暴力団組長の使用者責任(抗争事例)
民法715条1項は、「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」としている(使用者責任)。
そこで、暴力団の構成員が行った犯罪行為について、使用者責任の規定を利用して、階層的に構成される暴力団の上位者である組長等に損害賠償責任を負わせることができないかが問題となる。
この点につき、暴力団という組織体の特殊性から,①公序良俗に反する違法な活動であっても民法715条の「事業」に含まれるか、②暴力団構成員のいかなる行為が暴力団組長の事業と関連性を有するのか,③暴力団の構成員とその上位者との間の指揮監督関係をどのような場合に認めるのか。上位者が構成員の所属していた下部組織の組長ではなく、その上部組織の組長であった場合にも指揮監督関係を認めてよいのか等の点が解明される必要がある。
最高裁判所は、この点について、次のように判示して、上位組織の組長等に使用者責任を認めた(最判平成16年11月12日民集58巻8号2078頁 判時1882号21頁)。
「階層的に構成されている暴力団が、その威力をその暴力団員に利用させることなどを実質上の目的とし、下部組織の構成員に対しても同暴力団の威力を利用して資金獲得活動をすることを容認していたなど判示の事情の下では、同暴力団の最上位の組長と下部組織の構成員との間に同暴力団の威力を利用しての資金獲得活動に係る事業について民法715条1項所定の使用者と被用者の関係が成立している。」
「階層的に構成されている暴力団の下部組織における対立抗争においてその構成員がした殺傷行為は、同暴力団が、その威力をその暴力団員に利用させることなどを実質上の目的とし、下部組織の構成員に対しても同暴力団の威力を利用して資金獲得活動をすることを容認し、その資金獲得活動に伴い発生する対立抗争における暴力行為を賞揚していたなど判示の事情の下では、民法715条1項にいう「事業ノ執行ニ付キ」されたものに当たる。」
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コメント
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つるまきさん
コメントありがとうございます。
16年の最高裁判所判決が抗争事例なのに対し、つるまきさんご紹介の東京地裁判決は、第三者加害事例のようですね。
この件が、裁判所サイト http://www.courts.go.jp/
に出ていないかみてみましたところ、本日(10月6日)現在では、9月19日までの判例までの搭載となっていました。来週あたりに搭載されるのではと期待しています。搭載されたら、読んでおきたいと思います。
では。
投稿: 伊豆隆義 | 2007.10.06 07:49
こちらも最新重要裁判例です。よろしくお願いします。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2007092102050420.html
投稿: つるまき | 2007.10.05 23:05