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2011.02.02

最近の交通事故判例 ~平成20年から22年までの最高裁判所判決を中心に(その1)

(関東弁護士会連合会で講演した際のレジュメ)
(一度、レジュメ全ページを掲載しましたが、長くて見にくいので、多少なりとも見やすくするため、判例解説部をいったんカットし、別ファイルをつくって、順次リンクします。20110225)

第1 交通事故判例の概観
1 責任主体分野
  運行供与者責任についての運行供与者性に関する最高裁判決
☆最判平成20年9月12日交民41巻5号1085頁 判時2021号38頁【1】
  他人性について
☆名古屋高判平成21年3月19日交民41巻5号1097頁【2】(上記平成20年判決の差戻後控訴審)
2 積極損害分野
   将来介護費用や家屋改造費用、自動車改造費用などに関し、下級審判決が多数あり。
交通事故によって看護を必要とする後遺障害を負ったが、後に交通事故とは別の原因で死亡した事案について、逸失利益の算定においては就労可能年数において減じないとしつつ、将来介護費用については、衡平の観点から減ずるとしている(○最判平成11年12月20日民集53巻9号2038頁【5】)。
   
3 消極損害分野
(中間利息控除の方式)
後遺障害や死亡の場合の逸失利益に関し、中間利息控除の方式として、ライプニッツ方式(複利計算)かホフマン方式(単利計算)の2方式が考えられるところ、最高裁判所は、そのどちらをとっても適法としている。
○最判昭和39年6月24日民集18巻5号874頁【6】(ホフマン方式)
○最判昭和53年10月20日民集32巻7号1500頁【7】(ライプニッツ方式)
この点、平成11年11月に東京 大阪 名古屋 の各裁判官による共同提言がなされ(判時1692号162頁以下。資料2)、ライプニッツ方式をとるべきとされ、以後実務はほぼこの内容に沿って運用されていると言ってよい。
また、中間利息控除の場合の利率については、民事法定利率(年5%)によるとする(○最判平成17年6月14日民集59巻5号983頁【8】)。
  なお、キツネが高速道路に飛び出して死亡事故が起きた事件の民事訴訟で、1審がライプニッツ方式で判断したものに対し、控訴審がホフマン方式によらなければならないとしたところ、上告受理申立がなされ、最高裁判所は受理した上で、「ホフマン方式によらなければならない」とした点を変更した上で、ホフマン方式の採用自体は不合理ではないと判断をしている(○最判平成22年1月26日判時2076号47頁【9】)。

  (基礎収入)
現実収入のない無職者や、事故時点では収入の少ない若年労働者、幼児・学生等の若年未就労者について、基礎収入をどうみるかについては、争点になりやすく、下級審判決も多い。
未就労女子の逸失利益について、女性労働者平均賃金を基礎とするのか、全労働者平均賃金を用いるのかについて、両者の下級審判決があり、上告審が注目されていたが、上告不受理で終わっており、最高裁判所の判断はなされていない。
○東京高判平成13年10月16日判時1772号57頁(女性労働者平均賃金)【10】
○最決平成14年7月9日交民35巻4号921頁(【10】の上告審)【11】

○大阪高判平成13年9月26日判時1768号95頁(全労働者平均賃金)【12】
○最決平成14年5月31日交民35巻3号607頁(【12】の上告審)【13】

○東京高判平成13年8月20日判時1757号117頁(全労働者平均賃金)【14】(上告審は上告受理後上告棄却)

(後遺障害等級認定)
自賠責保険の後遺障害等級表へのあてはめにより、等級認定と労働能力喪失率を認めるのが実務であるが、自賠責保険が等級認定で考慮しないことの多い症例(MTBI、脳髄液減少症、非器質性精神障害など)、について、下級審での裁判例がある。
労働判例であるが、外ぼう醜状の場合に認められる等級が、女性は第7級、男性は第12級とされており、男女に差を設けるのは憲法14条に違反しているとした例がある(○京都地判平成22年5月27日判決判例タイムズ1331号107頁(確定)【15】)。

4 慰謝料分野
   近親者の慰謝料に関し、民法711条では、「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。」としており、死亡慰謝料について、父母、配偶者、及び子の固有の慰謝料請求を認めているが、後遺障害慰謝料について近親者慰謝料は認められないか、711条の範囲外のたとえば兄弟姉妹などにも固有の慰謝料は認められないかなどについて、下級審判決例がある。

5 減額事由(過失相殺 素因減額等)分野
(過失相殺)
  過失相殺率については、東京地方裁判所民事第27部裁判官の研究会による「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂4版)」(別冊判タ16号) などを参考にする例が多い。
  被害者側の過失の範囲について、従来の親族関係、同居関係にある場合よりも広げて解釈した最高裁判所判例がある。
☆最判平成20年7月4日判時2018号16頁【16】

(無償同乗)
 無償同乗・好意同乗というだけでは、減額しないのが現在の実務の傾向であるが、危険な運転を容認・助長・誘発した事案では、減額を行っている下級審裁判例がある。

(素因減額)
  被害者の素因が損害発生・拡大に寄与している場合に、損害賠償額を一定割合減額するかが問題となる。
  素因には、①体質・身体的素因 ②心因的要因によるものに分類されるが、これらの要因があるからといって、必ず減額されるわけではなく、たとえば、体質的・身体的素因のうち、身体的特徴や経年性の変性は、事故の被害者として通常想定される個体差の範囲を超えるような事情がない限り、考慮しないのが実務の傾向である。
(体質的・身体的素因)
○最判平成4年6月25日民集46巻4号400頁【17】肯定例(一酸化炭素中毒の既往症)
○最判平成8年10月29日交民29巻5号1272頁【18】肯定例(後縦靭帯骨化症)
○最判平成8年10月29日民集50巻9号2474頁【19】否定例(首が長いという身体的特徴)

(心因的要因)
○最判昭和63年4月21日民集42巻4号243頁【20】(肯定例)
○最判平成5年9月9日判時1477号42頁【21】(肯定例)
○最判平成12年3月24日民集54巻3号1155頁【22】(労働判例・否定例)

6 損益相殺分野
   公的制度による給付金の損益相殺や被害者の加入している保険からの支払いについての損益相殺が問題となることが多い。近時、公的給付との関係、人身傷害保険との関係などが争点となる判決が相次いでなされているところである。控除の基準としては、「①当該給付が本来損害の填補を目的とし、非定額かどうか、②給付原因事由が事故と因果関係を有するかどうか、③給付の趣旨からみて損害額から控除することが妥当かどうか、④当該給付が損害賠償制度との調整規定(例えば代位、求償、返還義務など)を設けているかどうか、⑤負担した費用との対価性を有するかどうか、などが一般的に考慮されている。」とされている(青本195頁)。

(公的給付との関係)

・最判平成22年9月13日裁判所時報1515号6頁 裁判所ウエッブサイト【23】
・最判平成22年10月15日裁判所時報1517号4頁 裁判所ウエッブサイト【24】

(政府事業からの給付額と公的給付の関係)
損益相殺そのものの問題ではないが、類似の問題として紹介。
☆最判平成21年12月17日民集63巻10号2566頁【25】

(自賠法16条の被害者請求と老人保健法による請求との優先関係)
損益相殺そのものの問題ではないが、公的給付が問題になることから紹介。
・最判平成20年2月19日民集62巻2号534頁【26】

(人身傷害保険との関係)
☆最判平成20年10月7日判時2033号119頁【27】

7 遅延損害金分野
  事故後、口頭弁論終結時までの間の遅延損害金について、自賠責保険金等の支払いにより、その限度で減額するのか(全額元本充当後の金額に対し、事故時からの遅延損害金を考えればよいのか)、自賠責保険等の支払いは、そもそも元本に充当するのか、遅延損害金にまず充当するのか(法定充当(民法491条1項))について、争点となり、遅延損害金は消滅しないこと、途中で支払われた自賠責保険金等にも法定充当の規定が適用され、遅延損害金から充当され残が元本に充当されることが明らかとされた。
○最判平成12年9月8日金法1595号63頁【28】
○最判平成16年12月20日判時1868号46頁【29】 

8 物損分野
   修理の相当性、代車の相当性、評価損、休車損害などが争われることが多く、下級審判決が多数ある。

9 時効分野
   民法709条(不法行為責任)による請求、自賠法3条(運行供与者責任)による時効は、傷害のみ事案については、事故のとき、後遺障害事案では、後遺障害の症状固定の診断を受けたとき、死亡事案では死亡の時を起算として、3年(民法724条、自賠法4条による同条の準用)。
   自賠法16条(被害者請求)による自賠責保険会社に対する請求は、平成22年3月31日までの事故については2年、4月1日以降の事故は3年(自動車損害賠償保障法19条)。
   なお、任意保険の関係で、保険約款に基づく履行期が合意によって延期されたと認められ、保険金請求権の消滅時効の起算点がその翌日とされた例がある。
・最判平成20年2月28日判時2000号130頁【30】

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