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2010年10月

2010.10.31

借家契約の更新料条項の有効性を否定した例(大阪高裁判決)

建物賃貸借で、更新の際の更新料授受の合意は、これをなしている例が多いといえるが、近時、大阪高裁が、その有効性を否定する判決と肯定する判決とをなしている。
そのうち、否定したものについて、以下紹介する。有効性を認めた判決は稿をあらためる。
この点は、賃貸実務に大きく影響するものであり、最高裁判所の判決がまたれるところではある。


大阪高判平成22年2月24日消費者法ニュース84号233頁

マンションの一室の賃貸借において、1年毎に月額賃料2か月分の更新料を支払う旨の条項及び契約時に月額賃料の3倍以上となる定額補修分担金を支払う旨の条項があった事案で、賃借人が既払いの更新料および低額補修分担金の返還請求を、賃貸人が未払更新料を請求した。

1審(京都地判平成21年9月25日判時2066号81頁は、更新料を賃料の補充とみることや、賃借権強化の対価を有するとみることは困難であるし、更新拒絶権放棄の対価という性質も希薄であって、更新料は、更新の際、賃借人が賃貸人に支払う金銭という一種の贈与的な性格を有するものであるとした上で、原告と被告との間の情報量の格差等の事情も考慮して、消費者契約法10条に反して無効であるとし、定額補修分担金条項についても同条に反して無効であるとし、本訴請求については認め、反訴請求については棄却した。

これに対し、賃貸人が控訴したが、大阪高等裁判所は、本件更新料条項及び本件定額補修分担金条項は、いずれも消費者契約法10条に該当し無効であるとして、原判決を維持し、控訴を棄却した。
以下、判決主要部分を引用する。

1 一審判決理由に対する控訴審の判断
「控訴人は,①本件の更新料が1年の更新期間ごとに支払われ,更新しない場合には授受が予定されていないこと(原判決別紙2条4項),②被控訴人X1が更新料を含めて賃貸期間に応じて支払う金銭の合計は賃貸期間に比例しており,当事者もこれを納得していることなどから,本件の更新料は使用収益の対価たる賃料の補充・前払として定められていたと解するのが当事者の合理的意思に合致する旨主張している。
 確かに,被控訴人X1についてみると,同人が,更新料を含めた賃貸借契約に伴う全体の収支や経済合理性を検討した上で本件居室を賃借すると決め,更新料についても,更新の際に負担する金銭で,自己の支出となり,賃貸人たる控訴人の収入となり,返還されない金銭であることを理解していたことは十分に窺われるし,被控訴人X1が更新料を含めて賃貸期間に応じて支払う金銭の合計が,ほぼ賃貸期間に比例していることも理解し得たことが窺われる。
 しかし,本件更新料条項をみても,本件の更新料がどのような目的で授受され,どのような性質を持つのかについて説明している箇所はない上,本件賃貸借契約締結時,控訴人と被控訴人X1が更新料につき「目的物の使用収益の対価」たる賃料の補充又は一部である旨合意していたとか,被控訴人X1が更新料につき賃料の補充又は一部であるとの説明を受けたとか,被控訴人X1が更新料を賃料の補充又は一部として支払ったと認めるに足りる証拠はない。
 これに加え,本件賃貸借契約締結当時,被控訴人X1は京都市立芸術大学の学生であり,賃貸借契約あるいは更新料について十分な法的知識はなかったことが窺われること(弁論の全趣旨)からすると,被控訴人X1に上記のような理解があったからといって,直ちに,本件賃貸借契約締結当時,本件の更新料の性質につき「目的物の使用収益の対価」と認識していたとは認め難く,せいぜい,単に賃貸借契約更新時に支払われる金銭と認識していたにとどまる可能性も十分にあるというべきである。」
「以上の諸事情を総合すれば,控訴人及び被控訴人X1が,本件更新料条項を「目的物の使用収益の対価」たる賃料の補充又は一部として定めていたと解することはできず,本件更新料条項に,賃料の補充又は一部という性質があるとは認められない。」
「しかも,本件における更新料額は,1年ごとに月額賃料の2か月分,すなわち7万6000円と,かなり高額であり,これを支払うことにより被控訴人X1が得られる紛争回避の利益に比べ,均衡を失しているといわざるを得ない。」

2 控訴審における新主張に対する判断
ア 賃借人が目的物の使用収益の対価と認識していたとの主張
「控訴人は,更新料が更新の際に支払を要する金員であり,それが賃貸人の収入になることについて共通の認識があれば,更新料の意味についての賃貸人と賃借人の意思は合致しているというべきであり,賃借人に上記の程度の認識があれば,賃借人が,更新料を更新後の「目的物の使用収益の対価」と認識していたと解することは,十分可能であると主張する。」

「しかし,賃借人が更新料につき,更新の際に支払を要し,賃貸人の収入になる金員と認識していたからといって,それが直ちに「目的物の使用収益の対価」であることを認識していたことにはならないのであって,例えば更新をしてもらうことに対する謝礼と考えて支払う可能性も十分に認められるのであるから,控訴人の主張を採用することはできない。また,控訴人は,上記のように解する根拠として,更新拒絶権放棄と更新後の目的物の使用収益とは,ひとつの事象を異なる角度からみたものに過ぎないことをあげるが,更新拒絶権の放棄に対する対価と目的物の使用収益に対する対価とは次元を異にするものであるし,本件の更新料については,・・・・原判決が認定・説示するとおり・・・・使用収益の対価としての性質はなく,更新拒絶権放棄の対価としての性質もないか,あったとしてもその意義は希薄なものというべきであるから,控訴人の主張はその前提を欠くものであり,採用することができない。」

イ 賃貸人更新拒絶権放棄の対価としての性質あるとの主張
「 控訴人は,居住用賃貸物件の賃貸借契約においても,正当事由の有無を明確に判断できない場合は少なくなく,このような場合,賃貸人は更新料を受け取るのと引換えに更新拒絶権を放棄し,賃借人も更新料を支払うことにより更新を拒絶されるリスクを回避するとして,本件更新料条項は,更新拒絶権放棄の対価としての性質を有すると主張する。」
「しかし,居住用賃貸物件の賃貸借契約において賃貸人が更新拒絶をすることは,建物の老朽化に伴い建替えが目論まれているなどの例外的事情がある場合のほかは想定しにくく,しかも,賃貸人がその賃貸物件を自己使用する必要性は通常乏しいと考えられるから,更新拒絶の正当事由が認められる可能性は少ないというべきである。そうすると,賃借人にとってみれば,更新料(特に本件では,1年ごとに月額賃料の2か月分というかなり高額の更新料である。)を支払って更新拒絶のリスクを回避する意味は小さく,控訴人の上記主張は採用し難い。」

ウ 賃借権強化の対価との主張
「控訴人は,本件賃貸借契約において,更新料を支払って合意更新した場合には,期限の定めのある賃借権が保障されるから,契約当事者の合理的意思解釈として,本件更新料条項には,なお賃借権強化の対価としての性質もあるというべきであると主張する。」
「しかし,法定更新された場合の解約申入れにも正当事由の存在が必要とされており,本件では正当事由が認められる場合が少ないと考えられることからすると,法定更新後の賃借人の立場と合意更新後の賃借人の立場の安定性の差異はわずかに過ぎず,賃借権がそれによって強化されたと評価することは困難であることは,引用に係る原判決の説示するとおりである。そうすると,本件更新料条項に賃借権強化の対価としての性質は認められず,控訴人の主張は理由がない。」

エ 更新後の使用収益の対価との主張並びに中心条項との主張
「控訴人は,本件の更新料は更新後の使用収益に対する対価としての性質を有しており,しかも,更新料についての賃貸人と賃借人との合意はいわゆる中心条項に関する合意として,前段要件のうち「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し」に該当しないと主張する。」
「しかし,本件の更新料が目的物の使用収益に対する対価としての性質を有していないことは前記のとおりであるし,本件更新料条項が中心条項に当たるといえないことは引用に係る原判決の説示するとおりである。なお付言するに,控訴人は,中心条項は当事者が最も適切に決め得るものであると主張するが,そういえるためには,前提として,当該の条項の性質について当事者が十分理解し得る状況にあることが必要であると解すべきところ,被控訴人X1が本件の更新料について十分な知識を有せず,せいぜい,本件の更新料を単に賃貸借契約更新時に支払われる金銭と認識していたにとどまる可能性が十分あることは原判決説示のとおりであり,また,引用に係る原判決の説示するとおり,本件更新料条項に関する情報の質の点で控訴人と被控訴人X1との間に格差があったと認められることに照らせば,本件では上記の前提が欠けているといわざるを得ず,この点からも本件更新料条項が中心条項であるということはできない。」

オ 情報量の格差および交渉力の格差はさしてなしとの主張
「控訴人は,賃料,更新料等,賃貸借契約の中心的給付に関する事項は,ことさらに複雑な内容もなく,一般消費者にも十分理解できるものであり,持っている情報の質にさほどの違いはないから,本件に関しては,情報の質の格差を問題にする必要はなく,交渉力の格差も過大に評価すべきではないとして,本件更新料条項は後段要件に該当しないと主張する。」
「しかし,被控訴人X1が本件の更新料条項について十分な知識,理解を有していたと認められないこと,控訴人と被控訴人X1との間に情報の質の格差が現に存在したことは前記のとおりであるから,控訴人の主張は採用し難い。」

カ 更新料の対価性の主張
「控訴人は,本件の更新料の対価性は認められるべきであり,被控訴人X1は原判決のいうような利益を侵害されておらず,契約期間や賃料月額に照らすと,本件の更新料の金額(家賃の2か月分)は過大ではなく,本件の更新料があるため,月払い賃料一本方式の場合よりも月額賃料は低く設定され,仲介手数料,敷金等も少なくて済むという利点があると主張する。」
「しかし,本件の更新料の対価性が認められないか,認められたとしても乏しいことは前記のとおりである。また,控訴人は,本件の更新料があるため月額賃料は低く設定されているというが,これを認めるに足りる的確な証拠はないから,控訴人の主張は理由がない。」   キ「控訴人は,本件の更新料は控訴人にとって月額賃料を補充する貴重な収入源であり,その収入を過去に遡って返還を命ぜられることは不測の損害であり,取引の安全を著しく害すると主張する。」
「しかし,消費者契約の条項が消費者契約法10条により無効とされる場合には,当該条項により移転された給付について,不当利得として返還を要することは明らかであり,控訴人の主張を採用することはできない。控訴人としては,上記の収入を確保しようとするのであれば,端的に更新料相当分を賃料に上乗せした賃料の設定をして賃借人となろうとする者に提示し,賃借するか否かを選択させることが要請されるというべきである。」

ク 両当事者の比較考量の主張
「控訴人は,原判決は両当事者の事情を比較考量せず,契約の一方当事者である消費者の不利益だけを考慮の対象としており,当該条項を無効とすることによる事業者の不利益を考慮しておらず,後段要件該当性の判断を誤っていると主張する。」
「しかし,原判決が事業者の不利益を考慮の対象としていることは,その説示するところから明らかである。そして,原判決の認定した事実に鑑みれば,本件更新料条項の後段要件該当性は優に認められるから,控訴人の主張は理由がない。」


3 本件定額補修分担金条項についての判断
 ア 「控訴人は,本件定額補修分担金条項はあらかじめ賃借人の負担部分を定額で確定させることで,契約終了時における賃借人・賃貸人間の紛争を回避する機能を有するものであり,賃借人・賃貸人の双方がそれぞれリスクと利益を分け合う交換条件的な内容を定めたものであって,合理的な内容を有しており,前段要件に該当しないと主張する。」
「しかし,定額補修分担金という方式によるリスクの分散は,専ら多数の契約関係を有する賃貸人につき妥当するものであると解され,また,賃貸人にとってはこの分担金を先に徴収することによって,原状回復費用の算定や提訴の手間を省き紛争リスクを減少させるという利益があるが,賃借人にとっては,通常の使用の範囲内であれば自己の負担に帰する原状回復費用は発生しないのであるから,定額補修分担金を支払うことによる利益があるのかどうか疑問であるといわざるを得ない。本件の定額補修分担金が月額賃料の3倍以上であることに照らせば,なおさらである。よって,控訴人の主張は採用することができない。」「なお,控訴人は,原判決によれば,消費者契約においては,消費者側が結果として不利益な結論となり得る場合であれば,常に前段要件を満たすことになると主張するが,本件においては,原判決も説示するように,軽過失による損耗の原状回復費用が月額賃料の3倍以上になることは考えにくく,賃借人側に不利益な結論となる可能性が高いということがいえるから,控訴人の批判は当たらない。」
イ「控訴人は,軽過失による損耗の原状回復費用が月額賃料の3倍以上になることは考えにくいとした原判決の判断を不当とするが,軽過失による損耗の場合に生ずる原状回復費用をすべて賃借人に負担させることは相当でなく,そこから通常損耗により生ずる原状回復費用を除く必要があることからすれば,賃借人の負担すべき軽過失による損耗の原状回復費用が月額賃料の3倍以上になることは通常考えにくいというべきであり,控訴人の主張は理由がない。」
ウ「控訴人は,消費者は契約書及び重要事項説明書によって定額補修分担金条項を含む契約を締結することで,過失による損害額として最終的に負担すべき金額をあらかじめ提示されており,同条項につき,消費者に予想していない不利益を与える結果となるような情報の格差はないから,本件定額補修分担金条項は,信義則に反するほど消費者の利益を一方的に害するものではなく,後段要件を満たしていないと主張する。」
「しかし,控訴人と被控訴人X1には,本件定額補修分担金条項に関し,情報及び交渉力の格差があったこと,被控訴人X1は,本件定額補修分担金条項が自分にとって不利益であることを認識しないまま,同条項により一方的に不利益を受けたものというべきことは,引用に係る原判決の認定・説示するとおりであり(「事実及び理由」中の第3の2(2)),控訴人の主張は採用することができない。」

2010.10.30

大家さんのための賃貸借の法務 第3回 居住用建物賃貸借締結の実務(その3)

NPO法人日本地主家主協会 の会員向けニューズレター「和楽」に平成22年1月から12月(予定)まで 建物賃貸借関連の論考を 投稿した。同協会の了解も得て、順次、このブログに掲載中である。
今回は、第3回
契約締結に関し、礼金、更新料、敷金など、家賃以外の金銭のやりとり関連の合意について書いている。

1 礼金や更新料の問題点  

礼金とは、不動産の賃貸借契約の締結の際に賃借人が賃貸人に対して支払う一回払いの料金である。関東地方で授受される例が多い。
  更新料とは、賃貸借契約の期間が満了した場合、契約の更新にあたって賃借人から賃貸人に支払われる金銭である。
  礼金や敷金については、個人の居住者への賃貸借の場合、消費者契約法との関係が問題になる。同法は、事業者である貸主と消費者である借主との間に適用があるが、同法10条では、
・民商法の規定以上に消費者の権利を制限し、又は義務を加重する条項で(要件A)、
・信義則に反して消費者の利益を一方的に害するもの(要件B)、
は無効としている。
  礼金の性質は、①賃貸借契約締結への謝礼、②賃料の前払い、③退去後の空室期間に賃料が得られないことへの補償、④自然損耗に関する原状回復費用などと言われている。また、更新料の性質は、①賃貸人の更新拒絶権放棄の対価、②賃借権強化の対価、③賃料の補充などと言われている。民法では、賃貸借契約の借主の金銭負担に関する義務は、賃料だけであるから、礼金や更新料を支払うという合意は、見方によっては、民法以上に義務を加重するといえなくもない。また、物件の内容や賃料額と比べて、著しく高額な礼金や更新料には、消費者の利益を一方的に害するといえる場合もあろう。

2 有効な礼金や更新料合意をするにはどうすべきか。 

 礼金・更新料の有効性については、更新料につき高裁の判断がわかれており、最高裁判所判決の判断がまたれるところである。現時点でいえるのは、短期の賃貸借期間かつ低廉な家賃であるにも関わらず、突出して高額な礼金や更新料の授受を合意した場合、無効との判断をしやすいという点である。また、礼金や更新料の意味について、契約前に説明がないときも、無効判断の呼び水になる。そこで、礼金や、更新料をやめて、賃料の額に加算することも考えられるが、礼金や更新料による月額賃料低額化のメリットを生かし、性質が賃料であるとの事前説明の下、適切額を授受する約束をすることで有効性を認められないかと考えている。
  高等裁判所の更新料判決
大阪高等裁判所平成21年8月27日判決 判時2062号40頁  更新料無効判決
大阪高等裁判所平成21年10月29日判決 判時2064号65頁  更新料有効判決
大阪高等裁判所平成22年2月24日判決 消費者法ニュース84号223頁  更新料無効判決


3 敷金合意での注意

  敷金とは、不動産の賃貸借の際、賃料その他賃貸借契約上の債務を担保する目的で賃借人が賃貸人に交付する停止条件付返還債務を伴う金銭である。
敷金については、賃借人の債務を担保するための預かり金として、合理性の説明がしやすい。もっとも、賃料額や賃貸借期間に比して、高額敷金を預かる例については、担保としての敷金の合理性に疑問が出る場合もあるので、この点は注意が必要である。賃貸借終了時の敷金充当の問題については、後に原状回復時の負担区分について述べる際に、触れることとする。
  関西地方でみられる合意として、敷引がある。敷引とは、賃貸住宅入居の際、敷金や保証金の名称で借主から貸主に対して支払われる預り金を、退去時に借主の債務の有無に係らず、一定割合を差し引いて返還することをいう。敷引については、現実の消耗や毀損の有無に関わらず、一定割合を差し引いてしまう点で、消費者の利益を一方的に害するものとして消費者契約法違反としている裁判例が多数みられるところである。

 高等裁判所の敷引無効判決
①大阪高等裁判所平成18年5月23日判決 裁判所ウエッブサイト
②大阪高等裁判所平成21年6月19日判決 公刊物未掲載

☆まとめ
 今回は、賃貸借契約でみられる礼金、更新料、敷金の合意について述べた。礼金や更新料、さらに敷引きについては、無効とする考え方があり、大家さんとしては戸惑う点が多いと思う。他方で、月額賃料を高額化しないという点で、賃借人にとってのメリットとなっている面もあり、契約時、更新時に賃料としての実質であることを明示して合意を得るなどの工夫の余地もあると思われる。また、判例の動いている分野でもあり、契約条項作成の際に、専門家への相談をしていただきたい。 以 上

2010.10.24

大家さんのための賃貸借の法務 第2回 居住用建物賃貸借締結の実務(その2)

NPO法人日本地主家主協会 の会員向けニューズレター「和楽」に平成22年1月から12月(予定)まで 建物賃貸借関連の論考を 投稿した。同協会の了解も得て、順次、このブログに掲載中である。

今回は、第2回
契約締結に関する続き。家賃関連の合意のあり方を書いている。

前回は、居住用賃貸借での規制の存在とそれを前提に考えていかざるを得ないこと、賃貸借契約締結にあたっては、契約内容の明確化、書面化などについて述べた。今回も賃貸借契約締結に関して引き続き、賃料の設定、賃貸借の種類などについての実務上の注意点を述べたい。

1 なんといっても賃料は大事。高すぎると空き室率が上がってしまうが、安すぎても問題がある。適正な額の賃料を設定すべき。 

 賃料収入を得ることが大家さんにとっての居住用建物賃貸借の目的であるので、賃料をどうするかは最大の関心事であろう。紛争予防という観点からは、適正な賃料での賃貸借の締結が当事者双方にとり、有益である。当初の契約で、空き室を減らしたいなどの理由で、近隣の賃料の額などより低廉な額での賃料での合意をしてしまう場合がある。このような場合、適正額より低いとして、途中で適正額まで増額できるかというとそう簡単には行かないことが多い。低い賃料にした何らかの事情が変更になったといえるかとの観点から増額を認めるか否かを考えることになることが多いからである。
  適正な賃料は、鑑定をすればもっとも正確であろうが、費用の問題もあり、賃料相場や建物取得原価などによる簡単な査定をして決めていることが多いと思われる。また、管理費用を賃料に含めるのか別とするのか、水道光熱費は別であるとするのか等細かい点にわたるが、後にトラブルのきっかけとなる事項をつぶしておくことも重要である。
  なお、毎年賃料が自動的に増額するような合意をしたい場合がある。しかし、このような賃料の増減についての何らかの約束をしても、後述の定期建物賃貸借の場合以外は、借地借家法は、賃料が、土地や建物に対する固定資産税・都市計画税などの租税公課の増減、土地や建物の価格やその他の経済的事情の変動、近傍同種の建物の賃料に比べて不利な賃料となった場合などは、契約の条件にかかわらず、当事者から賃料の増減を請求できるとしている(借地借家法32条1項)。したがって、賃料自働増額合意は効力がないとはいえないものの、合意とおりの増額ができなかったり、減額請求がなされることを防げなかったりすることがあるので注意を要したい。

2 更新型建物賃貸借か定期建物賃貸借か。 

 借地借家法で保護されている賃貸借期間の面での賃借人の保護を更新をしないものとして、契約期間の保護だけとするのが定期建物賃貸借である。定期建物賃貸借にすることにより、更新型建物賃貸借(普通建物賃貸借ということもある。)による法定更新(賃貸人が更新を拒絶した場合でも、正当事由が認められない限り、更新が強制される制度)が排除される点(借地借家法38条1項)、更新型賃貸借では無効とされる賃料増額事前合意が有効となる(同条7項)などの賃貸人に有利な面が多々ある反面、契約締結などが要式化しており借地借家法規定どおりの手続を経ないと定期建物賃貸借とは認められず普通建物賃貸借とされてしまう。また、200平米未満の物件の場合には、一定の場合に賃借人からする中途解約が認められる(同条5項)などの賃貸人にとり甘受しなければならない点もある。
  更新強制がはずれる点、定期建物賃貸借が有利とも考えられるが、賃料の額等を含めて総合的に検討して、決定すべきであろう。また、スライド制賃料などの賃料増額事前合意をする場合は、定期建物賃貸借とすべきと思われる。ただ、注意を要するのは、定期建物賃貸借といえども、期間満了時はもとより、賃料不払により契約解除した場合でも、契約が終了したとして、鍵を換えたり、賃借人の物品を外に出すなどの自力救済は許されないということである。

3 では、定期建物賃貸借とする場合はどうするのだろうか。  

定期建物賃貸借とする場合、「契約の更新がないこととする」旨の合意をすることになるが、この合意を有効とするための手続的な要件として、① 賃貸人が、賃貸借契約締結前にあらかじめ、賃借人に対して、「契約の更新がないこと」、「期間の満了により終了すること」を記載した説明書面を交付して、説明をすること(借地借家法38条2項)、② 更新がないことの合意を含む賃貸借契約全体を書面ですることが必要であり(同条1項)、合意のとおり、期間の到来による終了の効果を発生させるための手続的な要件として、③ 契約期間が1年以上である場合は、期間満了の1年から6カ月前までに期間満了により賃貸借が終了する旨の終了通知をしなければならない(同条4項)。
  これらの①乃至③のいずれかが欠けても、期間満了による賃貸借契約終了という定期建物賃貸借の効果は生じない。

☆まとめ 
 大家さんにとっての一番の関心事は、家賃の額かもしれないが、適正賃料の設定をこころがけておかないと後に増額は困難である。定期建物賃貸借により、終期は明確になり、賃料の増額合意も可能となるが、契約締結の仕方が定まっておりこれに反すると普通建物賃貸借とされてしまうし、終了についても終了通知を怠ると、期限どおりには終了させられなくなるので注意を要する。

2010.10.17

大家さんのための賃貸借の法律実務第1回(居住用建物賃貸借締結の実務その1)

NPO法人日本地主家主協会 の会員向けニューズレター「和楽」に平成22年1月から12月(予定)まで 建物賃貸借関連の論考を 投稿した。同協会の了解も得たので、順次、このブログに転載(一部改定する場合があります。)したい。

まずは、第1回
契約締結について。


 賃貸借とは、賃貸人が賃借人に対して賃貸物件の使用収益を認め、賃借人はその対価(地代・家賃)を支払うことを内容とする契約をいう(民法第601条)。居住用建物賃貸借では、民法、借地借家法、消費者契約法などの法律が登場する。基本は、民法にあり、借地借家法が、第三者に対する効力や賃貸借期間の面での賃借人の保護を、消費者契約法が、消費者である賃借人の利益を不当に害しないか等の観点での賃借人の保護を、はかっているのが居住用建物賃貸借をめぐる法状況である。それゆえ賃貸人にとっては、自らに不利であると感じる場面も少なくない。ところで、賃貸借契約をめぐり、できる限り無用な紛争が生じないようにすること、紛争が生じた場合でも解決が容易であることが、重要である。たとえ、不利益な制度と感じることがあっても、これらの法制度を前提とした紛争予防的な賃貸借契約を締結し、運用していくべきであり、ひいては、そのことが賃貸人の利益につながる。以上を踏まえ、まず、3回ほどにわたり、居住用建物賃貸借契約を締結する際の留意点を検討する。

1 一番大事なことは目的物の特定と当事者の特定および契約の明確性。

  賃貸人が賃借人に何を貸して、賃料を受け取るのか、目的物が明確となっていなければ、争いが起こったときに、どの物件についての争いかも不明確となってしまう。対価が支払われているのかいないのかさえ不明となることもある。家賃増額請求をする場合や減額請求をされた場合に基準面積が不明となることもある。家賃不払いなどを理由とする明渡し等の裁判をする場合は、特定することが必要である。
  また、誰が誰に貸しているのかが不明確では、賃貸借が有効に成立しているのか、義務違反が起きているのか、誰に賃料を請求したらよいのか、誰が賃料を受け取ればよいのかなど全てが不明確になってしまう。これでは紛争が頻発する。
  根拠が曖昧なままに、共有部分等に賃借人の所有物が置いてあるような場合や契約書の賃貸人とは別の者が賃料を受け取っていたり、賃借人とは別の者が居住していたりすることがある。これでは既に紛争が発生している状態というべきである。

2 書面での作成を必ず行う。特約には注意を!  

紛争予防の観点からは、当然ながら、賃貸借契約は「賃貸借契約書」という形で書面とする必要がある。また、定期建物賃貸借では、書面で作成することが要件ともなっている(借地借家法38条1項)。書面による場合、住宅宅地審議会の答申による賃貸住宅標準契約書や宅地建物取引業協会などの業界団体が作成したものなどのひな型を使うことで、条項にもれはないと思われる。ただし、後に触れるように、更新料条項などその効力について解釈が分かれることがあることも承知しておく必要がある。
  書面を作成する目的は、紛争予防にある以上、その契約文言等は明確で一義なものとする必要がある。ひな型を用いる場合は、一応の明確性が確保できると思われるが、注意を要するのは「特約条項」である。たとえば、居住用の賃貸借であったはずなのに、賃借人の要望に応えて、特約条項中で居住室内での物品販売を容認していたために、店舗化してしまい、これが契約違反かどうかが争われる例などがある。また、不具合箇所について特約等で明確にしなかったため、引渡し後瑕疵ある建物として、賃貸人に修繕等を請求される例がある。

3 まとめ
  居住用賃貸借では、民法、借地借家法、そして消費者契約法などの規制があり、結果、賃借人が保護され、賃貸人に不利であるかのようであるが、賃貸人としてもそれを前提に考えていくことが重要である。
  賃貸借契約締結にあたっては、目的物・当事者を特定して契約内容を明確にすること、書面にすること、ひな型を使う場合も、特約をどうするかに注意を要することが重要である。

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