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2010.11.02

借家契約の更新料条項の有効性を否定した例(大阪高裁判決)その2

昨年の夏、大阪高等裁判所は借地契約の更新料条項の有効性を否定し、有効性を認めていた原審を逆転させて、更新料返還請求を認容する判決をなした。
その後、さらに、既に、紹介した 更新料有効性肯定判決と更新料有効性否定判決がいずれも大阪高等裁判所からなされており、最高裁判所の判決がまたれる。

すなわち
大阪高判平成21年8月27日判時 2062号40頁は、
次のように判示して、建物賃貸借契約を更新する際、1年毎に10万円の更新料を支払う旨の条項が、消費者契約法10条に反し無効であるとして、これを有効とした一審判決(京都地判平成20年1月30日判時2015号94頁)を取り消した。

同判決は、まず更新料の法的性質として、被控訴人(賃貸人)が主張する、①更新拒絶権放棄の対価、②賃借権強化の対価、③賃料の補充の性質 のいずれについてもこれを否定した結果、法的説明が容易にできない対価性のないものとした。その上で、民法601条にの賃貸借契約の基本的内容には含まれないことが明らかであるとし、本件賃貸借契約において附款として定められた,更新の際に支払われる対価性の乏しい給付というべきであるから,本件更新料約定は,民法の任意規定の適用される場合に比して賃借人の義務を加重する特約であるということができるとして、更新料約定は,消費者契約法10条前段に該当するとした。
そして、同条後段該当性については、賃料に対して1年毎の更新料の高額性、賃貸人賃借人の間の情報収集力の差、法定更新制度を知らずに更新料契約をさせている点、などかこれを認め、また、中心条項性を否定した。
以上により、更新料契約を無効としたものである。
以下、判示を抜粋する。

(判示)
1  更新料の法的性質
 ①更新拒絶権放棄の対価(紛争解決金)の性質について
「ア 不動産賃貸業者である被控訴人がその事業の一環として行う本件賃貸借契約のように,専ら他人に賃貸する目的で建築された居住用物件の賃貸借契約においては,もともと賃貸人は,賃料収入を期待して契約を締結しているため,建替えが目論まれる場合など頻度の少ない例外的事態を除けばそもそも更新拒絶をすることは想定しにくく,賃借人も,更新拒絶があり得ることは予測していないのが普通の事態であるというべきである。
そして,仮に例外的な事態として賃貸人が更新拒絶をしたとしても,建物の賃貸人は,正当事由があると認められる場合でなければ,建物賃貸借契約の更新拒絶をすることができず(借地借家法28条),賃貸人の自己使用の必要性は乏しいため,通常は更新拒絶の正当事由は認められないと考えることができるから,更新料が一般的に賃貸人による更新拒絶権放棄の対価の性質を持つと説明することは,困難である。
とりわけ,被控訴人の側から可能な更新拒絶の申出期間は期間満了時の1年前から6か月前までである(借地借家法26条1項,30条)のに対し,本件賃貸借契約においては,契約期間が1年という短期間でしかない。したがって,仮に更新料が更新拒絶権放棄の対価であるとすると,賃借人である控訴人の得られる更新拒絶権放棄の利益は契約期間の半分であるわずか6か月しかないことになり,控訴人はこのような短期間にもともと現実化する確率の極めて小さな更新拒絶という危険を放棄するという実に些少な利益のために10万円という些少とはいえない対価を支払うことを肯んじることになるが,そのようなことはまずあり得ないから,なおさら説明困難というべきである。

イ その上,本件契約条項は,第21条において,被控訴人,控訴人が賃貸借期間の満了時から各自につき一定期間内に更新拒絶の申出をしない限り,当然に契約が更新されることを定め,なお書きにおいて,その場合には控訴人に更新料の支払を義務付けている。弁論の全趣旨によれば,本件契約条項は,当初本件賃貸借契約においてはもちろんのこと,これを引用する本件更新契約においても,被控訴人の側が検討してあらかじめ作成したいわゆる約款であることは明らかであり,控訴人との交渉を経ないで被控訴人の側により自由に定められたものである。
本件契約条項の定め方においても,被控訴人による更新拒絶権放棄の意思表示は,更新の要件とされていないのはもちろん,更新料の支払義務発生の要件ともされていないことが明らかである。また,約款の規定上,控訴人が更新料を支払った効果として更新拒絶権放棄が定められてもいない。
本件契約条項の上記のような文言に照らすと,被控訴人も,当初本件賃貸借契約時及び本件更新契約時を通じて,本件賃貸借契約において更新料が更新拒絶権放棄の対価であるとは考えていなかったことを見て取ることができる。

ウ 被控訴人は,更新料の支払による更新が予測される場合には,賃貸人は,更新拒絶の有無を検討することなく更新に応じており,更新料は,その支払いを約することにより,画一的に更新拒絶権行使に伴う紛争を回避する目的もあると主張する。
しかしながら,一般的に,建物の賃貸借とりわけ前述の居住用賃貸建物の賃貸借契約においては,賃貸人が更新拒絶する事態は例外的な場合を除いてあり得ないことに属し,本件更新料約定のような特約の有無にかかわらず,契約の更新をめぐって賃貸人と賃借人との間で当然に紛争が予想されるということはできないし,少なくとも,本件全証拠を精査しても,賃借人である控訴人が被控訴人との間で将来更新拒絶をめぐる紛争が発生することを予見し,そのことを回避することを認識して当初本件賃貸借契約及び本件更新契約に臨んだことは全く認められない。また,被控訴人の主張するように,近時賃貸物件の供給過剰状態が続いているとすれば,賃貸借契約の更新がされないことによる危険は,賃貸人も,賃借人以上に又は少なくとも賃借人と同様に負うのが自然の流れであるから,その危険は対等に負担されるのが相当であり(消費者契約法の下では,情報格差等を是正した上で契約当事者が真に対等な関係の下で自由な意思形成をし契約が締結されることにより,市場メカニズムが機能し,効率的で合理的な取引がされることが目指されているのであるから,このことは,特に強調されるべきである。),賃貸人のみが更新拒絶権放棄の対価として更新料を取得すべき理由はないというべきである。

エ なお,現実に更新拒絶の正当事由(少なくともそれに該当すると契約当事者が考えるのも無理からぬ事由)が存在すれば,その後の更新料の支払が,更新拒絶権放棄の対価と評価できる場合もあり得ないではないと考えられる。しかし,本件では,全証拠によっても,そのような事由の存在は認められない。」

②賃借権強化の対価の性質について
「ア 確かに,被控訴人と控訴人との間で本件更新料が授受されることにより賃貸借契約の合意更新が行われて,更新後も期間の定めのある賃貸借契約となるとすれば,控訴人は,契約期間の満了までは明渡を求められることがない。これに対し,法定更新の場合には,更新後の賃貸借契約は,期間の定めのないものとなり(借地借家法26条1項),賃貸人は正当事由がある限り,いつでも解約を申し入れることができることとなるから,抽象的には,その限度で賃借人の立場は不安定なものとなる。したがって,更新料を支払って合意更新することには,期間の定めのある賃貸借契約とすることができ,一応,賃借人にとって利益が存することになる。また,被控訴人が更新拒絶権を行使した場合には,正当事由の存否の判断に当たり,従前本件更新料の授受がされていることが考慮されると考えられる。
そうすると,一見すると,本件賃貸借契約における更新料は,賃借権強化の性質を有すると見えなくもない(もっとも,契約期間の定めがあっても,賃借人からは解約の申入れをすることができると解されるものの,仮に,これを消極に解する余地があるのならば,本件更新料の授受により期間が定められることは,そもそも賃借人の地位ひいては賃借権の強化とはならないことになりかねない。)
イ しかしながら,前述のとおり,本件賃貸借契約においては,契約期間が1年間という借地借家法上認められる最短期間であって,合意更新により解約申入れが制限されることにより賃借権が強化される程度はほとんど無視してよいのに近い。また,前述の更新拒絶の場合と同様に,本件賃貸借契約のように専ら他人に賃貸する目的で建築された居住用物件の賃貸借契約においては,通常は賃貸人からの解約申入れの正当事由は認められないと考えられる。
したがって,本件更新料を評して賃借権強化の対価として説明することも,難しいというべきである。
なお,この場合も,更新拒絶の正当事由(少なくとも契約当事者がそれがあると考えるのも無理からぬ事由)があるとして更新拒絶権が行使され,あるいは,将来解約申入れの正当事由(少なくとも契約当事者がそれがあると考えるのも無理からぬ事由)が発生すると契約当事者が予測して,更新料が支払われた場合は,それが賃借権強化の対価として理解する余地がないではない。しかし,本件においては,それらの事情を認めるに足りる証拠はない。」

③賃料の補充の性質について
「ア 前記1の認定事実及び前記第3の2の争いのない事実等と弁論の全趣旨によれば,契約期間は当初本件賃貸借契約においても本件更新契約後もいずれも1年間(約1年間を含む。)とされ,家賃(共益費,水道代を含む。)が1か月4万5000円と定められ毎月末日までに翌月分を支払うこととされているのに対し,本件更新料は,契約更新がされたときに当然に10万円を支払うこととされていること,本件賃貸借契約には,賃借人が本件更新料が支払われた後契約期間満了前に退去した場合に未経過期間分に相当する額の精算をする規定はなく,被控訴人も,そのような精算をする意思は全くないこと,本件賃貸借契約には,被控訴人は,契約期間中においても家賃,共益費の増額変更請求権が明記されているにもかかわらず,本件更新料についてはそのような規定はなく,被控訴人も控訴人のいずれも,当初本件賃貸借契約締結時及び本件更新契約時を通じて,本件更新料については変更がされ得るとは認識していなかったことが認められる。
ここで,当然のこととして,本件更新料は,本件賃貸借契約が更新されないときに授受されることはないから,後払いされる賃料の性質を持たないことは明白である。
そして,本件賃貸借契約においては,更新が繰り返されても,あるいは事情の変化があっても,本件更新料は,家賃とは異なり基本的に10万円の定額のままで変更することが予定されておらず,したがって,家賃の増減と連動することがなく,また,現実に更新後本件賃貸借契約が1年の期間途中で終了した場合でも全く精算されない扱いとされていることが明らかにされている。そうしてみると,本件更新料の性質を前払賃料として説明することも困難である。
さらに,賃料が不払いであれば,賃貸人は,当然に催告,解除の手続を経て本件賃貸借契約自体を債務不履行解除することができることは疑いない。ところが,控訴人が家賃の支払を完全に履行し続けながら本件更新料を不払いとした場合,法定更新の要件がある限り,被控訴人が催告,解除の手続をしても,本件賃貸借契約自体の債務不履行解除を認めるべき余地はないと言って差し支えない。
そうすると,本件更新料を民法,借地借家法上の賃料,借賃と解することはできない。

イ もっとも,被控訴人は,賃貸人は更新料約定があるときは,月々の賃料を定めるに当たり一時金として更新料収入があることを考慮しており,更新料を賃借物の使用収益の対価として把握していると意思解釈すべきであるし,賃借人も,説明を受けて更新料を更新の際に負担する返還義務のない金員であることを理解し,更新料を含む全経済的負担を算定しているから,更新料を使用収益の対価として把握していると意思解釈できると主張する。
確かに,本件では,被控訴人は,居住用賃貸建物である本件建物を所有して不動産賃貸業を営んでおり,その一環として,控訴人との間で本件更新料約定を含んだ本件賃貸借契約を締結して控訴人に本件物件を賃貸しているのであり,控訴人も,当初本件賃貸借契約を締結するに当たり,本件更新料に関する記載のある重要事項説明書に基づいて説明を受けて契約を締結したのであるから,被控訴人,控訴人ともに,当初本件賃貸借契約締結時及び本件更新契約時に本件更新料が賃料とともに全体として本件物件の使用収益に伴う控訴人による経済的な出捐であると認識していたと推認する余地はなくはない。
しかしながら,前記のとおり,被控訴人の側においてあらかじめ十分に検討して作成したと認められる本件契約条項を見ても,本件更新料については,第21条に,被控訴人,控訴人が賃貸借期間の満了時から各自につき一定期間内に更新拒絶の申出をしない限り,当然に契約が更新されること,なお書きに,その場合には控訴人は更新料を支払う義務があることがそれぞれ記載されているだけで,本件更新料の説明は全くされていない。この点では,本件敷金については,第5条,第18条において,その授受の目的,性質,授受の効果がはっきりと明示されている(乙1)のと際だった違いを示している。重要事項説明書も,本件契約条項第21条以上の説明を加えていない。そして,本件全証拠によっても,被控訴人又はその意向を受けた仲介業者である京都ライフが,当初本件賃貸借契約の締結までに,またそれ以降本件更新契約時までにも,控訴人に対し,本件更新料について,本件賃貸借の契約更新時に支払われる金銭であることを超えて,その授受の目的,性質などについて法律的観点からはもちろん事実上の観点からも,何らかの説明をしたとは認められない。
したがって,本件賃貸借契約の当事者である被控訴人と控訴人の双方に,特に控訴人には,当初本件賃貸借契約締結時及び本件更新契約締結時を通じて,本件更新料は単に契約更新時に支払われる金銭という以上の認識はなかったと推認するほかはない。
そして,前記アにおける検討の結果をも総合すると,本件更新料について,経済学的な説明としては,被控訴人が控訴人に本件物件の使用収益を許す対価であるということができ,当初本件賃貸借契約締結時及び本件更新契約締結時に,当事者双方がともに経済的な意味ではこれを認識していたとしても,仮に本件更新料が本来賃料であるとすれば当然備えているべき性質(例えば,前払賃料であれば,賃借人にとって有利な中途解約の場合の精算)も欠いている以上,法律的な意味で当事者双方がこれを民法,借地借家法上の賃料として認識していたということはできず,法律的にこれを賃料として説明することは困難であり,本件更新料が賃料の補充としての性質を持っているということもできない。
なお,賃貸借契約の当事者間においては,賃料とされるのは使用収益の対価そのものであり,賃貸借契約当事者間で賃貸借契約に伴い授受される金銭のすべてが必ずしも賃料の補充の性質を持つと解されるべきではない(そうでなければ,敷金はもちろん,電気料,水道料,協力金その他何らかの名目を付けさえすれば,その名目の実額を大幅に超える金銭授受や趣旨不明の曖昧な名目での金銭授受までも賃料の補充の性質を持つと説明できるとされかねないからである。)。このことからも,上記の判断は,裏打ちされるというべきである。

ウ また,被控訴人は,被控訴人,控訴人間で本件更新料が賃料の前払であるとの説明がなかったとしても,更新料は遅くとも昭和40年代以降全国都市部の居住用物件の賃貸借契約で広く用いられており,企業,生活保護でも補助,扶助の対象とされ,民事調停,和解,公正証書でも更新料条項が用いられているから,本件更新料の性質を賃料の補充であると合理的に意思解釈すべきであると主張する。
しかし,従来,賃貸建物の賃貸人と賃借人の間で授受され,あるいは民事調停,和解,公正証書の条項に現れた更新料という名のものも,それをめぐる事実関係,性質はそれぞれに異なり様々であり,地代家賃統制令下で授受されたもの,一旦有効に債務不履行解除された賃貸借を復活させる一種の和解金など具体的な事実関係の下でそれぞれ法律的な意味合いが異なり得ることは,自明である。
また,仮に,企業,生活保護において,更新料に対して補助,扶助が行われているとしても,それらは,それぞれの補助,扶助の目的に合致するかどうかの見地から行われることでしかない(なお,本件では,後記のとおり,差し当たっては消費者契約法10条の適用の有無との関係で検討しているのであるから,更新料の補助,扶助が行われているかどうかとは直接の関わりを持たないというほかはない。しかも,被控訴人の主張は,消費者契約法立法のされる前から引き継がれてきた状況を前提とするものでしかなく,消費者契約法立法の趣旨と対比する場合には当然に重視されるべき事柄ということはできない。)。
そして,建物賃貸借の更新時に更新料を授受するとの慣習法は認められないし,本件全証拠によっても,そのような事実たる慣習が存在するとは認定することができない。
結局,被控訴人の上記主張は,採用することができない。」

④本件更新料の法律的な説明
「以上に検討してきた本件の事実関係の下では,本件更新料は,当初本件賃貸借契約締結時及び本件更新契約時に,あらかじめその次の更新時に控訴人が被控訴人に定額の金銭支払いが約束されたものでしかなく,それらの契約において特にその性質も対価となるべきものも定められないままであって,法律的には容易に説明することが困難で,対価性の乏しい給付というほかはない。」

2  本件更新料約定の消費者契約法10条前段該当性
「 (1)前述のとおり,被控訴人と控訴人とは,平成12年8月11日ころ契約期間を同月15日から平成13年8月30日までの約1年間とし,本件更新料約定を含む当初本件賃貸借契約を締結したが,約1年間を経た同月3日ころから1年ごとに新たに契約更新証書を作成して本件更新契約により本件賃貸借契約を更新したことが明らかである。本件更新契約は,契約内容を従来とおりとするものの,契約期間を新たに定めた以上は,消費者契約法の適用関係では新たな賃貸借契約とみるほかはないから,消費者契約法の適用を受けるというべきである。
そして,本件更新契約で引用されている「別紙賃貸借契約書」とは,当然当初本件賃貸借契約において作成授受された建物賃貸契約書(乙1)のことを指すと認められるから,本件更新契約締結以降は,そこで引用される限りにおいて本件賃貸借契約は,すべて消費者契約法の適用を受けることとなり,それに記載された本件契約条項に含まれる本件更新料約定も,本件更新契約の一部として消費者契約法の適用を受けざるを得ない。
 (2)そこで,まず,本件更新料約定が「民法,商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」(消費者契約法10条前段)に該当するかどうかについて検討する。
 (3)その検討の前提として,前記第3の2の認定事実と弁論の全趣旨によれば,控訴人が消費者契約法2条1項所定の「消費者」に,被控訴人が同条2項所定の「事業者」に該当することが認められ,本件賃貸借契約が同条3項の「消費者契約」に当たることは明らかである。
 (4)民法601条によれば,賃貸借契約は,賃貸人が賃借人に賃借物件の使用収益をさせることを約し,賃借人がこれに賃料を支払うことを約する契約であり,賃借人が賃料以外の金銭支払義務を負担することは,賃貸借契約の基本的内容には含まれないことが明らかである。
ところが,本件賃貸借契約では,本件更新契約締結以降における契約更新時に控訴人が被控訴人に更新料10万円を支払わなければならないこととされており,前述のとおり,この本件更新料も本件賃貸借契約において附款として定められた,更新の際に支払われる対価性の乏しい給付というべきであるから,本件更新料約定は,民法の任意規定の適用される場合に比して賃借人の義務を加重する特約であるということができる。
したがって,本件更新料約定は,消費者契約法10条前段に該当するというべきである。」

3  本件更新料約定の消費者契約法10条後段該当性
「 (1)次いで,本件更新料約定が「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」(消費者契約法10条後段)に該当するかどうかについて検討する。
この要件に該当するかどうかは,契約条項の実体的内容,その置かれている趣旨,目的及び根拠はもちろんのことであるが,消費者契約法の目的規定である消費者契約法1条が,消費者と事業者との間に情報の質及び量並びに交渉力の格差があることにかんがみ,消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とすることにより消費者の利益の擁護を図ろうとしていることに照らすと,契約当事者の情報収集力等の格差の状況及び程度,消費者が趣旨を含めて契約条項を理解できるものであったかどうか等の契約条項の定め方,契約条項が具体的かつ明確に説明されたかどうか等の契約に至る経緯のほか,消費者が契約条件を検討する上で事業者と実質的に対等な機会を付与され自由にこれを検討していたかどうかなど諸般の事情を総合的に検討し,あくまでも消費者契約法の見地から,信義則に反して消費者の利益が一方的に害されているかどうかを判断すべきであると解される。
 (2)そこで,まず,本件更新料約定の実体的内容を見てみると,本件賃貸借契約の期間が借地借家法上認められる最短期間である1年間という短期間であるにもかかわらず,本件賃貸借契約における更新料の金額は10万円であり,月払の賃料の金額(4万5000円)と対比するとかなり高額といい得る。
法定更新の場合には,更新に条件を付することはできないため,更新料を支払う必要はないと解すべきであるから,このような高額の支払いをすることは,控訴人にとって相当大きな経済的負担となることは明らかである。
 (3)次に,本件賃貸借契約に本件更新料約定が置かれている趣旨,目的及び根拠について検討する。
これまで,全国の建物の賃貸借契約の一部において,更新料名下に金銭の授受がされてきたことは否めない。ところが,それらの事実関係は様々であり必ずしもすべての更新料と呼ばれるものについて全く同一の議論をすることができないことは,前述のとおりである。本件更新料の場合には,前述のとおり,更新拒絶権放棄の対価,賃借権強化の対価,賃料の補充の性質のいずれも認められない。
しかし,本件において控訴人,被控訴人のいずれもが本件更新料が賃料とともに全体として本件物件の使用収益に伴う出捐であると認識していたと推認し得る余地がないではないことも前述のとおりである。そこで,上記推認が相当かどうかはしばらく措いて,このような認識が存在すると仮定すれば,本件更新料は,それが賃料とともに全体として本件物件の使用収益に伴う控訴人による経済的な出捐であるということになる。
民法601条は賃貸借契約において使用収益の対価を賃料としている。ところが,本件全証拠によっても,本件賃貸借契約において,控訴人が賃料以外に本件物件の使用収益に伴い出捐することとされる本件更新料約定が置かれている目的,法的根拠,性質は明確に説明されていない。かえって,これまでの検討によると,消費者契約法の適用される現在では,控訴人の側からはもちろんのこと,被控訴人の側から見ても,本件更新料約定が維持されるべき積極的,合理的な根拠を見出すことは,困難である(むしろ,前記のとおり,賃料であれば本来備えているべき性質を欠いていることを,更新料という名称を用いることによりあいまいにさせる点では,消費者である賃借人にとって不利である。)。
そして,消費者契約法が立法された下で,改めて借地借家法の強行規定の存在を意識しつつ本件更新料約定を見直してみると,この約款は,客観的には,賃借人となろうとする人が様々な物件を比較して選ぶ際に主として月払の賃料の金額に着目する点に乗じ,直ちに賃料を意味しない更新料という用語を用いることにより,賃借人の経済的な出損が少ないかのような印象を与えて契約締結を誘因する役割を果たすものでしかないと言われてもやむを得ないと思われる。すなわち,一般に,全体の負担額が同じであっても,当初の負担額が少ない方を好む(あるいは,当初の負担額の少なさに気を取られて,全体の負担額の大小に十分な注意を払わない。)人々が少なからず存在することは,一般に知られた公知の事実である。そして,そのような人に対し,賃貸物件の経済的対価として更新時にしか授受されない更新料を併用することにより,法律上の対価である家賃額を一見少なく見せることは,消費者契約法の精神に照らすと許容されることではない。被控訴人に限らず事業者が他の事業者と競争するには,競争条件は,できるだけ明確,透明に,また誤認混同が生じないように整えられるべきである。
被控訴人は,賃貸建物は余剰のために借り手市場となっており,他の事業者よりも不利な契約条件を設定すれば,競争力を失うとも主張している。しかし,競争の激しい分野でこそ事業者によって不当な取引制限や不公正な取引方法が採用されやすいことも,公知の事実であり,もし,被控訴人が本件物件の賃貸により本件更新料に相当する金額をも含めた経済的利益を取得しようとするのならば,更新料としてではなく,端的に,その分を上乗せした賃料の設定をして,賃借人になろうとする消費者に明確,透明に示すことが要請されるというべきである。
 (4)そして,双方の情報収集力の格差について見てみると,前記1の認定事実及び前記第3の2の争いのない事実等と弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,居住用賃貸建物である本件建物を所有して不動産賃貸業を営んでおり,その一環として,控訴人との間で本件更新料約定を含んだ本件賃貸借契約を締結して控訴人に本件物件を賃貸していたことが認められ,自ら又は仲介業者を通じて,弁護士若しくはこれに準ずるその他の相談先,取引先を通じて,これまでに建物賃貸借に関する様々な情報(例えば,賃貸建物に適用される民事法の諸規定がどのような内容であるか,同種の賃貸建物と比較して本件契約条項に基づく諸条件が賃貸人である被控訴人に有利であるかどうかなど)を継続的に得ることができる立場にあり,また現実に相当長期間にわたりこれらの情報に接してきたと推認されるのに対し,控訴人は,居住用建物として本件物件を賃借したにとどまり,当初本件賃貸借契約締結時及び本件更新契約時を通じて,被控訴人と比べて建物賃貸借に関しては少ない情報しか有していなかったと推定され,被控訴人と控訴人との間において情報収集力に大きな格差があったことは疑いようがない。
そして,上記のとおり推認される事実からは,不動産賃貸業を営む被控訴人,又は少なくもその委託を受けてその手足として本件物件の管理業務に当たった京都ライフ(以下では,被控訴人と京都ライフを併せて「被控訴人側」という。)は,借地借家法の強行規定の内容をも十分に了知していたと推定することができる。
 (5)また,本件更新料約定の定め方を見てみると,本件契約条項は,第21条において,賃貸人,賃借人が賃貸借期間の満了時から各自につき一定期間内に更新拒絶の申出をしない限り,当然に契約が更新されることを定め,なお書きにおいて,その場合には賃借人は更新料を支払わねばならないと義務付けている。この第21条の定め方では,本文において賃貸人の更新拒絶に正当事由を要することを規定する借地借家法28条の要件の明記が敢えて避けられ,なお書きにおいて賃借人に更新料の支払が義務付けられている。
ところで,借地借家法28条によれば,同条所定の要件が充たされる限り,同条による法定更新がされ,同条が強行規定であることは同法30条の明文上自明であり,このことは,当初本件賃貸借契約締結時及び本件更新契約締結時を通じて被控訴人側には明らかに知られていたと推認することができる。これに対し,これらの契約締結時に,控訴人がこのことを知っていたことを示す証拠はなく,むしろ,前述の控訴人の状況に照らせば,控訴人はこのような法律上の定めを知らなかったことが推認できる。そして,弁論の全趣旨によれば,被控訴人側が重要事項説明の際にも,その後の当初本件賃貸借契約締結時及び本件更新契約締結時にも,本件物件の賃貸借に法定更新の制度の適用があることや,その場合には更新料を支払う必要がないことを説明したことは全くないことが認められる。
そして,控訴人は,重要事項説明書による説明を受けた上で本件契約条項の第21条を見ただけでは,借地借家法上賃貸借契約の更新がどのようなものであるかを知らずに,また更新料がどのような性質を持つかを深く考えず(法定更新の際には更新料を払う義務がないことも明確に認識しないまま),漠然と更新時に支払うのが更新料であると認識したのみで当初本件賃貸借契約及び本件賃貸借契約を締結したと推定される。
こうしてみると,本件契約条項第21条は,少なくとも客観的には,情報格差があり,情報収集力のより乏しい控訴人から,賃貸物件の更新に関する借地借家法の強行規定の存在から目を逸らさせる面があると言われてもやむを得ないということができる。
 (6)さらに,契約条項の明確性を検討してみると,確かに,本件賃貸借契約においては,約定された更新料の金額,支払条件等が明示されており,賃借人が1年に支払うべき賃料額と合計された総額は明確である。また,控訴人は,当初本件賃貸借契約締結に際して京都ライフから,本件更新料約定の存在及び更新料の金額について説明を受けてもいる。したがって,控訴人が本件物件の使用収益に伴い年額として支払うべき総額は明確に示されており,控訴人もその予測をすることができることから,明確性の程度はかなり高いということができ,一見すると,本件更新料約定があるからといって控訴人に特に不利益は生じていないように見えなくもない。
しかしながら,ここで,控訴人が契約条件を検討する上で被控訴人と実質的に対等な機会を付与されて自由にこれを検討したかどうかについて目を移してみると,控訴人は,上記(5)のとおり,重要事項説明と本件契約条項を示され,借地借家法上の強行規定の存在について十分認識することができないまま,当初本件賃貸借契約を締結し,本件更新契約締結に至っており,本件更新契約締結時に本件更新料約定が効力を生ずる場合と法定更新がされた場合その他の取引条件と自由に比較衡量する機会は十分には与えられていないから,実質的に対等にまた自由に取引条件の有利,不利を検討したということはできない。例えば,本件更新料約定に基づいて本件更新料を支払って更新がされた場合において,その後控訴人が短期間に解約申入れをして本件賃貸借契約を終了させたときは,当然に法定更新がされ得ることにより更新料支払義務がなく,賃料年額が本件更新料約定の下と同一に計算された場合と比較して,控訴人に,支払総額における現実の経済的不利益,又は少なくとも現実的危険が生ずる可能性がある(他にも,法律的には,賃料減額請求権の行使において更新料部分には請求が及ばない危険性など様々な場面を想定することができる。)。しかし,そのような経済的不利益又は現実的危険の検討の機会が奪われていることは否定することができず,本件更新料約定が控訴人に不利益をもたらしていないということはできない。
 (7)以上の検討の結果によれば,本件更新料約定の下では,それがない場合と比べて控訴人に無視できないかなり大きな経済的負担が生じるのに,本件更新料約定は,賃借人が負う金銭的対価に見合う合理的根拠は見出せず,むしろ一見低い月額賃料額を明示して賃借人を誘引する効果があること,被控訴人側と控訴人との間においては情報収集力に大きな格差があったのに,本件更新料約定は,客観的には情報収集力の乏しい控訴人から借地借家法の強行規定の存在から目を逸らせる役割を果たしており,この点で,控訴人は実質的に対等にまた自由に取引条件を検討できないまま当初本件賃貸借契約を締結し,さらに本件賃貸借契約締結に至ったとも評価することができる。
このような諸点を総合して考えると,本件更新料約定は,「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」ということができる。」

4  本件更新料約定の本件賃貸借契約における中心条項性
「契約における対価に関する条項は,消費者と事業者との間でされる取引の本体部分となり,それは基本的に市場の取引により決定されるべきであるから,消費者契約法10条の適用対象とならないのが原則であると解される。しかしながら,経済的性質をも含めた広い意味で対価とされるもの(以下この項においては,これをも単に「対価」という。)を理解すべき情報に不当な格差があり,又は理解に誤認がある場合には上記原則のようにいうことができないことは自明であり,上記原則が適用されるためには,その前提として,契約当事者双方が対価について実質的に対等にまた自由に理解し得る状況が保障されていることが要請されるといわなければならない。
本件においては,前述のとおり,当初本件賃貸借契約及び本件更新契約締結に当たって,控訴人は,客観的には,本件契約条項の第21条により,賃貸物件の更新に関する借地借家法の強行規定の存在から目を逸らされており,対価がどのようなものであるかを正しく理解すべき情報において被控訴人との間で格差があったことを否定することができない。したがって,被控訴人の上記主張は採用することができない。」

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