新現代の借地・借家法務第(3回 定期建物賃貸借の裁判例概観(その1))
新現代の借地・借家法務の第3回からは、定期建物賃貸借の裁判例を概観します。
賃貸事業をする場合に、定期建物賃貸借による例もみられるところです。定期建物賃貸借の家主にとってのメリットとしては、①契約の更新がなく、それに関連して、②立退料が要らない、③ 賃料減額請求権の排除などがありますが、手続としては、ア 契約書の作成、イ 事前説明の必要、ウ 終了通知の必要などの要件があり、これらを見過ごすと普通建物賃貸借となってしまったり、期間満了時に明渡ができなかったりしますので注意を要します。
定期建物賃貸借契約締結前説明に関する判例 定期建物賃貸借契約締結前には、事前説明文書を交付して、締結する契約が定期建物賃貸借であることを説明する必要があります。そして、賃貸借契約書とは別の独立した書面として作成する必要があります。
この点、契約書原案を事前に交付している場合があり、これで事前説明書面といえないかが問題となった事案がありました。一見、事前説明書面に代替できないかと思うとろですが、最高裁判所はこれを明確に否定しています(最判平成24年9月13日民集66巻9号3263頁 このブログでも紹介の最判平成22年7月16日集民234号307頁・判例時報2094号58頁・判例タイムズ1333号111頁も参照してください。)。
また、交付したことの証明方法として、契約書の中に条文を設け、「この契約が定期建物賃貸借であり、契約の更新がなく、期間満了で明け渡すべきことについて、説明書面を交付して説明した」との条文を設け、これで立証しようとする例もありますが、この点についても、最高裁判所は、立証方法としては不十分であるとしています(最判平成22年7月16日集民234号307頁)。この事案では、定期建物賃貸借契約をあえて公正証書としたうえで、契約条項に前述のような記述をいれたのですが、最高裁判所は、証拠として不足としました。賃借人に交付する事前説明文書のコピーをとり、原本は賃借人に交付し、コピーに「この事前説明文書を受け取り、説明を受けました。」という趣旨の記載を入れた書面に賃借人の署名捺印をもらい、その原本を保管するなど、立証方法に工夫が必要でしょう。
そして、説明も賃借人となろうとする者が理解できるように丁寧にする必要があります。この点、下級審判決ですが、東京地判平成24年3月23日判例時報2152号52頁は、賃貸借契約の締結に際し、説明書面は交付されているものの、その記載には誤記や不明確な点がある上、担当者の説明は契約条項の読み上げ程度にとどまり、被告らにおいて定期建物賃貸借契約という制度の概要を正しく理解することができる程度の説明がされていたとは認められないとして、定期建物賃貸借にはあたらない(普通建物賃貸借となる)としていますので、注意を要します。
定期建物賃貸借契約条項に関する判例 定期建物賃貸借は、書面で契約することを要するとされており、その契約書に記載する文言は趣旨が明確でなければならず、特に「契約の更新がないこと」について、他の文言との矛盾があると、無効とされることがあります。当職は、実際に、定期建物賃貸借契約としながら、更新料条項のある賃貸借契約書を拝見したことがあり、普通建物賃貸借として取り扱う他はありませんでした。この点、下級審判決にはなりますが、東京地判平成20年6月20日ウエストローは、契約書に賃料減額請求をしない文言があるものの、契約更新条項を設けており、定期建物賃貸借性を否定し、賃料の減額を認めています。定期借家契約を締結する際の契約書には、各種ひな形が用いらることが多いと思いますが、適切なひな形を事前に用意し、これを使えば、このような矛盾がでてくる心配は比較的少ないと思われます。ひな形といっても、普通建物賃貸借契約のひな形を用いて、特約に定期建物賃貸借となるよう、更新がない等の条項をいれるような場合、矛盾する条項が生じている可能性が大といえます。家主さんとしては、おおいに注意をしていただきたい部分です。
実務的な対応方法
定期建物賃貸借締結時の注意点としては、事前説明と書面契約の2点に尽きますが、実際にはこれが不十分なために、いざ契約期間が満了して明渡を求めようというときになり、定期建物賃貸借性を否定され、思わぬ結果になっていることがあります。契約締結にあたって、宅地建物取引業者に依頼することも多いと思いますが、この類型の契約に十分に経験のある(既に法が施行されて15年を経過しています)業者に依頼する必要があろうと思います。ご自分で契約をするという場合は、弁護士など専門家への相談をしていただくことがベターです。
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