべきと考えます。

 

新現代の借地・借家法務第7回(定期建物賃貸借の裁判例概観(その5))

定期建物賃貸借にまつわる重要判例について、契約締結前説明、定期建物賃貸借条項、賃料不減額合意、中途解約禁止、終了通知などをご紹介してきました。今回も、引き続き、定期建物賃貸に関するものをご紹介します。今回は、再契約をテーマにします。
定期建物賃貸借では、再契約をする例を頻繁に見かけます。また、「再契約を妨げない」のような再契約条項を入れている場合もあります。
この再契約によっても定期建物賃貸借性は維持されるのでしょうか。更新型の賃貸借でも更新の都度契約書を締結し直す例も多く、再契約と区別つきにくいように思いわれます。では、再契約により、定期建物賃貸借でのは失われ、更新型の契約になってしまうのでしょうか。もしそうなると期間来ても正当事由が認められない限り、賃貸借は終了しないことになってしまいます。

 

再契約に関する裁判例 借地借家法は、再契約の可否について直接の規定はありません。また、今のところ(令和元年5月6日現在)最高裁判所の判例は見当たりません。
この点について、東京地方裁判所平成27年2月24日の判決(REITO No101・114頁)は、第一契約締結の際に、定期建物賃貸借の事前説明をした上で定期建物賃貸借を内容とする契約を締結したものの、賃貸人は「賃借の状況がよければ、契約を更新する」としていた事案で、契約期間終了前には、賃貸人は終了通知をしつつ、「再契約の意思があれば連絡してほしい」としたが、漫然と時間経過し、契約期間終了後3年ほど経過してから、「定期建物賃貸借契約」の再契約をした事案では、最初の契約終了から「定期建物賃貸借」の再契約をするまでの間を普通建物賃貸借とみた上で、再契約後も普通建物賃貸借とみています。

 

これに対し、東京地方裁判所平成21年7月28日判決は、定期建物賃貸借の事前説明の上、定期建物賃貸借契約を内容とする契約を締結する際に、「再契約可能である」との文言をいれた事案につき、「本件賃貸借契約を,契約の更新がない旨の合意がない状態で締結する意思を有していなかったこと」は,明らかであるとしたうえで、「本件再契約の記載と本件合意の存在とは矛盾するものではないこと」を認めて、再契約条項があっても、定期建物賃貸借性は失われないものとしています。

 

この二つの裁判例は、平成27年判決は「更新する」との文言であったのに対し、平成21年判決は「再契約」としていること、平成27年判決の事案では、賃貸借期間終了後、漫然と経過しており、定期建物賃貸借期間終了時の終了通知がない状態となっていた後に、定期建物賃貸借契約書による再契約をしていることなどが異なります。

 

これらの判決をみると、裁判所も定期建物賃貸借の再契約自体は、それによって、すべて更新型の普通建物賃貸借になるとはみていないが(平成21年判決)、再契約の手続が適切に行われていない場合には、普通建物賃貸借となるとみている(平成27年判決)ものと考えられます。なお、平成27年判決では、契約段階で「更新する」としていたことも期間満了後の契約に定期建物賃貸借性を失わせる要素の一つになったのではないかと推察しています。

 

再契約の手続 以上のとおり、裁判例を踏まえて考えると、定期建物賃貸借契約において、契約書に「再契約できる」といれるだけであり、また「再契約」をすること自体は、定期建物賃貸借性を失わせることにはならないといえます。
ただ、再契約の手続きが不十分であると、定期建物賃貸借性を失わせることになります。
定期建物賃貸借性を維持するためには、賃貸借期間終了後、漫然と経過してから再契約するのではなく、終了通知をだすべき1年前から6ヶ月前の間に、再契約の意思を確認し、契約終了前までに、再契約をするべきと考えます。また、その場合、定期建物賃貸借締結の要件である事前説明と書面による契約は、必須といえます。

 

原状回復をどうするか
なお、定期建物賃貸借を再契約した場合、再契約後の賃貸借期間終了時に生じる賃借人の原状回復の範囲について、契約時点の状態に戻すことを原状回復としてしまうと、最初の契約締結時点での原状とは異なる(最初の契約期間中に設置した什器等存在している状態となる)ことから、原状回復の範囲が問題になることが懸念されます。そこで、再契約前に、当初の定期建物賃貸借契約締結にもとづく原状回復すべき部分の範囲を確認し、その義務が再契約後も存続することが確認できるよう合意に工夫する必要があります。

 

まとめ・実務的な対応方法
定期建物賃貸借を選ぶ賃貸人としては、一定期間終了後かならず出て欲しいという考えと、しかし、出たあと空き室になっては困るという懸念と双方をお持ちと思います。「再契約」によって、一見、後者の懸念を回避できるように思いますが、契約文言の選択は慎重にすべきであり、また、再契約の手続きに疑念ないようにしておく必要があります。契約文言が不十分であったり手続きが不足していた場合には、契約書上「定期建物賃貸借」とされていても、普通建物賃貸借とされてしまう可能性が高いことは、忘れないようにしていただきたいと思います。

 

2018.11.05

新現代の借地・借家法務( 第6回 定期建物賃貸借の裁判例概観 その4)


定期建物賃貸借にまつわる重要判例について、今回は、終了通知に関する判例を紹介したいと思います。
 
終了通知に関する規定
借地借家法は、契約期間の終了により、賃貸借が終了して、賃借人に対して、賃貸物件の返還を無条件で求めることのできる「定期建物賃貸借」の制度を設けています。平成12年3月1日から施行されていますので、そろそろ施行20年が近づいています。さて、定期建物賃貸借において、約束どおり、期間満了で終了するためには、一定の手続きを要します。それが、「終了通知」となります。法律は、次のように規定しています。「建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から六月を経過した後は、この限りでない。」
定期建物賃貸借を締結した以上、契約期間満了で賃借人に明渡していただかないとその意味はありません。しかし、そのためには、契約終了前、1年から6ヶ月までの間に「定期建物賃貸借ですので、契約とおり、●年●月●日に終了します。」との通知をしておく必要があるということになります。

終了通知をしない場合にどうなるか
そこで、終了通知を失念した場合に、契約期間終了後の賃貸人と賃借人との関係はどうなるでしょうか。条文は、「対抗できない」とあります。また、「通知期間(終了半年前まで)の経過後に」通知(期限後通知)をした場合は「通知の日から六ヶ月を経過した後」は、対抗できるものとしています。しかし、借地借家法の条文には、漫然と賃貸借期間経過してしまい、期限後通知もしていなかった場合の関係について明示していません。
そのため、定期建物賃貸借契約終了後に、賃借人は建物の使用収益を継続し、従前と同様の賃料を支払っているのだから、新たな賃貸借契約が成立しているといえないのかが問題となります。
この点、東京地裁平成20年12月24日判決は、平成20年6月9日までを賃貸借期間とする定期建物賃貸借において(通知期間は、平成19年12月9日まで)、終了通知が、期間後の平成20年6月12日に到達したという事案につき、同日から6ヶ月経過後の平成20年12月12日に当該定期建物賃貸借が終了すると判断し、明渡を認めています。
また、東京地裁平成21年3月19日判決も、借地借家法38条4項の終了通知を賃貸人が期間満了までに行わなかった場合、定期建物賃貸借契約は期間満了によって確定的に終了するが、賃借人に終了通知がされてから6か月後までは、賃貸人は賃借人に対して定期建物賃貸借契約の終了を対抗することができないため、賃借人は明渡しを猶予されると解するのが相当であるとしたうえで、終了通知から6か月が経過した後の契約終了と明渡しを認めています。なお、この判決は、契約期間終了後、賃貸人が、長期間放置している場合のように、賃借人の地位が不安定になる場合について、「黙示的に新たな普通建物賃貸借契約が締結されたものと解し,あるいは法の潜脱の趣旨が明らかな場合には,一般条項を適用するなどの方法で,統一的に対応するのが相当というべきである。」として、終了通知を何時しても良いとはしていない点も注目されます。

まとめ・実務的な対応方法
以上の裁判例を踏まえて考えると、定期建物賃貸借契約において、期間満了後に終了通知をした場合は、短期間の遅れの場合には、終了通知から6ヶ月後の契約終了が認められるものの、漫然と長期間放置し、その間、賃借人が建物の使用収益を継続し、従前と同様の賃料を支払っている場合には、新たな賃貸借契約が成立しているとされる可能性があるということになります。
建物を定期建物賃貸借契約で賃貸する場合、契約終了で明け渡して欲しいと考えてのことと思います。しかし、終了通知の時期を誤ってしまうと、係争となり、あまりに長期間漫然と賃借人に使用収益させ、また、家賃収受していた場合には、せっかくの定期建物賃貸借であったのに、普通建物賃貸借とされる余地があるということになります(今のところずばり普通建物賃貸借として明渡を否定した裁判例はないと思いますが)。
建物オーナーの方々は、借地借家法の原則を守り、1年前から6ヶ月前までの終了通知を厳守していただくことが、もっとも安全であろうと存じます。万が一にも、終了通知期間を経過している事案や、契約期間終了してしまっている事案については、早急に弁護士にご相談いただくことがベターです。


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