不動産の値下げ販売をした場合の販売者の責任
不動産の値下げ販売をした場合の販売者の責任について、これを認める判決はあまり見当たらないといってよい。これに対し、先に紹介済みの最判平成16年11月18日民集58巻8号2225頁 判時1883号62頁は、慰謝料のみとはいえ、これを認めた点で、画期的ともいえる。
そこで、以下、値下げ販売との観点で、判例を整理してみた。
不動産の値引き販売の販売者の責任の法的根拠
① 値引をしない合意を否定した例
・ 大阪地決平成5年4月21日判時1492号118頁販売業者の担当者に、「値下げなど、資産価値を下げるようなことは絶対にしない。」等の言辞があったことは認められるが、それは、当時の地価の異常な高騰を背景とし、顧客に対する売買契約の誘引として、楽天的な価格動向の見通しを述べた単なるセールス・トークであり、販売業者において、将来の不動産市況の変動の有無にかかわらず、顧客との売買単価を下回る価格では他の区画 を分譲しないとの一方的な不作為義務を負担する旨の意思表示とみるには余りにも内容が曖昧であり、このような合意が成立したものと解することは到底できない。
・ 東京地判平成8年2月5日判タ907号18頁
販売業者の営業担当従業員の「値下げしない。」との発言などの言動は、いずれも、個々の顧客らとの間で、不動産市況の変化により不動産価格が下落したとしても、販売業者の当初設定価格を下回る価格で他の戸を分譲しないという不作為義務を販売業者が一方的に負担する旨の意思表示をしているものとみるにはあいまいすぎる言動というほかなく、これらをもって、売買契約締結に当たり、値引き販売をしないという合意、又は、値引き販売をした場合にはXらに損失を補償するという合意が成立したとは認められない。
② 信義則による余波効を否定した例
・ 大阪地決平成5年4月21日判時1492号118頁分譲住宅の売買契約の余後効は、この契約の信義則上の義務と観念されるが、これをわが民法においても承認するとしても、その価格が市況により変動することが予定されている市場性のある商品の売買契約において、その余後効的義務の内容として、当該商品の売買契約締結後(契約終了後)に、他の同種同等の商品をそれ以下の代金で売買することにより、間接的にその財産的価値を減少させることのないようにすべき義務まで包含するものと解することは到底できない。
・ 東京地判平成8年2月5日判タ907号18頁
一般に、不動産の価格は、需要と供給の関係で決まるものであり、不動産市況によって価格が変動することは自明の理ともいうべきことであるから、マンションの販売業者に、売買契約締結後に不動産市況の下落があってもなお当該販売価格を下落させてはならないという信義則上の義務があるとは認められない。
③ 値下げする可能性についての説明義務違反否定例
・ 大阪地判平成10年3月19日判時1657号85頁宅建業者である被告らにおいて、宅地建物取引業法に規定する重要事項の説明義務を負うものであることはいうまでもないことであるが、それ以上に不動産売買契約において売主側に信義則上の保護義務というものが観念されるとしても、不動産の価格が近い将来急激に下落することが確実で、そのことを専門の不動産業者である売主側のみが認識し、現に大幅な値下げ販売を予定しているのに、買主側には右事実を一切説明しないか、あるいはことさらに虚偽の事実を申し向けて不動産を高値で販売したというような事情があるのであればともかく、このような事情がないのに、売主において売買契約締結以後の地価の動向や将来の値下げ販売の可能性等につき、当然に買主に説明すべき法的義務があるとは考えられず(不動産の価格が需要と供給の関係や経済情勢等により変動するものであるだけに尚更である。)、右説明をなさなかったとしても、説明義務違反等の責任を負うものとは解し難い。
最判平成16年11月18日民集58巻8号2225頁 判時1883号62頁の事例の特徴
賃貸マンションの建替計画にあたり、賃借人らに賃借権を消滅させ、「優先購入条項」(書面あり)つき売買契約により売買した。
↓
現実には、一般公募を当面せず。
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一般公募の際には、大幅値下げ。
↓
慰謝料請求のみ認める。
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