« 2014年7月 | トップページ | 2014年11月 »

2014年9月

2014.09.14

不法行為によって扶養者が死亡した場合における被扶養者の将来の扶養利益喪失の損害賠償請求

最判平成12年9月7日判時 1728号29頁は、

不法行為によって扶養者が死亡した場合に、被扶養者の将来の扶養利益喪失による損害賠償が請求できることを前提に、その賠償額については、「相続により取得すべき死亡者の逸失利益の額と当然に同じ額となるものではなく、個々の事案において、扶養者の生前の収入、そのうち被扶養者の生計の維持に充てるべき部分、被扶養者各人につき扶養利益として認められるべき比率割合、扶養を要する状態が存続する期間などの具体的事情に応じて適正に算定すべきものである。」とした。

通常は、被扶養者は被害者の相続人となるので、被害者の逸失利益を相続するとの構成となろうから、扶養利益の喪失はあまり問題にはならないと思われるが、本件では、被害者には多額の債務があったことから、被扶養者=相続人は、相続放棄をしており、扶養利益の喪失が直接に問題となった。

私は、この構成による請求に経験なかったが、近時の下級審裁判例でもこの構成を前提として、賠償額を論じるものがいくつかあることから、当ブログでも紹介することとした。相続放棄事案のほか、内縁の妻事案などで同様の問題がでてくると思われる。

事案の概要

1  被上告人乙川花子は、乙川太郎と婚姻し、同人との間に、被上告人乙川春子及び同乙川夏子被上告人らは、事件当時、その生活を太郎に依存していたところ、太郎は、●年●月●日に殺害されたが、上告人は、右殺害行為の実行前に、その正犯から依頼を受けて偽装工作をすることを約束し、これにより、右殺害行為を容易にした。
2  太郎は、事件前年には年780万円の収入を得ていたが、他方、約48億円の負債を抱えていた。太郎の相続人である被上告人らは、相続の放棄をした。
3 被上告人らは、上告人に対し、太郎から受けることができた将来の扶養利益の喪失等の損害についてその賠償を求めた。

原判決東京高裁平成10年10月28日判決 平10(ネ)1818号)は、
上告人は太郎の殺害行為の幇助者として不法行為責任を負うとした上で、「太郎が殺害されることがなければ、被上告人らは、太郎の収入の一部を扶養料として享受することができたといえるが、太郎の約48億円にものぼる債務が太郎及びその家族である被上告人らの生活に影響を及ぼしたであろうことも否定できないから、扶養権侵害による損害額の算定の基礎としては、死亡時前年度の年収780万円をそのまま用いるのは相当でなく、賃金センサス平成四年第一巻第一表・産業計・企業規模計・学歴計・男子労働者の平均年収額544万1400円を用いるのが相当である。太郎は、満67歳に達するまでの36年間は就労可能であったものであり、その間は少なくとも右金額程度の収入を得ることができたはずであり、その間の同人の生活費として、同人が世帯主であることを考慮して右収入額の三割を控除し、ライプニッツ方式により中間利息を控除して計算すると、太郎の死亡による逸失利益は、6300万円余となる。そして、被上告人花子は、太郎の妻として、その二分の一の3150万円余について、また、被上告人春子及び同夏子は、太郎の長女及び二女として、右逸失利益の各四分の一の各1575万円余について、それぞれ扶養利益を喪失したものと認めることができる。(数字等は一部省略)」

最高裁判決判旨(原判決破棄差戻)

1  不法行為によって死亡した者の配偶者及び子が右死亡者から扶養を受けていた場合に、加害者は右配偶者等の固有の利益である扶養請求権を侵害したものであるから、右配偶者等は、相続放棄をしたときであっても、加害者に対し、扶養利益の喪失による損害賠償を請求することができるというべきである。しかし、その扶養利益喪失による損害額は、相続により取得すべき死亡者の逸失利益の額と当然に同じ額となるものではなく、個々の事案において、扶養者の生前の収入、そのうち被扶養者の生計の維持に充てるべき部分、被扶養者各人につき扶養利益として認められるべき比率割合、扶養を要する状態が存続する期間などの具体的事情に応じて適正に算定すべきものである。
2  これを本件についてみるに、原審は、太郎の前記債務の負担状況にかんがみ、扶養利益喪失による損害額の算定に当たり、同人の死亡時前年度の年収780万円をそのまま用いることなく、前記賃金センサスによる平均年収額を用いるべきであると判断しているが、太郎の債務負担額が約48億円にも達していることにかんがみると、なおこれを是認することはできない。また、太郎の逸失利益全額をそのまま被上告人らの扶養利益の総額とし、これを被上告人らの相続分と同じ割合で分割して、各人の扶養利益の喪失分とした点、並びに被上告人春子及び同夏子については、特段の事情がない限り、太郎の就労可能期間が終了する前に成長して扶養を要する状態が消滅すると考えられるにもかかわらず、右扶養を要する状態の消滅につき適切に考慮することなく、扶養利益喪失額を認定した点は、前記1に判示した事項を適正に考慮していないといわざるを得ず、扶養利益喪失による損害額の算定につき、法令の解釈適用を誤ったものというべきである。(数字は一部省略)

« 2014年7月 | トップページ | 2014年11月 »

2017年3月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
無料ブログはココログ