職場における性的な内容の発言等によるセクシュアル・ハラスメント等を理由としてされた懲戒処分
水族館の経営等を目的とするY社の男性従業員であるXらが,それぞれ複数の女性従業員に対して性的な内容の発言等によるセクシュアル・ハラスメント(以下「セクハラ」という。)をしたことを懲戒事由として出勤停止の懲戒処分を受けるとともに,これらを受けたことを理由に下位の等級に降格されたことから,Y社に対し,出勤停止処分の無効確認や降格前の等級を有する地位にあることの確認、損害賠償等を求めた 。
1審 大阪地判平成25年 9月 6日労判 1099号53頁 (会社側前面勝訴)
本件セクハラ行為の被害者らの証言等には信用性が認められる一方、これに対する原告らの供述等は信用できないなどとして、本件セクハラ行為の存在及び懲戒事由の存在を認め、本件処分の手続に不相当な点はないとした上で、本件処分や本件降格は客観的に合理的な理由があり社会通念上相当と認められるから有効であるとして、各請求を棄却。
控訴審 大阪高判平成26年 3月28日 労判 1099号33頁 (地位確認等を認め、損害賠償を棄却)
事前警告や注意等もないままされた本件処分は重きに失し、社会通念上相当でなく権利濫用に当たり無効であるから、同処分を前提とする降格も無効であるとして、確認請求、支払請求の一部を認めた上、本件処分や降格が不法行為上違法とまではいえず過失があるとはいえないとして、賠償請求は棄却した。
会社が上告申立。
上告審は、上告受理のうえ、次のとおり、原判決を破棄自判(請求棄却)した。
最判平成27年 2月26日裁判集民 249号109頁・判タ 1413号88頁・判時 2253号107頁
(判旨)
会社の管理職である男性従業員2名が同一部署内で勤務していた女性従業員らに対してそれぞれ職場において行った性的な内容の発言等によるセクシュアル・ハラスメント等を理由としてされた出勤停止の各懲戒処分は、次の(1)~(4)など判示の事情の下では、懲戒権を濫用したものとはいえず、有効である。
(1) 上記男性従業員らは、①うち1名が、女性従業員Aが執務室において1人で勤務している際、同人に対し、自らの不貞相手に関する性的な事柄や自らの性器、性欲等についての極めて露骨で卑わいな内容の発言を繰り返すなどし、②他の1名が、当該部署に異動した当初に上司から女性従業員に対する言動に気を付けるよう注意されていながら、女性従業員Aの年齢や女性従業員A及びBが未婚であることなどを殊更に取り上げて著しく侮蔑的ないし下品な言辞で同人らを侮辱し又は困惑させる発言を繰り返し、女性従業員Aの給与が少なく夜間の副業が必要であるなどとやゆする発言をするなど、同一部署内で勤務していた派遣労働者等の立場にある女性従業員Aらに対し職場において1年余にわたり多数回のセクシュアル・ハラスメント等を繰り返した。
(2) 上記会社は、職場におけるセクシュアル・ハラスメントの防止を重要課題と位置付け、その防止のため、従業員らに対し、禁止文書を周知させ、研修への毎年の参加を義務付けるなど種々の取組を行っており、上記男性従業員らは、上記の研修を受けていただけでなく、管理職として上記会社の方針や取組を十分に理解して部下職員を指導すべき立場にあった。
(3) 上記①及び②の各行為によるセクシュアル・ハラスメント等を受けた女性従業員Aは、上記各行為が一因となって、上記会社での勤務を辞めることを余儀なくされた。
(4) 上記出勤停止の期間は、上記①の1名につき30日、同②の1名につき10日であった。
(参考)
原審で認定した男性従業員の行為(原判決別紙1及び2)
1 被上告人X1は,平成23年,従業員Aが精算室において1人で勤務している際,同人に対し,複数回,自らの不貞相手と称する女性(以下,単に「不貞相手」という。)の年齢(20代や30代)や職業(主婦や看護師等)の話をし,不貞相手とその夫との間の性生活の話をした。
2 被上告人X1は,平成23年秋頃,従業員Aが精算室において1人で勤務している際,同人に対し,「俺のん,でかくて太いらしいねん。やっぱり若い子はその方がいいんかなあ。」と言った。
3 被上告人X1は,平成23年,従業員Aが精算室において1人で勤務している際,同人に対し,複数回,「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん。」,「でも俺の性欲は年々増すねん。なんでやろうな。」,「でも家庭サービスはきちんとやってるねん。切替えはしてるから。」と言った。
4 被上告人X1は,平成23年12月下旬,従業員Aが精算室において1人で勤務している際,同人に対し,不貞相手の話をした後,「こんな話をできるのも,あとちょっとやな。寂しくなるわ。」などと言った。
5 被上告人X1は,平成23年11月頃,従業員Aが精算室において1人で勤務している際,同人に対し,不貞相手が自動車で迎えに来ていたという話をする中で,「この前,カー何々してん。」と言い,従業員Aに「何々」のところをわざと言わせようとするように話を持ちかけた。
6 被上告人X1は,平成23年12月,従業員Aに対し,不貞相手からの「旦那にメールを見られた。」との内容の携帯電話のメールを見せた。
7 被上告人X1は,休憩室において,従業員Aに対し,被上告人X1の不貞相手と推測できる女性の写真をしばしば見せた。
8 被上告人X1は,従業員Aもいた休憩室において,本件水族館の女性客について,「今日のお母さんよかったわ…。」,「かがんで中見えたんラッキー。」,「好みの人がいたなあ。」などと言った
別紙2 被上告人X2の行為一覧表
1 被上告人X2は,平成22年11月,従業員Aに対し,「いくつになったん。」,「もうそんな歳になったん。結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで。」と言った。
2 被上告人X2は,平成23年7月頃,従業員Aに対し,「30歳は,二十二,三歳の子から見たら,おばさんやで。」,「もうお局さんやで。怖がられてるんちゃうん。」,「精算室に従業員Aさんが来たときは22歳やろ。もう30歳になったんやから,あかんな。」などという発言を繰り返した。
3 被上告人X2は,平成23年12月下旬,従業員Aに対し,Cもいた精算室内で,「30歳になっても親のすねかじりながらのうのうと生きていけるから,仕事やめられていいなあ。うらやましいわ。」と言った。
4 被上告人X2は,平成22年11月以後,従業員Aに対し,「毎月,収入どれくらい。時給いくらなん。社員はもっとあるで。」,「お給料全部使うやろ。足りんやろ。夜の仕事とかせえへんのか。時給いいで。したらええやん。」,「実家に住んでるからそんなん言えるねん,独り暮らしの子は結構やってる。MPのテナントの子もやってるで。チケットブースの子とかもやってる子いてるんちゃう。」などと繰り返し言った。
5 被上告人X2は,平成23年秋頃,従業員A及び従業員Bに対し,具体的な男性従業員の名前を複数挙げて,「この中で誰か1人と絶対結婚しなあかんとしたら,誰を選ぶ。」,「地球に2人しかいなかったらどうする。」と聞いた。
6 被上告人X2は,セクハラに関する研修を受けた後,「あんなん言ってたら女の子としゃべられへんよなあ。」,「あんなん言われる奴は女の子に嫌われているんや。」という趣旨の発言をした。
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