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2011年11月

2011.11.20

高次脳機能障害認定システムと論争点(判決例)

脳外傷による高次脳機能障害に関する裁判例(平成17年以降) ~赤い本搭載判決を中心に~

全判例を掲載できたわけではないが、財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部薄倖の 損害賠償算定基準(赤い本)に現在掲載されている判決例を中心に まとめてみた。

「koujinoukinousyougaihanketu.pdf」をダウンロード


高次脳機能障害認定システムと論争点(レジュメ)

1  高次脳機能障害認定制度の登場経過
① 高次脳機能障害が登場する背景
→ 救急救命医療の進歩 
→ 社会の複雑化・都市化 「比較的寛容な社会ではさほど問題視されなかったある種の心身の状態が、都市化した現代社会では許容し得ないものとなっている状況」(平成16年東京地方裁判所民事27部裁判官講演での本田晃判事講演・赤い本平成17年度版67頁 資料1)
→ どんな症状か?
ⅰ 認知障害
 記憶・記銘力障害、注意・集中力障害、遂行機能障害などで具体的には、新しいことを覚えられない、気が散りやすい、行動を計画して実行することができない、など。
 ⅱ 行動障害
 周囲の状況に合わせた適切な行動ができない、複数のことを同時に処理できない、職場や社会のマナーやルールを守れない、話が回りくどく要点を相手に伝えることができない。
 ⅲ 人格変化
 受傷前にはみられなかったような、自発性低下、衝動性、易怒性。

ア 福祉分野では、高次脳機能障害によって生活に困難をきたしているが、障害者手帳もなく 福祉サービスを受けられない者の存在への注目。

イ 賠償分野では、脳外傷発生後に異常が出ているにも関わらず、後遺障害認定手続で見過ごされてきたのではとの問題提起。


 ② 高次脳機能障害認定制度の推移
<診断基準等確立の推移>
・ 高次脳機能障害支援モデル事業(平成13年から17年。厚生労働省)
→ 診断基準、標準的な訓練プログラム、標準的な支援プログラムの作成と活用による試行的サービスの提供。

・ WHO診断基準(2004年 平成16年)
 → MTBIの定義
   臨床診断のための運用上の基準

・ 高次脳機能障害支援普及事業(平成17年以降。厚生労働省)
→ 都道府県が指定する支援拠点機関において、高次脳機能障害者に対する専門的な相談支援、支援ネットワークの充実、普及・啓発事業、支援手法の研修。

<自賠責認定システムの推移>
・ 自賠責あり方検討会(平成12年。自動車保険料率算定会(当時。現 損害保険料率算定機構。))

・ 高次脳機能障害認定システム確立検討委員会(平成12年。自動車保険料率算定会(当時。現 損害保険料率算定機構。))

・ 自賠責保険・共済での審査制度 高次脳機能障害審査会による認定の開始(平成13年1月。自動車保険料率算定会(当時。現 損害保険料率算定機構。))

・ 労災保険認定基準の改訂(厚生労働省労働基準局通達 基発第0808002号 平成15年8月8日 資料3)平成15年10月1日施行

・ 自賠平成19年報告書(平成19年2月。損害保険料率算出機構 資料5)

・ 自賠平成23年報告書(平成23年2月。損害保険料率算出機構 資料4)

2 問題の所在
―福祉行政・自賠責制度における「高次脳機能障害」と医学分野における「高次脳機能障害」の異同
 ① 医療・医学分野における高次脳機能障害とは
   高次脳機能障害=脳損傷に起因する認知障害全般
(例)失語症(主には脳出血、脳梗塞などの脳血管障害によって脳の言語機能の中枢(言語野)が損傷されることにより、一旦獲得した言語機能(「聞く」「話す」といった音声に関わる機能、「読む」「書く」といった文字に関わる機能)が障害された状態。)
認知症(後天的な脳の器質的障害により、いったん正常に発達した知能が低下した状態をいう。医学的には「知能」だけではなく「記憶」「見当識」を含む認知の障害や人格障害を伴った症候群。)
   
② 福祉行政における高次脳機能障害
「記憶障害」「注意障害」「遂行機能障害」「社会的行動障害」や「全般的な人格障害を含むもの。」
身体機能障害者としての福祉サービスと、精神機能障害者としての福祉サービスの隙間にある障害(見落とされやすい障害)として把握。


③ 民事交通賠償分野における高次脳機能障害
ア 自賠責保険における「脳外傷における高次脳機能障害認定システム」(平成13年1月)
  行政的な「高次脳機能障害」を「脳の器質性精神障害」として後遺障害等級評価を行うもの。
  
 ○ 自賠責平成23年報告(資料4)「自賠責保険における後遺障害認定は、「自動車損害賠償責任保険の保険金及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号 資料7)により、「等級の認定は、原則として労働者災害補償保険における障害の等級認定の基準に準じて行う」ことが定められている。
   この労災認定基準は、厚生労働省労働基準局が行政通達の形で明示したものであり、この基準において「高次脳機能障害は、脳の器質的病変に基づくものであることから、MRI、CT等によりその存在が認められることが必要となる」とされており、これを踏まえ自賠責保険のいても、高次脳機能障害として認定を行うためには、脳の器質的損傷の存在が前提となる。」(平成23年報告(資料4)2頁)

 イ 民事交通賠償における 高次脳機能障害
   民事交通賠償においても脳の器質的病変の存在を前提とすると言ってよいか。
  α 画像診断を前提とするもの
    
  (参考) 名古屋地方判平成23年5月13日自保1853号8頁(高次脳機能障害否定例 資料8)
  「(厚生労働省高次脳機能障害者支援モデル事業の高次脳機能障害診断基準について)上記基準は、厚生労働省の福祉行政的観点からの基準であるから、実際に生活上の支障が生じ、脳の器質的損傷がMRI等で確認できなくても、PET等で機能の異常が確認でき、そのような障害の発症する原因となりうる事故などが存在すれば広くこれを認めることができるとすることは、障害者福祉的な観点からは優れているものといえるので、○○医師の・・判断もその意味では正当なものであると考えられる。しかし、単に患者を保護するだけでなく、加害者とされた者に損害賠償責任を負わせることとなる不法行為の認定の基準としては、これをそのまま採用することはできない。」

  β 画像診断なくとも高次脳機能障害をみとめたもの
  (参考)東京高判平成22年9月9日交民43巻5号1109頁(資料9)
  プロゴルファーのキャディー(男・固定時33歳)の右上肢のしびれ、筋力低下、頻尿等の症状(自賠非該当)につき、事故直後の強い意識障害や画像所見における異常所見、軽度外傷性脳損傷は遅発性に現れることもあり必ず画像所見に異常が見られるということでもないこと等から、事故により脳幹部に損傷を来した事実を否定することはできないとし9級10号にあたるとして、67歳まで35%の労働能力喪失を認め、心因的要因の影響から3割の素因減額を行った。

  
3 後遺障害認定における着目点 
 ―意識障害、画像所見、精神身体症状等をどうみるか。
 自賠23年報告(資料4)は、「脳外傷による高次脳機能障害の症状を医学的に判断するためには、意識障害の有無とその程度・長さの把握と、画像資料上で外傷後ほぼ3カ月以内に完成する脳室拡大・びまん性脳萎縮の所見が重要なポイントとなる。
また、その障害の実相を把握するためには、診療医所見は無論、家族・介護者等から得られる被害者の日常生活の情報が有効である。」としている(同11頁)。
 ① 意識障害
○ 自賠23年報告(資料4)は、「脳外傷による高次脳機能障害は、意識消失を伴うような頭部外傷後に起こりやすいことが大きな特徴である。
一次性のびまん性脳損傷(びまん性軸索損傷等)の場合、外傷直後からの意識障害を大きな特徴とするのに対し、二次性脳損傷では、頭蓋内出血や脳腫脹・脳浮腫が憎悪して途中から意識障害が深まるという特徴がある。
また、脳外傷直後の意識障害がおよそ6時間以上継続するケースでは、永続的な高次脳機能障害が残ることが多い。意識障害の程度・期間の重要性を良く認識した上で、十分な調査が必要である。」とする(同11頁)。

 ○ 裁判例

② 画像所見について
○ 自賠23年報告(資料4)は、「びまん性軸索損傷の場合、受傷直後の画像では正常に見えることもあるが、脳内(皮質下白質、脳梁、基底核部、脳幹など)に点状出血を生じていることが多く、脳室内出血やくも膜下出血を伴いやすい。
受傷数日後には、しばしば硬膜下ないしはくも膜下に脳脊髄液貯留を生じ、その後代わって、脳室拡大などの脳萎縮が目立ってくる。およそ3カ月程度で外傷後脳室拡大は固定し、以後はあまり変化しない。これらを踏まえ、経時的な画像資料を通して脳室拡大・脳萎縮等の有無を確認することが必要である。
また、局在性脳損傷(脳挫傷、頭蓋内血腫等)が画像で目立つ場合でも、脳室拡大・脳萎縮の有無や提訴を把握することが重要である。」(同11頁)としている。
そして、「脳の器質的損傷の判断にあたっては、従前と同じく、CT、MRIが有用な資料であると考える。ただし、これらの画像も急性期や亜急性期の適切な時期において撮影されることが重要である。」としている(同13頁)。同報告は、各画像につき次のような位置づけをしている。
CT 「撮影時間が短く、重度の意識障害や合併外傷のある場合にも患者の負担が少なく、頭蓋骨骨折、外傷性クモ膜下出血、脳腫脹、頭蓋内血腫、脳挫傷、気脳症などの病変を診断できる。」とする。
MRI 「びまん性軸索損傷のように、広汎ではあるが微細な脳損傷の場合、CTでは診断のための十分な情報を得難い。CTで所見を得られない患者で、頭蓋内病変が疑われる場合は、受傷後早期にMRI(T2、T2*、FLAIRなど)を撮影することが望まれる。」とする。
拡散テンソル画像(DTI),fMRI,MRスペクトロスコピー、PET 「それらのみでは、脳損傷の有無、認知・行動面の症状と脳損傷の因果関係あるいは障害程度を確定的に示すことはできない。」
としている(以上、同13頁より。医学系参考解説 資料10参照)。
 
○ 裁判例

③ 因果関係の判定(他の疾患との識別)
○ 自賠23年報告(資料4)は、
「頭部外傷を契機として具体的な症状が発現し、次第に経験しながらその症状が残存じたケースでびまん性軸索損傷とその特徴的な所見が認められる場合には、脳外傷による高次脳機能障害と事故との間の因果関係が認められる。」 
 「一方、頭部への打撲などがあっても、それが脳の器質的損傷を示唆するものではなく、その後通常の生活に戻り、外傷から数カ月以上を経て高次脳機能障害を思わせる症状が発現し、次第に憎悪するなどしたケースにおいては、外傷とは無関係の疾病が発症した可能性が高いものといえる。画像検査を行って、外傷後の慢性硬膜下血腫の生成や脳室拡大の進展などの器質的病変が認められなければ、この可能性はさらに支持されるものと考えられる。この可能性の中には非器質的精神障害も認められる。」
  (以上 同12頁)


④ 精神身体症状の程度
○ 自賠23年報告(資料4)は、「脳外傷における高次脳機能障害の特有の症状を踏まえて、各症状の有無とその程度を診療医に照会するため、「神経系統の障害に関する医学的意見」を用いており、また、同様の視点から家族・介護者に照会するため「日常生活状況報告」を使用している。」(同、12頁。資料6参照。)。

○ 裁判例

4 どのような点にどのような論争があるのか 
 ―自賠責平成23年報告(資料4)書の重要論点の説明、裁判例の動向
① 国土交通省からの検討要請
自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について(平成22年7月26日 平成23年報告(資料4)1頁)

② 平成23年報告(資料4)における重要論点
 ア 脳外傷における高次脳機能障害の医学的な考え方(平成23年報告(資料4)書10頁)
  (平成19年報告(資料4)と基本的変更なし。)
  ⅰ 脳外傷による高次脳機能障害の特徴
自賠責保険における「脳外傷による高次脳機能障害」とは、脳外傷後の急性期に始まり多少軽減しながら慢性期へと続く、次の特徴的な臨床像である。
   a 典型的な症状
多彩な認知障害、行動障害および人格変化
びまん性脳損傷の場合、小脳失調症、痙性片麻痺あるいは四肢麻痺の併発多い。
→起立や歩行の障害
   b 発症の原因および症状の併発
行動障害、人格変化は、主として脳外傷によるびまん性脳損傷原因として発症。局在性脳損傷(脳挫傷、頭蓋内血腫など)とのかかわり。

c 時間的経過
  時間の経過とともに 軽減傾向。
  経時的検査(神経学的検査)を行って、回復の推移を回復(回復少ない事例もあり。)

d 社会的生活適応能力の低下
  重傷者では介護を要する場合もあり。

e 見過ごされやすい障害
  「脳外傷による高次脳機能障害は、種々の理由で見落とされやすい。例えば、急性期の合併外傷のため診療医が高次脳機能障害の存在に気づかなかったり、家族・介護者は患者が救命されて意識が回復した事実によって他の症状もいずれ回復すると考えていたりする場合などがあり得る。」
  
ⅱ 症状と障害の的確な把握(上記3のとおり。23年報告(資料4)11頁)
  平成19年報告書の記述が残されている。← 脳外傷後の後遺障害についての医学的な理解に平成19年報告の段階から変化ない。

ⅲ 労働能力の解釈とその評価(自賠23年報告(資料4)12頁)
 「障害認識能力、家庭や職場への適応能力、生活の困難さ、支援の有無など複数の事柄が労働能力に影響を及ぼしている」「特に就労を阻害する要因としては、認知障害だけでなく、行動障害および人格変化を原因とした社会的行動障害を重視すべきであって、社会的行動障害があれば労働能力をかなりの程度喪失すると考えるべきである。」
   a 著しい知能低下や記憶障害→就労能力の低下
「神経心理学的検査で知能指数が正常に保たれている場合でも、行動障害および人格変化に基づく社会的行動障害によって、対人関係の形成などに困難があり、通常の社会および日常生活への適応に難渋している場合には相応の等級評価をすべきである。」
b 社会的行動障害によって就労困難な場合でも、TVゲーム操作やウエッブサイト眺めたりはできることあり→これをもって就労可能とはすべきではない。

c 学校生活に求められる適応能力と職業生活に求められる職務遂行能力には違いがある。
  →小児期においては、学業成績の変化以外に 非選択的な対人関係の構築ができているかなどを労働能力の評価において勘案すべき。

d 「知能指数が標準範囲であっても、社会的行動障害が阻害要因となって就労困難な場合がある」
「同様に、一般交通機関を利用した移動能力と労働能力喪失の程度とは必ずしも一致しない場合がある。」
「脳外傷を示す画像所見が軽微な場合でも、労働能力かなりの程度損なわれている場合がある。」

e 「18歳未満の被害者で受傷前に就労していた者については、一般の就労者と同様に取り扱うことにする。」

ⅳ 脳機能の客観的把握(上記3②のとおり。自賠23年報告(資料4)13頁)
  19年報告との違いとしては、画像検査についての記載を追加した点。

ⅴ 小児・高齢者の留意点(下記ウ)

ⅵ 「軽症頭部外傷後の高次脳機能障害」に対する理解(下記イ)


イ 軽症頭部外傷(MTBI)の検討(平成23年報告(資料4)書14頁)
○ 「軽症頭部外傷後に1年以上回復せずに遷延する症状については、それがWHOの診断基準を満たすMTBI とされる場合であっても、それのみで高次脳機能障害であると評価することは適切ではない。」→ 器質的損傷を示すものとして画像診断等が必要。
「ただし、軽症頭部外傷後に脳の器質的損傷が発生する可能性を完全に否定することまではできないと考える。したがって、このような事業における高次脳機能障害の判断は、症状の軽症、検査所見等も併せ慎重に検討されるべきである。」
「また、現時点では技術的限界から、微細な組織損傷を発見しうる画像資料等はないことから、仮に、DTIやPETなどの検査所見で正常値からのへだたりが検出されたとしても、その所見のみでは、被害者の訴える症状の原因が脳損傷にあると判断することはできない。」

← 1 WHOの診断基準が脳の器質的損傷による症状のみを対象とするものではなく、「症状の遷延は審理社会的因子の影響による」という考え方が有力とも報告。
← 2 自賠責保険が加害者の損害賠償責任を前提としているため、被害者のみならず加害者をも納得させ得る「根拠に基づく判断」が求められてる。≒、脳の器質的損傷の存在が前提。
 
ウ 小児高齢者の留意点(平成23年報告(資料4)書14頁 18頁)
(問題意識)「症状固定時期について、成人被害者の場合、通常は後遺障害診断書に記載された症状固定日の時点と捉えることで妥当性の確保が可能である。しかし、小児、高齢者の場合は診断書に記載されている症状固定日の状態をもって機械的に障害評価をすると、被害者保護の観点から不適当な事態が発生する危険性がある。」

→  症状固定時期及び障害評価の時点について 小児 高齢者は 柔軟に考える。
→  小児の場合
   乳児は幼稚園、幼児は就学時まで 等級評価を行わないことが妥当。
小児・幼児について、入園・入学以前に等級認定後、憎悪した場合は 追加請求を受け付けて慎重に検討。
「被害者の成長・発達に伴い、社会的適応に問題があることが明らかとなることで、被害者に有利な等級認定が可能となる場合もあることから、そのような要素があると考えられる事案については、社会的適応障害の判断が可能となる時期まで後遺障害等級認定を待つという考え方もある」
→  高齢者の場合
「病状悪化の原因として、被害者の加齢による認知障害の進行が同時に存在していることが多い」
 → 「症状固定後一定期間が経過し、状態が安定した時点での障害程度をもって少女固定とし、」「その後、時間が経過する過程で症状が悪化した場合については、交通事故による受傷が通常の加齢による変化を超えて悪化の原因になっていることが明白でない限り、上位等級への認定変更の対象とはしない。」
  

エ 従来の認定システムの問題点
(問題意識)「軽症頭部外傷にとどまると思われる例であっても、形式的に高次脳機能障害は発生・残存していないと断定せずに、このような事例においても慎重な検討をすることが望ましい。」(自賠23年報告(資料4)15頁)→認定システムの修正により、より広い範囲ものが審査対象となるようにして、高次脳機能障害が発生しているにもかかわらず障害認定が受けられない事態の発生防止。

③ 裁判例の動向

5 平成23年報告(資料4)に基づく 自賠責認定実務での変更点
 (19年報告での審査対象選定基準 自賠22年報告書16頁 19年報告書10頁 資料4)
ⅰ 初診時に頭部外傷の診断があり、頭部外傷後の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3桁、GCSが8点以下)が少なくとも6時間以上、若しくは健忘症あるいは軽度意識障害(JCSが2桁~1桁、GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続いた症例
→ ⅰ がないと 高次脳機能障害ではないと形式的に判断されているのではとのおそれ・批判

ⅱ 経過の診断書または後遺障害診断書において、高次脳機能障害、脳挫傷(後遺症)、びまん性軸索損傷、びまん性脳損傷等の診断がなされている症例

ⅲ 経過の診断書または後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する具体的な症状、あるいは失調性歩行、痙性片麻痺など高次脳機能障害に伴いやすい神経徴候が認められる症例、さらには知能検査など各種神経心理学的検査が施行されている症例

ⅳ 頭部画像上、初診時の脳外傷が明らかで、少なくとも3カ月以内に脳室拡大・脳萎縮が確認される症例
→ ⅳ がないと 高次脳機能障害ではないと形式的に判断されているのではとのおそれ・批判

ⅴ その他、脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例


   →このうち、ⅰもしくはⅳについて この条件に達しないものをどうするか。
   →1年以上の長期にわたり症状遷延するものが審査対象からもれないか。

 (23年報告(資料4)での審査対象選定基準)
A.後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められる(診断医が高次脳機能障害または脳の器質的損傷の診断を行っている)場合

→ 全件高次脳機能障害に関する調査を実施の上で、自賠責保険(共済)審査会において審査を行う。

B. 後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められない(診療医が高次脳機能障害または脳の器質的損傷の診断を行っていない)場合

→ 以下のⅰ~ⅴの条件のいずれかに該当する事案(上記A.に該当する事案は除く)は、高次脳機能障害(または脳の器質的損傷)の診断が行われていないとしても、見落とされている可能性が高いため、慎重に調査を行う。

具体的には、原則として被害者本人および家族に対して、脳外傷による高次脳機能障害の症状が残存しているか否かの確認を行い、その結果、高次脳機能障害を示唆する症状の残存が認められる場合には、高次脳機能障害に関する調査を実施の上で、自賠責保険(共済)審査会において審査を行う。

 ⅰ  初診時に頭部外傷の診断があり、経過の診断書において、高次脳機能障害、脳挫傷(後遺症)、びまん性軸索損傷、びまん性脳損傷等の診断がなされている症例
 
ⅱ 初診時に頭部外傷の診断があり、経過の診断書において、認知・行動・情緒障害を示唆する具体的な症状、あるいは失調症歩行、痙性片麻痺など高次脳機能障害に伴いやすい神経系統の障害が認められる症例
  (注)具体的症状として、以下のようなものが挙げられる。
    知能低下、思考・判断能力低下、記憶障害、記銘障害、見当識障害、注意力低下、発動性低下、抑制低下、自発性低下、気力低下、衝動性、易怒性、自己中心性
 ⅲ 経過の診断書において、初診時の頭部画像所見として頭蓋内病変が記述されている症例

ⅳ 初診時に頭部外傷の診断があり、初診病院の経過の診断書において、当初の意識障害(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3~2桁、GCSが12点以下)が少なくとも6時間以上、もしくは、健忘あるいは軽度意識障害(JCSが1桁、GCSが13~14点)が少なくとも1時間以上続いていることが確認できる症例

ⅴ その他、脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例

6 障害等級評価方法の構造と着目点
~ 後遺障害等級における障害評価と脳外傷による高次脳機能障害との関係
1級  神経系統の機能または精神に著しい傷害を残し、常に介護を要するもの(別表第一第1級1号)
「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの」が該当し、具体的には、身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身のまわりの動作に全面的介護を要するものが該当。

2級  神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの(別表第二第2級1号)」
「高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの」が該当し、具体的には、著しい判断力の低下や情緒の不安定などがあって、一人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に家族からの声掛けや看視を欠かすことができないものが該当。

3級  神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの(別表第二第3級3号)
「生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの」が該当し、具体的には、自宅周辺を一人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また、声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし、記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なものが該当。

5級  神経系統の機能または精神に障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの(別表第二第5級2号)
「高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの」が該当し、具体的には、単純繰り返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし、新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため、一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には職場の理解と援助を欠かすことができないものが該当。

7級  神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの(別表第二第7級4号)
「高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの」が該当し、具体的には、一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い、約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないものが該当します。

9級  神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの(別表第二第9級10号)
「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」が該当し、具体的には、一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業持続力などに問題があるものが該当。

12級 局部に頑固な神経症状を残すもの(別表第二第12級13号)
「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの」が該当し、具体的には、意思疎通能力、問題解決能力、作業負荷に対する持続力・持久力および社会行動能力の4つの能力のうち、いずれか1つ以上の能力が多少失われているものが該当。

14級 「局部に神経症状を残すもの(別表第二第14級9号)」
「通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの」が該当し、具体的には、MRI、CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められるものが該当。

  
7 事例についての考え方  
冒頭モデル事例について(自賠認定の概要)
  本件初診時において、頭部外傷に起因する重度の意識障害が認められ、
  画像上大脳基底核および脳室内の出血が確認。
具体的体的症状として 初診時より重度の意識障害。症状経過においても高度の精神障害あり。画像上からもびまん性軸索損傷や脳萎縮、脳室拡大が確認。

→ 本件事故受傷に伴う脳の器質的損傷に起因する障害
→ 精神機能検査結果 日常生活状況報告(略)によれば、
  身体機能は残存しているものの、人格変化が顕著で、家族以外の者に対しても他害行為が止まらず、記憶が失われているなど認知機能が著しく低下し、尿便失禁も続いており、日常生活において 常時看視の必要性が認められることから、精神障害として別表一 第1級1号適用。

8 まとめ


資料一覧

資料1  赤い本平成17年度版裁判官講演録抜粋(本田晃裁判官「高次脳機能障害の要件と損害評価」
資料2  青本22訂版高次脳機能障害相談研修抜粋(蒲澤秀洋医師「脳外傷後後遺症による高次脳機能障害者の実情」
資料3  厚生労働省労働基準局通達 基発第0808002号 平成15年8月8日
資料4  「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」(報告書)
    自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討会(平成23年3月4日)
資料5  「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」(報告書)
    自賠責保険における高次脳機能障害認定システム検討会(平成19年2月2日)
資料6  日常生活状況報告書
資料7  「自動車損害賠償責任保険の保険金及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」(平成13年金融庁・国土交通省告示第1号)
資料8  名古屋地方判平成23年5月13日自保1853号8頁
資料9  東京高判平成22年9月9日交民43巻5号1109頁
資料10  医学系参考解説
資料11  意識障害レベル
資料12  判決例一覧

2011.11.19

高次脳機能障害認定システムと論争点(モデル事例)

平成23年11月18日 富山県弁護士会館にて 交通事故研修の講師。
次のようなモデル事例を冒頭で紹介して、みなさんで考えてもらう。


モデル事例 
(1)事故日   平成20年11月10日
(2)事故概要通勤途中自転車で走行中の甲(事故時23歳・女性・被害者)と対向直進中の乙運転の普通乗用車が正面衝突し、甲が負傷した。
(3) 治療経過・症状経過① 事故当日にA病院に救急送。意識障害あり JCSⅢ-200.GSC7.
脳幹症状認め ICUにて全身管理
頭部CT撮影 大脳基底核および脳室内の小出血認める。
傷病名 びまん性軸索損傷
② 同月13日 意識レベルJCS10~20で同月30日頃まで推移。
③ 同月20日 頭部MRI撮影 大脳基底核、脳幹部の損傷を認める。  
④ 同月30日 意識回復。四肢麻痺などの神経学的症状は認められないが、失調性歩行障害を認める。見当識障害、健忘状態は持続。
⑤ 平成21年1月15日 歩行訓練にて歩行状態改善。
  記憶力の著しい障害あり。
  易刺激性などの情動障害認める。
  ⑥ 平成21年2月15日 頭部MRIによる画像撮影。
  脳室拡大および脳全体の萎縮を認める。
⑦ 平成21年4月5日  WAIS-Ⅲ Y-G性格検査
  検査困難
⑧ 平成21年4月10日  退院  
⑨ 平成21年9月20日  長谷川式 簡易知能評価スケール 3/30
頭部CT MRI 撮影  脳萎縮著名

(以上 経過診断書の記載より)
(以下 後遺症診断書の概要)

⑨ 受傷時 平成20年11月10日
当院入院期間 平成20年11月10日から平成21年4月10日(160日)
当院通院期間 平成21年4月12日から平成21年9月20日(実治療日数62日)
 
⑨ 傷病名等
ⅰ 傷病名  びまん性軸索損傷 高次脳機能障害
ⅱ 自覚症状 知能低下、ものを覚えられない、性格変化(易怒性・暴力・暴言)
ⅲ 他覚症状及び検査結果 
  びまん性軸索損傷に伴う高次脳機能障害が残存。
  知能の著しい低下、顕著な人格障害。
  
  CTにて脳室の著名な拡大。脳全体の萎縮を認める。
  WAIS-R 試行するも検査困難
  長谷川式簡易知能評価スケール 3

  びまん性軸索損傷に伴う知能・精神機能障害が残存
  記憶や見当識が失われており、また、人格変化が顕著である。
  家族以外の者に対して、他害行動が止まらない。知能が著しく低下。
  尿便失禁が続く。
Ⅳ 障害の憎悪・緩解の見通し
  受傷から相当期間を経ており、症状緩解の見込みはないと考える。

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