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2011年1月

2011.01.27

大家さんのための賃貸借の法務第9回 居住用建物賃貸借終了の実務(その1)

NPO法人日本地主家主協会 の会員向けニューズレター「和楽」に平成22年1月から12月まで 建物賃貸借関連の論考を 投稿した。同協会の了解も得て、順次、このブログに掲載中である。今回は、第9回。
賃貸借の終了について。

1 賃貸借契約の終了原因
  賃貸借契約の終了原因としては、①期間満了、②賃貸人による解約、③賃料不払等による債務不履行解除、④合意解除、⑤中途解約合意にもとづく賃借人からの解約などがあげられる。
このうち、①と②については、借地借家法上、正当事由がなければその効果が生じないものとされている。但し、①については、定期建物賃貸借で契約を締結し、終了の手続を踏んでいる場合には、正当事由の存否を問わず、賃貸借契約は終了する。
③については、債務不履行の場合といえども、当事者間の信頼関係を破壊するほどの債務不履行の場合出ない限り、解除原因とはならないとされている。
④は、当事者双方の契約終了の合意を契約締結後にするものであり、おおきな問題はなさそうであるが、⑤については、賃貸人の賃料収受権を一方的に奪うことになることから、損害賠償が問題となる。
次回以降、これらの終了原因毎の順次注意点等を述べる。
2 賃貸人からの中途解約合意の効力
  ところで、大家さんの多くが使っている賃貸借契約書の中には、「賃貸人または賃借人は、3か月前に通知することにより、この契約を中途解約することができる。」等の中途解約合意をしている例がある。そこで、①から⑤の他に、「中途解約合意にもとづく賃貸人からの解約」という類型があるのではないかとの質問をされることがある。
  この契約には、期間の定めのある賃貸借契約であるので、本来、期間満了までは、債務不履行ない限り、契約が継続するうえ、期間満了による終了にも正当事由が必要であるはずなのに、終了することはないのに、期間途中で、賃貸人から契約終了できることになってしまい、借地借家法による賃借人保護の趣旨に反するのではないかとの疑問がある。
  この点、最高裁判所の判例はないが、地方裁判所の判決例がある。いずれも、賃貸人から解約申入れをすると短期間で終了する旨の合意をした事案について、最終的には、その効力を否定している(東京地方裁判所昭和55年2月12日判決 東京地方裁判所昭和56年7月10日判決など)。ただ、これら判決の事案は、賃貸人からの解約後1カ月で終了するとするなど、期間の定めがない借家の解約における6カ月の解約期間より短い期間での解約を合意しており、その合意とおりの解約をしようとしたところに無理があった。私は、そもそも、争いになりやすいことから、賃貸人からの途中解約条項は賃貸借に入れるべきではないと考えているが、仮に入れてしまった場合で、これによる解約をしようというときは、合意中の期間にかかわらず(契約書では3カ月前に解約できるとしてあったとしても)、6か月以上の期間後の解約とすることとしていただきたい。但し、さらに、解約の正当事由の問題があり、それだけでは、困難は除去されない。正当事由についてはのちに詳述したい。
ところで、高齢者の居住の安定確保に関する法律56条以下の終身建物賃貸借の認可を得ている場合、認可事業者は、① 認可住宅の老朽、損傷、一部の滅失などにより、家賃の価額その他の事情に照らし、認可住宅を基準に合致した適切な規模、構想及び設備を有する賃貸借として維持しえず、または回復するために過分の費用を要するときや、②賃借人が認可住宅に長期間にわたって居住せず、かつ、当面居住する見込みがないことにより、当該認可住宅を適正に管理することが困難となったときには、都道府県知事の承認を受けて、賃貸借の中途解約の申入れをすることができるとしている。これは、高齢者の居住安定確保という特殊な場面にのみ適用のある中途解約であり、一般化できない。当然とも思われるが、念のため。

3 まとめ
賃貸借契約の終了原因としては、①期間満了、②賃貸人による解約、③賃料不払等による債務不履行解除、④合意解除、⑤中途解約合意にもとづく賃借人からの解約などがある。その他に、賃貸人からする中途解約を契約書に入れている場合があるが、高齢者の居住の安定確保に関する法律による終身建物賃貸借の認可のある住宅でない限り、賃貸人からする中途解約は効力を生じないとされることが多いと思われるので、注意されたい。
以 上

抵当権者に対抗要件で遅れた借地権と時効

1月21日に最高裁判所第二小法廷で私が被上告人代理人を務めている事件の判決をいただいた。
裁判所ホームページ内でも紹介されていた。


賃借権の対抗力を具備する前に、抵当権設定登記がなされた場合、その後に賃借権の対抗要件を具備しても、抵当権実行後の第三者に対抗できないのは、対抗要件法理では当然であり、私も、かつて、某大学で借地借家法の講義をしていた際に 事例をあげてそのように講義をしてきたところである。

ただ、抵当権設定登記後時効期間経過の場合にどうかについては、明確な判例はなかったところ、今般の最高裁判所判決で明らかにしていただいたもの。
民事施行実務上、有益な判例といえるのではないだろうかと思い紹介する。

最判平成23年1月21日 最高HP
平成21(受)729 建物収去土地明渡等請求事件(棄却)

抵当権の目的不動産につき賃借権を有する者は,当該抵当権の設定登記に先立って対抗要件を具備しなければ,当該抵当権を消滅させる競売や公売により目的不動産を買い受けた者に対し,賃借権を対抗することができないのが原則である。このことは,抵当権の設定登記後にその目的不動産について賃借権を時効により取得した者があったとしても,異なるところはないというべきである。

2011.01.05

大家さんのための賃貸借の法務 第8回 居住用建物賃貸借期間中管理の実務(その5)

NPO法人日本地主家主協会 の会員向けニューズレター「和楽」に平成22年1月から12月まで 建物賃貸借関連の論考を 投稿した。同協会の了解も得て、順次、このブログに掲載中である。今回は、第8回。

今回は敷金の差押、賃借人の破産など、賃借人側に生じる問題について述べる。

1 敷金の差押とその対応について
  賃借人の借金の返済滞納その他の理由で、敷金返還請求権につき、差押の通知が届くことがある。
  この場合、敷金返還の際は、賃借人ではなく、差押債権者に返還するべきことになる。注意を要するのは、返還する時期と金額である。
  まず時期だが、敷金は、賃貸借期間についての賃借人の全債務を担保していることから、賃貸借期間中には未だ返還時期には至らず、賃貸借が終了し、かつ、賃借人の明渡が完了した時点で、返還すれば足りる。そこで、差押されても、ただちに賃借人の債権者に返還する必要はない。
  ついで、返還金額だが、これも、敷金全額を返還すべきとは限らない。往々にして、家賃の支払いも滞納していればこれを控除し、通常の損耗を超える破損等がある場合には、原状回復費用を控除できることもありえる。そこで、敷金から滞納賃料や賃借人が負担すべき原状回復費用を充当し、その残を差押債権者に支払えばよい。
  通常、差押の通知と同梱されている陳述書用紙に、賃貸借継続中であること、滞納賃料と原状回復費用を充当後残ある場合は支払うことを記載して提出する。明渡時点で、充当すべきことになるが、その後、債権者と連絡をとるか、供託することになる。残がなければ、充当後残なしであることを債権者に通知しておいてはどうか。
  
2 敷金差押を理由として賃貸借契約を解除できるか。
  敷金差押のみを理由としては、賃貸借契約解除は困難である。多くの賃貸借契約には、賃借人に「差押」がなされた場合を解除事由としている。にもかかわらず、賃料の延滞なく他にも特段の問題ない場合、敷金差押のみで解除は認められない。しかし、敷金差押がなされている場合、賃料の延滞も生じていることが多い。賃料の延滞と敷金差押の事実などが相俟って、賃借人との間の信頼関係が破壊されたとして、契約解除が認められる場合がある。

3 賃借人が倒産した場合の対応について
  次に、賃借人が倒産した場合の対応について述べる。
  まず、賃借人が弁護士を通じて任意整理を開始するなど倒産手続に入った場合、賃貸借契約の解除条項で解除できるかであるが、倒産のみでは、解除は困難である。この場合も、賃料の延滞など他の事由とのあわせわ、契約解除の可否を考える。
  次に、賃借人が破産した場合はどうか。破産法では、賃貸借のような双方未履行の双務契約(賃貸人の将来の貸す義務と、賃借人の将来の賃料債務が少なくとも未履行)の場合、破産管財人に履行するのか、解除するのかの選択権が与えられ、賃貸人としては、どちらを選択するのか催告することができることになる。催告にこたえなければ、解除とみなされる。履行となった場合には、破産管財人に今後の賃料を支払ってもらうことになる。
  もっとも、多くの賃借人破産では、破産管財人が就任することのない同時廃止の案件である。この場合、解除までなしうるかは賃料の延滞等を伴っているかどうかによる。延滞なければ、破産しても解除はできない。この点は、民事再生開始の場合も同様と考える。
  このように、倒産だけでは、解除とはならないが、他方、単なる延滞より、信頼関係破壊の度合いが大きいことも間違いない。契約自体に解除事由とされていること、延滞の状況(回数や延滞額)となどの事情により、契約解除も検討すべきである。
  なお、個人の自己破産の場合、破産経過によっては、賃借人にはもはや仕事もなく、生活保護を受けるべきこともある。このような場合、生活保護費の中に、家賃扶助があり、その枠内の賃料の場合は、賃借人が生活保護を受けることで、賃料の支払いが確実となる場合もある。  
以 上

2011.01.02

大家さんのための賃貸借の法務 第7回 居住用建物賃貸借期間中管理の実務(その4)

NPO法人日本地主家主協会 の会員向けニューズレター「和楽」に平成22年1月から12月まで 建物賃貸借関連の論考を 投稿した。同協会の了解も得て、順次、このブログに掲載中である。今回は、第7回.


今回も前回に引き続き、居住用賃貸借期間中に生じる問題をテーマとする。今回は、少し、視点を変えて、万が一、賃貸物件に抵当権を設定している銀行から、賃料の差し押さえがなされた場合の対応について述べる。
1 賃料の差し押さえとは
  土地にアパートその他の建物を建築し、賃貸住宅事業を営もうとする場合、銀行その他の金融機関から建築資金の融資を受け、土地及び建物に抵当権を設定することになると思われる。
 空き室の発生、あるいは、賃借人との紛争が生じた結果としての賃料の供託、賃料未払いなどの結果、借入金の返済が、予定どおりになされないことは、残念ながらないとはいえない。
 返済の遅滞が一定程度継続すると、抵当権者である金融機関は、賃料の差し押さえをして、債権回収をはかろうとすることがある。
 この場合、裁判所から、賃借人に「抵当権者が賃料を差押えたので、賃料は賃貸人に払ってはならない」旨の差押通知が届き、更に、抵当権者から賃借人には、今後は、差押権者である抵当権者に払うようにとの取立通知が届くことになり、以後、大家さんには、賃料が入らないことになる。

2 賃料の差し押さえに対する対応
  賃料差押がなされた場合、抵当権者の取立を妨害する行為については、執行妨害罪と(刑法96条の2)なる場合があるので、そのような方法で対応することは慎むべきである。執行妨害の具体的実例については、敢えてかかないが、ご注意いただきたいところである。
 そこで、賃料差押に対しては、執行妨害とはならない方法で対応する必要がある。
たとえば、賃借人との間で長年の供託金があり、これを充てることで、債務の弁済が一応できる場合には、供託金の還付を受け、債権者に弁済する代わりに執行取下げするとの示談を検討すべきであろう。
その他、融資金の返済方法を変えてもらうことで一回の返済額を実態に合致したものにして、その返済開始と引き換えに、執行を取り下げてもらうとの方法もあると思われる。

3 差し押さえの進行を停止させる法的方法
  差押をしている抵当権者との話し合いがうまく進捗しない場合、その間にも賃料の差押さえは継続していくので、大家さんとしては、まさに糧道を断たれた状態であるので、そのままにしておくことは、生活にも支障が出てくることがあり得る。
  そこで、執行停止の方法を考えなければならないであろう。差押の決定をしてきた裁判所に執行停止のための公的な書類を出すことで、執行は一時停止することができる。上述のような話し合いを前提とする場合に考えられるものとしては、話し合いを簡易裁判所の調停で行うこととして、調停申立をしたうえで、民事調停規則にもとづく、執行停止の申立をするという方法がある。すなわち、民事調停規則はその6条で、調停事件について、紛争の実情により事件を調停によって解決することが相当である場合には、調停の成立を不能または著しく困難とするおそれがあるときに限り、調停が終了するまでの間、調停の目的になった権利に関する民事執行手続を停止することができるとしている。なお、本件は抵当権にもとづく家賃の差押を想定したが、公正証書にもとづく執行についても同様である。これに対し、判決や支払督促にもとづく執行の場合には、民事調停規則の執行停止を求めることはできないので、念のため。執行停止の申し立てを受けた裁判所は、一定の額の担保を提供させて執行停止の決定をすることになる。
  その他、差押禁止債権の範囲の変更を申し立てることも考えられる。たとえば、賃料のうちの共益費的部分についてまで差押されてしまうと、建物の維持管理さえもできないことになってしまう。そこで、執行をしてきた裁判所に申立をして、差押命令の全部または一部の取消を求めることが考えられる。
これらの手続きは、かなり技術的要素を伴うので、弁護士に相談すべきと思われる。
以 上

大家さんのための賃貸借の法務 第6回 居住用建物賃貸借期間中管理の実務(その3)

NPO法人日本地主家主協会 の会員向けニューズレター「和楽」に平成22年1月から12月まで 建物賃貸借関連の論考を 投稿した。同協会の了解も得て、順次、このブログに掲載中である。今回は、第6回.


前回は、賃貸借期間中におこる更新の問題、連帯保証人について述べた。今回は引き続き、賃貸借期間中におこる問題として、賃料減額請求とこれに対する対応について述べる。

1 賃料減額請求とは

賃借人が期間の途中で、賃料減額請求をしてくることがありうる。普通建物賃貸借の場合には、たとえば、毎年一定率の賃料増額をするような合意や、減額請求しないとの合意は、無効であり、合意あっても、賃料減額請求をすることが可能である(借地借家法32条1項。逆に、賃料増額請求をすることも可能である。)。大家さんは、賃料収入をもとに、固定資産税を払い、建物修繕費用を払い、建物建築費用について借り入れた借金の元本及び利息を支払うことを予定しているのであって、安易な減額は大家さんサイドの債務不履行にもつながり、その場合には賃借人にもマイナスの影響が出てしまうが、賃借人が目先の賃料額にしか興味がなく、減額請求をしてくることがある。
また、景気回復の兆しあるとはいえ、必ずしもすべての国民が景気回復を享受しているとはとても言えない現状では、雇用不安等から賃借人もできれば賃料減額をしたいと望んでいることが多い。これをやみくもに否定すると、結局は、賃借人の中は、賃料が払えない者が出てくることになり、退去や賃料不払い等にもつながることから、全く認めないわけにもいかない。
以上の大家さんの側の事情と賃借人の側の事情とがバランスするところで家賃が決まっていくことが望ましい。ところが、借地借家法32条は、「建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。」としているのであり、以上のような賃貸人・賃借人の個々の事情よりも、賃料相場を重視するかのような条文のつくりとなっている。

2 賃料減額請求への対応
賃料減額請求に対しては、これを拒絶すると、家賃の受け取りを拒絶したとして、供託する賃借人もあり得る。この場合、フローの面で渋滞が出てしまう。私は、減額請求に対しては、単に拒絶するのではなく、減額に理由がなく、今後賃借人が減額した額しか支払わない場合は、賃料の一部として入金扱いをするとの意思を明示したうえで、受け取り、供託をさせないようにするか、供託した場合でも賃料の一部にものとして通知したうえで、供託金の還付を受けるなどの工夫が必要であると考える。
なお、減額請求をしたのち、なお、減額前請求をして賃借人が減額前の額を支払っていた場合、のちに減額を正当とする裁判が確定すると、減額請求のとき以降の賃借人支払額と減額された額との差額について、年1割の利息を付して返還する必要がでてくることから注意を要する(借地借家法32条3項)。


3 賃料減額請求後の手続き
減額請求のうえ、減額した額をのみ支払ってきている場合、減額が正当でないときには、債務不履行に該当する場合がある。そのような場合には、大家さんの側からは、まずは、不足額支払の催告をするべきである。それでもなお、支払いをしない場合、支払われた賃料を充当していった、結果、数か月に及ぶ延滞額に該当するとされる場合には、契約解除も検討可能と思う。
なお、減額請求をした側からは、減額についての調停申立てがなされ、調停による解決がなされない場合は、賃料額確認の裁判をしてくる可能性がある。
いずれにしても、正当な賃料額がいくらであるかが争点になるが、この点については、不動産鑑定士の鑑定または意見を取得しておいた方がその後の主張をしやすいと思われる。

以 上

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