営業譲渡・事業譲渡と譲渡人の債務の引受
商法17条1項(旧商法26条1項)は、「営業を譲り受けた商人(以下この章において「譲受人」という。)が譲渡人の商号を引き続き使用する場合には、その譲受人も、譲渡人の営業によって生じた債務を弁済する責任を負う。」と規定しており、商号続用の場合、譲渡人の営業による債務を譲受人が引き受けることを原則としている。これに対し、商号の続用がない場合、債務の承継の有無は、譲渡人と譲受人との間の営業譲渡の契約により定められる。
そこで、商人の商号自体は続用せず、債務は承継しないものとして営業譲渡が行われた場合(このような例は多いと思われる。)、しかし、営業実体は、譲渡人と譲受人でほとんど変わらない場合に、債権者としては、譲受人が債務を引き受けているとの主張をすることが多いであろう。このような主張が認められるかについて、商法17条(旧商法26条)の類推適用の可否との観点で、最判平成16年 2月20日 民集 58巻2号367頁 判時 1855号141頁は、預託金会員制ゴルフクラブの例について、以下のとおり述べて、商法17条1項(旧商法26条1項)の類推適用があるものとした。
「預託金会員制のゴルフクラブの名称がゴルフ場の営業主体を表示するものとして用いられている場合において、ゴルフ場の営業の譲渡がされ、譲渡人が用いていたゴルフクラブの名称を譲受人が継続して使用しているときには、譲受人が譲受後遅滞なく当該ゴルフクラブの会員によるゴルフ場施設の優先的利用を拒否したなどの特段の事情がない限り、会員において、同一の営業主体による営業が継続しているものと信じたり、営業主体の変更があったけれども譲受人により譲渡人の債務の引受けがされたと信じたりすることは、無理からぬものというべきである。したがって、譲受人は、上記特段の事情がない限り、商法26条1項(註 旧商法。新法18条1項に相当。)の類推適用により、会員が譲渡人に交付した預託金の返還義務を負うものと解するのが相当である。」
(追記)2007.10.18
ところで、会社法制定により、会社の場合は、商号の続用は想定できないであろうとして、会社以外の商人における場合と区別して、営業譲渡との用語をやめ、事業譲渡と称することなっている(会社法467条以下)。上記の判例は、会社法制定前のものであるが、会社法制定後の事業譲渡の場合であっても、判例の法理はかわらず、商法17条1項の類推適用はありうると解するので、この点を追記し、表題を「営業譲渡と譲渡人の債務の引受」から「営業譲渡・事業譲渡と譲渡人の債務の引受」に訂正した。
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