抵当権に基づく妨害排除請求
不動産に抵当権設定がなされた後、抵当権設定者(不動産の所有者)が、当該不動産を他人に賃貸借などして、占有させる場合がある。このような場合、かつては、抵当権詐害目的の詐害的な短期賃貸借については、これを解除請求することで、競売後に短期賃貸借として保護されないこととし、その後短期賃貸借保護制度を廃した現行法では、賃貸借期間の長短に拘らず、対抗関係により引渡命令等により、明渡を請求することができる。また、しかしながら、抵当不動産の占有自体が、抵当物件の評価を下げ、競売による換価自体が阻害されるような場合に、抵当権自体による賃借人等の占有の排除ができるかについては、論点が残っていた。
1 旧判例の立場
妨害排除請求 不可
● 抵当権者は、民法395条但書の規定により解除された短期賃貸借ないしこれを基礎とする転貸借に基づき抵当不動産を占有する者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として又は抵当権設定者の所有物返還請求権の代位行使として、その明渡しを求めることはできない(最判平成3年3月22日民集45巻3号268頁)。 なお傍論で抵当権自体に基づく妨害排除請求も認める。
2 判例変更
代位行使認める。
● 第三者が抵当不動産を不法占有することにより、競売手続の進行が害され適正な価額よりも売却価額が下落するおそれがあるなど、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、抵当不動産の所有者に対して有する右状態を是正し抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を保全するため、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができる (最判平成11年11月24日民集第53巻8号1899頁)。
3 判例発展
直接請求認める(最判平成17年3月10日民集50巻2号356頁 判時1893号24頁)。
①占有権の設定に抵当権妨害目的が認められ
②その占有により、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済権の行使が困難となる
場合に、占有が不動産所有者との関係で、適法である場合であっても、妨害排除請求としての占有状態の排除を認め、抵当権者が直接自己に対する抵当不動産の明渡請求をすることを認めた。但し、抵当権者は賃料相当の損害を被るものではないとして、損害賠償請求は否定した。
4 民事執行法による保全処分との関係
なお、民事執行法にもとづく保全処分においては、従来から、このような場合の占有排除を認めていた。3の判例は、これを本訴において認めた点に意義がある。
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