適合性の原則
金融商品取引法第40条は、「金融商品取引業者等は、業務の運営の状況が次の各号のいずれかに該当することのないように、その業務を行わなければならない。① 金融商品取引行為について、顧客の知識、経験、財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることとなっており、又は欠けることとなるおそれがあること。
② 前号に掲げるもののほか、業務に関して取得した顧客に関する情報の適正な取扱いを確保するための措置を講じていないと認められる状況、その他業務の運営の状況が公益に反し、又は投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるものとして内閣府令で定める状況にあること。」
としており、適合性の原則に関する規定をおいている。なお、同法は、平成18年に証券取引法等の改正法として立法され、全部の施行には至っていないが、現行法にも同様の規定がある。例えば現行の証券取引法43条は「証券会社は、業務の状況が次の各号のいずれかに該当することのないように、業務を営まなければならない。① 有価証券の買付け若しくは売付け若しくはその委託等、有価証券指数等先物取引、有価証券オプション取引若しくは外国市場証券先物取引の委託又は有価証券店頭デリバティブ取引若しくはその委託等について、顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることとなっており、又は欠けることとなるおそれがあること。 ② 前号に掲げるもののほか、業務の状況が公益に反し、又は投資者保護に支障を生ずるおそれがあるものとして内閣府令で定める状況にあること。」とし、金融先物取引法77条も、「金融先物取引業者は、業務の状況が次の各号のいずれかに該当することのないように、業務を行わなければならない。1.顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる受託契約等の締結の勧誘を行って顧客の保護に欠けることとなつており、又は欠けることとなるおそれがあること。2.前号に掲げるもののほか、業務の状況が公益に反し、又は委託者等の保護に支障を生ずるおそれがあるものとして内閣府令で定める状況にあること。」との規定をおいている。
そこで、証券会社その他の金融商品取引業者が、適合性原則に反して証券その他の金融商品を販売した場合の民事上の責任が問題となる。
この点、最判平成17年7月14日民集59巻6号1323頁 判時1909号30頁は、次のように判示し、適合性原則に違反する場合の損害賠償について述べたが、当該事例については、証券会社の不法行為を否定し、賠償責任を認めなかった。かように、賠償責任自体は否定した事案であるが、適合性原則違反の場合に民事責任が発生しうることについて最高裁判所が初めて触れた判決例であり、判例として価値あるものと思う。
「証券会社の担当者が、顧客の意向と実情に反して、明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど、適合性原則に著しく逸脱する証券取引の勧誘をしてこれを行わしたときは、当該行為は不法行為法上も違法となる。」
「顧客の適合性を判断するには、単にオプション取引という一般的抽象的リスクのみを考慮するのではなく、具体的な商品特性を踏まえ、これとの相関関係において、顧客の投資経験、証券取引の知識、投資意向、財産状態との諸要素を総合的に考慮する必要がある。」
としたが、本件での当てはめでは、「証券会社甲の担当者が顧客である株式会社乙に対し株価指数オプションの売り取引を勧誘してこれを行わせた場合において、当該株価指数オプションは証券取引所の上場商品として広く投資者が取引に参加することを予定するものであったこと、乙は20億円以上の資金を有しその相当部分を積極的に投資運用する方針を有していたこと、乙の資金運用業務を担当する専務取締役らは、株価指数オプション取引を行う前から、信用取引、先物取引等の証券取引を毎年数百億円規模で行い、証券取引に関する経験と知識を蓄積していたこと、乙は、株価指数オプションの売り取引を始めた際、その損失が一定額を超えたらこれをやめるという方針を立て、実際にもその方針に従って取引を終了させるなどして自律的なリスク管理を行っていたことなどの事情の下においては、オプションの売り取引は損失が無限大又はそれに近いものとなる可能性がある極めてリスクの高い取引類型であることを考慮しても、甲の担当者による上記勧誘行為は、適合性の原則から著しく逸脱するものであったとはいえず、甲の不法行為責任を認めることはできない」とした。
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