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2007.09.23

自殺免責期間経過後の自殺と生命保険金の支払

生命保険について、商法は、次のように規定し、被保険者が自殺により死亡した場合には、保険者は、保険金額支払につき免責されるとしている。
すなわち、商法第680条は、
 左ノ場合ニ於テハ保険者ハ保険金額ヲ支払フ責ニ任セス
一  被保険者カ自殺、決闘其他ノ犯罪又ハ死刑ノ執行ニ因リテ死亡シタルトキ
二  保険金額ヲ受取ルヘキ者カ故意ニテ被保険者ヲ死ニ致シタルトキ但其者カ保険金額ノ一部ヲ受取ルヘキ場合ニ於テハ保険者ハ其残額ヲ支払フ責ヲ免ルルコトヲ得ス
三  保険契約者カ故意ニテ被保険者ヲ死ニ致シタルトキ
2 前項第一号及ヒ第二号ノ場合ニ於テハ保険者ハ被保険者ノ為メニ積立テタル金額ヲ保険契約者ニ払戻スコトヲ要ス
としている。
これに対し、多くの保険約款は、保険契約から一定期間内の被保険者の自殺につき、保険者は保険金支払を免責されるものとの条項によっている。これは、商法の規定は、「自殺」による生命保険金の獲得を動機とする生命保険契約の締結は、一般に、被保険者が自殺をすることにより故意に保険事故を発生させることは、生命保険契約上要請される信義誠実の原則に反するものであり、また、そのような場合に保険金が支払われるとすれば,生命保険契約が不当な目的に利用される可能性が生ずるから,これを防止する必要があること等の趣旨であるところ、保険契約から一定期間後の被保険者の自殺についてのみ、保険者が保険金支払を免責される旨の約款の定めは、仮に生命保険契約締結の動機が被保険者の自殺による保険金の取得にあったとしても、その動機を一定期間を超えて長期にわたって持続することは一般的には困難であり、一定の期間経過後の自殺については,当初の契約締結時の動機との関係は希薄であるのが通常であること、自殺の真の動機,原因が何であったかを事後において解明することは極めて困難であること等を理由に,一般に有効な約定であると解されている。そこで、生命保険契約締結の動機が、被保険者が自殺により受取人に生命保険金を獲得させるにあることが明らかとなった場合において、なお、約款の免責期間後の自殺について、保険者が支払いを免責されないかが問題となる。この点について、最高裁判所は、次のように判示し、責任開始の日から1年内の被保険者の自殺については、死亡保険金を支払わない旨の定めについて、責任開始の日から1年経過後の日保険者の自殺については、特段の事情が認められない限り、当該自殺の動機や目的が保険金の取得にあったとしても、免責の対象とはしないとした(最判平成16年3月25日民集58巻3号753頁 判時1856号150頁)。
「商法680条1項1号は、被保険者の自殺による死亡を保険者の保険金支払義務の免責事由の一つとして規定しているが、その趣旨は、被保険者が自殺をすることにより故意に保険事故(被保険者の死亡)を発生させることは、生命保険契約上要請される信義誠実の原則に反するものであり、また、そのような場合に保険金が支払われるとすれば、生命保険契約が不当な目的に利用される可能性が生ずるから、これを防止する必要があること等によるものと解される。そして、生命保険契約の約款には、保険者の責任開始の日から一定の期間内に被保険者が自殺した場合には保険者は死亡保険金を支払わない旨の特約が定められるのが通例であるが、このような特約は、生命保険契約締結の動機が被保険者の自殺による保険金の取得にあったとしても、その動機を、一定の期間を超えて、長期にわたって持続することは一般的には困難であり、一定の期間経過後の自殺については、当初の契約締結時の動機との関係は希薄であるのが通常であること、また、自殺の真の動機、原因が何であったかを事後において解明することは極めて困難であることなどから、一定の期間内の被保険者の自殺による死亡の場合に限って、その動機、目的が保険金の取得にあるか否かにかかわりなく、一律に保険者を免責することとし、これによって生命保険契約が上記のような不当な目的に利用されることを防止することが可能であるとの考えにより定められたものと解される。そうだとすると、 上記の期間を1年とする1年内自殺免責特約は、責任開始の日から1年内の被保険者の自殺による死亡の場合に限って、自殺の動機、目的を考慮することなく、一律に保険者を免責することにより、当該生命保険契約が不当な目的に利用されることの防止を図るものとする反面、1年経過後の被保険者の自殺による死亡については、当該自殺に関し犯罪行為等が介在し、当該自殺による死亡保険金の支払を認めることが公序良俗に違反するおそれがあるなどの特段の事情がある場合は格別、そのような事情が認められない場合には、当該自殺の動機、目的が保険金の取得にあることが認められるときであっても、免責の対象とはしない旨の約定と解するのが相当である。 そして、このような内容の特約は、当事者の合意により、免責の対象、範囲を一定期間内の自殺による死亡に限定するものであって、商法の上記規定にかかわらず、有効と解すべきである。
 このような見地に立って本件をみるに、前記の事実関係によれば、Bが自殺したのは、平成6年契約の責任開始の日から1年を経過した後であるから、1年内自殺免責特約により、上記特段の事情がない限り、商法の上記規定の適用が排除され、保険者は、平成6年契約に基づく死亡保険金の支払義務の免責がされないものというべきところ、当時、Bが経営する上告会社の経営状態は相当厳しい状況にあり、上告会社及びBは、前記のとおり、多数の保険会社との間で、多額の保険金額の本件各生命保険契約等を締結していたこと等が明らかであるが、その自殺に至る過程において犯罪行為等が介在した形跡はうかがわれず、その他公序良俗にかかわる事情の存在もうかがえない本件においては、その自殺の主たる動機、目的が、保険金を保険金受取人である上告人らに取得させることにあったとしても、上記特段の事情があるとはいえないものというべきである。
 そうすると、上告会社の平成6年契約に基づく主契約の死亡保険金の請求については、1年内自殺免責特約により、商法680条1項1号の規定の適用が排除されるものと解すべきである。」

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