改正民法で何が変わるか(不動産の売買・賃貸借)
住宅新報令和2年1月21日号から3月24日号まで、当事務所若手中心の執筆を連載いただきました。最終回は、ロートルの私が書きました。
ご参考になればと思います。
住宅新報令和2年1月21日号から3月24日号まで、当事務所若手中心の執筆を連載いただきました。最終回は、ロートルの私が書きました。
ご参考になればと思います。
昨年度は、公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターの紛争処理委員研修の講師を務めた。
担当は、判例紹介ではあったが、基本となる瑕疵担保履行法についてこの機会にまとめておく。
1 瑕疵担保履行法の制度趣旨・概要
(1)品確法の特定住宅瑕疵の担保責任の概要
新築住宅の請負人や売主は、住宅の品質確保の促進等に関する法律(以下「品確法」という。)に基づき、新築住宅の請負契約においては、請負人が、新築住宅の売買契約においては、売主が、注文主・買主に引き渡した時から10年間、住宅の「構造耐力上主要な部分」と「雨水の浸入を防止する部分」の隠れた瑕疵(以下「特定住宅瑕疵」という。)について、瑕疵担保責任を負う(品確法94条1項、95条1項)。
なお、この場合、売主は契約解除や損害賠償のみならず、瑕疵修補の責任も負うことになる(品確法95条1項)。また、この規定に反する特約で買主に不利なものは、無効とされている(同条2項)。
新築住宅とは、建設後1年以内で人の居住に供したことのないものであって、分譲住宅だけではなく、賃貸住宅も含む(品確法2条2項)。
(2)瑕疵担保履行法の立法理由
このように、住宅の主要構造部分などの瑕疵について、新築住宅の売主等は、10年間の瑕疵担保責任を負うこととされているが、売主等が瑕疵担保責任を十分に果たすことができない場合、住宅購入者等が極めて不安定な状態におかれる。構造計算書偽装事件では、売主である宅地建物取引業者が倒産したため、買主は損害賠償の履行を十分に受けることができず、多数・多大な消費者被害の救済が不完全なままとなった。
そこで、住宅購入者等の利益の保護を図るため、特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律(以下「瑕疵担保履行法」という。)」が立法された。瑕疵担保履行法では、品確法94条1項及び95条1項の特定住宅瑕疵担保責任(住宅瑕疵担保履行法2条4項)の履行を確保するため、建設業者である請負人や自ら新築住宅を販売する宅地建物取引業者に保証金の供託または瑕疵担保責任保険契約の締結を義務づけた。
なお、品確法94条1項の請負人の責任を特定住宅建設瑕疵担保責任、同法95条1項の売主の責任を特定住宅販売瑕疵担保責任という(瑕疵担保履行法2条5項2号イ、5項2号イ)。
ただし、請負契約の注文主や売買契約の買主が宅建業者である場合には、資力担保義務付けの対象とはならず、代理・媒介をする宅建業者も資力担保義務付けの対象にはならない(なお、買主に対して、宅地建物取引業法第35条の重要事項説明や同法第37条の書面交付において対応が必要。)。たとえば、分譲マンションのデベロッパーから建設工事を請け負った建設業者や、宅建業者が別の宅建業者に新築住宅を売却した場合には、保証金の供託も瑕疵担保責任保険契約の締結も不要である(瑕疵担保履行法2条5項2号ロ括弧書並びに6項2号ロ括弧書)。
住宅瑕疵担保責任履行法の概要(国土交通省)
2 新築住宅を請負う建設業者ならびに販売する宅地建物取引業者の供託義務
建設業者並びに宅地建物取引業者は、各基準日において、当該基準日前10年間に自ら売主となる売買契約に基づき買主に引き渡した新築住宅について、当該買主に対する特定住宅販売瑕疵担保責任の履行を確保するため、住宅販売瑕疵担保保証金の供託をしていなければならない(瑕疵担保履行法2条1項、11条1項)。
そして、新築住宅を宅建業者ではない注文主に引渡した建設業者や、宅建業者ではあない買主に引き渡した売主である宅業者は、基準日ごとに、当該基準日に係る住宅販売瑕疵担保保証金の供託及び住宅販売瑕疵担保責任保険契約の締結の状況について、国土交通省令で定めるところにより基準日(毎年3月31日と9月30日の2回)から3週間以内に、免許を受けた国土交通大臣又は都道府県知事(に届け出なければならない(住宅販売瑕疵担保保証金の供託等の届出等 瑕疵担保履行法4条1項、12条1項)供託額は、販売戸数により決まるが、その床面積が55㎡以下のものは、2戸をもって一戸とする(瑕疵担保履行法3条3項、11条3項、同法施行令2条、5条)。
3 契約締結制限
新築住宅を引き渡した建設業者は、瑕疵担保保証金の供託をし、かつ、許可権者への届出をしなければ、当該基準日の翌日から起算して50日を経過した日以後においては、新たに住宅を新築する建設工事の請負契約を締結してはならない(瑕疵担保履行法4条1項)。
また、新築住宅を引き渡した宅地建物取引業者は、瑕疵担保保証金の供託をし、かつ、許可権者への届出をしなければ、当該基準日の翌日から起算して50日を経過した日以後においては、新たに自ら売主となる新築住宅の売買契約を締結してはならない(自ら売主となる新築住宅の売買契約の新たな締結の制限 瑕疵担保履行法13条1項)。
4 瑕疵担保保証金の還付等
住宅建設瑕疵担保保証金の供託をしている建設業者(以下「供託建設業者」という。)または住宅販売瑕疵担保保証金の供託をしている宅地建物取引業者(以下「供託宅地建物取引業者」という。)が特定住宅建設瑕疵担保責任もしくは特定住宅販売瑕疵担保責任を負う期間内に、住宅品質確保法94条1項または95条1項 に規定する隠れた瑕疵によって生じた損害を受けた当該特定住宅建設瑕疵担保責任に係る新築住宅の注文主または当該特定住宅販売瑕疵担保責任に係る新築住宅の買主は、その損害賠償請求権に関し、当該供託宅地建物取引業者が供託をしている住宅販売瑕疵担保保証金について、他の債権者に先立って弁済を受ける権利を有する(瑕疵担保履行法6条1項、14条1項)。なお、注文主または買主が住宅販売瑕疵担保保証金の還付を請求できるのは、次の場合である(瑕疵担保履行法6条2項、14条2項)。
① 当該損害賠償請求権について債務名義を取得したとき。
② 当該損害賠償請求権の存在及び内容について当該供託建設業者または当該供託宅地建物取引業者と合意した旨が記載された公正証書を作成したときその他これに準ずる場合として国土交通省令で定めるとき。
③ 当該供託建設業者または当該供託宅地建物取引業者が死亡した場合その他当該損害の賠償の義務を履行することができず、又は著しく困難である場合として国土交通省令で定める場合において、国土交通省令で定めるところにより、前項の権利を有することについて国土交通大臣の確認を受けたとき。
5 保険加入義務
2及び3でみたとおり、新築住宅を建設する建設業者や販売する宅地建物取引業者は、住宅建設瑕疵担保保証金もしくは住宅販売瑕疵担保保証金を供託することを義務づけられているが、売主が、住宅瑕疵担保責任保険法人との間で、住宅瑕疵担保責任保険契約を締結している建物については、その住宅戸数は、供託すべき保証金の算定戸数から除かれる。すなわち、住宅建設瑕疵担保保証金もしくは住宅販売瑕疵担保保証金の額は、基準日における新築住宅のうち、当該宅地建物取引業者が住宅瑕疵担保責任保険法人と住宅販売瑕疵担保責任保険契約を締結し、保険証券又はこれに代わるべき書面を買主に交付した場合における当該住宅販売瑕疵担保責任保険契約に係る新築住宅を除いて算定するものとしている(瑕疵担保履行法3条2項括弧書、11条2項括弧書)。
6 瑕疵担保責任保険契約の内容
新築住宅の請負人となる建設業者や売主となる宅地建物取引業者が締結する住宅瑕疵担保責任保険契約は次の内容のものである必要がある。(瑕疵担保履行法2条5項、6項)
① 建設業者(住宅建設瑕疵担保責任保険の場合)や宅地建物取引業者(住宅販売kし担保責任保険の場合)が保険料を支払うことを約するものであること。
② その引受けを行う者が次に掲げる事項を約して保険料を収受するものであること。
イ 品確保94条1項の規定による担保の責任(以下「特定住宅建設瑕疵担保責任」という。)、95条1項の規定による担保の責任(以下「特定住宅販売瑕疵担保責任」という。)に係る新築住宅に同項に規定する隠れた瑕疵がある場合において、建設業者または宅地建物取引業者が当該特定住宅販売瑕疵担保責任を履行したときに、当該建設業者や宅地建物取引業者の請求に基づき、その履行によって生じた当該宅地建物取引業者の損害をてん補すること。
ロ 特定住宅建設瑕疵担保責任に係る新築住宅に品確法94条1項 に規定する隠れた瑕疵がある場合もしくは特定住宅販売瑕疵担保責任に係る新築住宅に品確法95条1項に規定する隠れた瑕疵がある場合において、建設業者や宅地建物取引業者が相当の期間を経過してもなお当該特定住宅販売瑕疵担保責任を履行しないときに、当該新築住宅の買主(宅地建物取引業者であるものを除く。)の請求に基づき、その隠れた瑕疵によって生じた当該買主の損害をてん補すること。
③ 前号イ及びロの損害をてん補するための保険金額が2000万円以上であること。
④ 新築住宅の発注者や買主が、当該新築住宅の請負人である建設業者当該新築住宅の引渡を受けた時から、あるいは売主である宅地建物取引業者から当該新築住宅の引渡しを受けた時から10年以上の期間にわたって有効であること。したがって、転売されても解除することはできない(瑕疵担保履行法2条5項4号、6項4号)
⑤ 国土交通大臣の承認を受けた場合を除き、変更又は解除をすることができないこと。
⑥ ①乃至⑤に掲げるもののほか、その内容が②イに規定する建設御者・宅地建物取引業者及び②ロに規定する発注者・買主の利益の保護のため必要なものとして国土交通省令で定める基準に適合すること
7 建設業者による供託・瑕疵担保責任保険に関する説明
① 建設業者は、新築住宅の注文主に対し、当該新築住宅の請負契約を締結するまでに、その住宅販売瑕疵担保保証金の供託をしている供託所の所在地その他住宅販売瑕疵担保保証金に関し国土交通省令で定める事項について、これらの事項を記載した書面を交付して説明しなければならない(瑕疵担保履行法10条)。
② 建設業者は、瑕疵担保責任保険の締結により、保証金の額を減ずるには、新築住宅の注文主に対し、住宅建設瑕疵担保責任保険契約を締結し、保険証券又はこれに代わるべき書面を買主に交付しなければならない(瑕疵担保履行法3条2項)。
③ 建設工事の請負契約の当事者は、各々の対等な立場における合意に基いて公正な契約を締結し、信義に従って誠実にこれを履行しなければならない(建設業法18条)とされるが、この趣旨に従い、建設工事の請負契約の当事者は、契約の締結に際して、建設業法19条1項に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。同項の記載事項に「工事の目的物の瑕疵を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容」が含まれる(同項12号)。
建設業者の届出ならびに説明については、東京都の例だが↓に詳しい
住宅瑕疵担保責任履行法にもとづく届出の手引・建設業者用(東京都)
8 宅地建物取引業者による供託・瑕疵担保責任保険に関する説明
① 宅地建物取引業者は、自ら売主となる新築住宅の買主に対し、当該新築住宅の売買契約を締結するまでに、その住宅販売瑕疵担保保証金の供託をしている供託所の所在地その他住宅販売瑕疵担保保証金に関し国土交通省令で定める事項について、これらの事項を記載した書面を交付して説明しなければならない(瑕疵担保履行法15条)。
② 宅地建物取引業者は、瑕疵担保責任保険の締結により、保証金の額を減ずるには、自ら売主となる新築住宅の買主に対し、住宅販売瑕疵担保責任保険契約を締結し、保険証券又はこれに代わるべき書面を買主に交付しなければならない(瑕疵担保履行法11条2項)。
③ 宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、書面を交付して、当該宅地又は建物の瑕疵を担保すべき責任の履行に関し保証保険契約の締結その他の措置で国土交通省令・内閣府令で定めるものを講ずるかどうか、及びその措置を講ずる場合におけるその措置の概要を説明させなければならない(重要事項説明。宅建業法35条1項13号)。
④ 宅地建物取引業者は、宅地又は建物の売買又は交換に関し、自ら当事者として契約を締結したときはその相手方に、当事者を代理して契約を締結したときはその相手方及び代理を依頼した者に、その媒介により契約が成立したときは当該契約の各当事者に、遅滞なく、宅建業法37条1項各号の事項を記載した書面を交付しなければならないが、記載事項に、「当該宅地若しくは建物の瑕疵を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結その他の措置についての定めがあるときは、その内容」が含まれる(同項11号)。
宅地建物取引業者の届出ならびに説明については、東京都の例だが↓に詳しい
住宅瑕疵担保責任履行法届出の手引・宅地建物取引業者用(東京都)
7 罰則等
住戸数に応じた住宅販売瑕疵担保保証金の供託もしくは瑕疵担保責任保険契約締結の義務に違反して住宅を新築する建設工事の請負契約を締結した者、または、自ら売主となる新築住宅の売買契約の締結をした者は、1年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(瑕疵担保履行法39条)。
民法(債権法)の改正は昨年国会に法案が提出されたまま久しい。
成立するのは、来年か などといわれているが、法案に対応する形での不動産売買契約書を作成してみた。
なお、法案(提出時法案)は、衆議院のサイト内のここにある。
また、法制審議会民法(債権法)部会の議事録や資料もここに公開されている。新旧対照表はここにある。
私案 「shinminpohaneisankobaibai.pdf」をダウンロード
最判平成25年3月22日判時2184号33頁損害賠償等請求事件(破棄自判)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20130322142115.pdf
土地区画整理事業の施行地区内の土地を購入した買主が売買後に土地区画整理組合から賦課金を課された場合において,上記売買の当時買主が賦課金を課される可能性が存在していたことをもって,上記土地に民法570条にいう瑕疵があるとはいえないとされた。
(判旨)
本件土地区画整理組合が組合員に賦課金を課する旨の決議が本件売買から数年も経過した後にされたことも併せ考慮すると,本件売買当時においては,賦課金を課される可能性が具体性を帯びていたとはいえず,その可能性は飽くまで一般的・抽象的なものにとどまっていたことは明らかである。そして,土地区画整理法の規定によれば,土地区画整理組合が施行する土地区画整理事業の施行地区内の土地について所有権を取得した者は,全てその組合の組合員とされるところ(同法25条1項),土地区画整理組合は,その事業に要する経費に充てるため,組合員に賦課金を課することができるとされているのであって(同法40条1項),上記土地の売買においては,買主が売買後に土地区画整理組合から賦課金を課される一般的・抽象的可能性は,常に存在しているものである。
最判平成24年2月3日民集 66巻2号148頁
平成23年(行ヒ)第18号 土壌汚染対策法による土壌汚染状況調査報告義務付け処分取消請求事件(上告棄却)
土壌汚染対策法3条は、使用が廃止された有害物質使用特定施設に係る工場又は事業場の敷地であった土地の調査について、1項で
「使用が廃止された有害物質使用特定施設(水質汚濁防止法第2条第2項に規定する特定施設(以下「特定施設」という。)であって、同条第2項第1号に規定する物質(特定有害物質であるものに限る。)をその施設において製造し、使用し、又は処理するものをいう。以下同じ。)に係る工場又は事業場の敷地であった土地の所有者、管理者又は占有者(以下「所有者等」という。)であって、当該有害物質使用特定施設を設置していたもの又は次項の規定により都道府県知事から通知を受けたものは、環境省令で定めるところにより、当該土地の土壌の特定有害物質による汚染の状況について、環境大臣が指定する者に環境省令で定める方法により調査させて、その結果を都道府県知事に報告しなければならない。ただし、環境省令で定めるところにより、当該土地について予定されている利用の方法からみて土壌の特定有害物質による汚染により人の健康に係る被害が生ずるおそれがない旨の都道府県知事の確認を受けたときは、この限りでない。」
として、都道府県知事が特定施設の敷地であった土地の所有者等に対して、2項の通知をした場合に、原則、土壌の調査、報告を課している。
そして、2項の通知とは、
「 都道府県知事は、水質汚濁防止法第10条の規定による特定施設(有害物質使用特定施設であるものに限る。)の使用の廃止の届出を受けた場合その他有害物質使用特定施設の使用が廃止されたことを知った場合」において、
「当該有害物質使用特定施設を設置していた者以外に当該土地の所有者等があるときは、環境省令で定めるところにより、当該土地の所有者等に対し、当該有害物質使用特定施設の使用が廃止された旨その他の環境省令で定める事項を通知するものとする。」としている。
なお、通知をうけても、1項に規定の調査・報告をしない場合
「都道府県知事は、第1項に規定する者が同項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたときは、政令で定めるところにより、その者に対し、その報告を行い、又はその報告の内容を是正すべきことを命ずることができる。」とされる(同3項)。
本判決は、「土壌汚染対策法(以下「法」という。)3条1項所定の有害物質使用特定施設に係る事業場の敷地であった土地の所有者である被上告人が,当該施設の使用の廃止に伴い,法に規定する都道府県知事の権限に属する事務を行う旭川市長から同条2項による通知を受け,上記土地の土壌汚染状況調査を実施してその結果を報告すべきものとされたことから,上記通知が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たることを前提にその取消しを求めている事案」であり、
1審は、「土地所有者等に対する法的効力が確定的に発生し、同条1項所定の調査報告義務の実質的要件を充足しているかどうかの最終的な判断がなされるのは、同条3項の命令発令時である上、同条3項の命令が発せられるのを待って抗告訴訟を提起すれば救済を受けることが可能であることなどからすれば、同法は本件通知の行政処分性を否定しているものと解される」として、訴えを却下していた(旭川地判平成21年 9月 8日判例地方自治 355号38頁<参考収録> 平20(行ウ)9号)。
これに対し、原審は、通知の処分性を認めて、一審を破棄差し戻ししていたが(札幌高判平成22年10月12日判例地方自治 355号44頁<参考収録>平21(行コ)14号)、上告人(原審被控訴人)は、これを争って上告した。
最高裁判所は、本件上告について、つぎのとおり述べて、上告を棄却した。
「都道府県知事は,有害物質使用特定施設の使用が廃止されたことを知った場合において,当該施設を設置していた者以外に当該施設に係る工場又は事業場の敷地であった土地の所有者,管理者又は占有者(以下「所有者等」という。)があるときは,当該施設の使用が廃止された際の当該土地の所有者等(土壌汚染対策法施行規則(平成22年環境省令第1号による改正前のもの)13条括弧書き所定の場合はその譲受人等。以下同じ。)に対し,当該施設の使用が廃止された旨その他の事項を通知する(法3条2項,同施行規則13条,14条)。その通知を受けた当該土地の所有者等は,法3条1項ただし書所定の都道府県知事の確認を受けたときを除き,当該通知を受けた日から起算して原則として120日以内に,当該土地の土壌の法2条1項所定の特定有害物質による汚染の状況について,環境大臣が指定する者に所定の方法により調査させて,都道府県知事に所定の様式による報告書を提出してその結果を報告しなければならない(法3条1項,同施行規則1条2項2号,3項,2条)。これらの法令の規定によれば,法3条2項による通知は,通知を受けた当該土地の所有者等に上記の調査及び報告の義務を生じさせ,その法的地位に直接的な影響を及ぼすものというべきである。
都道府県知事は,法3条2項による通知を受けた当該土地の所有者等が上記の報告をしないときは,その者に対しその報告を行うべきことを命ずることができ(同条3項),その命令に違反した者については罰則が定められているが(平成21年法律第23号による改正前の法38条),その報告の義務自体は上記通知によって既に発生しているものであって,その通知を受けた当該土地の所有者等は,これに従わずに上記の報告をしない場合でも,速やかに法3条3項による命令が発せられるわけではないので,早期にその命令を対象とする取消訴訟を提起することができるものではない。そうすると,実効的な権利救済を図るという観点から見ても,同条2項による通知がされた段階で,これを対象とする取消訴訟の提起が制限されるべき理由はない。
以上によれば,法3条2項による通知は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である(最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁等参照)。」
最判平成16年11月18日民集58巻8号2225頁 判時1883号62頁が、値下げ販売の場合に販売者に責任を認め、慰謝料について損害賠償義務を認めたことについて、画期的であるとして紹介したが、これに追随するかのような下級審判例が、公刊物に掲載されていた。先の最高裁判決の事案と異なり、通常の売買の事案のようであり、参考になると思われる。
大阪高判平成19年4月13日判時1986号45頁は、次のとおり、信義則上の販売者に適正価格設定譲渡義務を認め、同義務違反が不法行為にあたるとした。但し、経済的損害は認めず、慰謝料のみ認めた。
(信義則による適正譲渡価格設定販売の義務)
分譲マンションの特性、被控訴人(住宅供給公社)の性格及び本件売買契約の特性等を総合考慮すると、被控訴人には、本件マンションを含む分譲マンション等の売残住戸が生じた場合、完売を急ぐあまり、市場価格の下限を相当下回る廉価でこれを販売すると、当該マンション等の既購入者らに対し、その有する住戸の評価を市場価格よりも一層低下させるなど、既購入者らに損害を被らせるおそれがあるから、信義則上、上記のような事態を避けるため、適正な譲渡価格を設定して販売を実施すべき義務がある。
(信義則上の義務違反)
被控訴人は、前記信義則上の義務に違反し、売残住戸の完売を急ぐあまり、分譲開始から約4年後に、当時の市場価格の下限を10%以上も下回る、当初の分譲予定価格から49.6%値下げした著しく適正を欠く価格で本件マンションを販売したものであるから、その行為には過失があり、不法行為を構成する。
(損害論~経済的損害を否定し、慰謝料認める)
但し、経済的損害については、値下がりが将来にわたって続くとは言いがたいとして認めず、精神的損害についてのみ、本件マンションの購入者である控訴人らは、本件不法行為により、少なくとも、一時的には、その購入した住戸の価格を本来の市場価格以下に低下させられ、多大な精神的苦痛を被ったものと推認することができるとして、その所有ないし共有する住戸の床面積の多寡にかかわらず、一戸あたり100万円の慰謝料を認めた。
不動産の値下げ販売をした場合の販売者の責任について、これを認める判決はあまり見当たらないといってよい。これに対し、先に紹介済みの最判平成16年11月18日民集58巻8号2225頁 判時1883号62頁は、慰謝料のみとはいえ、これを認めた点で、画期的ともいえる。
そこで、以下、値下げ販売との観点で、判例を整理してみた。
不動産の値引き販売の販売者の責任の法的根拠
① 値引をしない合意を否定した例
・ 大阪地決平成5年4月21日判時1492号118頁販売業者の担当者に、「値下げなど、資産価値を下げるようなことは絶対にしない。」等の言辞があったことは認められるが、それは、当時の地価の異常な高騰を背景とし、顧客に対する売買契約の誘引として、楽天的な価格動向の見通しを述べた単なるセールス・トークであり、販売業者において、将来の不動産市況の変動の有無にかかわらず、顧客との売買単価を下回る価格では他の区画 を分譲しないとの一方的な不作為義務を負担する旨の意思表示とみるには余りにも内容が曖昧であり、このような合意が成立したものと解することは到底できない。
・ 東京地判平成8年2月5日判タ907号18頁
販売業者の営業担当従業員の「値下げしない。」との発言などの言動は、いずれも、個々の顧客らとの間で、不動産市況の変化により不動産価格が下落したとしても、販売業者の当初設定価格を下回る価格で他の戸を分譲しないという不作為義務を販売業者が一方的に負担する旨の意思表示をしているものとみるにはあいまいすぎる言動というほかなく、これらをもって、売買契約締結に当たり、値引き販売をしないという合意、又は、値引き販売をした場合にはXらに損失を補償するという合意が成立したとは認められない。
② 信義則による余波効を否定した例
・ 大阪地決平成5年4月21日判時1492号118頁分譲住宅の売買契約の余後効は、この契約の信義則上の義務と観念されるが、これをわが民法においても承認するとしても、その価格が市況により変動することが予定されている市場性のある商品の売買契約において、その余後効的義務の内容として、当該商品の売買契約締結後(契約終了後)に、他の同種同等の商品をそれ以下の代金で売買することにより、間接的にその財産的価値を減少させることのないようにすべき義務まで包含するものと解することは到底できない。
・ 東京地判平成8年2月5日判タ907号18頁
一般に、不動産の価格は、需要と供給の関係で決まるものであり、不動産市況によって価格が変動することは自明の理ともいうべきことであるから、マンションの販売業者に、売買契約締結後に不動産市況の下落があってもなお当該販売価格を下落させてはならないという信義則上の義務があるとは認められない。
③ 値下げする可能性についての説明義務違反否定例
・ 大阪地判平成10年3月19日判時1657号85頁宅建業者である被告らにおいて、宅地建物取引業法に規定する重要事項の説明義務を負うものであることはいうまでもないことであるが、それ以上に不動産売買契約において売主側に信義則上の保護義務というものが観念されるとしても、不動産の価格が近い将来急激に下落することが確実で、そのことを専門の不動産業者である売主側のみが認識し、現に大幅な値下げ販売を予定しているのに、買主側には右事実を一切説明しないか、あるいはことさらに虚偽の事実を申し向けて不動産を高値で販売したというような事情があるのであればともかく、このような事情がないのに、売主において売買契約締結以後の地価の動向や将来の値下げ販売の可能性等につき、当然に買主に説明すべき法的義務があるとは考えられず(不動産の価格が需要と供給の関係や経済情勢等により変動するものであるだけに尚更である。)、右説明をなさなかったとしても、説明義務違反等の責任を負うものとは解し難い。
最判平成16年11月18日民集58巻8号2225頁 判時1883号62頁の事例の特徴
賃貸マンションの建替計画にあたり、賃借人らに賃借権を消滅させ、「優先購入条項」(書面あり)つき売買契約により売買した。
↓
現実には、一般公募を当面せず。
↓
一般公募の際には、大幅値下げ。
↓
慰謝料請求のみ認める。
売主と宅地建物取引業者の説明義務に関する判例。
但し、これも少し特殊事案であるように思われる。
最判平成17年9月16日判時1912号8頁
マンションの一室の売買の際に、防火扉が作動していない状態で引渡され、その操作方法の説明等もなく、その後、室内での火事の際に、防火扉が作動しなかった事案で、売主には防火扉の操作方法の説明義務違反があるとし、仲介した宅建業者にも同様の義務があるとし、売主に売買契約の附随義務違反、宅建業者に不法行為責任を認めた例
不動産の値下げ販売の例において、売主に損害賠償義務を認めた例は、ほとんどない。
最判平成16年11月18日民集58巻8号2225頁 判時1883号62頁は、かなり特殊な案件であるが、分譲住宅の譲渡契約の譲受人が同契約を締結するか否かの意思決定をするに当たり価格の適否を検討する上で重要な事実につき譲渡人が説明をしなかったことが慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価すべきものとして、値下げ販売をした売主に慰謝料支払義務を認めている。
事実経過等は以下のとおり。
① 原告らは、もと公団住宅の賃借人、被告は旧住宅・都市整備公団。
② 被告による団地の建て替え事業の実施に当たって、原告らと被告との間の賃貸借契約を合意解除し、原告らは、賃借していた住宅を明け渡した。
③ 原告らと被告は、建替え後の団地内の分譲住宅につき譲渡契約を締結。
④ ②の建て替え事業の実施に当たり原告らと被告は、被告において原告らに対し分譲住宅をあっせんした後未分譲住宅の一般公募を直ちにすること及び一般公募における譲渡価格と原告らに対する譲渡価格が少なくとも同等であることを意味する条項のある覚書を作成。原告らは、譲渡契約締結の時点において、この条項の意味するとおりの認識を有していた。
⑤ ところが、被告は、譲渡契約時点において、原告らに対する譲渡価格が高額に過ぎることなどから、一般公募を直ちにする意思を有しておらず、かつ、原告らの認識を少なくとも容易に知り得たにもかかわらず、原告らに対し、一般公募を直ちにする意思がないことを説明しなかった。
⑥ ⑤により原告らは被告の設定に係る分譲住宅の価格の適否について十分に検討した上で上記譲渡契約を締結するか否かの意思決定をする機会を奪われた。
⑦ その後、被告は、未分譲住宅について,値下げをした上で一般公募をした。
以上の事情の下においては、被告が原告らに対し上記一般公募を直ちにする意思がないことを説明しなかったことは、慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価すべきであるとした。
判例評釈。
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