009 親族・相続

2014.07.23

生物学的親子関係がない場合の親子関係不存在確認の適否

平成26年7月17日に最高裁判所で、親子関連の3つの判決が言渡された。いずれも、基本的には従来の判例通説を踏襲するものと考えるが、話題になった判決でもあり、紹介する。

① 最一判平成26年07月17日  平成26(オ)226 親子関係不存在確認請求事件(棄却)

 嫡出否認の訴えについて出訴期間を定めた民法777条の規定は,憲法13条,14条1項に違反しないとするもの。

民法772条により嫡出の推定を受ける子につき夫がその嫡出子であることを否認するためにはどのような訴訟手続によるべきものとするかは,立法政策に属する事項であり,同法777条が嫡出否認の訴えにつき1年の出訴期間を定めたことは,身分関係の法的安定を保持する上から合理性を持つ制度であって,憲法13条に違反するものではなく,また,所論の憲法14条等違反の問題を生ずるものでもないことは,当裁判所大法廷判決(最高裁昭和28年(オ)第389号同30年7月20日大法廷判決・民集9巻9号1122頁)の趣旨に徴して明らかである(最高裁昭和54年(オ)第1331号同55年3月27日第一小法廷判決・裁判集民事129号353頁)。

②  最一判平成26年07月17日 平成24(受)1402  親子関係不存在確認請求事件(破棄自判)

夫と民法772条により嫡出の推定を受ける子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,夫と妻が既に離婚して別居し,子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても,同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず,親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないとするもの。 

民法772条により嫡出の推定を受ける子につきその嫡出であることを否認するためには,夫からの嫡出否認の訴えによるべきものとし,かつ,同訴えにつき1年の出訴期間を定めたことは,身分関係の法的安定を保持する上から合理性を有するものということができる(最高裁昭和54年(オ)第1331号同55年3月27日第一小法廷判決・裁判集民事129号353頁,最高裁平成8年(オ)第380号同12年3月14日第三小法廷判決・裁判集民事197号375頁参照)。そして,夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,夫と妻が既に離婚して別居し,子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても,子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではない。

③ 最一判平成26年07月17日 最高HP 平成25(受)233  親子関係不存在確認請求事件(破棄自判)

 夫と民法772条により嫡出の推定を受ける子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,子が,現時点において夫の下で監護されておらず,妻及び生物学上の父の下で順調に成長しているという事情があっても,同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず,親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないとするもの。 

民法772条により嫡出の推定を受ける子につきその嫡出であることを否認するためには,夫からの嫡出否認の訴えによるべきものとし,かつ,同訴えにつき1年の出訴期間を定めたことは,身分関係の法的安定を保持する上から合理性を有するものということができる(最高裁昭和54年(オ)第1331号同55年3月27日第一小法廷判決・裁判集民事129号353頁,最高裁平成8年(オ)第380号同12年3月14日第三小法廷判決・裁判集民事197号375頁参照)。そして,夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,子が,現時点において夫の下で監護されておらず,妻及び生物学上の父の下で順調に成長しているという事情があっても,子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではない。

この論点に関しては、私が、過去に上告代理人として、破棄自判による逆転勝訴判決を得た、最判平成23年3月28日判タ13574号95頁があるが、同判決は、今回の①から②の判決で示された理論を前提にしてもなお、生物学的に親子関係のない子に対する養育費の支払いが認められない場合を示したものであった。

2014.03.23

父子関係ないまま認知した場合の認知の効力

最判平成26年1月14日裁時1595号1頁

事案の概要
(1) 被上告人は,平成15年3月▲日,上告人の母と婚姻し,平成16年12月▲日,上告人(平成8年▲月▲日生まれ)の認知(以下「本件認知」という。)をした。上告人と被上告人との間には血縁上の父子関係はなく,被上告人は,本件認知をした際,そのことを知っていた。
(2) 上告人と被上告人は,平成17年10月から共に生活するようになったが,一貫して不仲であり,平成19年6月頃,被上告人が遠方で稼働するようになったため,以後,別々に生活するようになった。上告人と被上告人は,その後,ほとんど会っていない。
(3) 被上告人は,上告人の母に対し,離婚を求める訴えを提起し,被上告人の離婚請求を認容する判決がされている。

争点
血縁上の父子関係がないにもかかわらずなされた認知の効力。

判旨
血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は無効というべきであるところ,自らの意思で認知したことを重視して認知者自身による無効の主張を一切許さないと解することは相当でない。また,血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知については,利害関係人による無効の主張が認められる以上(民法786条),認知を受けた子の保護の観点からみても,あえて認知者自身による無効の主張を一律に制限すべき理由に乏しく,具体的な事案に応じてその必要がある場合には,権利濫用の法理などによりこの主張を制限することも可能である。そして,認知者が,当該認知の効力について強い利害関係を有することは明らかであるし,認知者による血縁上の父子関係がないことを理由とする認知の無効の主張が民法785条によって制限されると解することもできない。

共有物について遺産共有持分と他の共有持分とが併存する場合における共有物分割と遺産分割の関係

最判平成25年11月29日判時2206号79頁

事案の概要等

(1) 本件土地は,平成18年9月当時,被上告人X1(被上告会社),被上告人X2及びAが共有しており,その共有持分は,被上告会社が72分の30,被上告人X2が72分の39,Aが72分の3であった。
  Aは,平成18年9月に死亡したが,その遺産分割は未了であり,Aが有していた上記共有持分(以下「本件持分」という。)は,Aの夫である被上告人X2並びにAと被上告人X2との間の長男である被上告人X3,長女である上告人Y1及び二男である上告人Y2の4名による遺産共有の状態にある。
被上告会社は,被上告人X3が代表者を務める会社である。

(2) 本件土地は地積約240㎡の宅地であり,本件土地上には被上告会社及び被上告人X2が所有する建物が存在する上,本件持分に相当する面積は約10㎡にすぎず,本件土地を現物で分割することは不可能である。

(3)  被上告人らは,本件土地上にマンションを新築することを計画しているが,上告人らとの間で,本件土地の分割に関する協議が調わないため,本件訴えを提起した。被上告人らは,本件土地の分割方法として,本件持分を被上告会社が取得し,被上告会社がAの共同相続人らに対し本件持分の価格の賠償として466万4660円を支払うという全面的価格賠償の方法による分割を希望している。被上告会社は,その支払能力を有している。

争点

  遺産共有関係と通常の共有関係とが併存する場合における共有関係の解消の在り方

判旨

(1) 共有物について,遺産分割前の遺産共有の状態にある共有持分(以下「遺産共有持分」といい,これを有する者を「遺産共有持分権者」という。)と他の共有持分とが併存する場合,共有者(遺産共有持分権者を含む。)が遺産共有持分と他の共有持分との間の共有関係の解消を求める方法として裁判上採るべき手続は民法258条に基づく共有物分割訴訟であり,共有物分割の判決によって遺産共有持分権者に分与された財産は遺産分割の対象となり,この財産の共有関係の解消については同法907条に基づく遺産分割によるべきものと解するのが相当である(最高裁昭和47年(オ)第121号同50年11月7日第二小法廷判決・民集29巻10号1525頁参照)。
(2)遺産共有持分と他の共有持分とが併存する共有物について,遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ,その者に遺産共有持分の価格を賠償させる方法による分割の判決がされた場合には,遺産共有持分権者に支払われる賠償金は,遺産分割によりその帰属が確定されるべきものであるから,賠償金の支払を受けた遺産共有持分権者は,これをその時点で確定的に取得するものではなく,遺産分割がされるまでの間これを保管する義務を負うというべきである。
(3)  そして,民法258条に基づく共有物分割訴訟は,その本質において非訟事件であって,法は,裁判所の適切な裁量権の行使により,共有者間の公平を保ちつつ,当該共有物の性質や共有状態の実情に適合した妥当な分割が実現されることを期したものと考えられることに照らすと,裁判所は,遺産共有持分を他の共有持分を有する者に取得させ,その者に遺産共有持分の価格を賠償させてその賠償金を遺産分割の対象とする価格賠償の方法による分割の判決をする場合には,その判決において,各遺産共有持分権者において遺産分割がされるまで保管すべき賠償金の範囲を定めた上で,遺産共有持分を取得する者に対し,各遺産共有持分権者にその保管すべき範囲に応じた額の賠償金を支払うことを命ずることができるものと解するのが相当である。
(4) 原審は,理由中でAの共同相続人らに支払われる賠償金が遺産分割の対象となる旨を説示するものの,各相続人がこれをその時点で確定的に取得するものではなく,遺産分割がされるまでの間これを保管する義務を負うことを判決中に明記していない。また,Aの共同相続人らの法定相続分によるのではなく,これとは異なる上記のような割合での賠償金の支払を命ずることを相当とする根拠についても何ら説示していない。しかしながら,原審は,共同相続人間の関係,紛争の実情等に鑑み,Aの遺産分割がされるまでの間,対立する当事者の双方に単純に平等の割合で賠償金の保管をさせておくのが相当であるとの考慮に基づき,その趣旨で被上告会社にその割合に従った賠償金の支払を命じたものと解し得ないこともないのであり,結局,原審の判断にその裁量の範囲を逸脱した違法があるとまではいえない。
 

2013.09.05

非嫡出子相続分違憲判決

最高裁判所平成25年9月4日大法廷判決(平成24年(ク)984号)遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件


民法900条4号ただし書の規定のうち嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分は憲法14条1項に違反するとして、原決定を破棄差し戻しした。
個人的には、先例としての拘束性についてふれた部分、平成13年7月には違憲となっているとしながら、その後、大法廷判決までの遺産分割について、確定しているものはその効力が覆滅しないこと明らかにしてる部分(4の部分)に興味があります。こういう違憲判決の方法があるとすると、今後、合憲判断がでている他の事案でも、社会状況の変化による違憲について、最高裁判所の躊躇がなくなるということもあるかもしれない との感想を持ちました。


1 事案の概要等
平成13年7月▲▲日に死亡したAの遺産につき、Aの嫡出である子(その代襲相続人を含む。)である相手方らが、Aの嫡出でない子である抗告人らに対し、遺産の分割の審判を申し立てた。

原審(東京高決定平成24年06月22日 平成24年(ラ)955号)は、民法900条4号ただし書の規定のうち嫡出でない子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1とする部分(以下、この部分を「本件規定」という。)は憲法14条1項に違反しないと判断し、本件規定を適用して算出された相手方ら及び抗告人らの法定相続分を前提に、Aの遺産の分割をすべきものとした。

上告の論旨、本件規定は憲法14条1項に違反し無効である。


2 憲法14条1項適合性の判断基準
憲法14条1項は、法の下の平等を定めており、この規定が、事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り、法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると解すべき。

相続制度は、被相続人の財産を誰に、どのように承継させるかを定めるものであるが、相続制度を定めるに当たっては、それぞれの国の伝統、社会事情、国民感情なども考慮されなければならない。さらに、現在の相続制度は、家族というものをどのように考えるかということと密接に関係しているのであって、その国における婚姻ないし親子関係に対する規律、国民の意識等を離れてこれを定めることはできない。これらを総合的に考慮した上で、相続制度をどのように定めるかは、立法府の合理的な裁量判断に委ねられているものというべきである。

この事件で問われているのは、このようにして定められた相続制度全体のうち、本件規定により嫡出子と嫡出でない子との間で生ずる法定相続分に関する区別が、合理的理由のない差別的取扱いに当たるか否かということであり、立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても、そのような区別をすることに合理的な根拠が認められない場合には、当該区別は、憲法14条1項に違反するものと解するのが相当である。


3 本件規定の憲法14条1項適合性
(1) 法律婚主義
現行民法は、事実婚主義を排して法律婚主義(民法739条1項)を採用。一方、相続制度については、家督相続が廃止され、配偶者及び子が相続人となることを基本とする現在の相続制度が導入されたが、家族の死亡によって開始する遺産相続に関し嫡出でない子の法定相続分を嫡出子のそれの2分の1とする規定(昭和22年民法改正前の民法1004条ただし書)は、本件規定として現行民法にも引き継がれた。

(2) 平成7年大法廷判決
最決平成7年7月5日民集49巻7号1789頁は、「民法が法律婚主義を採用している以上、法定相続分は婚姻関係にある配偶者とその子を優遇してこれを定めるが、他方、非嫡出子にも一定の法定相続分を認めてその保護を図ったものである」とし、その定めが立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えたものということはできないのであって、憲法14条1項に反するものとはいえないと判断。


(3)昭和22年民法改正以降の変遷等の概要

ア 昭和22年民法改正の経緯とその後の状況

改正の背景には、「家」制度を支えてきた家督相続は廃止されたものの、相続財産は嫡出の子孫に承継させたいとする気風や、法律婚を正当な婚姻とし、これを尊重し、保護する反面、法律婚以外の男女関係、あるいはその中で生まれた子に対する差別的な国民の意識が作用していたことがうかがわれる。また、この改正法案の国会審議においては、本件規定の憲法14条1項適合性の根拠として、嫡出でない子には相続分を認めないなど嫡出子と嫡出でない子の相続分に差異を設けていた当時の諸外国の立法例の存在が繰り返し挙げられており、現行民法に本件規定を設けるに当たり、上記諸外国の立法例が影響を与えていたことが認められる。
しかし、昭和22年民法改正以降、我が国においては、社会、経済状況の変動に伴い、婚姻や家族の実態が変化し、その在り方に対する国民の意識の変化も指摘されている。
戦後の経済の急速な発展の中で、職業生活を支える最小単位として、夫婦と一定年齢までの子どもを中心とする形態の家族が増加するとともに、高齢化の進展に伴って生存配偶者の生活の保障の必要性が高まり、子孫の生活手段としての意義が大きかった相続財産の持つ意味にも大きな変化が生じた。
さらに、昭和50年代前半頃までは減少傾向にあった嫡出でない子の出生数は、その後現在に至るまで増加傾向が続いているほか、平成期に入った後においては、いわゆる晩婚化、非婚化、少子化が進み、これに伴って中高年の未婚の子どもがその親と同居する世帯や単独世帯が増加しているとともに、離婚件数、特に未成年の子を持つ夫婦の離婚件数及び再婚件数も増加するなどしている。

これらのことから、婚姻、家族の形態が著しく多様化しており、これに伴い、婚姻、家族の在り方に対する国民の意識の多様化が大きく進んでいることが指摘されている。

イ諸外国の状況

諸外国、特に欧米諸国においては、かつては、宗教上の理由から嫡出でない子に対する差別の意識が強く、昭和22年民法改正当時は、多くの国が嫡出でない子の相続分を制限する傾向にあり、そのことが本件規定の立法に影響を与えたところである。しかし、1960年代後半(昭和40年代前半)以降、これらの国の多くで、子の権利の保護の観点から嫡出子と嫡出でない子との平等化が進み、現在、我が国以外で嫡出子と嫡出でない子の相続分に差異を設けている国は、欧米諸国にはなく、世界的にも限られた状況にある。

ウ条約批准状況

・昭和54年に「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(昭和54年条約第7号)を批准
・平成6年に「児童の権利に関する条約」(平成6年条約第2号)を批准。
これらの条約には、児童が出生によっていかなる差別も受けない旨の規定が設けられている。
自由権規約委員会、児童の権利委員会は、上記各条約の履行状況等につき、締約国に対し、意見の表明、勧告等をすることができるものとされている。我が国の嫡出でない子に関する上記各条約の履行状況等については、平成5年に自由権規約委員会が、包括的に嫡出でない子に関する差別的規定の削除を勧告し、その後、上記各委員会が、具体的に本件規定を含む国籍、戸籍及び相続における差別的規定を問題にして、懸念の表明、法改正の勧告等を繰り返してきた。最近でも、平成22年に、児童の権利委員会が、本件規定の存在を懸念する旨の見解を改めて示している。

エ我が国における法制等の変化

・平成6年に、住民基本台帳事務処理要領の一部改正(平成6年12月15日自治振第233号)が行われ、世帯主の子は、嫡出子であるか嫡出でない子であるかを区別することなく、一律に「子」と記載することとされた。
・戸籍における嫡出でない子の父母との続柄欄の記載をめぐっても、平成16年に、戸籍法施行規則の一部改正(平成16年法務省令第76号)が行われ、嫡出子と同様に「長男(長女)」等と記載することとされ、既に戸籍に記載されている嫡出でない子の父母との続柄欄の記載も、通達(平成16年11月1日付け法務省民一第3008号民事局長通達)により、当該記載を申出により上記のとおり更正することとされた。
・最判平成20年6月4日判決・民集62巻6号1367頁は、嫡出でない子の日本国籍の取得につき嫡出子と異なる取扱いを定めた国籍法3条1項の規定(平成20年法律第88号による改正前のもの)が遅くとも平成15年当時において憲法14条1項に違反していた旨を判示し、同判決を契機とする国籍法の上記改正に際しては、同年以前に日本国籍取得の届出をした嫡出でない子も日本国籍を取得し得ることとされた。

オ我が国の立法状況

・昭和54年に法務省民事局参事官室により法制審議会民法部会身分法小委員会の審議に基づくものとして公表された「相続に関する民法改正要綱試案」において、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を平等とする旨の案が示された。
・平成6年に同じく上記小委員会の審議に基づくものとして公表された「婚姻制度等に関する民法改正要綱試案」及びこれを更に検討した上で平成8年に法制審議会が法務大臣に答申した「民法の一部を改正する法律案要綱」において、両者の法定相続分を平等とする旨が明記された。
・平成22年にも国会への提出を目指して上記要綱と同旨の法律案が政府により準備された。

カ 本規定非改正の状況

我が国でも、嫡出子と嫡出でない子の差別的取扱いはおおむね解消されてきたが、本件規定の改正は現在においても実現されていない。その理由について考察すれば、欧米諸国の多くでは、全出生数に占める嫡出でない子の割合が著しく高く、中には50%以上に達している国もあるのとは対照的に、我が国においては、嫡出でない子の出生数が年々増加する傾向にあるとはいえ、平成23年でも2万3000人余、上記割合としては約2.2%にすぎないし、婚姻届を提出するかどうかの判断が第1子の妊娠と深く結び付いているとみられるなど、全体として嫡出でない子とすることを避けようとする傾向があること、換言すれば、家族等に関する国民の意識の多様化がいわれつつも、法律婚を尊重する意識は幅広く浸透しているとみられることが、上記理由の一つではないかと思われる。

しかし、嫡出でない子の法定相続分を嫡出子のそれの2分の1とする本件規定の合理性は、前記2及び(2)で説示したとおり、種々の要素を総合考慮し、個人の尊厳と法の下の平等を定める憲法に照らし、嫡出でない子の権利が不当に侵害されているか否かという観点から判断されるべき法的問題であり、法律婚を尊重する意識が幅広く浸透しているということや、嫡出でない子の出生数の多寡、諸外国と比較した出生割合の大小は、上記法的問題の結論に直ちに結び付くものとはいえない。

キ、ク(従来の最高裁判決の分析等)

(4) まとめ
本件規定の合理性に関連する以上のような種々の事柄の変遷等は、その中のいずれか一つを捉えて、本件規定による法定相続分の区別を不合理とすべき決定的な理由とし得るものではない。しかし、昭和22年民法改正時から現在に至るまでの間の社会の動向、我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化、諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した条約の内容とこれに基づき設置された委員会からの指摘、嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制等の変化、更にはこれまでの当審判例における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば、家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかであるといえる。そして、法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても、上記のような認識の変化に伴い、上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。
以上を総合すれば、遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては、立法府の裁量権を考慮しても、嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。

したがって、本件規定は、遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していたものというべきである。

4 先例としての事実上の拘束性について
本決定は、本件規定が遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたと判断するものであり、平成7年大法廷決定並びに前記3(3)キの小法廷判決及び小法廷決定が、それより前に相続が開始した事件についてその相続開始時点での本件規定の合憲性を肯定した判断を変更するものではない。
他方、憲法に違反する法律は原則として無効であり、その法律に基づいてされた行為の効力も否定されるべきものであることからすると、本件規定は、本決定により遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたと判断される以上、本決定の先例としての事実上の拘束性により、上記当時以降は無効であることとなり、また、本件規定に基づいてされた裁判や合意の効力等も否定されることになろう。しかしながら、本件規定は、国民生活や身分関係の基本法である民法の一部を構成し、相続という日常的な現象を規律する規定であって、平成13年7月から既に約12年もの期間が経過していることからすると、その間に、本件規定の合憲性を前提として、多くの遺産の分割が行われ、更にそれを基に新たな権利関係が形成される事態が広く生じてきていることが容易に推察される。取り分け、本決定の違憲判断は、長期にわたる社会状況の変化に照らし、本件規定がその合理性を失ったことを理由として、その違憲性を当裁判所として初めて明らかにするものである。それにもかかわらず、本決定の違憲判断が、先例としての事実上の拘束性という形で既に行われた遺産の分割等の効力にも影響し、いわば解決済みの事案にも効果が及ぶとすることは、著しく法的安定性を害することになる。法的安定性は法に内在する普遍的な要請であり、当裁判所の違憲判断も、その先例としての事実上の拘束性を限定し、法的安定性の確保との調和を図ることが求められているといわなければならず、このことは、裁判において本件規定を違憲と判断することの適否という点からも問題となり得るところといえる(前記3(3)ク参照)。
以上の観点からすると、既に関係者間において裁判、合意等により確定的なものとなったといえる法律関係までをも現時点で覆すことは相当ではないが、関係者間の法律関係がそのような段階に至っていない事案であれば、本決定により違憲無効とされた本件規定の適用を排除した上で法律関係を確定的なものとするのが相当であるといえる。そして、相続の開始により法律上当然に法定相続分に応じて分割される可分債権又は可分債務については、債務者から支払を受け、又は債権者に弁済をするに当たり、法定相続分に関する規定の適用が問題となり得るものであるから、相続の開始により直ちに本件規定の定める相続分割合による分割がされたものとして法律関係が確定的なものとなったとみることは相当ではなく、その後の関係者間での裁判の終局、明示又は黙示の合意の成立等により上記規定を改めて適用する必要がない状態となったといえる場合に初めて、法律関係が確定的なものとなったとみるのが相当である。
したがって、本決定の違憲判断は、Aの相続の開始時から本決定までの間に開始された他の相続につき、本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。

2012.12.31

遺留分減殺請求と指定相続分(最決平成24年1月26日)

最決平成24年1月26日判時 2148号61頁
平成23年(許)第25号 遺産分割審判に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件 (破棄差戻し)

1 遺留分減殺請求により相続分の指定が減殺された場合には,遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分が,その遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正されるとした。

「相続分の指定が,特定の財産を処分する行為ではなく,相続人の法定相続分を変更する性質の行為であること,及び,遺留分制度が被相続人の財産処分の自由を制限し,相続人に被相続人の財産の一定割合の取得を保障することをその趣旨とするものであることに鑑みれば,遺留分減殺請求により相続分の指定が減殺された場合には,遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分が,その遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正されるものと解するのが相当である(最高裁平成9年(オ)第802号同10年2月26日第一小法廷判決・民集52巻1号274頁参照)。」


2 特別受益に当たる贈与についてされた持戻し免除の意思表示が遺留分減殺請求により減殺された場合,当該贈与に係る財産の価額は,遺留分を侵害する限度で,遺留分権利者の相続分に加算され,当該贈与を受けた相続人の相続分から控除される。

「本件遺留分減殺請求は,本件遺言により相続分を零とする指定を受けた共同相続人であるXらから,相続分全部の指定を受けた他の共同相続人であるYらに対して行われたものであることからすれば,Aの遺産分割においてXらの遺留分を確保するのに必要な限度でYらに対するAの生前の財産処分行為を減殺することを,その趣旨とするものと解される。そうすると,本件遺留分減殺請求により,Xらの遺留分を侵害する本件持戻し免除の意思表示が減殺されることになるが,遺留分減殺請求により特別受益に当たる贈与についてされた持戻し免除の意思表示が減殺された場合,持戻し免除の意思表示は,遺留分を侵害する限度で失効し,当該贈与に係る財産の価額は,上記の限度で,遺留分権利者である相続人の相続分に加算され,当該贈与を受けた相続人の相続分から控除されるものと解するのが相当である。持戻し免除の意思表示が上記の限度で失効した場合に,その限度で当該贈与に係る財産の価額を相続財産とみなして各共同相続人の具体的相続分を算定すると,上記価額が共同相続人全員に配分され,遺留分権利者において遺留分相当額の財産を確保し得ないこととなり,上記の遺留分制度の趣旨に反する結果となることは明らかである。」

2011.03.19

生物学的父子関係はないが、法的には実親子関係があるされる場合の、離婚後の子の監護費用

表題の論点について、3月18日に最高裁判所に判決をいただいた。

 

具体的事例の中身を検討のうえ、権利濫用により否定したもの。
過去には、この論点にふれた最高裁判決はないことから、裁判所ホームページのリンクをつけて、紹介する。

 

平成21(受)332 離婚等請求本訴,同反訴事件  
平成23年03月18日 最高裁判所第二小法廷 判決

2007.10.15

遺産分割と果実の帰属

遺産分割について争いがある場合などでは、被相続人の死亡から遺産分割までの間に相当の日時を経過することとなるが、その間の相続財産たる不動産から生じる賃料の帰属については、従来考え方が分かれていた。共同相続人は、相続開始の時点から遺産分割がされるまで、遺産をその法定相続分の持分で共有することになる。反面、遺産分割の効力は、相続開始の時に遡って生ずる(民法909条本文)とされていることから、元物たる財産を取得した相続人に果実も帰属するとの考え方(遡及的帰属説)と果実自体共有されるとする考え方(共同財産説)との考え方の違いがあった。
この点、最判平成17年9月8日民集59巻7号1931頁 判時1913号62頁は、次のとおり、共同財産説の立場をとった。すなわち、
「遺産は、相続人が複数あるときは、相続開始時から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用収益した結果生ずべき金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得するものと解する。」


遺産分割がなされるまでの相続不動産と相続債権の性質

被相続人が相続開始の時において有した不動産を相続人の一人が単独名義に相続登記をし、被相続人の死亡後に相続人の一人が解約し、払戻しを受けた預貯金について、他の相続人が相続分に応じて被相続人の相続財産を相続していると主張して、不動産につき相続分に応じた持分の移転登記手続を求めるとともに、預貯金につき相続分に相当する金額の不当利得の返還を求めた事案について、
 最判平成16年4月20日家月56巻10号48頁 判時1859号61頁は、
「相続開始後、遺産分割が実施されるまでの間は、共同相続された不動産は共同相続人全員の共有に属し、各相続人は当該不動産につき共有持分を持つことになる。したがって、共同相続された不動産について共有者の1人が単独所有の登記名義を有しているときは、他の共同相続人は、その者に対し、共有持分権に基づく妨害排除請求として、自己の持分についての一部抹消等の登記手続を求めることができるものと解すべきである(最高裁昭和35年(オ)第1197号同38年2月22日第二小法廷判決・民集17巻1号235頁、最高裁昭和48年(オ)第854号同53年12月20日大法廷判決・民集32巻9号1674頁参照)。
 また、相続財産中に可分債権があるときは、その債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり、共有関係に立つものではないと解される。したがって、共同相続人の1人が、相続財産中の可分債権につき、法律上の権限なく自己の債権となった分以外の債権を行使した場合には、当該権利行使は、当該債権を取得した他の共同相続人の財産に対する侵害となるから、その侵害を受けた共同相続人は、その侵害をした共同相続人に対して不法行為に基づく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができるものというべきである。」
とした。

2007.10.13

共同相続人間の相続人の地位不存在確認

被相続人死亡後、相続人の一人(被相続人の子の一人)Yが、遺言書を隠匿し、又は破棄したとして、数名いる他の相続人の一人Xが、この行為は民法891条5号所定の相続欠格事由に当たると主張し、Yのみを被告として、Yが被相続人の遺産につき相続人の地位を有しないことの確認を求める訴訟を提起したとの事案で、Yは、Yだけではなく、他の相続人をも被告とすべきであるとして、訴訟手続を争った。この事案について、
最判平成16年 7月 6日民集 58巻5号1319頁 判時 1883号66頁は、次のように判示して、Yの主張を認め、このような場合は、固有必要的共同訴訟であり、Xは、相続人全員を被告として訴訟すべきであるとした。すなわち、「被相続人の遺産につき特定の共同相続人が相続人の地位を有するか否かの点は、遺産分割をすべき当事者の範囲、相続分及び遺留分の算定等の相続関係の処理における基本的な事項の前提となる事柄である。そして、共同相続人が、他の共同相続人に対し、その者が被相続人の遺産につき相続人の地位を有しないことの確認を求める訴えは、当該他の共同相続人に相続欠格事由があるか否か等を審理判断し、遺産分割前の共有関係にある当該遺産につきその者が相続人の地位を有するか否かを既判力をもって確定することにより、遺産分割審判の手続等における上記の点に関する紛議の発生を防止し、共同相続人間の紛争解決に資することを目的とするものである。このような上記訴えの趣旨、目的にかんがみると、 上記訴えは、共同相続人全員が当事者として関与し、その間で合一にのみ確定することを要するものというべきであり、いわゆる固有必要的共同訴訟と解するのが相当である。」。

2007.10.11

子の連れ去り

離婚をめぐり、幼少の子の親権や監護権について、父母の間で激しく争いとなって、子の奪い合いが行われる例がある。このような行為については、刑事的には、略取誘拐罪が成立し、また、親権や監護権の決定の審判の中でも奪い合いの事実が考慮されることが多い。
子の引渡について、家事審判手続や審判前の保全等の手続きをとっても、手続きが煩瑣であることから、思わず、実行行為に出てしまう父母がいるが、弁護士としては、下記の判例を示すなどして、アドバイスをする必要があろう。


最判平成17年12月6日刑集59巻10号1901頁 判時1927号156頁

母の監護下にある二歳の子を有形力を用いて連れ去った略取行為は、別居中の共同親権者である父が行ったとしても、監護養育上それが現に必要とされるような特段の事情が認められず、行為態様が粗暴で強引なものであるなど判示の事情の下では、違法性が阻却されるものではない。

東京高決平成17年 6月28日家月 58巻4号105頁

別居中の父母からそれぞれ申し立てられた子の監護者指定申立事件の即時抗告審において、子は七歳とまだ幼少の年齢であり、出生以来主に母である抗告人によって監護されてきたものであって、その監護養育状況に特に問題があったことをうかがわせる証拠はないところ、調停委員等からの事前の警告に反して周到な計画の下に行われた相手方及びその両親による子の奪取は、極めて違法性の高い行為であるといわざるを得ず、子の監護者を相手方に指定することは、そのような違法行為をあたかも追認することになるのであるから、そのようなことが許される場合は、特にそれをしなければ子の福祉が害されることが明らかといえるような特段の状況が認められる場合に限られるとした上、本件においては、このような特段の事情を認めるに足りる証拠はないとして、相手方を監護者と定めた原審判を取り消し、抗告人を監護者と定めた

2021年8月
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