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2020.04.25

新現代の借地・借家法務 第10回 更新料

前回は、建物賃貸借の予約にまつわる裁判例をご紹介しました。今回は、普通建物賃貸借での期間満了時の更新に絡んで生じる更新料について、最高裁判所の判例を紹介しながらお話したいと思います。

 

更新料合意のある場合

 

多くの普通建物賃貸借契約書ひな形などでは、契約期間終了時の更新について、更新料の授受についてとりきめていると思います。従来から、地方裁判所や高等裁判所は、更新料合意のある場合については、これを原則として有効としてきたと思います。原則としてというのは、あまりに高額で暴利行為といえるような更新料については、公序良俗に反し、無効と考えられるからです。この点、居住を目的とする建物賃貸借の場合、賃貸人が事業者、賃借人が消費者ととらえられることから、消費者契約法の適用があり、同法10条の適用可否が問題になります。同法10条は、「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」としています。
では、更新料合意一般がその額にかかわらず、消費者契約法10条に反して、無効といえるのでしょうか。
最高裁判所平成23年7月15日判決は、次のように述べてこれを否定しています。すなわち、「一定の地域において、期間満了の際、賃借人が賃貸人に対し更新料の支払をする例が少なからず存することは公知であることや、従前の和解手続等においても、これを公序良俗に反するなどとして、当然に無効とする取扱いがなされてこなかったことからすると、更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され、当事者間で更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に、当事者間に更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力についての看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。」としました。そして、「本件賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が、賃料の額、更新される賃貸借の期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法第10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則(信義則)に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当である。」としています。

 

法定更新の場合(更新料合意なし)

 

つぎに、更新料合意のない賃貸借契約で、法定更新がなされた場合、賃借人は、更新料請求をできるのでしょうか。この点については、借地の事案ですが、最高裁判所昭和51年10月1日判決が、つぎのように否定しています。すなわち、「法定更新に際し,賃貸人の請求があれば当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払義務が生ずる旨の商慣習又は事実たる慣習は存在しない」としており、合意がない限り、更新料の請求はできないことを明らかにしています。

 

法定更新の場合(更新料合意あり)

 

そこで次に、賃貸借契約書には更新規定や更新料規定がある場合で、賃貸人が更新拒絶をしたが、正当事由が不足していた場合や、漫然と更新拒絶期間を経過してしまった場合のように、合意による更新ではなく、法定更新となった場合、更新料請求ができるのかが問題になります。
この点については、直接に述べた最高裁判所の判例はなく、地方裁判所や高等裁判所の判決には、更新料請求を認めたものと、更新料請求を認めなかったものと両方があり、結論がだしにくいところです。
以下私見ですが、前掲最高裁判所平成23年判決が、更新料条項の有効性を明らかにしていること、法定更新の場合、期間の点を除き、「従前の条件と同一の条件で更新したものとみなす」(借地借家法26条)とされていることからも、更新料請求を認める余地ある場合があるとは思われます。しかし、多くの賃貸借契約では、更新料合意は、合意更新条項とともに規定していることが多く、法定更新を射程にいれていないと考えられること、法定更新の場合、事実上はその後の長期間の使用を認めることになるものの、期間の定めのない契約となり、正当事由が必要とはいえ、賃貸人から解約の意思表示が可能となるという点に着目すると、更新料合意のある賃貸借契約といえども、法定更新の場合には、更新料請求はできない場合が多いと考えられます。

 

まとめ・実務的な対応方法

 

以上、更新料合意をめぐる最高裁判決を紹介し、法定更新の場合にもふれました。賃貸人としては、更新料合意については、暴利行為との主張を誘発しないようその金額に注意するとともに明確な合意とし、また、更新時に更新合意をしていくべきと考えられます。

 

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