12 損害賠償(交通事故)

2013.01.06

人身傷害保険の支払と代位する損害賠償請求権の範囲(最判平成24年2月20日)

最判平成24年2月20日 民集66巻2号742頁
平成21年(受)第1461号 損害賠償請求事件(変更)

 
本件は,交通事故によって死亡したAの両親である第1審原告らが,加害車両の運転者である第1審被告Y1に対しては民法709条に基づき,加害車両の保有者である第1審被告Y2に対しては自動車損害賠償保障法3条に基づき,損害賠償を求める事案である。第1審原告らは,第1審原告X1が自動車保険契約を締結していた保険会社から,上記保険契約に適用される普通保険約款中の人身傷害条項に基づき,保険金の支払を受けたことから,上記保険会社による損害賠償請求権の代位取得の範囲等が主たる争点となった。

論点 1
人身傷害条項に基づき被害者が被った損害に対して保険金を支払った保険会社(以下「保険会社」という。)は,損害金元本に対する遅延損害金の支払請求権を代位取得するか。

論点 2
人身傷害条項の被保険者である被害者に過失がある場合,保険金を支払った保険会社が,代位取得する損害賠償請求権の範囲。
論点2につき
既出 交通事故の加害者が被害者に賠償すべき人的損害の額の算定に当たり、被害者の父が締結していた自動車保険契約の人身傷害補償条項に基づき被害者が支払を受けた保険金の額を控除する場合の控除の方法について。 その2 その3


(事実関係の概要等)
(1)  Aは,平成17年5月1日午後6時40分頃,横断歩道の設けられていない道路を横断中,前方注視を怠るなどして上記道路を進行してきた第1審被告Y1が運転し,第1審被告Y2が保有する普通乗用自動車に衝突され,脳挫傷,気管挫裂傷等の傷害を負い(以下,この事故を「本件事故」という。),入院治療を受けたが,同年11月26日,死亡した。

(2)  本件事故によりAが被った損害は合計7828万2219円であるが,本件事故におけるAの過失割合が10%であることから,上記割合により過失相殺をすると,Aが第1審被告らに対して賠償請求をすることができる損害金(以下,単に「Aの損害金」という。)の額は,7045万3997円となる。Aの両親である第1審原告らは,Aの第1審被告らに対する損害賠償請求権を2分の1ずつ相続により取得した。

(3)  第1審原告らは,本件事故によりAが被った損害につき,公立学校共済組合から123万9297円の,第1審被告Y2から793万0904円の各支払を受けた。その結果,第1審原告らが第1審被告らに対して賠償請求をすることができるAの損害金の残元本は,上記(2)の7045万3997円から上記各支払額を控除した6128万3796円となった。
(4)  第1審原告X1固有の損害は,270万円であり,第1審原告X2固有の損害は,160万円である。

(5)  第1審原告X1は,本件事故当時,B(以下「訴外保険会社」という。)との間で,人身傷害条項のある普通保険約款(以下「本件約款」という。)が適用される自動車保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結しており,Aは,上記条項に係る被保険者であった。
(6)  本件約款中の人身傷害条項には,要旨,次のような定めがあった。
ア  訴外保険会社は,日本国内において,自動車の運行に起因する事故等に該当する急激かつ偶然な外来の事故により,被保険者が身体に傷害を被ることによって被保険者又はその父母,配偶者若しくは子が被る損害に対し,保険金を支払う。
イ  訴外保険会社は,被保険者の故意又は極めて重大な過失(事故の直接の原因となり得る過失であって,通常の不注意等では説明のできない行為(不作為を含む。)を伴うものをいう。)によって生じた損害に対しては,保険金を支払わない。
ウ  訴外保険会社が保険金を支払うべき損害の額は,本件約款所定の算定基準に従い算定された金額の合計額(以下「人傷基準損害額」という。)とする。
エ  訴外保険会社が支払う保険金の額は,人傷基準損害額から①保険金請求権者が賠償義務者から既に取得した損害賠償金の額及び②上記アの損害を補償するために支払われる給付で保険金請求権者が既に取得したものがある場合はその取得額等を差し引いた額とする。
オ  保険金請求権者が他人に損害賠償の請求をすることができる場合には,訴外保険会社は,その損害に対して支払った保険金の額の限度内で,かつ,保険金請求権者の権利を害さない範囲内で,保険金請求権者がその他人に対して有する権利を取得する(以下「本件代位条項」という。)。

(7)  本件約款には,訴外保険会社が上記(6)アの損害の元本に対する遅延損害金を支払う旨の定めはない。

(8)  Aについての人傷基準損害額は,6741万7099円である。第1審原告らは,平成19年10月25日,本件事故によりAが被った損害につき,訴外保険会社から,本件約款中の人身傷害条項に基づき,保険金として,上記の人傷基準損害額から上記(3)の各支払額を差し引いた5824万6898円(以下「本件保険金」という。)の支払を受けた。

(9)ア  第1審原告X1の請求(当審における減縮後のもの)は,以下の金員の支払を求めるものである。
 (ア) Aの損害金の残元本の2分の1である924万3908円
 (イ) 固有の損害金元本330万円及びこれに対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金(民法所定年5分の割合によるもの。以下同じ。)41万0465円
 (ウ) 上記(ア)の924万3908円及び上記(イ)の330万円の合計1254万3908円に対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金

イ  第1審原告X2の請求(当審における減縮後のもの)は,以下の金員の支払を求めるものである。
 (ア) 上記ア(ア)と同じ
 (イ) 固有の損害金元本210万円及びこれに対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金26万1205円
 (ウ) 上記ア(ア)の924万3908円及び上記(イ)の210万円の合計1134万3908円に対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金

ウ  第1審原告らは,主位的には,本件保険金を支払った訴外保険会社はAの損害金の残元本に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金の支払請求権を代位取得すると主張して,上記ア及び上記イの各(ア)のAの損害金の残元本を請求しているが,予備的に,仮に,本件保険金を支払った訴外保険会社が上記遅延損害金の支払請求権を代位取得しないのであれば,第1審原告らは上記遅延損害金の2分の1の支払請求権を有していると主張しており,それぞれ,Aの損害金の残元本の2分の1である543万2560円及び上記遅延損害金の2分の1である381万1348円を請求しているとみられることは,記録上明らかである。

(原審)
 札幌高判平成21年 4月10日金商1391号34頁<参考収録>平20(ネ)359号

第1審原告らが第1審被告らに対して請求することができるAの損害金の元本を各532万9797円とし,第1審原告らの請求を,上記の532万9797円と第1審原告ら各自の固有の損害金元本(第1審原告X1につき270万円,同X2につき160万円)との合計額及びこれに対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で,これを認容すべきものと判断したが,第1審原告ら各自の固有の損害金元本に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金の支払請求については,特段の理由を示すことなくこれを棄却すべきものと判断した。
(原審判断の理由)
(1)  本件保険金は,民法491条に準じて,まず,上記2(3)のAの損害金の残元本に対する本件保険金支払日までの遅延損害金762万2696円に充当される。
(2)  本件保険金のうち上記(1)のとおり充当された残額である5062万4202円については,その全額が上記2(3)のAの損害金の残元本に充当され,その結果,Aの損害金の残元本は,1065万9594円となる。

(最高裁の判断)

(1)  本件約款中の人身傷害条項に基づき,被保険者である交通事故等の被害者が被った損害に対して保険金を支払った訴外保険会社は,上記保険金の額の限度内で,これによって塡補される損害に係る保険金請求権者の加害者に対する賠償請求権を代位取得し,その結果,訴外保険会社が代位取得する限度で,保険金請求権者は上記請求権を失い,上記請求権の額が減少することとなるところ(最高裁昭和49年(オ)第531号同50年1月31日第三小法廷判決・民集29巻1号68頁参照),訴外保険会社がいかなる範囲で保険金請求権者の上記請求権を代位取得するのかは,本件保険契約に適用される本件約款の定めるところによることとなる。
(2)  本件約款によれば,上記保険金は,被害者が被る損害の元本を塡補するものであり,損害の元本に対する遅延損害金を塡補するものではないと解される。そうであれば,上記保険金を支払った訴外保険会社は,その支払時に,上記保険金に相当する額の保険金請求権者の加害者に対する損害金元本の支払請求権を代位取得するものであって,損害金元本に対する遅延損害金の支払請求権を代位取得するものではないというべきである。

(以上 論点1)

(3)  次に,被保険者である被害者に,交通事故の発生等につき過失がある場合において,訴外保険会社が代位取得する保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権の範囲について検討する。
 本件約款によれば,訴外保険会社は,交通事故等により被保険者が死傷した場合においては,被保険者に過失があるときでも,その過失割合を考慮することなく算定される額の保険金を支払うものとされているのであって,上記保険金は,被害者が被る損害に対して支払われる傷害保険金として,被害者が被る実損をその過失の有無,割合にかかわらず塡補する趣旨・目的の下で支払われるものと解される。上記保険金が支払われる趣旨・目的に照らすと,本件代位条項にいう「保険金請求権者の権利を害さない範囲」との文言は,保険金請求権者が,被保険者である被害者の過失の有無,割合にかかわらず,上記保険金の支払によって民法上認められるべき過失相殺前の損害額(以下「裁判基準損害額」という。)を確保することができるように解することが合理的である。
 そうすると,上記保険金を支払った訴外保険会社は,保険金請求権者に裁判基準損害額に相当する額が確保されるように,上記保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である。

(4)  なお,第1審原告ら固有の損害の賠償債務は,本件事故時に発生し,かつ,何らの催告を要することなく,遅滞に陥ったものであるから(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照),第1審原告ら固有の損害金元本に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金の支払請求が否定される理由はない。

(以上 論点2)

5(1)  前記事実関係等及び上記4で説示したところによれば,訴外保険会社は,本件保険金5824万6898円とAの損害金元本7045万3997円との合計額1億2870万0895円が,本件事故によりAが被った損害である前記2(2)の7828万2219円を上回る部分である5041万8676円の範囲で,Aの損害金元本の支払請求権を代位取得し,その限度で第1審原告らが第1審被告らに請求することができるAの損害金の残元本の額が減少することとなる。そして,前記2(3)のAの損害金の残元本6128万3796円から上記の5041万8676円を控除すると,第1審原告らが第1審被告らに請求することができるAの損害金の残元本は,1086万5120円となる。

(2)ア  そうすると,第1審原告X1の請求は,以下の金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。
 (ア) 上記Aの損害金の残元本の2分の1である543万2560円及び前記2(3)のAの損害金の残元本6128万3796円に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金の2分の1である381万1348円
 (イ) 固有の損害金元本270万円及びこれに対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金33万5835円
 (ウ) 上記(ア)の543万2560円及び上記(イ)の270万円の合計813万2560円に対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金

イ  また,第1審原告X2の請求は,以下の金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。
 (ア) 上記ア(ア)と同じ
 (イ) 固有の損害金元本160万円及びこれに対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金19万9013円
 (ウ) 上記ア(ア)の543万2560円及び上記(イ)の160万円の合計703万2560円に対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金


(裁判官宮川光治の補足意見)
 本件約款の人身傷害条項は,自動車事故によって被保険者が死傷した場合に所定の基準により算定された損害の額に相当する保険金を支払うという傷害保険を定めるものである。同保険では,被保険者は迅速な損害塡補を受けることができるのであるから,判決による遅延損害金をも塡補している賠償責任条項とは異なって,損害金元本に対する遅延損害金を塡補していない。保険代位の対象となる権利は,保険による損害塡補の対象と対応する損害についての賠償請求権に限定されるのであるから(対応の原則),原審が本件保険金について民法491条を準用し損害金元本に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金に充当するとしたことは,相当でない。
 被害者に過失がある場合において,保険金を支払った保険者が代位取得する損害賠償請求権の範囲については,諸説がある。法廷意見は,人身傷害保険の趣旨・目的に照らすといわゆる裁判基準差額説と呼ばれている見解が合理的であるとするものであるが,本件約款の人身傷害条項においては損害や保険金を過失割合に応じて按分するという考えを採っていないこと,保険法25条1項が一部保険に関していわゆる差額説を採用したことにも相応すること,そして,そもそも平均的保険契約者の理解に沿うものと認められることから,支持できると思われる。本件約款の人身傷害条項は,賠償義務者から既に取得した損害賠償金の額等がある場合は,保険金の額はそれらの合計額を差し引いた額とすると定めている。これを字義どおり解釈して適用すると,一般に人身傷害条項所定の基準は裁判基準を下回っているので,先に保険金を受領した場合と比較すると不利となることがある。そうした事態は明らかに不合理であるので,上記定めを限定解釈し,差し引くことができる金額は裁判基準損害額を確保するという「保険金請求権者の権利を害さない範囲」のものとすべきであると考えられる。

2012.11.25

ETCレーンでの交通事故

平成24年11月22日に 大阪弁護士会交通事故委員会と(公財)日弁連交通事故相談センター東京支部の懇談会がありました。
その際に、東京側からのテーマが ETCレーンでの交通事故で 当職が発表しました。大阪の先生方には大変にお世話になりました。

レジュメ自体は、同支部発行の赤い本平成25年版に掲載される予定のものと基本的には変わらないことから、発表の際に 例示した 東京と大阪の二つの裁判例のみ ブログに紹介しておきます。

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進行方向←     ETCバー ←先行車(A)  ←後続車(B)        


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以上のような、ETC専用レーンでの追突事故の事例で、先行車にETCカードの入れ忘れがあった場合過失割合が論点です。


先行車側に過失を認める裁判例
東京地判平成21年11月5日交民42巻6号1464頁
A 時速20㎞で走行 ETCカード挿入忘れ
B 時速20から30㎞で走行
① ETCシステム利用規程 8条 1項
  1号 20㎞以下で進入
  2号 ETC車線内徐行
  3号 車間距離保持
② 実施細則 ETC車線内で前車が停車した場合、開 閉棒が開かない若しくは閉じる場合その他通行するにあたり安全が確保できない事象が生じた場合であって も、前車又は開閉棒その他の設備に衝突しないように安全に停止できる速度で走行してください

③ ETC車線を通行しようとする車両の運転者は、何らかの不具合等により開閉棒が開かず、そのため前車が停車することがあり得ることを予見し、そのような場合でも、前車に衝突しないで停止できるよう、前車との車間距離を十分にとって徐行すべき義務があるというべきである。

④ (後続車の基本過失) Bは、時速20から30㎞でETC車線を走行し、次第に前車のA車との車間距離が縮まっていき、やがてA車が開閉棒の直前で停止したのを見て、ブレーキを踏んだが間に合わなかったというものであるから、Bには、減速義務違反又は車間距離保持義務違反の過失がある。

⑤ (先行車の過失) A車を運転していた乙は、不注意によりETCカードを挿入し忘れ、そのために開閉棒が開かなかったことが推認されるところ、ETC車線を進行しようとする者はETCカードを挿入して進行しなければならないのであるから乙にはETCカードの挿入を怠った過失がある。

⑥ 過失割合 先行車20%:後続車80%


先行車側の過失を認めない裁判例
大阪地判平成22年4月22日交民43巻2号539頁
A 時速20から30㎞で走行 ETCカード挿入忘れ 
B 相当の高速度
ETCシステム利用規程 8条1項
  1号 20㎞以下で進入
  2号 ETC車線内徐行
  3号 車間距離保持
② 実施細則 ETC車線内で前車が停車した場合、開閉棒が開かない若しくは閉じる場合その他通行するにあたり安全が確保できない事象が生じた場合であっても、前車又は開閉棒その他の設備に衝突しないように安全に停止できる速度で走行してください
 この内容がETCシステム利用者の注意義務の内容を構成

② ETCゲートを通過しようとする車両運転者には、開閉バーが開かないために前車が仮に急停止した場合であっても、これに追突しないような措置を講ずべき注意義務が課されている。
③ 開閉バーが上がらなかった原因が本件のようにETCカードの挿入忘れにあったとしても、追突した後車側の過失割合が10割と認めるのが相当である。

④ 過失割合 先行車0%:後続車100%

大阪地裁の事例では先行車が停止してから後続車が衝突するまで時間的に間があったようであり、東京地裁の事案とは微妙に異なるようにも思われました。
東京地裁の判決も大阪地裁の判決も、基本過失は後続車にあるとしつつ、挿入忘れ等がある場合に修正するのかとい点で異なる結論としたという内容でした。

2012.02.19

ケーススタディ1後遺症(2 外傷性頸部症候群)

(事案1)
自家用車で走行中の甲(被害者・団体職員事故時31歳固定時32歳年収500万円)が赤信号に従い停止していたところ、後方から進行してきた乙運転の普通乗用車が追突し、甲が負傷した。
     診療経過等は別紙1のとおり。
   (設問1) 自賠責の判断に対して、争う方法。争うべきポイント。
(設問2) 14級9号が認定されたとした場合の後遺症に関する損害賠償額の算定。  

(1)外傷性頸部症候群とは

・外傷性頸部症候群、頚椎捻挫、頸部挫傷、あるいはむち打ち症などの診断がなされている。

・外傷性頸部症候群の診断・治療ガイドライン調査報告書;         (社)日本交通科学協議会のむち打ち損傷研究会
「外傷性頸部症候群と診断して何らの不都合はないが、推測される受傷機転に応じて、生理的可動域を超えたと思われる場合は頸椎(部)捻挫、それ以下の場合には頸椎(部)挫傷と区別して病態別に診断した方がより正確といえる。」
むち打ちという用語が使われることについては、「ヘッドレストもなく、本当に鞭のように大きく頭部を振られたケースを除けば、鞭打ち損傷という病名は不適当と言わざるを得ない。患者に誤った過大な不安を与える点ではむしろ加害的な病名とすらいえ、日常臨床では使うことをやめるべき診断名といえる。このことはすでに国際学会でも共通の認識となっているが、カナダ・ケベック報告では鞭打ち関連病態と呼ばれている。」
      
 (2)脊髄の構造 
   ・「脊椎」と「脊髄」;骨と神経   → 資料3
脊椎; 頸椎(C)・・・・・7個の椎骨
         胸椎(T)・・・・12個の椎骨
         腰椎(L)・・・・・5個の椎骨
         仙椎(S)・・・・・5個の椎骨が癒合
         尾骨
         CF. 椎間板;椎体と椎体の間にある線維軟骨組織。
            椎体の前面に前縦靭帯、後面に後縦靭帯が密着。
            棘上靭帯、棘間靭帯、黄色靭帯。
     脊髄; 脊柱管内を走行、第1頸椎から第1腰椎の高位まで存在(それ以遠は馬尾)。→ 資料1図1(髄節と脊椎の位置)            
中枢神経;脳と脊髄
末梢神経;脊髄から分岐した神経
神経根;前根・後根が合流、脊髄から末梢神経に分枝する部分。
前根は運動神経、後根は感覚神経。
頸髄から分岐する神経根は上肢の運動・感覚を支配。
腰仙髄部の神経根及び馬尾は、下肢と陰部の運動・感覚を支配。

    ・頸部の構造           → 資料3
頸椎;上位頸椎・・・第1頸椎(環椎、C1)・第2頸椎(軸椎、C2)
   下位頸椎・・・第3頸椎~第7頸椎(C3~C7)
     八対の神経根;当該神経根は椎体の上位より出る。

    ・末梢神経の分布         → 資料4(デルマトーム)
        

(3)等級認定の基準
ⅰ 局部の神経症状   
12級;局部に頑固な神経症状を残すもの
 →障害の存在が医学的に証明できるもの (他覚所見の存在)
     14級;局部に神経症状を残すもの
      →障害の存在が医学的に説明可能なもの(医学的には証明できなくとも自覚症状が単なる故意の誇張でないと医学的に推定されるもの)
       平成15年改正で、「12級は『通常の労務に服することはでき、職業制限も認められないが、時には労務に支障が生じる場合があるもの』及び14級は12級よりも軽度のものが該当する。」との記述となるが、実務は変わらず。 
末梢神経系統の障害の場合;原則12級が上限(例外あり;RSD・カウザルギー・CRPS等)
        脊髄の障害の場合;1級~12級(労災補償障害認定必携 参照)
   
ⅱ 他覚所見とは
     ・「他覚所見には画像所見も含むが、これに限られるわけではない。種々の神経学的検査の結果も他覚所見といえる」
      (『後遺障害等級認定と裁判実務 -訴訟上の争点と実務の視点-』
高野真人編著・新日本法規出版P244~P245)

・自賠実務と裁判実務の違いを論ずるもの
『注解交通損害賠償算定基準(上)損害額算定・損害の填補編-実務上の争点と理論-3訂版』(損害賠償算定基準研究会編・(株)ぎょうせい発行)P222~P223
「12級の基準となっている『他覚所見』の存在をどのように考えるかについては、自賠責実務と裁判実務との間で認識の違いがあると考えておいた方がよいであろう。自賠責実務では、神経系統の障害が存在しているという裏付けになる所見を求める。すなわち、被害者が訴える身体の異常の原因が神経系統の損傷ないし回復困難な機能的障害であることの証明となる所見をイメージしているのに対して、裁判実務における捉え方は、被害者の訴える異常状態が存在すると推定できる異常所見があればよいとしていると思われるのである(青本17訂版付録座談会183~189頁参照)。それゆえ、自賠責実務では、検査などによる異常所見が存在するだけでは、神経系統の障害があるとまでは言えないとして14級あるいは等級非該当とされる事例でも、判決においては、異常所見が存在するので被害者の訴えが裏付けられるとして12級の認定を受ける例が少なくないと言える。」
      
『交通事故におけるむち打ち損傷問題』(栗宇一樹・古笛恵子編・(株)保険毎日新聞社発行(以下「交通事故におけるむち打ち損傷問題」という))P176~P177

・裁判所12級認定例→ほぼ半数が自賠責で12級認定。
残りは自賠責14級ないし非該当。
        ・裁判所14級認定例→ほとんどが自賠責で14級認定。
        ・裁判所非該当事例→ほとんどが自賠責でも非該当。
自賠責で認定された等級→特段の事情のない限り、一応の立証あり。
        (『リーガル・プログレッシブ・シリーズ5 交通損害関係訴訟』(佐久間邦夫・八木一洋編・(株)青林書院発行)P153~154)

ⅲ 各種検査
Ⅰ 画像
      ① レントゲン検査・CT
       ・骨傷の有無・後縦靭帯骨化症の有無等の確認に有用 
    ・頸椎前彎消失、局所後彎、脊柱管狭窄は?
    ・骨病変のない場合 → 有用性に疑問
      ② MRI(磁気共鳴撮影法;磁気と電波による画像検査法)
       ・脊髄・靭帯・椎間板の描出に有用
        神経学的所見が出現した場合の責任部位の検討
    ・有用性の限界;急性期の診断、バレ・リュー症状 等
Ⅱ 椎間圧迫テスト  → 資料5
     ① スパーリングテスト(Spurling test) 
        頭部を患側に向けて頭頂部から圧迫を加える検査
        障害がある神経根の支配領域に疼痛・しびれ感が放散
  ② ジャクソンテスト(Jackson test)  
        頭部を後屈して頭頂部から圧迫を加える検査
        障害がある神経根の支配領域に疼痛・しびれ感が放散
Ⅲ 反射   
      ① 深部腱反射     → 資料6
腱や骨を適度に叩くことにより引き起こされる反射(上腕二頭筋反射、上腕三頭筋反射等)
        中枢神経系の障害→亢進
        末梢神経系の障害→低下、消失
     ② 病的反射  → 中枢神経系の障害
        バビンスキー反射
ホフマン反射・トレムナー反射・ワルテンベルク反射は?
Ⅳ 徒手筋力評価(MMT)
        重力または検者の力に抗して筋肉を動かせるかを評価
        (6段階;5=正常、4=良好、3=やや良好、2=不良、1=痕跡、0=筋肉の収縮なし)
     Ⅴ 知覚検査  → デルマトーム    → 資料4
        触覚、温度覚、痛覚、振動覚 等
     Ⅵ その他
① 神経伝導速度検査
      ② サーモグラフィ
  ③ 関節可動域(ROM)
* 後遺障害として評価されるためには関節可動域制限の原因が器質的損傷によるものであることが必要→むち打ち損傷による機能的変化(疼痛・緊張等)を原因とする運動制限は機能障害ではなく、局部の神経症状として評価される。
    ※ Ⅱ~Ⅵの有用性の問題
      検査方法、患者の協力の要否 等

ⅳ 裁判例の認定傾向;
『後遺障害等級認定と裁判実務』(P263~P264)参照
      1)12級以上に認定されやすい理想的なパターン
①画像から神経圧迫の存在が考えられ、かつ、
②圧迫されている神経の支配領域に知覚障害などの神経学的異常所見あり
      2)12級とするには疑問か → 14級か(あるいは非該当か)
①あり、しかし、
        ②がない、あるいは画像と整合しない。
    3)14級か
        ①神経圧迫とはいえないが正常とはいえない所見あり、かつ、
        ②神経学的異常所見あり
4)明確な認定傾向は指摘できない例
        ①なし、しかし、
        ②神経学的異常所見あり 

ⅴ その他のファクター;
事故の態様、治療経過、症状の一貫性 等

    ⅵ 認定の要件と問題点
CF. 「後遺障害等級認定にかかわる医学的基礎知識」平林洌(『交通事故による損害賠償の諸問題Ⅲ』 453頁~)

    ⅶ その他関連障害
     ①脊髄損傷との区別
    ②胸郭出口症候群
③後縦靭帯骨化症
     等


(4)逸失利益の算定
① 算定式
「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」

② 等級と労働能力喪失率
     労働能力喪失率表
     12級 → 14%
     14級 →  5%
  
③ 等級と労働能力喪失期間
      「むち打ち症の場合は、12級10年程度、14級で5年程度に制限する例が多く見られるが、後遺障害の具体的症状に応じて適宜判断すべきである。」(赤い本71)
      「神経機能の障害として頻発する頸部損傷によるむちうち損傷については、自覚症状を主体とするため喪失期間の決定に困難が伴い、以前から短期間の喪失期間が認定される扱いがなされていた。最近では、後遺障害等級12級(他覚的に神経障害が照明されるもの)該当については、5年ないし10年の、14級該当については5年以下の労働能力喪失期間を認めた例が多い。ただし、これと異なる長期短期の期間での喪失期間を認めた例もあるので、留意を要する。」(青本102)

(5) 本事例の検討

 (設問1) 自賠責の判断に対して、争う方法。争うべきポイント。

ⅰ 異議申立か 自賠共済紛争処理機構の紛争処理申立か 訴訟か
ⅱ 画像所見 神経学的所見からは 異常の証明資料が得られない場合に、何を主張するべきか。

(設問2) 14級9号が認定されたとした場合の後遺症に関する損害賠償額の算定。 

 後遺症に関する損害賠償 
ⅰ 後遺症逸失利益の算定 
 ① 基礎収入

 ② 労働能力喪失率
  本件では、団体職員で、事故後減収ないが逸失利益が認められるか。

 ③ 労働能力喪失期間と喪失期間に対応したライプニッツ係数の選択
  本件で、長期間の喪失期間が認められる可能性はあるか。
  ライプニッツ係数(青本246(下段)、赤い本347)
  
ⅱ 後遺症慰謝料の算定


後遺症ケース1(外傷性頸部症候群の事案)

モデル事例 1
(1)事故日
   平成20年9月1日
(2)事故概要
自家用車で走行中の甲(被害者・団体職員事故時31歳固定時32歳年収500万円)が、赤信号に従い停止していたところ、後方から進行してきた乙運転の普通乗用車が追突し、甲が負傷した。
(3) 治療経過・症状経過
  【初診時】診断日平成20年9月2日
① 事故当日にA整形外科を受診、傷病名は「外傷性頸部症候群」と診断された。

② 診断書の症状経過・治療の内容および今後の見通し 欄には
 「交通事故にて受傷。翌日頸部痛・頭痛を訴え来院。
    安静指示、保存的加療す。」
  と記載されている。

③ 主たる検査所見 『初診時X-P 異常なし』
④ 初診時の意識障害  なし
⑤ 既往症および既往障害 なし
⑥ 後遺障害の有無 未定


【中間時】平成20年10月1日~平成21年9月20日
⑦ 傷病名「外傷性頸部症候群」
⑧ 診断書の症状経過・治療の内容および今後の見通し 欄には
 「腱反射 正常  病的反射(―)。
ジャクソン・スパーリングテスト(+)左首付根から左肩甲骨に放散痛。
保存的加療を継続
  疼痛に対して神経ブロック施行」と記載。
⑨ 主たる検査所見 
  MRI異常なし
  X-P 異常なし


【終診時】

⑩ 傷病名「外傷性頸部症候群」 診断日平成21年10月1日 中止
⑪ 診断書の症状経過・治療の内容および今後の見通し 欄には
「腱反射 正常  病的反射(―)。
ジャクソン・スパーリングテスト(+) 左首付根から左肩甲骨に放散痛。
頸部痛および頭痛残存。
  疼痛に対して神経ブロック施行」
⑫ 主たる検査所見
  H21.10.1 X-P及びMRI異常なし

(以上経過診断書より)
(以下後遺障害診断書より)

⑬ 症状固定日 平成21年10月1日
⑭ 当院通院期間 自平成20年9月2日 至 平成21年10月1日
 傷病名「外傷性頸部症候群」
④ 既存障害 なし
⑤ 自覚症状 頸部痛、脱力感、頭痛
⑥ 各部位の後遺障害の内容
ⅰ 他覚症状及び検査結果 
 「腱反射 正常。病的反射 陰性。
  ジャクソ・スパーリングテスト(+)左首付根から左肩甲骨に放散痛
X-P、MRI異常なし。

  星状神経節ブロック施行するも、頸部痛が残存す。
  心因性の関与も考えられる。」

ⅱ 運動障害 機能障害等の記載なし。

ⅲ 障害内容の憎悪・緩解の見通しなど
 「今後、緩解する可能性は少ないと思われる。」


(4) 自賠責保険の認定
① 結論
非該当。
② 理由
     本件は、初診時から症状固定時まで、頸部痛、頭痛を訴え、ジャクソ・スパーリングテスト(+)左首付根から左肩甲骨に放散痛 とされているが、腱反射は正常、病的反射はなく、画像所見からは、申請者の訴える症状を医学的に説明することはできない。


後遺症ケース1(1 後遺症総論)

平成24年2月17日 岡山にて、交通事故の研修講師をして参りました。
パワーポイントレジュメ。「casestady1.pptx」をダウンロード

(1)後遺症と 後遺障害との違い
(2)後遺障害認定の目的
   労働能力喪失率の立証(逸失利益)
   後遺症慰謝料額の立証
(3)自賠責保険で後遺障害と認められる要件
  自動車事故による傷害がなおったとき(施行令2条2号。)に残存する障害
① なおったとき=症状固定のとき
 「なおったとき」とは、傷病に関して行われる医学上一般に承認された治療方法(以下「療養」と言う。)をもってしても、その効果が期待し得ない状態(療養の終了)で、かつ、残存する症状が、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態(症状の固定)に達したときをいう。 
② 残存する障害
 「残存する障害」とは、「当該傷病と相当因果関係を有し、かつ、将来においても回復困難と見込まれる精神的または身体的な毀損状態であって、その存在が医学的に認められ、労働能力の喪失を伴うもの。                                                    
(昭和50年9月30日基発第565号参照)   
ⅰ 「症状固定」とは一般的な治療を行っても、その治療効果が期待できない状態で、言い換えれば、将来における症状の回復改善が期待できなくなった状態であり、投薬や理学療法により一時的に症状がよくなっても再び戻ってしまう場合を含む。
症状固定とは医学用語ではなく、後遺障害による損害算定のための法律上の概念。
 労災保険で、「治癒」として、休業補償給付から障害補償給付に切り替えているのとパラレルに考えられる。
「治癒」は健康状態に戻ったことを意味する「完治」ではない。
 従って、後遺障害診断書の症状固定日の記載に絶対的意味があるわけではない。
「障害の永久残存性」自賠責保険後遺障害診断書「障害内容の憎悪・緩解の見通し欄」に注意。青本316
ⅱ 相当な期間の治療がなされること
ⅲ その存在が医学的に認められること(「医学的に証明ないし説明可能」なこと)
ⅳ 「労働能力喪失を伴う」
現実的な労働能力の喪失をいっているのではなく、平均的労働能力を意味し、年齢、職種、知識、経験、減収の有無によって影響をうけない。
実際には、個々の職業との関係で労働能力には影響ないとされる場合でも、平均的能力の喪失は等級表に該当するかぎり存在する。
ⅴ 「後遺障害等級表に該当する」
後遺障害の「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う。」
 (平成13年12月21日金融庁・国土交通省告示1号。赤い本349 青本259 )
「労災補償 障害認定必携」をもとに運用(青本297)。
 →「後遺障害による損害は、逸失利益及び慰謝料等とし、自動車損害賠償保障法施行令第2条並びに別表第1及び別表第2に定める等級に該当する場合に認める。
等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う。」
 → 但 裁判所を拘束しない。最判平成18年3月30日判時1928号36頁 判例タイムズ1207号 70頁(資料1)

(4)  損害論における位置づけ
  
(5) 自賠責の後遺障害等級認定システム
 ⅰ 認定主体
   形式面 自賠責保険会社
   実質面 損害保険料率算出機構(JA自賠責共済は、JA共済連)
 ⅱ 後遺障害認定が行われる場合
   ① 加害者請求(自賠法15条)
   ② 被害者請求(自賠法16条)
   ③ 事前認定
 ⅲ 不服申し立て制度
   ① 異議申立;損保料率算出機構内の組織による不服審査
申立先;事前認定の場合は任意保険会社
被害者請求の場合は自賠責保険会社
異議申立がなされると、提出書類は調査事務所に送付され、調査事務所の属する地区本部または損調業務本部の稟議を経て結論が出る。同本部の後遺障害等級の審査結果に対して異議申立がなされると、専門医の参加する自賠責保険後遺障害審査会で審査される。
② 紛争処理の申請(自賠法23条の5第1項)
一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構(http://www.jibai-adr.or.jp/)に対して紛争処理の申請をする。→青本311 資料2(紛争処理申請書書式)

(6)逸失利益の算定(青本75 赤い本71)
① 「基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数」
② 基礎収入額=事故前現実収入を原則。将来 現実収入額以上の収入が得られる見込みの場合はその金額。
  若年労働者の場合 青本78 79 赤い本は、「若年労働者(概ね30歳未満)の場合には、学生との均衡の点もあり全年齢平均の賃金センサスを用いるのを原則とする。」とする(赤い本73)。
  無職者の場合 「基礎収入額の認定にあたっては、失職前の収入実績、賃金センサス平均賃金額を参照して、金額認定をすることになる。」青い本85 126 「再就職によって得られるであろう収入を基礎とすべきで、その場合特段の事情のない限り失業前の収入を参考にする。但し、失業以前の収入が平均賃金以下の場合には、平均賃金が得られる蓋然性があれば、男女別の賃金センサスによる。」 赤い本81
③ 労働能力喪失率は、自賠責保険の後遺障害等級に対応する労働能力喪失率を基準として、職種、年齢、性別、障害の部位・程度、減収の有無・程度や生活上の障害の程度などの具体的稼働・生活状況に基づき、喪失割合を求める。
④ 原則として、就労可能年限まで喪失するものとする。ただし、比較的軽度の機能障害や神経障害については、その内容・程度と労働・社会生活への適応見込みなどの具体的状況により、喪失期間が限定されることがある。
  むちうち症につき、後記事案1で検討。

(7)後遺症慰謝料算定基準
  青本143
  赤い本141


2011.12.13

物損事故について(平成23年12月8日/相談担当者研修レジュメ)

1 物損とは
「物の滅失、毀損による損害をいう。」(青本225頁)
・車両同士が衝突して、車両や積荷が破損した場合
・車両が家屋に突っ込んだり、塀などの構築物に衝突してこれらの物を破損した場合。

2 物損の場合の請求権者と賠償義務者
(1) 請求権者 
  ・ 被害車両その他破損物件の所有者(運転者ではないことに注意)
  ・ リース車両や所有権留保付車両の場合の請求権者は誰か?(後述)

(2) 賠償義務者
  ・ 加害車両の運転者(民法709条)
  
・ 加害者の雇用主(民法715条1項) 加害者の代理監督者(民法715条2項)
  
・ 任意保険会社(物損について示談代行の契約をしている場合) 但し、訴訟提起する場合は、「被保険者に対し賠償を命ずる判決が確定すれば、保険約款により、任意保険会社は支払いをする義務が生じるので、通常は保険会社に対する債務名義がなくとも保険会社は任意に支払いに応じている。保険の支払義務の存在自体を争っている場合(例えば、免責事由ありと主張しているなど)以外は、任意保険会社を被告にする意味はあまりない。」(赤い本375頁)
  
・ 親権者等法定の監督者(民法714条1項 2項) 加害者が責任無能力者の場合(民法712条 713条) なお行為能力と責任能力は異なるので、行為能力ないからといって、責任能力なしとはできないが(大判昭和8年2月24日新聞3529・12)、責任能力ある未成年者の事故の場合には、親権者が民法709条の責任を負う場合がある(最判昭和49年3月22日民集28・2・349)。

・ 自賠法3条の運行供用者責任は、人の生命、身体に対する賠償のみに適用され、物損には適用ないので、車両保有者や自賠責保険会社は 賠償義務者とはならない。

3 車両破損による損害
(1)修理費
基準
(赤い本)
 修理が相当な場合、適正修理費相当額が認められる。(赤い本165頁)

問題となる例
・ 部分塗装か 全塗装か

・ 板金修理か 部品交換か

・ 改造車の修理費用(平成16年度裁判官講演会での蛭川明彦裁判官の講演・赤い本2005年版153頁)
 ○ 金メッキを施したバンパーが損傷した事案について、その取替費用は相当因果関係のある損害だが、バンパーに金メッキを施すことは無用に損害を拡大させるものであるとして過失相殺の法理により金メッキ修理代の5割を減額した(東京高判平成2年8月27日 判時1387・68)。

・ 仮定的修理費用は損害か。
 ○ 修理がされておらず、また、今後も修理する可能性がないとしても、現実に損傷を受けている以上、損害は既に発生しているとして修理費相当額を損害として認めた(大阪地判平成10年2月24日自保1261・2)

修理費査定等の実際
・ 加害者が保険会社と対物保険契約を締結している場合、その保険会社のアジャスターと修理業者が協議し、決定する場合が多い。

(2)経済的全損の判断
基準
(青本)
 被害車両が修理不能もしくは修理費が時価額を上回るいわゆる全損となった場合は事故直前の交換価格をもとに賠償額を算定し、そうでない場合は修理費相当額をもとに損害算定をする。(青本225頁)
(赤い本)
   修理費が、車両時価額に買換諸費用を加えた金額を上回る場合には、経済的全損となり、買換差額が認められ、下回る場合には修理費が認められる。(赤い本165頁)

・ 車両時価算定方法
「裁判上の鑑定によるほか、オートガイド自動車価格月報(いわゆる「レッドブック」)や中古車価格ガイドブック(いわゆる「イエローブック」)を参考にするもの、㈶日本自動車査定協会の査定を参考にするもの、税法上の減価償却によるものなど」がある(青本225頁)。
 その他、インターネットや中古車雑誌などで時価根拠を証明する場合がありうる。
 

・ 改造車の車両価格(平成16年度裁判官講演会での蛭川明彦裁判官の講演・赤い本2005年版159頁)


(3) 買換差額
基準
(赤い本)
 物理的または経済的全損、車体の本質的構造部分が客観的に重大な損傷を受けてその買換えをすることが社会通念上相当と認められる場合は、事故時の時価相当額と売却代金額の差額が認められる(最判昭和49年4月15日交民7・2・275。赤い本167頁)。


(4) 登録手数料関係費
基準
(赤い本)
買換のため必要となった登録、車庫証明、廃車の法定の手数料相当分及びディーラーの報酬分(登録手数料、車庫証明手数料、納車手数料、廃車手数料)のうち相当額並びに自動車取扱税については損害として認められる(赤い本1989年版89頁「買換え諸費用について」参照)。
なお、事故車両の自賠責保険料、新しく取得した車両の自動車税、自動車重量税、自賠責保険料は損害とは認められないが、車両本体価格に対する消費税相当額、事故車両の自動車重量税の未経過分(「使用済自動車の再資源化等に関する法律」により適正に解体され、永久抹消登録されて還付された分を除く)は、損害として認められる。

(5) 評価損
基準
(赤い本)
修理しても外観や機能に欠陥を生じ、または事故歴により商品価値の下落が見込まれる場合に認められる(合本Ⅲ96頁。「評価損をめぐる問題点」参照。)
(青本)
修理が相当な場合で修理を行った後も価格低下があるときには、評価損が認められる。(青本225頁) 

どのような場合に損害と認めるのか。
・客観的評価損(技術上の評価損) 修理技術上の限界
・主観的評価損(取引上の評価損) 修理後の隠れた瑕疵の懸念
                 事故歴車であることの烙印 修理的表示義務
→ 客観的評価損がある場合に損害を認めるが、主観的評価損から損害を認める例もある。
○ 米国製乗用車(GMCサファリ、左ハンドル)につき、事故歴があることにより評価損が発生するとして、車両本体については1割、修理費用については3割を目安とし、55万円の評価損を認めた(札幌地判平成11年1月28日 自保1290・3)
・評価損についての裁判例の傾向(青本236頁)
                
評価損の算出方法
・差額基準  事故直前の車両売却価格と修理後の車両売却価格の差額
・修理費基準 修理費の何パーセントかを評価損とする方法
        初年度登録からの年数、損傷個所、走行距離、車種などを勘案して、 修理費のおよそ30%から10%程度で評価損を算出することが多い。
・時価基準  被害者両の事故当時の時価の何パーセントかを評価損とする方法。
・自動車査定協会の査定による例
→ 判例上定まったものはないが、修理費基準によるものが多いか。

(6) リース・所有権留保売買と損害
  損害賠償請求権は誰に帰属するか。
  ・所有者(リース業者や売主)に帰属…車の所有権の侵害との見方
・リースユーザや、買主に損害賠償請求権が帰属するとできる場合はないか(平成11年裁判官講演・山崎秀尚裁判官の講演(合本Ⅲ17頁参照))。
 →修理費の請求の場合と経済的全損による買換額請求の場合との差異。
 ○ 名目上の所有権はリース会社にあるが、修理・保守の義務はユーザが負担することになっていることから、修理費用をユーザの損害と認めた(東京地判平成21年12月25日自保1826.2)。

・ファイナンスリースや所有権留保で、中途解約の違約金加算分について相当因果関係はあるか。
○ リース契約による車両が全損となった場合、リース残価1727万円余から車両保険金額1300万円を控除した金額について、物的損害の賠償の範囲は物の客観的範囲に限られ、リース手数料、規定損害金などの金融の対価は特別損害になるとして、損害と認めなかった例(名古屋地判平成15年4月16日 自保1526.8)。

  ・残価設定ローンの場合に査定額が予定残価を下回ることと評価損との関係
  →残価設定ローンとは、車両所有権を融資会社が留保し、n回の分割での割賦払いの際に、査定額=n回目の支払額として、車両価格と金利を(n-1)回の元利均等+n回目の元利(=査定額)として割賦支払いを合意する方式のオートローン。
    n回目には、融資会社が留保所有権を実行し、車両を引き上げることにより、完済となるが、ユーザは現金支払により車両所有権を取得できるし、融資会社は所有権を留保したままで再融資に応じることもできる。
  →残価設定ローンでは、事故により査定額を下回った場合、n回目に ユーザは査定差額を支払う必要が出る場合がありうることから、査定額を基準とする評価損を認めるべきではないかとの疑問。

2 代車料
基準
(赤い本)
相当な修理期間または買換期間中、レンタカー使用により代車を使用した場合に認められる。修理期間は1週間ないし2週間が通例であるが、部品の調達や営業車登録等の必要があるときは長期間認められる場合もある(合本Ⅲ208頁「代車使用の認められる相当期間」、赤い本2006年版「代車の必要性」 赤い本172頁)。
(青本)
事故により車両の修理あるいは買換えが必要となり、それによって車両が使用不能の場合に、代車両を使用する必要があり且つ現実に使用したときは、その使用料が相当性の範囲内で認められる(青本241頁)。 
(1)代車の必要性
 現実に代車を使用していても、被害者が他に車両を保有しているなど代車使用の必要性がないときは代車使用は認められない(青本241頁)。
 
(2)代車の種類
   代車としては事故車と同種、同年式といった同程度のものが認められるが、事故車が外国車の場合、代車は国産車で足りるとされる例もある(青本241頁)。

(3)代車に認められる期間
 代車の利用が認められるのは通常、修理あるいは買換に必要な期間である。修理工場の作業の繁忙や部品の取り寄せに時間を要する場合、破損状況の把握と修理費用の見積に時間を要する場合等、相当な理由に基づくものであれば、長期間にわたる代車の使用も認められる(青本241頁)。

(4)その他
  ・代車の必要性があれば、現実に代車を使用しなくても代車料の支払相当額は損害となるか(仮定的代車)。→否定的傾向。
 ○ 事故で破損したポルシェの代車として使用したのが低い格式のトヨタマークⅡであったことから、より高級な代車のレンタカー代の請求を排斥し、現実に支出を要した金額に限って認めた(名古屋地判平成9年7月11日交民40.4.873)。
・代車両の借り入れによらずに、タクシーなどを利用した場合→相当額の範囲内で損害と認める。

(5)代車使用料に関する判例
   青本243頁一覧表参照。

3 休車損
基準
(赤い本)
営業車(緑ナンバー等)の場合は、相当なる買換期間中もしくは修理期間中、認められる(赤い本1995年版126頁「物損―休車損の問題」、合本Ⅲ378頁「休車損害の要件及び算定方法」 赤い本175頁。)。
(青本)
営業用車両については、車両の買換え、修理などのため使用できなかった場合、操業を継続していれば得られたであろう純益を請求することができる。
ただし、期間の制限を受けることがある。
なお、代車料が認められる場合、休車損害は認められない(青本244頁)。 

     損害額は、1日あたり損害額×休車期間として計算するのが通常であるが、一日あたり損害額をどう認定するかが問題。


4 その他の損害
(赤い本177頁)
(1)車両の引き上げ費、レッカー代
(2)保管料
(3)時価査定料・見積費用
(4)廃車料・車両処分費
(5)その他  

6 営業損害
基準
(赤い本)
 家屋や店舗に車が飛び込んだ場合等に認められる。

7 積荷その他の損害
→ 積荷の商品価値の喪失も含むのか?
○ 筆ペン約16万本を積載した大型貨物自動車の衝突事故で、当該商品を全損と認めて運送保険契約所定の保険金を支払った保険会社が加害者に求償した事案につき、損害たる交換価値の喪失とは、物理的な損傷のみならず、経済的に商品価値を喪失した場合も含むとし、他の多くの積荷と混載されていた本件筆ペンについて、車両が衝突、横転等することによって、多数回にわたり大きな衝撃を受けたと考えられるから、外見に傷、汚損等の異常が認められなくても、製品の内部構造に不具合が生じている可能性は払拭できず商品価値が毀損しているとして、本件筆ペンにつき損害が発生していると評価して被告に負担させるとした(大阪地判平成20年5月14日交民41.3.593)。

→ 建物損害につき修理相当と認めた場合に、修理による耐用年数増加分を損益相殺すべきか。
○ 昭和41年から42年ころに新築された事故当時の固定資産評価額41万7028円の建物1階北側部分約9.8坪が損壊した場合につき、被告提出の査定所による1227万円余を原状復旧に必要な修復費用と認めたが、修理工事に伴う耐用年数の延長部分は不当利得になるとの被告の主張については認めなかった例(神戸地判平成13年6月22日 交民34.3.772)。

8 物損慰謝料
原則として認められない(赤い本2008年版下巻41頁「物損に関する慰謝料」参照。赤い本181頁)。

○ 四駆車(スバル・レガシィ)が走行中出火炎上して廃車となった事故は、前輪2輪のみのタイヤ交換をしたために前輪と後輪との間に外径差が生じたことが少なくとも一因となって発生したとして、前輪のみの交換を「問題ない」旨答えたディーラー側の責任を認め、慰謝料として50万円を認めた(鹿児島地判平成17年10月26日 自保1775.20)。

○ 深夜大型トラックが民家へ飛び込んだ事案について、建物と庭の補修代(465万円余)のほか、慰謝料50万円を認めた(岡山地判平成8年9月19日 交民29.5.1405)。


9 ペットに関する損害
→ 経済的全損の考え方が妥当するのか?
○ 一般に不法行為によって物が毀損した場合の修理費用等については、不法行為時における時価相当額に限り相当因果関係ある損害とされているが、愛玩動物のうち、家族の一員であるかのように遇されているものが負傷した場合の治療費等は生命をもつ動物の性質上時価相当額に限られるとするべきではなく、当面の治療費、生命の確保、維持に必要不可欠なものについては、時価相当額を念頭においた上で、相当因果関係を判断すべきものとし、6万5000円で購入したものであることを考慮して、13万6500円の治療費等を損害と認め、事故により後肢麻痺、自力排便・排尿ができなくなっていることから飼い主夫婦に各20万円の慰謝料を認めた(名古屋高判平成20年9月30日交民41.5.1186)。

  

2011.11.20

高次脳機能障害認定システムと論争点(判決例)

脳外傷による高次脳機能障害に関する裁判例(平成17年以降) ~赤い本搭載判決を中心に~

全判例を掲載できたわけではないが、財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部薄倖の 損害賠償算定基準(赤い本)に現在掲載されている判決例を中心に まとめてみた。

「koujinoukinousyougaihanketu.pdf」をダウンロード


高次脳機能障害認定システムと論争点(レジュメ)

1  高次脳機能障害認定制度の登場経過
① 高次脳機能障害が登場する背景
→ 救急救命医療の進歩 
→ 社会の複雑化・都市化 「比較的寛容な社会ではさほど問題視されなかったある種の心身の状態が、都市化した現代社会では許容し得ないものとなっている状況」(平成16年東京地方裁判所民事27部裁判官講演での本田晃判事講演・赤い本平成17年度版67頁 資料1)
→ どんな症状か?
ⅰ 認知障害
 記憶・記銘力障害、注意・集中力障害、遂行機能障害などで具体的には、新しいことを覚えられない、気が散りやすい、行動を計画して実行することができない、など。
 ⅱ 行動障害
 周囲の状況に合わせた適切な行動ができない、複数のことを同時に処理できない、職場や社会のマナーやルールを守れない、話が回りくどく要点を相手に伝えることができない。
 ⅲ 人格変化
 受傷前にはみられなかったような、自発性低下、衝動性、易怒性。

ア 福祉分野では、高次脳機能障害によって生活に困難をきたしているが、障害者手帳もなく 福祉サービスを受けられない者の存在への注目。

イ 賠償分野では、脳外傷発生後に異常が出ているにも関わらず、後遺障害認定手続で見過ごされてきたのではとの問題提起。


 ② 高次脳機能障害認定制度の推移
<診断基準等確立の推移>
・ 高次脳機能障害支援モデル事業(平成13年から17年。厚生労働省)
→ 診断基準、標準的な訓練プログラム、標準的な支援プログラムの作成と活用による試行的サービスの提供。

・ WHO診断基準(2004年 平成16年)
 → MTBIの定義
   臨床診断のための運用上の基準

・ 高次脳機能障害支援普及事業(平成17年以降。厚生労働省)
→ 都道府県が指定する支援拠点機関において、高次脳機能障害者に対する専門的な相談支援、支援ネットワークの充実、普及・啓発事業、支援手法の研修。

<自賠責認定システムの推移>
・ 自賠責あり方検討会(平成12年。自動車保険料率算定会(当時。現 損害保険料率算定機構。))

・ 高次脳機能障害認定システム確立検討委員会(平成12年。自動車保険料率算定会(当時。現 損害保険料率算定機構。))

・ 自賠責保険・共済での審査制度 高次脳機能障害審査会による認定の開始(平成13年1月。自動車保険料率算定会(当時。現 損害保険料率算定機構。))

・ 労災保険認定基準の改訂(厚生労働省労働基準局通達 基発第0808002号 平成15年8月8日 資料3)平成15年10月1日施行

・ 自賠平成19年報告書(平成19年2月。損害保険料率算出機構 資料5)

・ 自賠平成23年報告書(平成23年2月。損害保険料率算出機構 資料4)

2 問題の所在
―福祉行政・自賠責制度における「高次脳機能障害」と医学分野における「高次脳機能障害」の異同
 ① 医療・医学分野における高次脳機能障害とは
   高次脳機能障害=脳損傷に起因する認知障害全般
(例)失語症(主には脳出血、脳梗塞などの脳血管障害によって脳の言語機能の中枢(言語野)が損傷されることにより、一旦獲得した言語機能(「聞く」「話す」といった音声に関わる機能、「読む」「書く」といった文字に関わる機能)が障害された状態。)
認知症(後天的な脳の器質的障害により、いったん正常に発達した知能が低下した状態をいう。医学的には「知能」だけではなく「記憶」「見当識」を含む認知の障害や人格障害を伴った症候群。)
   
② 福祉行政における高次脳機能障害
「記憶障害」「注意障害」「遂行機能障害」「社会的行動障害」や「全般的な人格障害を含むもの。」
身体機能障害者としての福祉サービスと、精神機能障害者としての福祉サービスの隙間にある障害(見落とされやすい障害)として把握。


③ 民事交通賠償分野における高次脳機能障害
ア 自賠責保険における「脳外傷における高次脳機能障害認定システム」(平成13年1月)
  行政的な「高次脳機能障害」を「脳の器質性精神障害」として後遺障害等級評価を行うもの。
  
 ○ 自賠責平成23年報告(資料4)「自賠責保険における後遺障害認定は、「自動車損害賠償責任保険の保険金及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号 資料7)により、「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う」ことが定められている。
   この労災認定基準は、厚生労働省労働基準局が行政通達の形で明示したものであり、この基準において「高次脳機能障害は、脳の器質的病変に基づくものであることから、MRI、CT等によりその存在が認められることが必要となる」とされており、これを踏まえ自賠責保険のいても、高次脳機能障害として認定を行うためには、脳の器質的損傷の存在が前提となる。」(平成23年報告(資料4)2頁)

 イ 民事交通賠償における 高次脳機能障害
   民事交通賠償においても脳の器質的病変の存在を前提とすると言ってよいか。
  α 画像診断を前提とするもの
    
  (参考) 名古屋地方判平成23年5月13日自保1853号8頁(高次脳機能障害否定例 資料8)
  「(厚生労働省高次脳機能障害者支援モデル事業の高次脳機能障害診断基準について)上記基準は、厚生労働省の福祉行政的観点からの基準であるから、実際に生活上の支障が生じ、脳の器質的損傷がMRI等で確認できなくても、PET等で機能の異常が確認でき、そのような障害の発症する原因となりうる事故などが存在すれば広くこれを認めることができるとすることは、障害者福祉的な観点からは優れているものといえるので、○○医師の・・判断もその意味では正当なものであると考えられる。しかし、単に患者を保護するだけでなく、加害者とされた者に損害賠償責任を負わせることとなる不法行為の認定の基準としては、これをそのまま採用することはできない。」

  β 画像診断なくとも高次脳機能障害をみとめたもの
  (参考)東京高判平成22年9月9日交民43巻5号1109頁(資料9)
  プロゴルファーのキャディー(男・固定時33歳)の右上肢のしびれ、筋力低下、頻尿等の症状(自賠非該当)につき、事故直後の強い意識障害や画像所見における異常所見、軽度外傷性脳損傷は遅発性に現れることもあり必ず画像所見に異常が見られるということでもないこと等から、事故により脳幹部に損傷を来した事実を否定することはできないとし9級10号にあたるとして、67歳まで35%の労働能力喪失を認め、心因的要因の影響から3割の素因減額を行った。

  
3 後遺障害認定における着目点 
 ―意識障害、画像所見、精神身体症状等をどうみるか。
 自賠23年報告(資料4)は、「脳外傷による高次脳機能障害の症状を医学的に判断するためには、意識障害の有無とその程度・長さの把握と、画像資料上で外傷後ほぼ3カ月以内に完成する脳室拡大・びまん性脳萎縮の所見が重要なポイントとなる。
また、その障害の実相を把握するためには、診療医所見は無論、家族・介護者等から得られる被害者の日常生活の情報が有効である。」としている(同11頁)。
 ① 意識障害
○ 自賠23年報告(資料4)は、「脳外傷による高次脳機能障害は、意識消失を伴うような頭部外傷後に起こりやすいことが大きな特徴である。
一次性のびまん性脳損傷(びまん性軸索損傷等)の場合、外傷直後からの意識障害を大きな特徴とするのに対し、二次性脳損傷では、頭蓋内出血や脳腫脹・脳浮腫が憎悪して途中から意識障害が深まるという特徴がある。
また、脳外傷直後の意識障害がおよそ6時間以上継続するケースでは、永続的な高次脳機能障害が残ることが多い。意識障害の程度・期間の重要性を良く認識した上で、十分な調査が必要である。」とする(同11頁)。

 ○ 裁判例

② 画像所見について
○ 自賠23年報告(資料4)は、「びまん性軸索損傷の場合、受傷直後の画像では正常に見えることもあるが、脳内(皮質下白質、脳梁、基底核部、脳幹など)に点状出血を生じていることが多く、脳室内出血やくも膜下出血を伴いやすい。
受傷数日後には、しばしば硬膜下ないしはくも膜下に脳脊髄液貯留を生じ、その後代わって、脳室拡大などの脳萎縮が目立ってくる。およそ3カ月程度で外傷後脳室拡大は固定し、以後はあまり変化しない。これらを踏まえ、経時的な画像資料を通して脳室拡大・脳萎縮等の有無を確認することが必要である。
また、局在性脳損傷(脳挫傷、頭蓋内血腫等)が画像で目立つ場合でも、脳室拡大・脳萎縮の有無や提訴を把握することが重要である。」(同11頁)としている。
そして、「脳の器質的損傷の判断にあたっては、従前と同じく、CT、MRIが有用な資料であると考える。ただし、これらの画像も急性期や亜急性期の適切な時期において撮影されることが重要である。」としている(同13頁)。同報告は、各画像につき次のような位置づけをしている。
CT 「撮影時間が短く、重度の意識障害や合併外傷のある場合にも患者の負担が少なく、頭蓋骨骨折、外傷性クモ膜下出血、脳腫脹、頭蓋内血腫、脳挫傷、気脳症などの病変を診断できる。」とする。
MRI 「びまん性軸索損傷のように、広汎ではあるが微細な脳損傷の場合、CTでは診断のための十分な情報を得難い。CTで所見を得られない患者で、頭蓋内病変が疑われる場合は、受傷後早期にMRI(T2、T2*、FLAIRなど)を撮影することが望まれる。」とする。
拡散テンソル画像(DTI),fMRI,MRスペクトロスコピー、PET 「それらのみでは、脳損傷の有無、認知・行動面の症状と脳損傷の因果関係あるいは障害程度を確定的に示すことはできない。」
としている(以上、同13頁より。医学系参考解説 資料10参照)。
 
○ 裁判例

③ 因果関係の判定(他の疾患との識別)
○ 自賠23年報告(資料4)は、
「頭部外傷を契機として具体的な症状が発現し、次第に経験しながらその症状が残存じたケースでびまん性軸索損傷とその特徴的な所見が認められる場合には、脳外傷による高次脳機能障害と事故との間の因果関係が認められる。」 
 「一方、頭部への打撲などがあっても、それが脳の器質的損傷を示唆するものではなく、その後通常の生活に戻り、外傷から数カ月以上を経て高次脳機能障害を思わせる症状が発現し、次第に憎悪するなどしたケースにおいては、外傷とは無関係の疾病が発症した可能性が高いものといえる。画像検査を行って、外傷後の慢性硬膜下血腫の生成や脳室拡大の進展などの器質的病変が認められなければ、この可能性はさらに支持されるものと考えられる。この可能性の中には非器質的精神障害も認められる。」
  (以上 同12頁)


④ 精神身体症状の程度
○ 自賠23年報告(資料4)は、「脳外傷における高次脳機能障害の特有の症状を踏まえて、各症状の有無とその程度を診療医に照会するため、「神経系統の障害に関する医学的意見」を用いており、また、同様の視点から家族・介護者に照会するため「日常生活状況報告」を使用している。」(同、12頁。資料6参照。)。

○ 裁判例

4 どのような点にどのような論争があるのか 
 ―自賠責平成23年報告(資料4)書の重要論点の説明、裁判例の動向
① 国土交通省からの検討要請
自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について(平成22年7月26日 平成23年報告(資料4)1頁)

② 平成23年報告(資料4)における重要論点
 ア 脳外傷における高次脳機能障害の医学的な考え方(平成23年報告(資料4)書10頁)
  (平成19年報告(資料4)と基本的変更なし。)
  ⅰ 脳外傷による高次脳機能障害の特徴
自賠責保険における「脳外傷による高次脳機能障害」とは、脳外傷後の急性期に始まり多少軽減しながら慢性期へと続く、次の特徴的な臨床像である。
   a 典型的な症状
多彩な認知障害、行動障害および人格変化
びまん性脳損傷の場合、小脳失調症、痙性片麻痺あるいは四肢麻痺の併発多い。
→起立や歩行の障害
   b 発症の原因および症状の併発
行動障害、人格変化は、主として脳外傷によるびまん性脳損傷原因として発症。局在性脳損傷(脳挫傷、頭蓋内血腫など)とのかかわり。

c 時間的経過
  時間の経過とともに 軽減傾向。
  経時的検査(神経学的検査)を行って、回復の推移を回復(回復少ない事例もあり。)

d 社会的生活適応能力の低下
  重傷者では介護を要する場合もあり。

e 見過ごされやすい障害
  「脳外傷による高次脳機能障害は、種々の理由で見落とされやすい。例えば、急性期の合併外傷のため診療医が高次脳機能障害の存在に気づかなかったり、家族・介護者は患者が救命されて意識が回復した事実によって他の症状もいずれ回復すると考えていたりする場合などがあり得る。」
  
ⅱ 症状と障害の的確な把握(上記3のとおり。23年報告(資料4)11頁)
  平成19年報告書の記述が残されている。← 脳外傷後の後遺障害についての医学的な理解に平成19年報告の段階から変化ない。

ⅲ 労働能力の解釈とその評価(自賠23年報告(資料4)12頁)
 「障害認識能力、家庭や職場への適応能力、生活の困難さ、支援の有無など複数の事柄が労働能力に影響を及ぼしている」「特に就労を阻害する要因としては、認知障害だけでなく、行動障害および人格変化を原因とした社会的行動障害を重視すべきであって、社会的行動障害があれば労働能力をかなりの程度喪失すると考えるべきである。」
   a 著しい知能低下や記憶障害→就労能力の低下
「神経心理学的検査で知能指数が正常に保たれている場合でも、行動障害および人格変化に基づく社会的行動障害によって、対人関係の形成などに困難があり、通常の社会および日常生活への適応に難渋している場合には相応の等級評価をすべきである。」
b 社会的行動障害によって就労困難な場合でも、TVゲーム操作やウエッブサイト眺めたりはできることあり→これをもって就労可能とはすべきではない。

c 学校生活に求められる適応能力と職業生活に求められる職務遂行能力には違いがある。
  →小児期においては、学業成績の変化以外に 非選択的な対人関係の構築ができているかなどを労働能力の評価において勘案すべき。

d 「知能指数が標準範囲であっても、社会的行動障害が阻害要因となって就労困難な場合がある」
「同様に、一般交通機関を利用した移動能力と労働能力喪失の程度とは必ずしも一致しない場合がある。」
「脳外傷を示す画像所見が軽微な場合でも、労働能力かなりの程度損なわれている場合がある。」

e 「18歳未満の被害者で受傷前に就労していた者については、一般の就労者と同様に取り扱うことにする。」

ⅳ 脳機能の客観的把握(上記3②のとおり。自賠23年報告(資料4)13頁)
  19年報告との違いとしては、画像検査についての記載を追加した点。

ⅴ 小児・高齢者の留意点(下記ウ)

ⅵ 「軽症頭部外傷後の高次脳機能障害」に対する理解(下記イ)


イ 軽症頭部外傷(MTBI)の検討(平成23年報告(資料4)書14頁)
○ 「軽症頭部外傷後に1年以上回復せずに遷延する症状については、それがWHOの診断基準を満たすMTBI とされる場合であっても、それのみで高次脳機能障害であると評価することは適切ではない。」→ 器質的損傷を示すものとして画像診断等が必要。
「ただし、軽症頭部外傷後に脳の器質的損傷が発生する可能性を完全に否定することまではできないと考える。したがって、このような事業における高次脳機能障害の判断は、症状の軽症、検査所見等も併せ慎重に検討されるべきである。」
「また、現時点では技術的限界から、微細な組織損傷を発見しうる画像資料等はないことから、仮に、DTIやPETなどの検査所見で正常値からのへだたりが検出されたとしても、その所見のみでは、被害者の訴える症状の原因が脳損傷にあると判断することはできない。」

← 1 WHOの診断基準が脳の器質的損傷による症状のみを対象とするものではなく、「症状の遷延は審理社会的因子の影響による」という考え方が有力とも報告。
← 2 自賠責保険が加害者の損害賠償責任を前提としているため、被害者のみならず加害者をも納得させ得る「根拠に基づく判断」が求められてる。≒、脳の器質的損傷の存在が前提。
 
ウ 小児高齢者の留意点(平成23年報告(資料4)書14頁 18頁)
(問題意識)「症状固定時期について、成人被害者の場合、通常は後遺障害診断書に記載された症状固定日の時点と捉えることで妥当性の確保が可能である。しかし、小児、高齢者の場合は診断書に記載されている症状固定日の状態をもって機械的に障害評価をすると、被害者保護の観点から不適当な事態が発生する危険性がある。」

→  症状固定時期及び障害評価の時点について 小児 高齢者は 柔軟に考える。
→  小児の場合
   乳児は幼稚園、幼児は就学時まで 等級評価を行わないことが妥当。
小児・幼児について、入園・入学以前に等級認定後、憎悪した場合は 追加請求を受け付けて慎重に検討。
「被害者の成長・発達に伴い、社会的適応に問題があることが明らかとなることで、被害者に有利な等級認定が可能となる場合もあることから、そのような要素があると考えられる事案については、社会的適応障害の判断が可能となる時期まで後遺障害等級認定を待つという考え方もある」
→  高齢者の場合
「病状悪化の原因として、被害者の加齢による認知障害の進行が同時に存在していることが多い」
 → 「症状固定後一定期間が経過し、状態が安定した時点での障害程度をもって少女固定とし、」「その後、時間が経過する過程で症状が悪化した場合については、交通事故による受傷が通常の加齢による変化を超えて悪化の原因になっていることが明白でない限り、上位等級への認定変更の対象とはしない。」
  

エ 従来の認定システムの問題点
(問題意識)「軽症頭部外傷にとどまると思われる例であっても、形式的に高次脳機能障害は発生・残存していないと断定せずに、このような事例においても慎重な検討をすることが望ましい。」(自賠23年報告(資料4)15頁)→認定システムの修正により、より広い範囲ものが審査対象となるようにして、高次脳機能障害が発生しているにもかかわらず障害認定が受けられない事態の発生防止。

③ 裁判例の動向

5 平成23年報告(資料4)に基づく 自賠責認定実務での変更点
 (19年報告での審査対象選定基準 自賠22年報告書16頁 19年報告書10頁 資料4)
ⅰ 初診時に頭部外傷の診断があり、頭部外傷後の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3桁、GCSが8点以下)が少なくとも6時間以上、若しくは健忘症あるいは軽度意識障害(JCSが2桁~1桁、GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続いた症例
→ ⅰ がないと 高次脳機能障害ではないと形式的に判断されているのではとのおそれ・批判

ⅱ 経過の診断書または後遺障害診断書において、高次脳機能障害、脳挫傷(後遺症)、びまん性軸索損傷、びまん性脳損傷等の診断がなされている症例

ⅲ 経過の診断書または後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する具体的な症状、あるいは失調性歩行、痙性片麻痺など高次脳機能障害に伴いやすい神経徴候が認められる症例、さらには知能検査など各種神経心理学的検査が施行されている症例

ⅳ 頭部画像上、初診時の脳外傷が明らかで、少なくとも3カ月以内に脳室拡大・脳萎縮が確認される症例
→ ⅳ がないと 高次脳機能障害ではないと形式的に判断されているのではとのおそれ・批判

ⅴ その他、脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例


   →このうち、ⅰもしくはⅳについて この条件に達しないものをどうするか。
   →1年以上の長期にわたり症状遷延するものが審査対象からもれないか。

 (23年報告(資料4)での審査対象選定基準)
A.後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められる(診断医が高次脳機能障害または脳の器質的損傷の診断を行っている)場合

→ 全件高次脳機能障害に関する調査を実施の上で、自賠責保険(共済)審査会において審査を行う。

B. 後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められない(診療医が高次脳機能障害または脳の器質的損傷の診断を行っていない)場合

→ 以下のⅰ~ⅴの条件のいずれかに該当する事案(上記A.に該当する事案は除く)は、高次脳機能障害(または脳の器質的損傷)の診断が行われていないとしても、見落とされている可能性が高いため、慎重に調査を行う。

具体的には、原則として被害者本人および家族に対して、脳外傷による高次脳機能障害の症状が残存しているか否かの確認を行い、その結果、高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められる場合には、高次脳機能障害に関する調査を実施の上で、自賠責保険(共済)審査会において審査を行う。

 ⅰ  初診時に頭部外傷の診断があり、経過の診断書において、高次脳機能障害、脳挫傷(後遺症)、びまん性軸索損傷、びまん性脳損傷等の診断がなされている症例
 
ⅱ 初診時に頭部外傷の診断があり、経過の診断書において、認知・行動・情緒障害を示唆する具体的な症状、あるいは失調症歩行、痙性片麻痺など高次脳機能障害に伴いやすい神経系統の障害が認められる症例
  (注)具体的症状として、以下のようなものが挙げられる。
    知能低下、思考・判断能力低下、記憶障害、記銘障害、見当識障害、注意力低下、発動性低下、抑制低下、自発性低下、気力低下、衝動性、易怒性、自己中心性
 ⅲ 経過の診断書において、初診時の頭部画像所見として頭蓋内病変が記述されている症例

ⅳ 初診時に頭部外傷の診断があり、初診病院の経過の診断書において、当初の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3~2桁、GCSが12点以下)が少なくとも6時間以上、もしくは、健忘あるいは軽度意識障害(JCSが1桁、GCSが13~14点)が少なくとも1時間以上続いていることが確認できる症例

ⅴ その他、脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例

6 障害等級評価方法の構造と着目点
~ 後遺障害等級における障害評価と脳外傷による高次脳機能障害との関係
1級  神経系統の機能または精神に著しい傷害を残し、常に介護を要するもの(別表第一第1級1号)
「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」が該当し、具体的には、身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身のまわりの動作に全面的介護を要するものが該当。

2級  神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの(別表第二第2級1号)」
「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」が該当し、具体的には、著しい判断力の低下や情緒の不安定などがあって、一人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に家族からの声掛けや看視を欠かすことができないものが該当。

3級  神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの(別表第二第3級3号)
「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの」が該当し、具体的には、自宅周辺を一人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また、声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし、記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なものが該当。

5級  神経系統の機能または精神に障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの(別表第二第5級2号)
「高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの」が該当し、具体的には、単純繰り返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし、新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため、一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には職場の理解と援助を欠かすことができないものが該当。

7級  神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの(別表第二第7級4号)
「高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの」が該当し、具体的には、一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないものが該当します。

9級  神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの(別表第二第9級10号)
「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」が該当し、具体的には、一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるものが該当。

12級 局部に頑固な神経症状を残すもの(別表第二第12級13号)
「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの」が該当し、具体的には、意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力および社会行動能力の4つの能力のうち、いずれか1つ以上の能力が多少失われているものが該当。

14級 「局部に神経症状を残すもの(別表第二第14級9号)」
「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの」が該当し、具体的には、MRI、CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められるものが該当。

  
7 事例についての考え方  
冒頭モデル事例について(自賠認定の概要)
  本件初診時において、頭部外傷に起因する重度の意識障害が認められ、
  画像上大脳基底核および脳室内の出血が確認。
具体的体的症状として 初診時より重度の意識障害。症状経過においても高度の精神障害あり。画像上からもびまん性軸索損傷や脳萎縮、脳室拡大が確認。

→ 本件事故受傷に伴う脳の器質的損傷に起因する障害
→ 精神機能検査結果 日常生活状況報告(略)によれば、
  身体機能は残存しているものの、人格変化が顕著で、家族以外の者に対しても他害行為が止まらず、記憶が失われているなど認知機能が著しく低下し、尿便失禁も続いており、日常生活において 常時看視の必要性が認められることから、精神障害として別表一 第1級1号適用。

8 まとめ


資料一覧

資料1  赤い本平成17年度版裁判官講演録抜粋(本田晃裁判官「高次脳機能障害の要件と損害評価」
資料2  青本22訂版高次脳機能障害相談研修抜粋(蒲澤秀洋医師「脳外傷後後遺症による高次脳機能障害者の実情」
資料3  厚生労働省労働基準局通達 基発第0808002号 平成15年8月8日
資料4  「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」(報告書)
    自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討会(平成23年3月4日)
資料5  「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」(報告書)
    自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討会(平成19年2月2日)
資料6  日常生活状況報告書
資料7  「自動車損害賠償責任保険の保険金及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)
資料8  名古屋地方判平成23年5月13日自保1853号8頁
資料9  東京高判平成22年9月9日交民43巻5号1109頁
資料10  医学系参考解説
資料11  意識障害レベル
資料12  判決例一覧

2011.11.19

高次脳機能障害認定システムと論争点(モデル事例)

平成23年11月18日 富山県弁護士会館にて 交通事故研修の講師。
次のようなモデル事例を冒頭で紹介して、みなさんで考えてもらう。


モデル事例 
(1)事故日   平成20年11月10日
(2)事故概要通勤途中自転車で走行中の甲(事故時23歳・女性・被害者)と対向直進中の乙運転の普通乗用車が正面衝突し、甲が負傷した。
(3) 治療経過・症状経過① 事故当日にA病院に救急送。意識障害あり JCSⅢ-200.GSC7.
脳幹症状認め ICUにて全身管理
頭部CT撮影 大脳基底核および脳室内の小出血認める。
傷病名 びまん性軸索損傷
② 同月13日 意識レベルJCS10~20で同月30日頃まで推移。
③ 同月20日 頭部MRI撮影 大脳基底核、脳幹部の損傷を認める。  
④ 同月30日 意識回復。四肢麻痺などの神経学的症状は認められないが、失調性歩行障害を認める。見当識障害、健忘状態は持続。
⑤ 平成21年1月15日 歩行訓練にて歩行状態改善。
  記憶力の著しい障害あり。
  易刺激性などの情動障害認める。
  ⑥ 平成21年2月15日 頭部MRIによる画像撮影。
  脳室拡大および脳全体の萎縮を認める。
⑦ 平成21年4月5日  WAIS-Ⅲ Y-G性格検査
  検査困難
⑧ 平成21年4月10日  退院  
⑨ 平成21年9月20日  長谷川式 簡易知能評価スケール 3/30
頭部CT MRI 撮影  脳萎縮著名

(以上 経過診断書の記載より)
(以下 後遺症診断書の概要)

⑨ 受傷時 平成20年11月10日
当院入院期間 平成20年11月10日から平成21年4月10日(160日)
当院通院期間 平成21年4月12日から平成21年9月20日(実治療日数62日)
 
⑨ 傷病名等
ⅰ 傷病名  びまん性軸索損傷 高次脳機能障害
ⅱ 自覚症状 知能低下、ものを覚えられない、性格変化(易怒性・暴力・暴言)
ⅲ 他覚症状及び検査結果 
  びまん性軸索損傷に伴う高次脳機能障害が残存。
  知能の著しい低下、顕著な人格障害。
  
  CTにて脳室の著名な拡大。脳全体の萎縮を認める。
  WAIS-R 試行するも検査困難
  長谷川式簡易知能評価スケール 3

  びまん性軸索損傷に伴う知能・精神機能障害が残存
  記憶や見当識が失われており、また、人格変化が顕著である。
  家族以外の者に対して、他害行動が止まらない。知能が著しく低下。
  尿便失禁が続く。
Ⅳ 障害の憎悪・緩解の見通し
  受傷から相当期間を経ており、症状緩解の見込みはないと考える。

2011.03.02

 交通事故の加害者が被害者に賠償すべき人的損害の額の算定に当たり、被害者の父が締結していた自動車保険契約の人身傷害補償条項に基づき被害者が支払を受けた保険金の額を控除する場合の控除の方法について。(その3) (最近の交通事故判例~平成20年から22年の最高裁判決を中心に(その11))

③検討

(1)保険法による解決
保険法
(請求権代位)
第25条  保険者は、保険給付を行ったときは、次に掲げる額のうちいずれか少ない額を限度として、保険事故による損害が生じたことにより被保険者が取得する債権(債務の不履行その他の理由により債権について生ずることのある損害をてん補する損害保険契約においては、当該債権を含む。以下この条において「被保険者債権」という。)について当然に被保険者に代位する。
1  当該保険者が行った保険給付の額
2  被保険者債権の額(前号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者債権の額から当該不足額を控除した残額)
2  前項の場合において、同項第一号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者は、被保険者債権のうち保険者が同項の規定により代位した部分を除いた部分について、当該代位に係る保険者の債権に先立って弁済を受ける権利を有する。
(強行規定)
第26条  第15条、第21条第1項若しくは第3項又は前2条の規定に反する特約で被保険者に不利なものは、無効とする。

(2)人身傷害保険の残された問題
・自賠責保険との関係(東京地方裁判所平成21年12月22日判決(平21(ワ)7992号外 【39】)


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