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2008年10月

2008.10.17

自動車借主不知の間の友人の運転と所有者の運行供与者性

最高裁判所平成20年9月12日判決は、自動車を貸していた事案で、借主不知の間に第三者が運行した事案について、自動車の保有者は、自動車損害賠償保障法3条の運行供与者にあたるものとした。すなわち、
「A(昭和57年7月生)は、平成14年2月19日午前5時ころ、愛知県
一宮市内において、自己の運転する普通乗用自動車(以下「本件自動車」とい
う。)を、赤信号で停止していた普通貨物自動車に追突させる事故(以下「本件事故」という。)を起こした。上告人(昭和57年3月生)は、本件事故当時、本件自動車に同乗しており、本件事故により顔面に傷害を負った。」事案で、「本件自動車は、上告人の父親であるBが所有しており、同人の経営する会社の仕事等に利用されていた。」「上告人は、本件事故当時、一宮市内で独り住まいをし、キャバクラ等に勤務していたが、仕事が休みのときには、同市内にある実家に戻り、Bが経営する会社の仕事を手伝うことがあった。」「Bは、上告人が上記仕事を手伝う際などに本件自動車を運転することを認めていた。」「Aは、岐阜市内に居住し、ホストクラブに勤務していた。同人は、自動車を運転する能力はあったが、自動車の運転免許は有していなかった。」という事情のもと、
「上告人とAは、平成13年9月ころ、Aが上告人の勤務していたキャバク
ラに客として訪れたのを機に知り合い、その後、上告人は、Aの勤務するホストクラブに客として通うようになり、互いに携帯電話の番号を教え合う仲になった。Aが自動車の運転免許を有していないことは、上告人も知っていた。Bは、Aと面識がなく、Aという人物が存在することすら認識していなかった。」という場合に、上告人が運転してAを拾い、バーで午前0時ころからAと上告人で飲酒を始め、上告人は、酔いがさめたころに自ら本件自動車を運転して帰宅するつもりであったが、そのうちに泥酔して寝込んでしまった。Aは、同日午前4時ころ、上告人を起こして帰宅しようとしたが、上告人が目を覚まさなかったため、カウンターの上に置かれていた本件自動車のキーを使用して、上告人をその助手席に運び込んだ上で本件自動車を運転し、岐阜市内の自宅に向かった。Aは、自宅に到着してから上告人を起こして、本件自動車で帰ってもらうつもりであった。上告人は、Aが本件自動車を運転している間、泥酔して寝込んでおり、同人に対して本件自動車の運転を指示したことはなかった。Aは、その帰宅途上で本件事故を起こした。」という事案で、上告人は、本件自動車を被保険自動車とする自動車損害賠償責任保険の保険会社である被上告人に対し、Bが自動車損害賠償保障法(以下「法」という。)2条3項所定の保有者として法3条の規定による損害賠償責任を負担すると主張して、法16条に基づき損害賠償額の支払を求めた。
原審はこれを認めなかったが、最高裁判所は、次のように判示て、これを認めるべきものとして、本件を破棄差戻すとした。
すなわち、「本件自動車は上告人の父親であるBの所有するものであるが、上告人は実家に戻っているときにはBの会社の手伝いなどのために本件自動車を運転することをBから認められていたこと、上告人は、親しい関係にあったAから誘われて、午後10時ころ、実家から本件自動車を運転して同人を迎えに行き、電車やバスの運行が終了する翌日午前0時ころにそれぞれの自宅から離れた名古屋市内のバーに到着したこと、上告人は、本件自動車のキーをバーのカウンターの上に置いて、Aと共にカウンター席で飲酒を始め、そのうちに泥酔して寝込んでしまったこと、Aは、午前4時ころ、上告人を起こして帰宅しようとしたが、上告人が目を覚まさないため、本件自動車に上告人を運び込み、上記キーを使用して自宅に向けて本件自動車を運転したこと(以下、このAによる本件自動車の運行を「本件運行」という。)、以上の事実が明らかである。そして、上告人による上記運行がBの意思に反するものであったというような事情は何らうかがわれない。」「これらの事実によれば、上告人は、Bから本件自動車を運転することを認められていたところ、深夜、その実家から名古屋市内のバーまで本件自動車を運転したものであるから、その運行はBの容認するところであったと解することができ、また、上告人による上記運行の後、飲酒した上告人が友人等に本件自動車の運転をゆだねることも、その容認の範囲内にあったと見られてもやむを得ないというべきである。そして、上告人は、電車やバスが運行されていない時間帯に、本件自動車のキーをバーのカウンターの上に置いて泥酔したというのであるから、Aが帰宅するために、あるいは上告人を自宅に送り届けるために上記キーを使用して本件自動車を運転することについて、上告人の容認があったというべきである。そうすると、BはAと面識がなく、Aという人物の存在すら認識していなかったとしても、本件運行は、Bの容認の範囲内にあったと見られてもやむを得ないというべきであり、Bは、客観的外形的に見て、本件運行について、運行供用者に当たると解するのが相当である。」とした。

2008.10.14

土地区画整理事業の決定の行政処分性

都市計画決定等計画段階にすぎないいわゆる青写真の段階で、その計画の決定ができるかについては、従来はそのことによる権利の制限があったとしても付随的効果に過ぎず、抗告訴訟の対象にはならないとされている。その中で、最判平成20年9月10日大法廷判決(平成17年(行ヒ)第397号事件)は、土地区画整理事業の事業計画の決定について、決定の違法を主張して、その取消しを求めた事案で、市町村の施行に係る土地区画整理事業計画の決定は、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるとして、原判決を破棄し、1審に差し戻した。

1 事案は、 「被上告人は、新浜松駅から西鹿島駅までを結ぶ遠州鉄道鉄道線(西鹿島線)の連続立体交差事業の一環として、上島駅の高架化と併せて同駅周辺の公共施設の整備改善等を図るため、本件土地区画整理事業を計画し、土地区画整理法(平成17年法律第34号による改正前のもの。以下「法」という。)52条1項の規定に基づき、静岡県知事に対し、本件土地区画整理事業の事業計画において定める設計の概要について認可を申請し、同月17日、同知事からその認可を受けた。被上告人は、同月25日、同項の規定により、本件土地区画整理事業の事業計画の決定(以下「本件事業計画の決定」という。)をし、同日、その公告がされた。」というものであり、本件土地区画整理事業の施行地区内に土地を所有している上告人から、「本件土地区画整理事業は公共施設の整備改善及び宅地の利用増進という法所定の事業目的を欠くものである」などと主張して、本件事業計画の決定の取消しを求めて、行政処分の取り消し訴訟が提起された。

2  原審(東京高等裁判所平成17年9月28日判決(平成17年(行コ)第127号事件)は、「土地区画整理事業の事業計画は、当該土地区画整理事業の基礎的事項を一般的抽象的に決定するものであって、いわば当該土地区画整理事業の青写真としての性質を有するにすぎず、これによって利害関係者の権利にどのような変動を及ぼすかが必ずしも具体的に確定されているわけではない。事業計画が公告されることによって生ずる建築制限等は、法が特に付与した公告に伴う付随的効果にとどまるものであって、事業計画の決定ないし公告そのものの効果として発生する権利制限とはいえない。事業計画の決定は、それが公告された段階においても抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないから、本件事業計画の決定の取消しを求める本件訴えは、不適法な訴えである。」として、本件訴訟を却下していた。

3 最高裁判所は、
「(1)ア市町村は、土地区画整理事業を施行しようとする場合においては、施行
規程及び事業計画を定めなければならず(法52条1項)、事業計画が定められた場合においては、市町村長は、遅滞なく、施行者の名称、事業施行期間、施行地区その他国土交通省令で定める事項を公告しなければならない(法55条9項)。そして、この公告がされると、換地処分の公告がある日まで、施行地区内において、土地区画整理事業の施行の障害となるおそれがある土地の形質の変更若しくは建築物その他の工作物の新築、改築若しくは増築を行い、又は政令で定める移動の容易でない物件の設置若しくはたい積を行おうとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならず(法76条1項)、これに違反した者がある場合には、都道府県知事は、当該違反者又はその承継者に対し、当該土地の原状回復等を命ずることができ(同条4項)、この命令に違反した者に対しては刑罰が科される(法140条)。このほか、施行地区内の宅地についての所有権以外の権利で登記のないものを有し又は有することとなった者は、書面をもってその権利の種類及び内容を施行者に申告しなければならず(法85条1項)、施行者は、その申告がない限り、これを存しないものとみなして、仮換地の指定や換地処分等をすることができることとされている(同条5項)。
また、土地区画整理事業の事業計画は、施行地区(施行地区を工区に分ける場合には施行地区及び工区)、設計の概要、事業施行期間及び資金計画という当該土地区画整理事業の基礎的事項を一般的に定めるものであるが(法54条、6条1項)、事業計画において定める設計の概要については、設計説明書及び設計図を作成して定めなければならず、このうち、設計説明書には、事業施行後における施行地区内の宅地の地積(保留地の予定地積を除く。)の合計の事業施行前における施行地区内の宅地の地積の合計に対する割合が記載され(これにより、施行地区全体でどの程度の減歩がされるのかが分かる。)、設計図(縮尺1200分の1以上のもの)には、事業施行後における施行地区内の公共施設等の位置及び形状が、事業施行により新設され又は変更される部分と既設のもので変更されない部分とに区別して表示されることから(平成17年国土交通省令第102号による改正前の土地区画整理法施行規則6条)、事業計画が決定されると、当該土地区画整理事業の施行によって施行地区内の宅地所有者等の権利にいかなる影響が及ぶかについて、一定の限度で具体的に予測することが可能になるのである。そして、土地区画整理事業の事業計画については、いったんその決定がされると、特段の事情のない限り、その事業計画に定められたところに従って具体的な事業がそのまま進められ、その後の手続として、施行地区内の宅地について換地処分が当然に行われることになる。前記の建築行為等の制限は、このような事業計画の決定に基づく具体的な事業の施行の障害となるおそれのある事態が生ずることを防ぐために法的強制力を伴って設けられているのであり、しかも、施行地区内の宅地所有者等は、換地処分の公告がある日まで、その制限を継続的に課され続けるのである。
そうすると、施行地区内の宅地所有者等は、事業計画の決定がされることによって、前記のような規制を伴う土地区画整理事業の手続に従って換地処分を受けるべき地位に立たされるものということができ、その意味で、その法的地位に直接的な影響が生ずるものというべきであり、事業計画の決定に伴う法的効果が一般的、抽象的なものにすぎないということはできない。
イもとより、換地処分を受けた宅地所有者等やその前に仮換地の指定を受けた宅地所有者等は、当該換地処分等を対象として取消訴訟を提起することができるが、換地処分等がされた段階では、実際上、既に工事等も進ちょくし、換地計画も具体的に定められるなどしており、その時点で事業計画の違法を理由として当該換地処分等を取り消した場合には、事業全体に著しい混乱をもたらすことになりかねない。それゆえ、換地処分等の取消訴訟において、宅地所有者等が事業計画の違法を主張し、その主張が認められたとしても、当該換地処分等を取り消すことは公共の福祉に適合しないとして事情判決(行政事件訴訟法31条1項)がされる可能性が相当程度あるのであり、換地処分等がされた段階でこれを対象として取消訴訟を提起することができるとしても、宅地所有者等の被る権利侵害に対する救済が十分に果たされるとはいい難い。そうすると、事業計画の適否が争われる場合、実効的な権利救済を図るためには、事業計画の決定がされた段階で、これを対象とした取消訴訟の提起を認めることに合理性があるというべきである。
(2) 以上によれば、市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定
は、施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって、抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものということができ、実効的な権利救済を図るという観点から見ても、これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である。したがって、上記事業計画の決定は、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たると解するのが相当である。」として、本件訴えを不適法な訴えとして却下すべきものとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして、原判決のうち被上告人に関する部分は破棄し、本件を第1審に差し戻すべきとした。

(以下 私見)
なお、本件は土地区画整理事業決定に基づく個別の権利変換がなされた時点で違法性を問うたとしても、事情判決となる可能性が高く、権利を侵害されている者に対する救済とはならないことが大きく着目されたものと思われる。したがって、青写真の全てが取消訴訟の対象となるのではなく、個別具体的な権利侵害の時点でなお救済の余地あるものについては、訴えの利益なしとされると解する。

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