物損事故について(平成23年12月8日/相談担当者研修レジュメ)
1 物損とは
「物の滅失、毀損による損害をいう。」(青本225頁)
・車両同士が衝突して、車両や積荷が破損した場合
・車両が家屋に突っ込んだり、塀などの構築物に衝突してこれらの物を破損した場合。
2 物損の場合の請求権者と賠償義務者
(1) 請求権者
・ 被害車両その他破損物件の所有者(運転者ではないことに注意)
・ リース車両や所有権留保付車両の場合の請求権者は誰か?(後述)
(2) 賠償義務者
・ 加害車両の運転者(民法709条)
・ 加害者の雇用主(民法715条1項) 加害者の代理監督者(民法715条2項)
・ 任意保険会社(物損について示談代行の契約をしている場合) 但し、訴訟提起する場合は、「被保険者に対し賠償を命ずる判決が確定すれば、保険約款により、任意保険会社は支払いをする義務が生じるので、通常は保険会社に対する債務名義がなくとも保険会社は任意に支払いに応じている。保険の支払義務の存在自体を争っている場合(例えば、免責事由ありと主張しているなど)以外は、任意保険会社を被告にする意味はあまりない。」(赤い本375頁)
・ 親権者等法定の監督者(民法714条1項 2項) 加害者が責任無能力者の場合(民法712条 713条) なお行為能力と責任能力は異なるので、行為能力ないからといって、責任能力なしとはできないが(大判昭和8年2月24日新聞3529・12)、責任能力ある未成年者の事故の場合には、親権者が民法709条の責任を負う場合がある(最判昭和49年3月22日民集28・2・349)。
・ 自賠法3条の運行供用者責任は、人の生命、身体に対する賠償のみに適用され、物損には適用ないので、車両保有者や自賠責保険会社は 賠償義務者とはならない。
3 車両破損による損害
(1)修理費
基準
(赤い本)
修理が相当な場合、適正修理費相当額が認められる。(赤い本165頁)
問題となる例
・ 部分塗装か 全塗装か
・ 板金修理か 部品交換か
・ 改造車の修理費用(平成16年度裁判官講演会での蛭川明彦裁判官の講演・赤い本2005年版153頁)
○ 金メッキを施したバンパーが損傷した事案について、その取替費用は相当因果関係のある損害だが、バンパーに金メッキを施すことは無用に損害を拡大させるものであるとして過失相殺の法理により金メッキ修理代の5割を減額した(東京高判平成2年8月27日 判時1387・68)。
・ 仮定的修理費用は損害か。
○ 修理がされておらず、また、今後も修理する可能性がないとしても、現実に損傷を受けている以上、損害は既に発生しているとして修理費相当額を損害として認めた(大阪地判平成10年2月24日自保1261・2)
修理費査定等の実際
・ 加害者が保険会社と対物保険契約を締結している場合、その保険会社のアジャスターと修理業者が協議し、決定する場合が多い。
(2)経済的全損の判断
基準
(青本)
被害車両が修理不能もしくは修理費が時価額を上回るいわゆる全損となった場合は事故直前の交換価格をもとに賠償額を算定し、そうでない場合は修理費相当額をもとに損害算定をする。(青本225頁)
(赤い本)
修理費が、車両時価額に買換諸費用を加えた金額を上回る場合には、経済的全損となり、買換差額が認められ、下回る場合には修理費が認められる。(赤い本165頁)
・ 車両時価算定方法
「裁判上の鑑定によるほか、オートガイド自動車価格月報(いわゆる「レッドブック」)や中古車価格ガイドブック(いわゆる「イエローブック」)を参考にするもの、㈶日本自動車査定協会の査定を参考にするもの、税法上の減価償却によるものなど」がある(青本225頁)。
その他、インターネットや中古車雑誌などで時価根拠を証明する場合がありうる。
・ 改造車の車両価格(平成16年度裁判官講演会での蛭川明彦裁判官の講演・赤い本2005年版159頁)
(3) 買換差額
基準
(赤い本)
物理的または経済的全損、車体の本質的構造部分が客観的に重大な損傷を受けてその買換えをすることが社会通念上相当と認められる場合は、事故時の時価相当額と売却代金額の差額が認められる(最判昭和49年4月15日交民7・2・275。赤い本167頁)。
(4) 登録手数料関係費
基準
(赤い本)
買換のため必要となった登録、車庫証明、廃車の法定の手数料相当分及びディーラーの報酬分(登録手数料、車庫証明手数料、納車手数料、廃車手数料)のうち相当額並びに自動車取扱税については損害として認められる(赤い本1989年版89頁「買換え諸費用について」参照)。
なお、事故車両の自賠責保険料、新しく取得した車両の自動車税、自動車重量税、自賠責保険料は損害とは認められないが、車両本体価格に対する消費税相当額、事故車両の自動車重量税の未経過分(「使用済自動車の再資源化等に関する法律」により適正に解体され、永久抹消登録されて還付された分を除く)は、損害として認められる。
(5) 評価損
基準
(赤い本)
修理しても外観や機能に欠陥を生じ、または事故歴により商品価値の下落が見込まれる場合に認められる(合本Ⅲ96頁。「評価損をめぐる問題点」参照。)
(青本)
修理が相当な場合で修理を行った後も価格低下があるときには、評価損が認められる。(青本225頁)
どのような場合に損害と認めるのか。
・客観的評価損(技術上の評価損) 修理技術上の限界
・主観的評価損(取引上の評価損) 修理後の隠れた瑕疵の懸念
事故歴車であることの烙印 修理的表示義務
→ 客観的評価損がある場合に損害を認めるが、主観的評価損から損害を認める例もある。
○ 米国製乗用車(GMCサファリ、左ハンドル)につき、事故歴があることにより評価損が発生するとして、車両本体については1割、修理費用については3割を目安とし、55万円の評価損を認めた(札幌地判平成11年1月28日 自保1290・3)
・評価損についての裁判例の傾向(青本236頁)
評価損の算出方法
・差額基準 事故直前の車両売却価格と修理後の車両売却価格の差額
・修理費基準 修理費の何パーセントかを評価損とする方法
初年度登録からの年数、損傷個所、走行距離、車種などを勘案して、 修理費のおよそ30%から10%程度で評価損を算出することが多い。
・時価基準 被害者両の事故当時の時価の何パーセントかを評価損とする方法。
・自動車査定協会の査定による例
→ 判例上定まったものはないが、修理費基準によるものが多いか。
(6) リース・所有権留保売買と損害
損害賠償請求権は誰に帰属するか。
・所有者(リース業者や売主)に帰属…車の所有権の侵害との見方
・リースユーザや、買主に損害賠償請求権が帰属するとできる場合はないか(平成11年裁判官講演・山崎秀尚裁判官の講演(合本Ⅲ17頁参照))。
→修理費の請求の場合と経済的全損による買換額請求の場合との差異。
○ 名目上の所有権はリース会社にあるが、修理・保守の義務はユーザが負担することになっていることから、修理費用をユーザの損害と認めた(東京地判平成21年12月25日自保1826.2)。
・ファイナンスリースや所有権留保で、中途解約の違約金加算分について相当因果関係はあるか。
○ リース契約による車両が全損となった場合、リース残価1727万円余から車両保険金額1300万円を控除した金額について、物的損害の賠償の範囲は物の客観的範囲に限られ、リース手数料、規定損害金などの金融の対価は特別損害になるとして、損害と認めなかった例(名古屋地判平成15年4月16日 自保1526.8)。
・残価設定ローンの場合に査定額が予定残価を下回ることと評価損との関係
→残価設定ローンとは、車両所有権を融資会社が留保し、n回の分割での割賦払いの際に、査定額=n回目の支払額として、車両価格と金利を(n-1)回の元利均等+n回目の元利(=査定額)として割賦支払いを合意する方式のオートローン。
n回目には、融資会社が留保所有権を実行し、車両を引き上げることにより、完済となるが、ユーザは現金支払により車両所有権を取得できるし、融資会社は所有権を留保したままで再融資に応じることもできる。
→残価設定ローンでは、事故により査定額を下回った場合、n回目に ユーザは査定差額を支払う必要が出る場合がありうることから、査定額を基準とする評価損を認めるべきではないかとの疑問。
2 代車料
基準
(赤い本)
相当な修理期間または買換期間中、レンタカー使用により代車を使用した場合に認められる。修理期間は1週間ないし2週間が通例であるが、部品の調達や営業車登録等の必要があるときは長期間認められる場合もある(合本Ⅲ208頁「代車使用の認められる相当期間」、赤い本2006年版「代車の必要性」 赤い本172頁)。
(青本)
事故により車両の修理あるいは買換えが必要となり、それによって車両が使用不能の場合に、代車両を使用する必要があり且つ現実に使用したときは、その使用料が相当性の範囲内で認められる(青本241頁)。
(1)代車の必要性
現実に代車を使用していても、被害者が他に車両を保有しているなど代車使用の必要性がないときは代車使用は認められない(青本241頁)。
(2)代車の種類
代車としては事故車と同種、同年式といった同程度のものが認められるが、事故車が外国車の場合、代車は国産車で足りるとされる例もある(青本241頁)。
(3)代車に認められる期間
代車の利用が認められるのは通常、修理あるいは買換に必要な期間である。修理工場の作業の繁忙や部品の取り寄せに時間を要する場合、破損状況の把握と修理費用の見積に時間を要する場合等、相当な理由に基づくものであれば、長期間にわたる代車の使用も認められる(青本241頁)。
(4)その他
・代車の必要性があれば、現実に代車を使用しなくても代車料の支払相当額は損害となるか(仮定的代車)。→否定的傾向。
○ 事故で破損したポルシェの代車として使用したのが低い格式のトヨタマークⅡであったことから、より高級な代車のレンタカー代の請求を排斥し、現実に支出を要した金額に限って認めた(名古屋地判平成9年7月11日交民40.4.873)。
・代車両の借り入れによらずに、タクシーなどを利用した場合→相当額の範囲内で損害と認める。
(5)代車使用料に関する判例
青本243頁一覧表参照。
3 休車損
基準
(赤い本)
営業車(緑ナンバー等)の場合は、相当なる買換期間中もしくは修理期間中、認められる(赤い本1995年版126頁「物損―休車損の問題」、合本Ⅲ378頁「休車損害の要件及び算定方法」 赤い本175頁。)。
(青本)
営業用車両については、車両の買換え、修理などのため使用できなかった場合、操業を継続していれば得られたであろう純益を請求することができる。
ただし、期間の制限を受けることがある。
なお、代車料が認められる場合、休車損害は認められない(青本244頁)。
損害額は、1日あたり損害額×休車期間として計算するのが通常であるが、一日あたり損害額をどう認定するかが問題。
4 その他の損害
(赤い本177頁)
(1)車両の引き上げ費、レッカー代
(2)保管料
(3)時価査定料・見積費用
(4)廃車料・車両処分費
(5)その他
6 営業損害
基準
(赤い本)
家屋や店舗に車が飛び込んだ場合等に認められる。
7 積荷その他の損害
→ 積荷の商品価値の喪失も含むのか?
○ 筆ペン約16万本を積載した大型貨物自動車の衝突事故で、当該商品を全損と認めて運送保険契約所定の保険金を支払った保険会社が加害者に求償した事案につき、損害たる交換価値の喪失とは、物理的な損傷のみならず、経済的に商品価値を喪失した場合も含むとし、他の多くの積荷と混載されていた本件筆ペンについて、車両が衝突、横転等することによって、多数回にわたり大きな衝撃を受けたと考えられるから、外見に傷、汚損等の異常が認められなくても、製品の内部構造に不具合が生じている可能性は払拭できず商品価値が毀損しているとして、本件筆ペンにつき損害が発生していると評価して被告に負担させるとした(大阪地判平成20年5月14日交民41.3.593)。
→ 建物損害につき修理相当と認めた場合に、修理による耐用年数増加分を損益相殺すべきか。
○ 昭和41年から42年ころに新築された事故当時の固定資産評価額41万7028円の建物1階北側部分約9.8坪が損壊した場合につき、被告提出の査定所による1227万円余を原状復旧に必要な修復費用と認めたが、修理工事に伴う耐用年数の延長部分は不当利得になるとの被告の主張については認めなかった例(神戸地判平成13年6月22日 交民34.3.772)。
8 物損慰謝料
原則として認められない(赤い本2008年版下巻41頁「物損に関する慰謝料」参照。赤い本181頁)。
○ 四駆車(スバル・レガシィ)が走行中出火炎上して廃車となった事故は、前輪2輪のみのタイヤ交換をしたために前輪と後輪との間に外径差が生じたことが少なくとも一因となって発生したとして、前輪のみの交換を「問題ない」旨答えたディーラー側の責任を認め、慰謝料として50万円を認めた(鹿児島地判平成17年10月26日 自保1775.20)。
○ 深夜大型トラックが民家へ飛び込んだ事案について、建物と庭の補修代(465万円余)のほか、慰謝料50万円を認めた(岡山地判平成8年9月19日 交民29.5.1405)。
9 ペットに関する損害
→ 経済的全損の考え方が妥当するのか?
○ 一般に不法行為によって物が毀損した場合の修理費用等については、不法行為時における時価相当額に限り相当因果関係ある損害とされているが、愛玩動物のうち、家族の一員であるかのように遇されているものが負傷した場合の治療費等は生命をもつ動物の性質上時価相当額に限られるとするべきではなく、当面の治療費、生命の確保、維持に必要不可欠なものについては、時価相当額を念頭においた上で、相当因果関係を判断すべきものとし、6万5000円で購入したものであることを考慮して、13万6500円の治療費等を損害と認め、事故により後肢麻痺、自力排便・排尿ができなくなっていることから飼い主夫婦に各20万円の慰謝料を認めた(名古屋高判平成20年9月30日交民41.5.1186)。
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