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2018年2月

2018.02.11

定期建物賃貸借の事前説明書面

最判平成22年7月16日集民234号307頁・判例時報2094号58頁・判例タイムズ1333号111頁

判例要旨
賃貸人が定期建物賃貸借契約の締結に先立ち説明書面の交付があったことにつき主張立証をしていないに等しいにもかかわらず、賃貸借契約に係る公正証書に説明書面の交付があったことを相互に確認する旨の条項があり、賃借人において上記公正証書の内容を承認していることのみから、借地借家法38条2項において賃貸借契約の締結に先立ち契約書とは別に交付するものとされている説明書面の交付があったとした原審の認定には、経験則又は採証法則に反する違法がある。


認定事実

  (1) 被上告人は,平成15年10月29日,上告人との間で,「定期賃貸借建物契約書」と題する契約書を取り交わし,期間を同年11月16日から平成18年3月31日まで,賃料を月額20万円として,本件建物部分につき賃貸借契約(以下「本件賃貸借」という。)を締結した。

  (2) 本件賃貸借について,平成15年10月31日,定期建物賃貸借契約公正証書(以下「本件公正証書」という。)が作成された。本件公正証書には,被上告人が,上告人に対し,本件賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により終了することについて,あらかじめ,その旨記載した書面を交付して説明したことを相互に確認する旨の条項があり,その末尾には,公証人役場において本件公正証書を作成し,被上告人代表者及び上告人に閲覧させたところ,各自これを承認した旨の記載がある。

  (3) 被上告人は,期間の満了から約11か月を経過した平成19年2月20日,上告人に対し,本件賃貸借は期間の満了により終了した旨の通知をした。

判旨

 前記事実関係によれば,本件公正証書には,説明書面の交付があったことを確認する旨の条項があり,上告人において本件公正証書の内容を承認した旨の記載もある。しかし,記録によれば,現実に説明書面の交付があったことをうかがわせる証拠は,本件公正証書以外,何ら提出されていないし,被上告人は,本件賃貸借の締結に先立ち説明書面の交付があったことについて,具体的な主張をせず,単に,上告人において,本件賃貸借の締結時に,本件賃貸借が定期建物賃貸借であり,契約の更新がなく,期間の満了により終了することにつき説明を受け,また,本件公正証書作成時にも,公証人から本件公正証書を読み聞かされ,本件公正証書を閲覧することによって,上記と同様の説明を受けているから,法38条2項所定の説明義務は履行されたといえる旨の主張をするにとどまる。
 これらの事情に照らすと,被上告人は,本件賃貸借の締結に先立ち説明書面の交付があったことにつき主張立証をしていないに等しく,それにもかかわらず,単に,本件公正証書に上記条項があり,上告人において本件公正証書の内容を承認していることのみから,法38条2項において賃貸借契約の締結に先立ち契約書とは別に交付するものとされている説明書面の交付があったとした原審の認定は,経験則又は採証法則に反するものといわざるを得ない。
(破棄差戻)


新現代借地・借家法務(第2回 サブリースと契約の解除)

第1回では、賃料増減についてお話し、サブリースの場合の問題点にふれました。第2回及は、サブリースに関連し、賃貸借契約が解除された場合のサブリース契約の帰趨についてお話したいと思います。

転貸借についての法律関係
民法は、賃貸人に無断で、賃借人が転貸をすることを禁止していますが、賃貸人が承諾する場合には、転貸することができます。家賃保証等との説明の場合、転貸をしていることが多いと思います。この場合は、賃貸人(大家さん)と賃借人(転貸業者)との間の賃貸借契約(以下では単に「賃貸借契約」といいます。)、賃借人(転貸業者)と転借人(入居者)との間の賃貸借契約(以下では「サブリース契約」といいます。)の二つの賃貸借契約が存在することになります。サブリース契約は、賃貸借契約を前提としていますので、賃貸借契約が存在しない場合には、前提がなくなり、同様に存在しないことになるはずです。しかし、実際には、転借人保護の観点からそう単純な結論とはなりません。 

賃貸借契約合意解除とサブリース契約
まず、賃貸借契約について、賃貸人と賃借人(転貸業者)との間で、合意解除してもその効力は、転借人(入居者)には対抗できないとされています。この場合の法律関係ですが、判例の考え方などからは、賃借人(転貸業者)との間のサブリース契約の賃貸人の地位が賃貸人に引き継がれるとするのが妥当と思われます。
そうすると、たとえば賃借人(転貸業者)が、倒産するなどして、転借人(入居者)に対する賃料請求権が賃借人(転貸業者)の債権者(銀行など)に差し押さえられた場合、差押さえ後に合意解約してもその地位を債権者に対抗できないし、差押さえ前に合意解約した場合も賃借人(転貸業者)のサブリース契約上の地位を承継したとして、内容証明郵便などで通知をして、転貸業者の債権者に対抗できるようにする必要があります。
賃貸借契約債務不履行解除とサブリース契約
ついで、賃借人(転貸業者)が賃料を支払わない等の場合ですが、まず、賃貸人は、転借人(入居者)に直接に賃料の支払いを請求できます。更に、賃料の支払いがないことは、債務不履行に該当しますので、賃借人(転貸業者)との賃貸借契約を解除することも考えられます。この場合には、合意解除の場合と異なり、転借人(入居者)のサブリース契約上の地位も前提となる賃貸借契約が債務不履行に基づき解除され、存在しなくなりますので、サブリース契約も消滅し、転借人(入居者)は明け渡しをせざるをえないことになります。

賃貸借契約正当事由による更新拒絶とサブリース

ついで、建物が老朽化等の場合に、賃貸借契約を更新拒絶により終了させたい場合があります。この場合、賃貸借契約の終了について、正当事由が必要となり、また、契約期間の6ヶ月前までの更新拒絶の意思表示等の手続きも必要となります。この場合、転借人(入居者)の建物の使用の継続を建物の賃借人がする建物の使用の継続とみなして転借人(入居者)との間での正当事由も必要となります。また、正当事由が存在する場合でも、転借人(入居者)に対する賃借人にするとは別の通知が必要であり、通知をしてから6ヶ月経過していることが転貸借終了の要件となります。

賃借人の賃貸借契約中途解除・更新拒絶とサブリース契約
最後に、賃借人(転貸業者)からの、中途解除(契約書中にある中途解除や契約期間が長い場合の事情変更による等理由付けは様々です。)や、期間満了の場合の更新拒絶の場合のサブリース契約の帰趨を考えたいと思います。
賃貸人としては、中途解除により家賃が入らなくなるのが最も困惑する事態であり、建物建築費用について銀行借入れなどをしている場合には、その返済をどうするかを考える必要も出てきます。
このような事案では、まず、中途解除が可能な事案かを十分に検討する必要があります。中途解除文言について、当初の説明と異なるのではないか、事情変更を言う場合にも契約当初の状況との経済事情等の変更が本当にあるのかどうか等を検討し、中途解除や更新拒絶が権利濫用にあたらないか、事情変更を否定できないかなどを考えます。
賃借人からの中途解除や更新拒絶が認められた場合でも、合意解除の場合と同様その効果は、転借人(入居者)には対抗できないと考えられます。中途解除の場合と同様に、賃借人(転貸業者)との間のサブリース契約の賃貸人の地位が賃貸人に引き継がれることになると思われます。したがって、この場合にも、賃借に(転貸業者)に対する内容証明等による通知をしたうえで、以後は、直接の契約関係にもとづき、家賃収受をしていくべきです。

実務的な対応方法
サブリース業者と賃貸借契約を締結している場合、合意解除の場合とサブリース業者からの中途解除もしくは更新拒絶の場合が問題が大きいと思われます。
まず、いずれの場合においても、終了通知を転借人(入居者)に内容証明郵便等でしていない場合に、家賃の差押さえをしようとするサブリース業者の債権者に対抗できないとの問題があり注意を要します。
加えて、その後の賃貸物件の賃貸管理をどうしていくかを考える必要があり、サブリース業者に代わり、賃貸管理をできる業者を選定することがベターな場合が多いと思います。
このような複雑な権利関係となり、諸手続きも必要となることから、なるべく早い段階で弁護士に相談するべきと考えます。 

新現代の借地・借家法務(第1回 賃料増減請求とサブリース)

本年も昨年に引き続き、現代の借地・借家法務について、ご紹介していきたいと思います。第1回は、賃貸物件オーナーの皆様にとって切実な問題と思われる賃料増減請求について、判例の動向をご紹介します。

賃料増減についての法制度
借地借家法32条1項は次の場合に賃料増減が請求できるとしています。建物の家賃が、①ⅰ土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減、ⅱ土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下、ⅲその他の経済事情の変動 ②近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となった場合を家賃増減の要件としており、手続きとしては、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができます。
 なお、家賃増減の請求をしても協議が整わない場合、いきなり訴訟をするのではなく、調停前置といいまして、まず、調停をするとの手続とされています(民事調停法24条の2、)。
 そして、家賃の増減請求があった場合、当事者間に協議が整うか、裁判の確定で家賃が明確にされるまでの間、増減請求を受けた相手方は、相当と認める家賃を当面の家賃としておき、後に裁判が確定するなどして、新家賃が発生した場合に、増額のときは、賃借人が差額とこれに対する年1割の割合による利息金を支払うものとし、減額の場合も同様、賃貸人が差額とこれに対する1割の割合による金利を返還するものとされています。

 
賃料設定時の特殊事情の考慮
では、単純に経済一般が好況であったり不況であったりしたために、これらの経済一般の事情の変動や近隣の土地建物の価格の変動のみが増減の考慮要素なのでしょうか。この点、判例は、当事者が賃料額決定の要素とした事情その他諸般の事情を総合的に考慮すべきであり、賃料額が決定されるに至った経緯、約定賃料額と当時の近傍同種の建物の賃料相場との関係、賃借人の支予測にかかわる事情、預かり敷金の額や、融資を受けた建築資金の返済の予定にかかわる事情等をも考慮すべきとしています。

サブリースの場合の増減請求
 ところで、以上のような賃料増減請求についての考え方は、サブリースについても妥当するのでしょうか。
 サブリース型の契約では、最低賃料保証や賃料自動増額特約が合意されていることが多く、賃貸人は、これらの合意を前提にして、銀行融資を受け、賃貸物件を建築し、サブリース事業者の設定した内容で不動産賃貸事業を実施していることから、安易に家賃減額が認められるとすると、事業収支に大きく影響が出てしまい、銀行融資の返済も困難になるなどの問題もあるところです。
この点、かつては、サブリース型の契約については、賃貸借契約ではなく共同事業の契約であるなどとして、借地借家法の適用はないものとする考え方もありましたが、現段階では、判例は、「不動産賃貸業等を営む甲が、乙が建築した建物で転貸事業を行うため、乙との間であらかじめ賃料額、その改定等についての協議を調え、その結果に基づき、乙からその建物を一括して賃料自動増額特約等の約定の下に賃借することを内容とする契約(いわゆるサブリース契約)についても、借地借家法32条1項の規定が適用される」としており、サブリース型の契約であっても、賃貸借契約であるとみたうえで、借地借家法の適用があるものとして、増減請求が認められるとしています。
 最低賃料保証や賃料自動増額特約についても、判例は、賃料自動増額特約について、「本件契約には本件賃料自動増額特約が存するが、借地借家法32条1項の規定は、強行法規であって、本件賃料自動増額特約によってもその適用を排除することができないものであるから、本件契約の当事者は、本件賃料自動増額特約が存するとしても、そのことにより直ちに上記規定に基づく賃料増減額請求権の行使が妨げられるものではない」として、自動増額特約があっても減額請求を妨げないものとしており、最低家賃保証についても同様に考えられます。

実務的な対応方法
 賃貸物件のオーナーとしては、転貸人から賃料の減額請求をされたのでは収支が狂い大きな問題となります。賃料自動増額特約や最低家賃保証については、定期建物賃貸借ではその効力が認められます。すなわち、借地借家法38条7項は、第32条の規定は、第1項の規定による建物の賃貸借(定期建物賃貸借)において、借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しないとしています。そこで、定期建物賃貸借を使うということも一案と思われます。
 賃料増減請求の案件は、さほどに難しい問題を含んでいます。実際に増額・減額請求に直面した場合、専門家に相談するなどして、慎重に対応すべきでしょう。

サブリース型賃貸借契約と借地借家法

近時サブリース型賃貸借に関連して、サブリース業者からの賃料減額請求や中途解約申し入れなどの諸問題が顕在化している。サブリース契約については、すでに最判平成15年10月21日民集 57巻9号1213頁が次のように、転貸借であることを明らかにしたうえで、借地借家法の適用を認めているところである。あまりにも著名な判決ではあるが、以下判旨を紹介する。
事案の概要

  (1) Xは、不動産賃貸等を目的とする株式会社
     Yは、不動産賃貸等を目的とする日本有数の株式会社
  (2) Xは、昭和61年ころ、東京都文京区某所の土地上に賃貸用高層ビルを建築することを計画し、Yから、上記の土地上に第一審原告が建築したビルでYが転貸事業を営み、Xに対して長期にわたって安定した収入を得させるという内容の提案を受け、Yと交渉の結果、
 昭和63年10月、Yから、
①Yが、X使用部分を除き、ビル全館を一括して賃借し、Yの責任と負担でテナントに転貸する。
②賃料は、共益費を含め、年額23億1000万円余とし、この賃料額は、テナントの入居状況にかかわらず変更しない。
③賃料のうち19億9200万円については、三年経過するごとに、その直前の賃料の一〇%相当額を値上げする
との提案を受け、XY間で契約を締結することとし、契約内容の具体化を進めた。

  (3) Xは、昭和63年12月13日、Yとの間で、通称センチュリータワービル(以下「本件建物」という。)のうち本件賃貸部分を下記(4)の内容で第一審被告に賃貸する旨の予約をした。
 Xは、同月14日、上記予約で約定した敷金額49億4350万円のうち16億5500万円の預託を受けた。

 Xは、株式会社大林組との間で本件建物の建築請負契約を締結し、同社に対し請負代金等合計212億円余を支払い、設計事務所に対しても設計料18億円余を支払ったが、これらの支払のうち上記の敷金で賄いきれなかった181億円余については、銀行融資を受けた。

  (4) 本件建物は、平成3年4月15日に完成し、Xは、同月16日、上記予約に基づき、Yとの間で、次の内容の契約(以下「本件契約」という。)を締結し、本件賃貸部分をYに引き渡した。

 ア Xは、Yに対し、本件賃貸部分を一括して賃貸し、Yは、これを賃借し、自己の責任と負担において第三者に転貸し、賃貸用オフィスビルとして運用する。Yは、転借人を決定するには、事前に第一審原告の書面による承諾を得る。

 イ 賃貸期間は、本件建物竣工時から15年間とし、期間満了時には、双方協議の上、更に15年間契約を更新する。
賃貸期間中は、不可抗力による建物損壊又は一方当事者の重大な契約違反が生じた場合のほかは、中途解約できない。

 ウ 賃料は、年額19億7740万円、共益費は、年額3億1640万円とし、Yは、毎月末日、賃料の12分の1(当月分)を支払う。

 エ 賃料は、本件建物竣工時から三年を経過するごとに、その直前の賃料の10%相当額の値上げをする(以下、この合意を「本件賃料自動増額特約」という。)。急激なインフレ、その他経済事情に著しい変動があった結果、値上げ率及び敷金が不相当になったときは、第一審原告と第一審被告の協議の上、値上げ率を変更することができる(以下、この合意を「本件調整条項」という。)。

 オ Yは、Xに対し、敷金として、総額49億4359万円を預託する。

 カ Yが賃料等の支払を延滞したときは、Xは、通知催告なしに敷金をもって弁済に充当することができ、この場合、Yは、Xから補充請求を受けた日から一〇日以内に敷金を補充しなければならない。

  (5) Yは、Xに対し、本件賃貸部分の賃料について、次の減額の意思表示をした。
ア 平成6年2月  同年4月1日から年額13億8194万400円に減額すべき
イ 同年10月28日に、同年11月1日から年額8億6863万200円に減額すべき
ウ 平成9年2月7日に、同年3月1日から年額7億8967万2000円に減額すべき
エ 平成11年2月24日に、同年3月1日から年額5億3393万9035円に減額すべき


 なお、Yがテナントから受け取る本件賃貸部分の転貸料の合計は、平成6年四月当時、平成9年6月当時のいずれも月額1億1516万2000円であり、平成11年3月当時は約4581万円となり、同年4月以降は6000万円前後で推移している。

  (6) Yは、Xに対し、平成6年4月分から平成9年3月分まで賃料として月額1億4577万4527円を支払い、平成9年4月分から平成11年10月分まで賃料として月額1億4860万5099円(ただし、平成9年4月分及び平成10年4月分については、月額1億4860万5111円)を支払った。

  (7) Xは、平成6年4月分から平成9年12月分までの約定賃料等と支払賃料等との差額分及びこれに対する遅延損害金を敷金から充当することとし、Yに対し、敷金の不足分の補充を請求した。

 2 Xは、Yに対し、
⑴ 主位的に、本件賃料自動増額特約に従って賃料が増額したことを前提とする敷金の不足分と平成10年1月分から平成11年10月分までの未払賃料との合計52億6899万5795円とこれに対する年六%の割合による遅延損害金の支払を求め、
⑵ 予備的に、第一審被告の賃料減額請求の意思表示により賃料が減額されたことを前提として、借地借家法32条1項の規定により賃料が減額される可能性があることについてYに説明義務違反があるなどと主張して、不法行為又は債務不履行に基づき上記金額と同額の損害賠償を求めた。

 3 Yは、Xに対し、反訴として、Yが、Xに対し、借地借家法32条1項の規定に基づきYの賃料減額請求の意思表示により賃料が減額されたことを主張して

本件賃貸部分の賃料が
平成6年4月1日から同年10月末日までの間は年額13億8194万4000円
同年11月1日から平成9年2月末日までの間は年額8億6863万2000円
同年3月1日から平成11年2月末日までの間は年額7億8967万2000円
同年3月1日以降は年額5億3393万9035円であることの
確認を求めた。


判旨
  (1) 前記確定事実によれば、本件契約における合意の内容は、XがYに対して本件賃貸部分を使用収益させ、YがXに対してその対価として賃料を支払うというものであり、本件契約は、建物の賃貸借契約であることが明らかであるから、本件契約には、借地借家法が適用され、同法32条の規定も適用されるものというべきである。
 本件契約には本件賃料自動増額特約が存するが、借地借家法32条1項の規定は、強行法規であって、本件賃料自動増額特約によってもその適用を排除することができないものであるから、本件契約の当事者は、本件賃料自動増額特約が存するとしても、そのことにより直ちに上記規定に基づく賃料増減額請求権の行使が妨げられるものではない
 なお、前記の事実関係によれば、本件契約は、不動産賃貸等を目的とする会社であるYがXの建築した建物で転貸事業を行うために締結したものであり、あらかじめ、YとXとの間において賃貸期間、当初賃料及び賃料の改定等についての協議を調え、Xが、その協議の結果を前提とした収支予測の下に、建築資金としてYから約50億円の敷金の預託を受けるとともに、金融機関から約180億円の融資を受けて、Xの所有する土地上に本件建物を建築することを内容とするものであり、いわゆるサブリース契約と称されるものの一つであると認められる。そして、本件契約は、Yの転貸事業の一部を構成するものであり、本件契約における賃料額及び本件賃料自動増額特約等に係る約定は、XがYの転貸事業のために多額の資本を投下する前提となったものであって、本件契約における重要な要素であったということができる。これらの事情は、本件契約の当事者が、前記の当初賃料額を決定する際の重要な要素となった事情であるから、衡平の見地に照らし、借地借家法三二条一項の規定に基づく賃料減額請求の当否(同項所定の賃料増減額請求権行使の要件充足の有無)及び相当賃料額を判断する場合に、重要な事情として十分に考慮されるべきである。
 以上により、Yは、借地借家法42条1項の規定により、本件賃貸部分の賃料の減額を求めることができる。そして、上記のとおり、この減額請求の当否及び相当賃料額を判断するに当たっては、賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情その他諸般の事情を総合的に考慮すべきであり、本件契約において賃料額が決定されるに至った経緯や賃料自動増額特約が付されるに至った事情、とりわけ、当該約定賃料額と当時の近傍同種の建物の賃料相場との関係(賃料相場とのかい離の有無、程度等)、Yの転貸事業における収支予測にかかわる事情(賃料の転貸収入に占める割合の推移の見通しについての当事者の認識等)、第一審原告の敷金及び銀行借入金の返済の予定にかかわる事情等をも十分に考慮すべきである。
(破棄差戻)
なお、説明義務違反については、これを否定した原審の判断を最高裁判所も維持。

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