ETCレーンでの交通事故
平成24年11月22日に 大阪弁護士会交通事故委員会と(公財)日弁連交通事故相談センター東京支部の懇談会がありました。
その際に、東京側からのテーマが ETCレーンでの交通事故で 当職が発表しました。大阪の先生方には大変にお世話になりました。
レジュメ自体は、同支部発行の赤い本平成25年版に掲載される予定のものと基本的には変わらないことから、発表の際に 例示した 東京と大阪の二つの裁判例のみ ブログに紹介しておきます。
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進行方向← ETCバー ←先行車(A) ←後続車(B)
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以上のような、ETC専用レーンでの追突事故の事例で、先行車にETCカードの入れ忘れがあった場合過失割合が論点です。
先行車側に過失を認める裁判例
東京地判平成21年11月5日交民42巻6号1464頁
A 時速20㎞で走行 ETCカード挿入忘れ
B 時速20から30㎞で走行
① ETCシステム利用規程 8条 1項
1号 20㎞以下で進入
2号 ETC車線内徐行
3号 車間距離保持
② 実施細則 ETC車線内で前車が停車した場合、開 閉棒が開かない若しくは閉じる場合その他通行するにあたり安全が確保できない事象が生じた場合であって も、前車又は開閉棒その他の設備に衝突しないように安全に停止できる速度で走行してください
③ ETC車線を通行しようとする車両の運転者は、何らかの不具合等により開閉棒が開かず、そのため前車が停車することがあり得ることを予見し、そのような場合でも、前車に衝突しないで停止できるよう、前車との車間距離を十分にとって徐行すべき義務があるというべきである。
④ (後続車の基本過失) Bは、時速20から30㎞でETC車線を走行し、次第に前車のA車との車間距離が縮まっていき、やがてA車が開閉棒の直前で停止したのを見て、ブレーキを踏んだが間に合わなかったというものであるから、Bには、減速義務違反又は車間距離保持義務違反の過失がある。
⑤ (先行車の過失) A車を運転していた乙は、不注意によりETCカードを挿入し忘れ、そのために開閉棒が開かなかったことが推認されるところ、ETC車線を進行しようとする者はETCカードを挿入して進行しなければならないのであるから乙にはETCカードの挿入を怠った過失がある。
⑥ 過失割合 先行車20%:後続車80%
先行車側の過失を認めない裁判例
大阪地判平成22年4月22日交民43巻2号539頁
A 時速20から30㎞で走行 ETCカード挿入忘れ
B 相当の高速度
①ETCシステム利用規程 8条1項
1号 20㎞以下で進入
2号 ETC車線内徐行
3号 車間距離保持
② 実施細則 ETC車線内で前車が停車した場合、開閉棒が開かない若しくは閉じる場合その他通行するにあたり安全が確保できない事象が生じた場合であっても、前車又は開閉棒その他の設備に衝突しないように安全に停止できる速度で走行してください
この内容がETCシステム利用者の注意義務の内容を構成
② ETCゲートを通過しようとする車両運転者には、開閉バーが開かないために前車が仮に急停止した場合であっても、これに追突しないような措置を講ずべき注意義務が課されている。
③ 開閉バーが上がらなかった原因が本件のようにETCカードの挿入忘れにあったとしても、追突した後車側の過失割合が10割と認めるのが相当である。
④ 過失割合 先行車0%:後続車100%
大阪地裁の事例では先行車が停止してから後続車が衝突するまで時間的に間があったようであり、東京地裁の事案とは微妙に異なるようにも思われました。
東京地裁の判決も大阪地裁の判決も、基本過失は後続車にあるとしつつ、挿入忘れ等がある場合に修正するのかとい点で異なる結論としたという内容でした。
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