債権譲受・回収と弁護士法及びサービサー法
弁護士法72条は、「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」とし、同法73条は、「何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によって、その権利の実行をすることを業とすることができない。」として、債権回収の委託を弁護士・弁護士法人以外の者についてはこれを禁じ、また、債権を譲り受けて行使することを業として行うことを禁じている。
また、債権管理回収業に関する特別措置法は、同法2条1項に定める特定金銭債権については、「法務大臣の許可を受けた株式会社」に限って、「弁護士又は弁護士法人以外の者が委託を受けて法律事件に関する法律事務である特定金銭債権の管理及び回収を行う営業又は他人から譲り受けて訴訟、調停、和解その他の手段によって特定金銭債権の管理及び回収を行う営業」(同法2条2項)を行うことができるものとして、そして、同法3条は、「債権管理回収業は、法務大臣の許可を受けた株式会社でなければ、営むことができない。」弁護士法72条、73条の例外を定めるとともに、特定金銭債権の管理回収業について弁護士または弁護士法人以外は、法務大臣の許可を受けた債権管理回収業者(サービサー)に独占させている。
ところで、債権譲渡を受けて、これを行使するとの例は、従来からあり、その場合と弁護士法73条や債権管理回収業に関する特別措置法3条に違反しないかが問題となる。
この点について、最高裁判所は、特定金銭債権以外の例(ゴルフ場運営会社に対する預託金返還請求権の例、債権管理回収業に関する特別措置法の適用ない事例)について、下記のように述べて、弁護士法73条の適用についての限定解釈を示した。
最判平成14年1月22日民集56巻1号123頁 判時1775号46頁
「弁護士法73条の趣旨は,主として弁護士でない者が,権利の譲渡を受けることによって,みだりに訴訟を誘発したり,紛議を助長したりするほか,同法72条本文の禁止を潜脱する行為をして,国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずることを防止するところにあるものと解される。このような立法趣旨に照らすと,形式的には,他人の権利を譲り受けて訴訟等の手段によってその権利の実行をすることを業とする行為であっても,上記の弊害が生ずるおそれがなく,社会的経済的に正当な業務の範囲内にあると認められる場合には,同法73条に違反するものではないと解するのが相当である。」
「ゴルフ会員権の売買には,ゴルフ会員権市場ともいうべき市場が存在し,その市場において多数の会員権の売買が日常的に行われていることは公知の事実である。そして,ゴルフ会員権の売買等を業とする者が,業として,上記市場から,会員権取引における通常の方法と価格で会員権を購入した上,ゴルフ場経営会社に対して社会通念上相当な方法で預託金の返還を求めたものであれば、・・・利益を得る目的で会員権を購入していたとしても,上記の見地から同条に違反するものではないと解される場合もあるというべきである。」
また、特定金銭債権については、下級審の判決例ではあるが、
東京地決平成16年11月12日季刊サービサー8号8頁は、特定目的会社(SPC)が特定金銭債権である貸金債権を譲りうけた後、債務者に対して、破産申立(債権者申立)をした事案について「債権管理回収業に関する特別措置法3条は、債権管理回収業は、法務大臣の許可を受けた株式会社でなければ、営むことができない旨規定しているが、同法は、金融機関等の有する貸付債権等(特定債権)の処理が緊喫の課題となっている状況にかんがみ、許可制度を実施することにより弁護士法の特例として債権回収会社が業として特定金銭債権の管理および回収を行うことができるようにするとともに、債権回収会社について必要な規制を行うことによりその業務の適性な運営の確保を図り、もって国民経済の健全な発展に資することを目的として定められた法律であるところ(同法1条参照)、弁護士法73条は、弁護士でない者が、権利の譲渡を受けることによって、みだりに訴訟を誘発したり、紛議を助長したりするほか、同法72条本文の禁止を潜脱する行為をして、国民の法律生活上の利益に弊害生ずることを防止する趣旨の規定であるが、形式的には、他人の権利を譲り受けて訴訟等の手段によってその権利の実行をすることを業とする行為であっても、譲受人の業務内容、当該権利の譲受けの方法・態様、権利実行の方法・態様等の事情からして上記弊害が生じるおそれがなく、社会経済的に正当な職務の範囲内にあると認められる場合には、同法73条に違反するものではないと解されるから、このような場合には、債権管理回収業に関する特別措置法3条の趣旨にも反しないと解される。」とした。
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