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2018年11月

2018.11.05

新現代の借地・借家法務( 第6回 定期建物賃貸借の裁判例概観 その4)


定期建物賃貸借にまつわる重要判例について、今回は、終了通知に関する判例を紹介したいと思います。
 
終了通知に関する規定
借地借家法は、契約期間の終了により、賃貸借が終了して、賃借人に対して、賃貸物件の返還を無条件で求めることのできる「定期建物賃貸借」の制度を設けています。平成12年3月1日から施行されていますので、そろそろ施行20年が近づいています。さて、定期建物賃貸借において、約束どおり、期間満了で終了するためには、一定の手続きを要します。それが、「終了通知」となります。法律は、次のように規定しています。「建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から六月を経過した後は、この限りでない。」
定期建物賃貸借を締結した以上、契約期間満了で賃借人に明渡していただかないとその意味はありません。しかし、そのためには、契約終了前、1年から6ヶ月までの間に「定期建物賃貸借ですので、契約とおり、●年●月●日に終了します。」との通知をしておく必要があるということになります。

終了通知をしない場合にどうなるか
そこで、終了通知を失念した場合に、契約期間終了後の賃貸人と賃借人との関係はどうなるでしょうか。条文は、「対抗できない」とあります。また、「通知期間(終了半年前まで)の経過後に」通知(期限後通知)をした場合は「通知の日から六ヶ月を経過した後」は、対抗できるものとしています。しかし、借地借家法の条文には、漫然と賃貸借期間経過してしまい、期限後通知もしていなかった場合の関係について明示していません。
そのため、定期建物賃貸借契約終了後に、賃借人は建物の使用収益を継続し、従前と同様の賃料を支払っているのだから、新たな賃貸借契約が成立しているといえないのかが問題となります。
この点、東京地裁平成20年12月24日判決は、平成20年6月9日までを賃貸借期間とする定期建物賃貸借において(通知期間は、平成19年12月9日まで)、終了通知が、期間後の平成20年6月12日に到達したという事案につき、同日から6ヶ月経過後の平成20年12月12日に当該定期建物賃貸借が終了すると判断し、明渡を認めています。
また、東京地裁平成21年3月19日判決も、借地借家法38条4項の終了通知を賃貸人が期間満了までに行わなかった場合、定期建物賃貸借契約は期間満了によって確定的に終了するが、賃借人に終了通知がされてから6か月後までは、賃貸人は賃借人に対して定期建物賃貸借契約の終了を対抗することができないため、賃借人は明渡しを猶予されると解するのが相当であるとしたうえで、終了通知から6か月が経過した後の契約終了と明渡しを認めています。なお、この判決は、契約期間終了後、賃貸人が、長期間放置している場合のように、賃借人の地位が不安定になる場合について、「黙示的に新たな普通建物賃貸借契約が締結されたものと解し,あるいは法の潜脱の趣旨が明らかな場合には,一般条項を適用するなどの方法で,統一的に対応するのが相当というべきである。」として、終了通知を何時しても良いとはしていない点も注目されます。

まとめ・実務的な対応方法
以上の裁判例を踏まえて考えると、定期建物賃貸借契約において、期間満了後に終了通知をした場合は、短期間の遅れの場合には、終了通知から6ヶ月後の契約終了が認められるものの、漫然と長期間放置し、その間、賃借人が建物の使用収益を継続し、従前と同様の賃料を支払っている場合には、新たな賃貸借契約が成立しているとされる可能性があるということになります。
建物を定期建物賃貸借契約で賃貸する場合、契約終了で明け渡して欲しいと考えてのことと思います。しかし、終了通知の時期を誤ってしまうと、係争となり、あまりに長期間漫然と賃借人に使用収益させ、また、家賃収受していた場合には、せっかくの定期建物賃貸借であったのに、普通建物賃貸借とされる余地があるということになります(今のところずばり普通建物賃貸借として明渡を否定した裁判例はないと思いますが)。
建物オーナーの方々は、借地借家法の原則を守り、1年前から6ヶ月前までの終了通知を厳守していただくことが、もっとも安全であろうと存じます。万が一にも、終了通知期間を経過している事案や、契約期間終了してしまっている事案については、早急に弁護士にご相談いただくことがベターです。


新現代の借地・借家法務( 第5回 定期建物賃貸借の裁判例概観 その3)

定期建物賃貸借にまつわる重要判例、今回は、中途解約禁止合意に関する判例を紹介したいと思います。
 
借地借家法の中途解約に関する規定
賃貸借契約において、賃借人からの中途解約を禁止または制限する例は頻繁にみられるところです。賃貸人からすると、中途解約による空き室の発生は、賃貸経営で生じるリスクとしてはインパクトもあり、銀行借り入れをして家賃で返済している場合には、返済に影響がでてくる事態でもあります。できるだけ回避したいと考える方が多いと思います。しかしながら、借地借家法38条5項は、次のように、小規模な住宅の提起建物賃貸借契約においては、賃借人からの中途解約を制限する合意には規制をし、賃借人にやむを得ない事情がある場合に賃借人から中途解約の申入れをすることができ、中途解約の申し入れかの日から、1ヶ月の経過で、その定期建物賃貸借は終了するものとしています。
「第一項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する。」
そして、同条6項は、この規定に反する特約で、賃借人に不利な内容、たとえば、中途解約は一切許さないとか、中途解約申入れから6ヶ月後に賃貸借が終了する等の特約は、無効としています。
 すなわち、「前二項の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。」としています。
中途解約に関する判例
 中途解約に関しては、次の東京地方裁判所平成20年9月25日判決が参考になります。この判決の事案では、賃貸人(原告・法人)と賃借人(被告・個人)では、賃貸人の17㎡のワンルームマンションについて、賃借人居住の目的で、2年間の定期建物賃貸借を締結しましたが、契約書には、「中途解約の場合、契約期間の残金を支払った場合に限り,解約できる。契約期間残金を支払わない場合中途解約は事由の如何を問わず一切主張できない。」との規定がありました。
賃借人は、契約直後から、賃料の延滞があったようであり、賃貸人は催促を重ねましたが、支払いはなく、契約後2ヶ月ほど経過してから、賃借人から「本件物件は既に退去した,賃料等は支払えない」との連絡がありました。そこで、賃貸人は、賃借人に対し、経過期間の未払い賃料と契約終了までの賃料のトータル2年分の賃料の請求をしました。
しかしながら、裁判所は、「退去した」との通知から1ヶ月分までの家賃については認めましたが、その後の家賃については、次のように述べて否定しました。「賃借人である被告において中途解約ができない旨の規定や契約期間の残金を支払った場合に限り中途解約ができ,契約期間残金を支払わない場合の中途解約は事由の如何を問わず一切主張できない旨の規定が置かれているところ,これらは,いずれも借地借家法38条5項の規定に反する建物の賃借人に不利なものであるから,無効といわなければならない。」
 「原告は,これらの規定を無効とすることは契約自由の原則等に反する旨を主張するが,借地借家法38条6項によれば同条5項はいわゆる片面的強行規定であると解され,原告の主張は理由がない。」
まとめ・実務的な対応方法
200㎡未満の住宅について定期建物賃貸借契約に賃借金からの中途解約に関する条項をいれる場合、借地借家法38条5項に沿った、「転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったとき」に中途解約でいるものとし、解約申入れから1年で終了するとの合意内容としておくことが必要です。
中途解約条項についても、普通建物賃貸借では、これを禁止する条項が入っていることが多いことから、いままで使っていた普通建物賃貸借契約ひな形を定期建物賃貸借になおして使うような場合には注意が必要です。
なお、以上の規制は、200㎡未満の居住を目的とする定期建物賃貸借に限定されますので、200㎡以上の定期建物賃貸借であれば、居住を目的としていても、該当しません。また、事業用の賃貸借については、その面積の広狭を問わず適用がありません。その場合でも、解約後期間の賃料等の支払いを解約の条件とした場合に、損害額として相当か、また、賃借人が個人の場合に消費者契約法9条1号の「平均的な損害の額を超えるもの」として超過部分が無効とならないかなどの検討は別途必要です。

2018.11.04

新現代の借地・借家法務 (第4回 定期建物賃貸借の裁判例概観 その2)

定期建物賃貸借にまつわる重要判例、前回は、定期建物賃貸借契約締結前説明に関するもの、定期建物賃貸借条項に関するものをご紹介しました。これに引き続き、今回は、賃料不減額合意に関する判例を紹介したいと思います。
 
借地借家法32条は、賃料の増減請求について規定をしており、賃料が租税その他の負担の増減、土地・建物の価格の上昇または低下、その他の経済事情の変動や近傍同種建物の借賃に比較して不相当の場合に、当事者が増減請求できるものとしており(同条1項)、賃料を増額しない特約は有効ですが、減額しない特約をしても、上記の各変動要素が認められる場合には、減額が認められる結果となってしまいます。新規にアパートなどの賃貸用物件を建築する際に、銀行から融資を受けている場合を考えると、賃料額が減額されたのでは、支払いが困難になってしまいます。これに対し、定期建物賃貸借契約の場合には、賃料改定に関する特約がある場合には借地借家法32条の規定を適用しないものとしており(同法38条7項)、減額しない合意や、スライド増額する合意なども可能となっています。
どのような合意をすれば良いか
  そこで、定期建物賃貸借契約を締結したうえ、賃料減額請求をふせぎたいと考えた場合に、どのような合意をすれば、よいのかが問題となります。
この点、定期建物賃貸借契約を締結し、「賃料の改定は行わないこととし、借地借家法32条の適用はないものとする」との条項を定めたにも関わらず「協議のうえ、●年●月●日に賃料を改定することができる」と相矛盾する定めをした特約があった場合、このように協議により賃料を改定することができるとの特約は、「賃料の改定は行わないこととし、借地借家法32条の適用はない」との定めを排除する趣旨と解するのが相当として、同法38条7項によることはできず、同法32条の適用があるとした例があることが注目されます(東京地方裁判所平成21年6月1日)。
この判決では、「定期建物賃貸借は、平成11年の借地借家法改正において、建物賃貸借における私的自治ないし契約自由の原則尊重という基本的立場から、一定の要件の下に期間の満了により終了する(契約の更新のない)類型 の建物賃貸借として導入された制度である。そして、法38条7項は、上記の基本的立場に立脚して導入された定期建物賃貸借における家賃の改定に関しても、当事者の合意を優先させることにより家賃の改定をめぐる紛争ないしこれに伴う訴訟を回避することを可能とする趣旨で設けられたものであるところ、その趣旨に かんがみれば、借賃改定特約は、家賃額を客観的かつ一義的に決定する合意であって、経済事情の変動等に 即応した家賃改定の実現を目的とした借賃増減額請求権の排除を是認し得るだけの明確さを備えたものでなければならないと解するのが相当である。」としています。
そして、同項に該当する合意の例として、「『賃貸借期間中家賃の改定を行わない』旨の不改定特約、『一定の期間経過ごとに一定の割合で家賃を増額あるいは減額する』旨ないし『一定の期間経過ごとに特定の指標(例えば、消費者物価指数)の変動率に従って家賃を改定する』旨の自動改定特約」について、「借賃改定特約に該当する」としています。
これに対し、協議改定条項については、「家賃額の決定に関する外形的方法を定めるにすぎず、改定後の家賃額を客観的かつ一義的に決定するものとはいえないから、上記のような法38条7項の趣旨に照らし、借賃改定特約には該当しない」としています。そして、不改定条項と協議改定条項が両方入っている事案について、不明確さを欠くことから、不改定条項につき効力を否定しています。
なお、「単なる『法32条の適用はない』ないし『法32条の適用を排除する』旨の合意のみでは借地借家法38条7項の「借賃改定特約に該当するものでない」と明示していることにも着目すべきです。
まとめ・実務的な対応方法
まず、借地借家法38条の定期建物賃貸借成立要件(前回お話した事前説明と書面による契約)が必要です。
そして、不改定特約や自動改定特約が「借賃改定特約に該当する」としていますので、これにより、賃料減額請求を排除することができます。但し、協議改定条項をいれてしまうと、賃料減額請求を排除できなくなりますので注意を要します。市販の契約書用紙などには協議改定条項がはいっていますので、これに特約として定期建物賃貸借条項や借賃改定特約をいれても、賃料減額請求を排除できないので注意を要します。
契約書については管理依頼先に任せていることが多いと思いますが、契約締結時までに十分にチェックいただくようお勧めします。

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