新現代の借地・借家法務( 第6回 定期建物賃貸借の裁判例概観 その4)
定期建物賃貸借にまつわる重要判例について、今回は、終了通知に関する判例を紹介したいと思います。
終了通知に関する規定
借地借家法は、契約期間の終了により、賃貸借が終了して、賃借人に対して、賃貸物件の返還を無条件で求めることのできる「定期建物賃貸借」の制度を設けています。平成12年3月1日から施行されていますので、そろそろ施行20年が近づいています。さて、定期建物賃貸借において、約束どおり、期間満了で終了するためには、一定の手続きを要します。それが、「終了通知」となります。法律は、次のように規定しています。「建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から六月を経過した後は、この限りでない。」
定期建物賃貸借を締結した以上、契約期間満了で賃借人に明渡していただかないとその意味はありません。しかし、そのためには、契約終了前、1年から6ヶ月までの間に「定期建物賃貸借ですので、契約とおり、●年●月●日に終了します。」との通知をしておく必要があるということになります。
終了通知をしない場合にどうなるか
そこで、終了通知を失念した場合に、契約期間終了後の賃貸人と賃借人との関係はどうなるでしょうか。条文は、「対抗できない」とあります。また、「通知期間(終了半年前まで)の経過後に」通知(期限後通知)をした場合は「通知の日から六ヶ月を経過した後」は、対抗できるものとしています。しかし、借地借家法の条文には、漫然と賃貸借期間経過してしまい、期限後通知もしていなかった場合の関係について明示していません。
そのため、定期建物賃貸借契約終了後に、賃借人は建物の使用収益を継続し、従前と同様の賃料を支払っているのだから、新たな賃貸借契約が成立しているといえないのかが問題となります。
この点、東京地裁平成20年12月24日判決は、平成20年6月9日までを賃貸借期間とする定期建物賃貸借において(通知期間は、平成19年12月9日まで)、終了通知が、期間後の平成20年6月12日に到達したという事案につき、同日から6ヶ月経過後の平成20年12月12日に当該定期建物賃貸借が終了すると判断し、明渡を認めています。
また、東京地裁平成21年3月19日判決も、借地借家法38条4項の終了通知を賃貸人が期間満了までに行わなかった場合、定期建物賃貸借契約は期間満了によって確定的に終了するが、賃借人に終了通知がされてから6か月後までは、賃貸人は賃借人に対して定期建物賃貸借契約の終了を対抗することができないため、賃借人は明渡しを猶予されると解するのが相当であるとしたうえで、終了通知から6か月が経過した後の契約終了と明渡しを認めています。なお、この判決は、契約期間終了後、賃貸人が、長期間放置している場合のように、賃借人の地位が不安定になる場合について、「黙示的に新たな普通建物賃貸借契約が締結されたものと解し,あるいは法の潜脱の趣旨が明らかな場合には,一般条項を適用するなどの方法で,統一的に対応するのが相当というべきである。」として、終了通知を何時しても良いとはしていない点も注目されます。
まとめ・実務的な対応方法
以上の裁判例を踏まえて考えると、定期建物賃貸借契約において、期間満了後に終了通知をした場合は、短期間の遅れの場合には、終了通知から6ヶ月後の契約終了が認められるものの、漫然と長期間放置し、その間、賃借人が建物の使用収益を継続し、従前と同様の賃料を支払っている場合には、新たな賃貸借契約が成立しているとされる可能性があるということになります。
建物を定期建物賃貸借契約で賃貸する場合、契約終了で明け渡して欲しいと考えてのことと思います。しかし、終了通知の時期を誤ってしまうと、係争となり、あまりに長期間漫然と賃借人に使用収益させ、また、家賃収受していた場合には、せっかくの定期建物賃貸借であったのに、普通建物賃貸借とされる余地があるということになります(今のところずばり普通建物賃貸借として明渡を否定した裁判例はないと思いますが)。
建物オーナーの方々は、借地借家法の原則を守り、1年前から6ヶ月前までの終了通知を厳守していただくことが、もっとも安全であろうと存じます。万が一にも、終了通知期間を経過している事案や、契約期間終了してしまっている事案については、早急に弁護士にご相談いただくことがベターです。
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