土壌汚染対策法3条の通知と行政行為(最判平成24年2月3日)
最判平成24年2月3日民集 66巻2号148頁
平成23年(行ヒ)第18号 土壌汚染対策法による土壌汚染状況調査報告義務付け処分取消請求事件(上告棄却)
土壌汚染対策法3条は、使用が廃止された有害物質使用特定施設に係る工場又は事業場の敷地であった土地の調査について、1項で
「使用が廃止された有害物質使用特定施設(水質汚濁防止法第2条第2項に規定する特定施設(以下「特定施設」という。)であって、同条第2項第1号に規定する物質(特定有害物質であるものに限る。)をその施設において製造し、使用し、又は処理するものをいう。以下同じ。)に係る工場又は事業場の敷地であった土地の所有者、管理者又は占有者(以下「所有者等」という。)であって、当該有害物質使用特定施設を設置していたもの又は次項の規定により都道府県知事から通知を受けたものは、環境省令で定めるところにより、当該土地の土壌の特定有害物質による汚染の状況について、環境大臣が指定する者に環境省令で定める方法により調査させて、その結果を都道府県知事に報告しなければならない。ただし、環境省令で定めるところにより、当該土地について予定されている利用の方法からみて土壌の特定有害物質による汚染により人の健康に係る被害が生ずるおそれがない旨の都道府県知事の確認を受けたときは、この限りでない。」
として、都道府県知事が特定施設の敷地であった土地の所有者等に対して、2項の通知をした場合に、原則、土壌の調査、報告を課している。
そして、2項の通知とは、
「 都道府県知事は、水質汚濁防止法第10条の規定による特定施設(有害物質使用特定施設であるものに限る。)の使用の廃止の届出を受けた場合その他有害物質使用特定施設の使用が廃止されたことを知った場合」において、
「当該有害物質使用特定施設を設置していた者以外に当該土地の所有者等があるときは、環境省令で定めるところにより、当該土地の所有者等に対し、当該有害物質使用特定施設の使用が廃止された旨その他の環境省令で定める事項を通知するものとする。」としている。
なお、通知をうけても、1項に規定の調査・報告をしない場合
「都道府県知事は、第1項に規定する者が同項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたときは、政令で定めるところにより、その者に対し、その報告を行い、又はその報告の内容を是正すべきことを命ずることができる。」とされる(同3項)。
本判決は、「土壌汚染対策法(以下「法」という。)3条1項所定の有害物質使用特定施設に係る事業場の敷地であった土地の所有者である被上告人が,当該施設の使用の廃止に伴い,法に規定する都道府県知事の権限に属する事務を行う旭川市長から同条2項による通知を受け,上記土地の土壌汚染状況調査を実施してその結果を報告すべきものとされたことから,上記通知が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たることを前提にその取消しを求めている事案」であり、
1審は、「土地所有者等に対する法的効力が確定的に発生し、同条1項所定の調査報告義務の実質的要件を充足しているかどうかの最終的な判断がなされるのは、同条3項の命令発令時である上、同条3項の命令が発せられるのを待って抗告訴訟を提起すれば救済を受けることが可能であることなどからすれば、同法は本件通知の行政処分性を否定しているものと解される」として、訴えを却下していた(旭川地判平成21年 9月 8日判例地方自治 355号38頁<参考収録> 平20(行ウ)9号)。
これに対し、原審は、通知の処分性を認めて、一審を破棄差し戻ししていたが(札幌高判平成22年10月12日判例地方自治 355号44頁<参考収録>平21(行コ)14号)、上告人(原審被控訴人)は、これを争って上告した。
最高裁判所は、本件上告について、つぎのとおり述べて、上告を棄却した。
「都道府県知事は,有害物質使用特定施設の使用が廃止されたことを知った場合において,当該施設を設置していた者以外に当該施設に係る工場又は事業場の敷地であった土地の所有者,管理者又は占有者(以下「所有者等」という。)があるときは,当該施設の使用が廃止された際の当該土地の所有者等(土壌汚染対策法施行規則(平成22年環境省令第1号による改正前のもの)13条括弧書き所定の場合はその譲受人等。以下同じ。)に対し,当該施設の使用が廃止された旨その他の事項を通知する(法3条2項,同施行規則13条,14条)。その通知を受けた当該土地の所有者等は,法3条1項ただし書所定の都道府県知事の確認を受けたときを除き,当該通知を受けた日から起算して原則として120日以内に,当該土地の土壌の法2条1項所定の特定有害物質による汚染の状況について,環境大臣が指定する者に所定の方法により調査させて,都道府県知事に所定の様式による報告書を提出してその結果を報告しなければならない(法3条1項,同施行規則1条2項2号,3項,2条)。これらの法令の規定によれば,法3条2項による通知は,通知を受けた当該土地の所有者等に上記の調査及び報告の義務を生じさせ,その法的地位に直接的な影響を及ぼすものというべきである。
都道府県知事は,法3条2項による通知を受けた当該土地の所有者等が上記の報告をしないときは,その者に対しその報告を行うべきことを命ずることができ(同条3項),その命令に違反した者については罰則が定められているが(平成21年法律第23号による改正前の法38条),その報告の義務自体は上記通知によって既に発生しているものであって,その通知を受けた当該土地の所有者等は,これに従わずに上記の報告をしない場合でも,速やかに法3条3項による命令が発せられるわけではないので,早期にその命令を対象とする取消訴訟を提起することができるものではない。そうすると,実効的な権利救済を図るという観点から見ても,同条2項による通知がされた段階で,これを対象とする取消訴訟の提起が制限されるべき理由はない。
以上によれば,法3条2項による通知は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である(最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁等参照)。」
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