000 行政

2013.01.02

区画整理における照応原則に関する判例(最判平成24年2月16日)

最一判平成24年2月16日 判時 2147号39頁
平成23年(行ヒ)第166号 建築物等移転通知及び照会処分取消請求事件(破棄自判,被上告人らの請求棄却)


 事業計画に基づきマンション区分所有者らに対し現在仮換地の方法による仮換地が行われたことについて照応原則違反が争われた事案であるが,原審が,事業計画による廃止前の道路の存在を前提として照応原則違反を判断したこと,換地処分後に確定して生じる清算金負担を前提として照応原則違反を判断したことについて,前者は事業計画により道路廃止が予定されており且つ廃止について違法な点は窺えないことから廃止を前提に判断すべきこと,後者は仮換地処分時点の事情ではないことを理由に何れも誤りであるとした上,仮換地により不整形になった事情はあるものの地積が増加しており不整形部分は増加に係る地積部分に対応していること,設置道路の幅員が増加しマンション敷地としての利便性が低下したとは認められないこと,電線や排水管等の設備面でも利便性が低下したとは認められないこと等から,照応原則違反はないと判断された。

土壌汚染対策法3条の通知と行政行為(最判平成24年2月3日)

最判平成24年2月3日民集 66巻2号148頁
平成23年(行ヒ)第18号 土壌汚染対策法による土壌汚染状況調査報告義務付け処分取消請求事件(上告棄却)

土壌汚染対策法3条は、使用が廃止された有害物質使用特定施設に係る工場又は事業場の敷地であった土地の調査について、1項で

「使用が廃止された有害物質使用特定施設(水質汚濁防止法第2条第2項に規定する特定施設(以下「特定施設」という。)であって、同条第2項第1号に規定する物質(特定有害物質であるものに限る。)をその施設において製造し、使用し、又は処理するものをいう。以下同じ。)に係る工場又は事業場の敷地であった土地の所有者、管理者又は占有者(以下「所有者等」という。)であって、当該有害物質使用特定施設を設置していたもの又は次項の規定により都道府県知事から通知を受けたものは、環境省令で定めるところにより、当該土地の土壌の特定有害物質による汚染の状況について、環境大臣が指定する者に環境省令で定める方法により調査させて、その結果を都道府県知事に報告しなければならない。ただし、環境省令で定めるところにより、当該土地について予定されている利用の方法からみて土壌の特定有害物質による汚染により人の健康に係る被害が生ずるおそれがない旨の都道府県知事の確認を受けたときは、この限りでない。」

として、都道府県知事が特定施設の敷地であった土地の所有者等に対して、2項の通知をした場合に、原則、土壌の調査、報告を課している。
そして、2項の通知とは、

「 都道府県知事は、水質汚濁防止法第10条の規定による特定施設(有害物質使用特定施設であるものに限る。)の使用の廃止の届出を受けた場合その他有害物質使用特定施設の使用が廃止されたことを知った場合」において、
「当該有害物質使用特定施設を設置していた者以外に当該土地の所有者等があるときは、環境省令で定めるところにより、当該土地の所有者等に対し、当該有害物質使用特定施設の使用が廃止された旨その他の環境省令で定める事項を通知するものとする。」としている。

なお、通知をうけても、1項に規定の調査・報告をしない場合
「都道府県知事は、第1項に規定する者が同項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたときは、政令で定めるところにより、その者に対し、その報告を行い、又はその報告の内容を是正すべきことを命ずることができる。」とされる(同3項)。

本判決は、「土壌汚染対策法(以下「法」という。)3条1項所定の有害物質使用特定施設に係る事業場の敷地であった土地の所有者である被上告人が,当該施設の使用の廃止に伴い,法に規定する都道府県知事の権限に属する事務を行う旭川市長から同条2項による通知を受け,上記土地の土壌汚染状況調査を実施してその結果を報告すべきものとされたことから,上記通知が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たることを前提にその取消しを求めている事案」であり、
1審は、「土地所有者等に対する法的効力が確定的に発生し、同条1項所定の調査報告義務の実質的要件を充足しているかどうかの最終的な判断がなされるのは、同条3項の命令発令時である上、同条3項の命令が発せられるのを待って抗告訴訟を提起すれば救済を受けることが可能であることなどからすれば、同法は本件通知の行政処分性を否定しているものと解される」として、訴えを却下していた(旭川地判平成21年 9月 8日判例地方自治 355号38頁<参考収録> 平20(行ウ)9号)。

これに対し、原審は、通知の処分性を認めて、一審を破棄差し戻ししていたが(札幌高判平成22年10月12日判例地方自治 355号44頁<参考収録>平21(行コ)14号)、上告人(原審被控訴人)は、これを争って上告した。

最高裁判所は、本件上告について、つぎのとおり述べて、上告を棄却した。

「都道府県知事は,有害物質使用特定施設の使用が廃止されたことを知った場合において,当該施設を設置していた者以外に当該施設に係る工場又は事業場の敷地であった土地の所有者,管理者又は占有者(以下「所有者等」という。)があるときは,当該施設の使用が廃止された際の当該土地の所有者等(土壌汚染対策法施行規則(平成22年環境省令第1号による改正前のもの)13条括弧書き所定の場合はその譲受人等。以下同じ。)に対し,当該施設の使用が廃止された旨その他の事項を通知する(法3条2項,同施行規則13条,14条)。その通知を受けた当該土地の所有者等は,法3条1項ただし書所定の都道府県知事の確認を受けたときを除き,当該通知を受けた日から起算して原則として120日以内に,当該土地の土壌の法2条1項所定の特定有害物質による汚染の状況について,環境大臣が指定する者に所定の方法により調査させて,都道府県知事に所定の様式による報告書を提出してその結果を報告しなければならない(法3条1項,同施行規則1条2項2号,3項,2条)。これらの法令の規定によれば,法3条2項による通知は,通知を受けた当該土地の所有者等に上記の調査及び報告の義務を生じさせ,その法的地位に直接的な影響を及ぼすものというべきである。
 都道府県知事は,法3条2項による通知を受けた当該土地の所有者等が上記の報告をしないときは,その者に対しその報告を行うべきことを命ずることができ(同条3項),その命令に違反した者については罰則が定められているが(平成21年法律第23号による改正前の法38条),その報告の義務自体は上記通知によって既に発生しているものであって,その通知を受けた当該土地の所有者等は,これに従わずに上記の報告をしない場合でも,速やかに法3条3項による命令が発せられるわけではないので,早期にその命令を対象とする取消訴訟を提起することができるものではない。そうすると,実効的な権利救済を図るという観点から見ても,同条2項による通知がされた段階で,これを対象とする取消訴訟の提起が制限されるべき理由はない。
 以上によれば,法3条2項による通知は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である(最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁等参照)。」

2012.12.31

国家斉唱に関する最高裁判決(平成24年1月16日・2月9日)

最判平成24年1月16日判時 2147号127頁平23(行ツ)263号 ・ 平23(行ヒ)294号

公立学校における国家斉唱に関し、平成24年1月16日に4つの事案について、二つの最高裁判所の判決がでている。また、2月9日には、懲戒の差止や斉唱義務不存在確認等についての最高裁判所の判決がなされている。
私は、この案件は取り扱っていないものの、著名事件でもあり、紹介しておく。

1 公立の高等学校又は養護学校の教職員が卒業式等の式典において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱すること又は国歌のピアノ伴奏を行うことを命ずる旨の校長の職務命令に従わなかったことを理由とする戒告処分が,裁量権の範囲を超え又はこれを濫用するものとして違法であるとはいえないとした。

「公立の高等学校又は養護学校の教職員が,卒業式等の式典において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱すること又は国歌のピアノ伴奏を行うことを命ずる旨の校長の職務命令に従わず起立しなかったこと又は伴奏を拒否したことを理由に,教育委員会から戒告処分を受けた場合において,上記不起立又は伴奏拒否が当該教職員の歴史観ないし世界観等に起因するもので,積極的な妨害等の作為ではなく,物理的に式次第の遂行を妨げるものではなく,当該式典の進行に具体的にどの程度の支障や混乱をもたらしたかの客観的な評価が困難なものであったとしても,次の(1)~(3)など判示の事情の下では,上記戒告処分は,同種の行為による懲戒処分等の処分歴の有無等にかかわらず,裁量権の範囲を超え又はこれを濫用するものとして違法であるとはいえない。
(1) 上記職務命令は,学校教育の目標や卒業式等の儀式的行事の意義,在り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿って,地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性を踏まえ,生徒等への配慮を含め,教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに式典の円滑な進行を図るものであった。
(2) 上記不起立又は伴奏拒否は,当該式典における教職員による職務命令違反として,式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用をもたらし,式典に参列する生徒への影響も伴うものであった。
(3) 戒告処分に伴う当該教職員に係る条例及び規則による給与上の不利益は,勤勉手当の1支給期間(半年間)の10%にとどまるものであった。」

2 公立養護学校の教職員が卒業式において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の校長の職務命令に従わなかったことを理由とする減給処分が,裁量権の範囲を超えるものとして違法であるとされた。

「公立養護学校の教職員が,卒業式において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の校長の職務命令に従わず起立しなかったことを理由に,教育委員会から,過去の懲戒処分の対象と同様の非違行為を再び行った場合には処分を加重するという方針の下に減給処分を受けた場合において,上記職務命令が生徒等への配慮を含め教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに式典の円滑な進行を図るものであり,上記不起立が当該式典における教職員による職務命令違反として式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用をもたらし式典に参列する生徒への影響も伴うものであったとしても,次の(1)~(3)など判示の事情の下では,上記減給処分は,減給の期間の長短及び割合の多寡にかかわらず,裁量権の範囲を超えるものとして違法である。
(1) 上記不起立は,当該教職員の歴史観ないし世界観等に起因するもので,積極的な妨害等の作為ではなく,物理的に式次第の遂行を妨げるものではなく,当該式典の進行に具体的にどの程度の支障や混乱をもたらしたかの客観的な評価が困難なものであった。
(2) 処分の加重の理由とされた過去の懲戒処分の対象は,入学式の際の服装等に関する校長の職務命令に違反した行為であって,積極的に式典の進行を妨害する行為ではなく,当該1回のみに限られており,上記不起立の前後における態度において特に処分の加重を根拠付けるべき事情もうかがわれない。
(3) 上記方針の下に,上記教育委員会の通達を踏まえて毎年度2回以上の卒業式や入学式等の式典のたびに不起立又はこれと同様の行為を理由とする懲戒処分が累積して加重されると短期間で反復継続的に不利益が拡大していくこととなる状況にあった。 」


最判平成24年1月16日判時 2147号127頁
平23(行ツ)242号 ・ 平23(行ヒ)265号

1 公立養護学校の教員が同校の記念式典において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の校長の職務命令に従わなかったことを理由とする停職処分が,裁量権の範囲を超えるものとして違法であるとされた。

「公立養護学校の教員が,同校の記念式典において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の校長の職務命令に従わず起立しなかったことを理由に,教育委員会から,過去の懲戒処分の対象と同様の非違行為を再び行った場合には処分を加重するという方針の下に停職処分を受けた場合において,上記職務命令が生徒等への配慮を含め教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに式典の円滑な進行を図るものであり,上記不起立が当該式典における教員による職務命令違反として式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用をもたらし式典に参列する生徒への影響も伴うものであったとしても,次の(1)~(3)など判示の事情の下では,上記停職処分は,停職期間の長短にかかわらず,裁量権の範囲を超えるものとして違法である。
 (1) 上記不起立は,当該教員の歴史観ないし世界観等に起因するもので,積極的な妨害等の作為ではなく,物理的に式次第の遂行を妨げるものではなく,当該式典の進行に具体的にどの程度の支障や混乱をもたらしたかの客観的な評価が困難なものであった。
 (2) 処分の加重の理由とされた過去の懲戒処分の対象は,いずれも上記と同様の不起立であって,積極的に式典の進行を妨害する内容の非違行為は含まれておらず,いまだ過去2年度の3回の卒業式等に係るものにとどまり,今回の不起立の前後における態度において特に処分の加重を根拠付けるべき事情もうかがわれない。
 (3) 上記方針の下に,上記教育委員会の通達を踏まえて毎年度2回以上の卒業式や入学式等の式典のたびに不起立を理由とする懲戒処分が累積して加重されると短期間で反復継続的に不利益が拡大していくこととなる状況にあった。」


2 公立中学校の教員が卒業式において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の校長の職務命令に従わなかったことを理由とする停職処分が,裁量権の範囲を超え又はこれを濫用するものとして違法であるとはいえないとされた。

「公立中学校の教員が,卒業式において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の校長の職務命令に従わず起立しなかったことを理由に,教育委員会から,過去の懲戒処分の対象と同様の非違行為を再び行った場合には処分を加重するという方針の下に3月の停職処分を受けた場合において,上記不起立が当該教員の歴史観ないし世界観等に起因するもので,積極的な妨害等の作為ではなく,物理的に式次第の遂行を妨げるものではなく,当該式典の進行に具体的にどの程度の支障や混乱をもたらしたかの客観的な評価が困難なものであったとしても,次の(1)~(3)など判示の事情の下では,上記停職処分は,裁量権の範囲を超え又はこれを濫用するものとして違法であるとはいえない。
 (1) 上記職務命令は,学校教育の目標や卒業式等の儀式的行事の意義,在り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿って,地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性を踏まえ,生徒等への配慮を含め,教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに式典の円滑な進行を図るものであった。
 (2) 上記不起立は,当該式典における教員による職務命令違反として,式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用をもたらし,式典に参列する生徒への影響も伴うものであった。
 (3) 処分の加重の理由とされた過去の懲戒処分等は,卒業式における校長による国旗の掲揚の妨害と引き降ろしなど積極的に式典や研修の進行を妨害する行為に係る処分2回及び不起立に係る処分2回を含む懲戒処分5回,国旗や国歌に係る対応につき校長を批判する内容の文書の生徒への配布等に係る文書訓告2回であった。」


最判平成24年2月9日民集 66巻2号183頁
平成23年(行ツ)第177号 国歌斉唱義務不存在確認等請求事件(上告棄却)

1 公立高等学校等の教職員が卒業式等の式典における国歌斉唱時の起立斉唱等に係る職務命令の違反を理由とする懲戒処分の差止めを求める訴えについて行政事件訴訟法37条の4第1項所定の「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められた(免職処分についての差し止め請求は損害の蓋然性がないとして不適法と判断された一方,職務命令違反の累積により他の懲戒処分が行われる蓋然性はあるとして同要件が認められ,この部分では訴訟要件としての適法性が認められた)。

2 公立高等学校等の教職員が卒業式等の式典における国歌斉唱時の起立斉唱等に係る職務命令に基づく義務の不存在の確認を求める訴えについて無名抗告訴訟として不適法であるとされた(事前予防的な確認訴訟は差し止め請求と実質的に同一であり,故に,差し止め請求の場合と同様に補充性が要求されるとの判断解釈が示された)。

3 公立高等学校等の教職員が卒業式等の式典における国歌斉唱時の起立斉唱等に係る職務命令に基づく義務の不存在の確認を求める訴えについて公法上の法律関係に関する確認の訴えとして確認の利益があるとされた(懲戒処分を回避するための事前予防的な訴訟形式としては2項の通り不適法であるが,職務命令違反による減給等の行政処分による以外の不利益処遇に対する不利益の予防を目的とする公法上の法律関係に関する確認の訴えとしては有効適切な争訟方法である)。

2011.03.21

東北関東大震災からの被害回復に関連する法律

平成23年3月11日。
地震発生時に私は、依頼者と打ち合わせをしていた。じわっと揺れ、そして激しく揺れだし、「机の下に入りましょう。」と叫んで、依頼者2名、弁護士2名で、机の下に隠れた。
バブル期にできた9階建てのペンシルビルの8階で、大海原で小舟が揺れるような感じで、激しく揺れ、机の下で、依頼者に「あれ(東京直下地震)が来てしまったのでしょうか。」と小声で話しをした。書棚の上のテミスの像が転がり、落下。花瓶も落ちて割れた。
地震が止まり、怪我のないことを確認しあったあと、事務所の他のメンバーの安否を確認しに、事務スペースに駆け込んだところ、幸いにも誰ひとり、怪我などしていなかった。花瓶の他は、水槽が壊れ水が出ていたり、本が散乱している程度で、大きな被害は全くなかった。

エレベーターは止まっており、地下鉄も止まっていると予想され、依頼者には歩いて帰っていただいた。
東京直下型地震ではなかったが、岩手 宮城 福島の東北3県、茨城 千葉の関東2県に大きな損害の出た震災となったこと、とりわけ 強烈な津波に襲われたことがだんだんとわかってきた。
雑用を終え、目白の学校に行っている娘を迎えに行く(徒歩2時間程度)。その後、都電が動いていることがわかり、都電にのり、都内の親戚の家に泊めてもらった。
その後、さらに被害大きいことがわかり、また、福島の原子力発電所の被害も明らかになった。


震災で亡くなられた方のご冥福と行方不明の方々が無事に見つかることをお祈りしたい。そして、被災地の一日も早い復興を祈りたい。

(震災からの被害回復のために関連すると思われる特別法)

被災者生活再建支援法

同法の手続きを解説した 内閣府作成のパンフレット 被災者支援に関する各種制度の概要

罹災都市借地借家臨時処理法


原子力損害の賠償に関する法律

同法の概要を説明した、(財)高度情報科学技術研究機構内の 原子力百科事典内の解説 日本の原子力損害賠償制度の概要

2008.10.14

土地区画整理事業の決定の行政処分性

都市計画決定等計画段階にすぎないいわゆる青写真の段階で、その計画の決定ができるかについては、従来はそのことによる権利の制限があったとしても付随的効果に過ぎず、抗告訴訟の対象にはならないとされている。その中で、最判平成20年9月10日大法廷判決(平成17年(行ヒ)第397号事件)は、土地区画整理事業の事業計画の決定について、決定の違法を主張して、その取消しを求めた事案で、市町村の施行に係る土地区画整理事業計画の決定は、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるとして、原判決を破棄し、1審に差し戻した。

1 事案は、 「被上告人は、新浜松駅から西鹿島駅までを結ぶ遠州鉄道鉄道線(西鹿島線)の連続立体交差事業の一環として、上島駅の高架化と併せて同駅周辺の公共施設の整備改善等を図るため、本件土地区画整理事業を計画し、土地区画整理法(平成17年法律第34号による改正前のもの。以下「法」という。)52条1項の規定に基づき、静岡県知事に対し、本件土地区画整理事業の事業計画において定める設計の概要について認可を申請し、同月17日、同知事からその認可を受けた。被上告人は、同月25日、同項の規定により、本件土地区画整理事業の事業計画の決定(以下「本件事業計画の決定」という。)をし、同日、その公告がされた。」というものであり、本件土地区画整理事業の施行地区内に土地を所有している上告人から、「本件土地区画整理事業は公共施設の整備改善及び宅地の利用増進という法所定の事業目的を欠くものである」などと主張して、本件事業計画の決定の取消しを求めて、行政処分の取り消し訴訟が提起された。

2  原審(東京高等裁判所平成17年9月28日判決(平成17年(行コ)第127号事件)は、「土地区画整理事業の事業計画は、当該土地区画整理事業の基礎的事項を一般的抽象的に決定するものであって、いわば当該土地区画整理事業の青写真としての性質を有するにすぎず、これによって利害関係者の権利にどのような変動を及ぼすかが必ずしも具体的に確定されているわけではない。事業計画が公告されることによって生ずる建築制限等は、法が特に付与した公告に伴う付随的効果にとどまるものであって、事業計画の決定ないし公告そのものの効果として発生する権利制限とはいえない。事業計画の決定は、それが公告された段階においても抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないから、本件事業計画の決定の取消しを求める本件訴えは、不適法な訴えである。」として、本件訴訟を却下していた。

3 最高裁判所は、
「(1)ア市町村は、土地区画整理事業を施行しようとする場合においては、施行
規程及び事業計画を定めなければならず(法52条1項)、事業計画が定められた場合においては、市町村長は、遅滞なく、施行者の名称、事業施行期間、施行地区その他国土交通省令で定める事項を公告しなければならない(法55条9項)。そして、この公告がされると、換地処分の公告がある日まで、施行地区内において、土地区画整理事業の施行の障害となるおそれがある土地の形質の変更若しくは建築物その他の工作物の新築、改築若しくは増築を行い、又は政令で定める移動の容易でない物件の設置若しくはたい積を行おうとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならず(法76条1項)、これに違反した者がある場合には、都道府県知事は、当該違反者又はその承継者に対し、当該土地の原状回復等を命ずることができ(同条4項)、この命令に違反した者に対しては刑罰が科される(法140条)。このほか、施行地区内の宅地についての所有権以外の権利で登記のないものを有し又は有することとなった者は、書面をもってその権利の種類及び内容を施行者に申告しなければならず(法85条1項)、施行者は、その申告がない限り、これを存しないものとみなして、仮換地の指定や換地処分等をすることができることとされている(同条5項)。
また、土地区画整理事業の事業計画は、施行地区(施行地区を工区に分ける場合には施行地区及び工区)、設計の概要、事業施行期間及び資金計画という当該土地区画整理事業の基礎的事項を一般的に定めるものであるが(法54条、6条1項)、事業計画において定める設計の概要については、設計説明書及び設計図を作成して定めなければならず、このうち、設計説明書には、事業施行後における施行地区内の宅地の地積(保留地の予定地積を除く。)の合計の事業施行前における施行地区内の宅地の地積の合計に対する割合が記載され(これにより、施行地区全体でどの程度の減歩がされるのかが分かる。)、設計図(縮尺1200分の1以上のもの)には、事業施行後における施行地区内の公共施設等の位置及び形状が、事業施行により新設され又は変更される部分と既設のもので変更されない部分とに区別して表示されることから(平成17年国土交通省令第102号による改正前の土地区画整理法施行規則6条)、事業計画が決定されると、当該土地区画整理事業の施行によって施行地区内の宅地所有者等の権利にいかなる影響が及ぶかについて、一定の限度で具体的に予測することが可能になるのである。そして、土地区画整理事業の事業計画については、いったんその決定がされると、特段の事情のない限り、その事業計画に定められたところに従って具体的な事業がそのまま進められ、その後の手続として、施行地区内の宅地について換地処分が当然に行われることになる。前記の建築行為等の制限は、このような事業計画の決定に基づく具体的な事業の施行の障害となるおそれのある事態が生ずることを防ぐために法的強制力を伴って設けられているのであり、しかも、施行地区内の宅地所有者等は、換地処分の公告がある日まで、その制限を継続的に課され続けるのである。
そうすると、施行地区内の宅地所有者等は、事業計画の決定がされることによって、前記のような規制を伴う土地区画整理事業の手続に従って換地処分を受けるべき地位に立たされるものということができ、その意味で、その法的地位に直接的な影響が生ずるものというべきであり、事業計画の決定に伴う法的効果が一般的、抽象的なものにすぎないということはできない。
イもとより、換地処分を受けた宅地所有者等やその前に仮換地の指定を受けた宅地所有者等は、当該換地処分等を対象として取消訴訟を提起することができるが、換地処分等がされた段階では、実際上、既に工事等も進ちょくし、換地計画も具体的に定められるなどしており、その時点で事業計画の違法を理由として当該換地処分等を取り消した場合には、事業全体に著しい混乱をもたらすことになりかねない。それゆえ、換地処分等の取消訴訟において、宅地所有者等が事業計画の違法を主張し、その主張が認められたとしても、当該換地処分等を取り消すことは公共の福祉に適合しないとして事情判決(行政事件訴訟法31条1項)がされる可能性が相当程度あるのであり、換地処分等がされた段階でこれを対象として取消訴訟を提起することができるとしても、宅地所有者等の被る権利侵害に対する救済が十分に果たされるとはいい難い。そうすると、事業計画の適否が争われる場合、実効的な権利救済を図るためには、事業計画の決定がされた段階で、これを対象とした取消訴訟の提起を認めることに合理性があるというべきである。
(2) 以上によれば、市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定
は、施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって、抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものということができ、実効的な権利救済を図るという観点から見ても、これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である。したがって、上記事業計画の決定は、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たると解するのが相当である。」として、本件訴えを不適法な訴えとして却下すべきものとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして、原判決のうち被上告人に関する部分は破棄し、本件を第1審に差し戻すべきとした。

(以下 私見)
なお、本件は土地区画整理事業決定に基づく個別の権利変換がなされた時点で違法性を問うたとしても、事情判決となる可能性が高く、権利を侵害されている者に対する救済とはならないことが大きく着目されたものと思われる。したがって、青写真の全てが取消訴訟の対象となるのではなく、個別具体的な権利侵害の時点でなお救済の余地あるものについては、訴えの利益なしとされると解する。

2021年8月
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