最判平成24年1月16日判時 2147号127頁平23(行ツ)263号 ・ 平23(行ヒ)294号
公立学校における国家斉唱に関し、平成24年1月16日に4つの事案について、二つの最高裁判所の判決がでている。また、2月9日には、懲戒の差止や斉唱義務不存在確認等についての最高裁判所の判決がなされている。
私は、この案件は取り扱っていないものの、著名事件でもあり、紹介しておく。
1 公立の高等学校又は養護学校の教職員が卒業式等の式典において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱すること又は国歌のピアノ伴奏を行うことを命ずる旨の校長の職務命令に従わなかったことを理由とする戒告処分が,裁量権の範囲を超え又はこれを濫用するものとして違法であるとはいえないとした。
「公立の高等学校又は養護学校の教職員が,卒業式等の式典において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱すること又は国歌のピアノ伴奏を行うことを命ずる旨の校長の職務命令に従わず起立しなかったこと又は伴奏を拒否したことを理由に,教育委員会から戒告処分を受けた場合において,上記不起立又は伴奏拒否が当該教職員の歴史観ないし世界観等に起因するもので,積極的な妨害等の作為ではなく,物理的に式次第の遂行を妨げるものではなく,当該式典の進行に具体的にどの程度の支障や混乱をもたらしたかの客観的な評価が困難なものであったとしても,次の(1)~(3)など判示の事情の下では,上記戒告処分は,同種の行為による懲戒処分等の処分歴の有無等にかかわらず,裁量権の範囲を超え又はこれを濫用するものとして違法であるとはいえない。
(1) 上記職務命令は,学校教育の目標や卒業式等の儀式的行事の意義,在り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿って,地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性を踏まえ,生徒等への配慮を含め,教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに式典の円滑な進行を図るものであった。
(2) 上記不起立又は伴奏拒否は,当該式典における教職員による職務命令違反として,式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用をもたらし,式典に参列する生徒への影響も伴うものであった。
(3) 戒告処分に伴う当該教職員に係る条例及び規則による給与上の不利益は,勤勉手当の1支給期間(半年間)の10%にとどまるものであった。」
2 公立養護学校の教職員が卒業式において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の校長の職務命令に従わなかったことを理由とする減給処分が,裁量権の範囲を超えるものとして違法であるとされた。
「公立養護学校の教職員が,卒業式において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の校長の職務命令に従わず起立しなかったことを理由に,教育委員会から,過去の懲戒処分の対象と同様の非違行為を再び行った場合には処分を加重するという方針の下に減給処分を受けた場合において,上記職務命令が生徒等への配慮を含め教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに式典の円滑な進行を図るものであり,上記不起立が当該式典における教職員による職務命令違反として式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用をもたらし式典に参列する生徒への影響も伴うものであったとしても,次の(1)~(3)など判示の事情の下では,上記減給処分は,減給の期間の長短及び割合の多寡にかかわらず,裁量権の範囲を超えるものとして違法である。
(1) 上記不起立は,当該教職員の歴史観ないし世界観等に起因するもので,積極的な妨害等の作為ではなく,物理的に式次第の遂行を妨げるものではなく,当該式典の進行に具体的にどの程度の支障や混乱をもたらしたかの客観的な評価が困難なものであった。
(2) 処分の加重の理由とされた過去の懲戒処分の対象は,入学式の際の服装等に関する校長の職務命令に違反した行為であって,積極的に式典の進行を妨害する行為ではなく,当該1回のみに限られており,上記不起立の前後における態度において特に処分の加重を根拠付けるべき事情もうかがわれない。
(3) 上記方針の下に,上記教育委員会の通達を踏まえて毎年度2回以上の卒業式や入学式等の式典のたびに不起立又はこれと同様の行為を理由とする懲戒処分が累積して加重されると短期間で反復継続的に不利益が拡大していくこととなる状況にあった。 」
最判平成24年1月16日判時 2147号127頁
平23(行ツ)242号 ・ 平23(行ヒ)265号
1 公立養護学校の教員が同校の記念式典において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の校長の職務命令に従わなかったことを理由とする停職処分が,裁量権の範囲を超えるものとして違法であるとされた。
「公立養護学校の教員が,同校の記念式典において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の校長の職務命令に従わず起立しなかったことを理由に,教育委員会から,過去の懲戒処分の対象と同様の非違行為を再び行った場合には処分を加重するという方針の下に停職処分を受けた場合において,上記職務命令が生徒等への配慮を含め教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに式典の円滑な進行を図るものであり,上記不起立が当該式典における教員による職務命令違反として式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用をもたらし式典に参列する生徒への影響も伴うものであったとしても,次の(1)~(3)など判示の事情の下では,上記停職処分は,停職期間の長短にかかわらず,裁量権の範囲を超えるものとして違法である。
(1) 上記不起立は,当該教員の歴史観ないし世界観等に起因するもので,積極的な妨害等の作為ではなく,物理的に式次第の遂行を妨げるものではなく,当該式典の進行に具体的にどの程度の支障や混乱をもたらしたかの客観的な評価が困難なものであった。
(2) 処分の加重の理由とされた過去の懲戒処分の対象は,いずれも上記と同様の不起立であって,積極的に式典の進行を妨害する内容の非違行為は含まれておらず,いまだ過去2年度の3回の卒業式等に係るものにとどまり,今回の不起立の前後における態度において特に処分の加重を根拠付けるべき事情もうかがわれない。
(3) 上記方針の下に,上記教育委員会の通達を踏まえて毎年度2回以上の卒業式や入学式等の式典のたびに不起立を理由とする懲戒処分が累積して加重されると短期間で反復継続的に不利益が拡大していくこととなる状況にあった。」
2 公立中学校の教員が卒業式において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の校長の職務命令に従わなかったことを理由とする停職処分が,裁量権の範囲を超え又はこれを濫用するものとして違法であるとはいえないとされた。
「公立中学校の教員が,卒業式において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の校長の職務命令に従わず起立しなかったことを理由に,教育委員会から,過去の懲戒処分の対象と同様の非違行為を再び行った場合には処分を加重するという方針の下に3月の停職処分を受けた場合において,上記不起立が当該教員の歴史観ないし世界観等に起因するもので,積極的な妨害等の作為ではなく,物理的に式次第の遂行を妨げるものではなく,当該式典の進行に具体的にどの程度の支障や混乱をもたらしたかの客観的な評価が困難なものであったとしても,次の(1)~(3)など判示の事情の下では,上記停職処分は,裁量権の範囲を超え又はこれを濫用するものとして違法であるとはいえない。
(1) 上記職務命令は,学校教育の目標や卒業式等の儀式的行事の意義,在り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿って,地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性を踏まえ,生徒等への配慮を含め,教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに式典の円滑な進行を図るものであった。
(2) 上記不起立は,当該式典における教員による職務命令違反として,式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用をもたらし,式典に参列する生徒への影響も伴うものであった。
(3) 処分の加重の理由とされた過去の懲戒処分等は,卒業式における校長による国旗の掲揚の妨害と引き降ろしなど積極的に式典や研修の進行を妨害する行為に係る処分2回及び不起立に係る処分2回を含む懲戒処分5回,国旗や国歌に係る対応につき校長を批判する内容の文書の生徒への配布等に係る文書訓告2回であった。」
最判平成24年2月9日民集 66巻2号183頁
平成23年(行ツ)第177号 国歌斉唱義務不存在確認等請求事件(上告棄却)
1 公立高等学校等の教職員が卒業式等の式典における国歌斉唱時の起立斉唱等に係る職務命令の違反を理由とする懲戒処分の差止めを求める訴えについて行政事件訴訟法37条の4第1項所定の「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められた(免職処分についての差し止め請求は損害の蓋然性がないとして不適法と判断された一方,職務命令違反の累積により他の懲戒処分が行われる蓋然性はあるとして同要件が認められ,この部分では訴訟要件としての適法性が認められた)。
2 公立高等学校等の教職員が卒業式等の式典における国歌斉唱時の起立斉唱等に係る職務命令に基づく義務の不存在の確認を求める訴えについて無名抗告訴訟として不適法であるとされた(事前予防的な確認訴訟は差し止め請求と実質的に同一であり,故に,差し止め請求の場合と同様に補充性が要求されるとの判断解釈が示された)。
3 公立高等学校等の教職員が卒業式等の式典における国歌斉唱時の起立斉唱等に係る職務命令に基づく義務の不存在の確認を求める訴えについて公法上の法律関係に関する確認の訴えとして確認の利益があるとされた(懲戒処分を回避するための事前予防的な訴訟形式としては2項の通り不適法であるが,職務命令違反による減給等の行政処分による以外の不利益処遇に対する不利益の予防を目的とする公法上の法律関係に関する確認の訴えとしては有効適切な争訟方法である)。
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