売主の説明義務違反により慰謝料請求権を認めた例
不動産の値下げ販売の例において、売主に損害賠償義務を認めた例は、ほとんどない。
最判平成16年11月18日民集58巻8号2225頁 判時1883号62頁は、かなり特殊な案件であるが、分譲住宅の譲渡契約の譲受人が同契約を締結するか否かの意思決定をするに当たり価格の適否を検討する上で重要な事実につき譲渡人が説明をしなかったことが慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価すべきものとして、値下げ販売をした売主に慰謝料支払義務を認めている。
事実経過等は以下のとおり。
① 原告らは、もと公団住宅の賃借人、被告は旧住宅・都市整備公団。
② 被告による団地の建て替え事業の実施に当たって、原告らと被告との間の賃貸借契約を合意解除し、原告らは、賃借していた住宅を明け渡した。
③ 原告らと被告は、建替え後の団地内の分譲住宅につき譲渡契約を締結。
④ ②の建て替え事業の実施に当たり原告らと被告は、被告において原告らに対し分譲住宅をあっせんした後未分譲住宅の一般公募を直ちにすること及び一般公募における譲渡価格と原告らに対する譲渡価格が少なくとも同等であることを意味する条項のある覚書を作成。原告らは、譲渡契約締結の時点において、この条項の意味するとおりの認識を有していた。
⑤ ところが、被告は、譲渡契約時点において、原告らに対する譲渡価格が高額に過ぎることなどから、一般公募を直ちにする意思を有しておらず、かつ、原告らの認識を少なくとも容易に知り得たにもかかわらず、原告らに対し、一般公募を直ちにする意思がないことを説明しなかった。
⑥ ⑤により原告らは被告の設定に係る分譲住宅の価格の適否について十分に検討した上で上記譲渡契約を締結するか否かの意思決定をする機会を奪われた。
⑦ その後、被告は、未分譲住宅について,値下げをした上で一般公募をした。
以上の事情の下においては、被告が原告らに対し上記一般公募を直ちにする意思がないことを説明しなかったことは、慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と評価すべきであるとした。
判例評釈。
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