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2020.04.25

新現代の借地・借家法務 第9回 建物賃貸借の予約

新現代の借地・借家法務は、一昨年、NPO法人日本地主家主協会の機関誌「和楽」に連載しているものを お仕事&more に転載しています。
一昨年9月以降本業忙しく、9月から12月掲載分の転載が遅れていました。暇にはなっていないのですが、休載ながいのもどうかと思い、ここに転載を再開します。

 

新現代の借地・借家法務は第1回から第8回までで、賃料増減とサブリース契約解除とサブリース、定期建物賃貸借についての契約締結成立(その1)賃料不減額合意(その2)中途解約禁止(その3)終了通知(その4)再契約(その5)更新型賃貸借からの切替え(その6)について、裁判例をご紹介してきました。今回は、建物賃貸借の予約にまつわる裁判例を紹介したいと思います。

 

賃貸物件の建築をするに際し、オーナーとしては、建築前から、テナント側の出店計画があり、賃料収入予測のもと、当該計画にあった仕様の建物を建築することが多いと思われます。その為には、オーナーとしては、建築等のコストもかかることから、多くの場合、計画を立てる段階で建物賃貸借の予約をして、テナント側が逃げないようにしたいと考えるでしょう。これはテナント側も同様で、年間の事業計画を立ててのことですので、オーナーが途中とりやめされてはこまります。そこで、建物建築前段階で、オーナーとテナントの間で建物賃貸借の予約契約をすることがあります。
他方、計画途中で採算が取れないことが判明したなどの理由で、オーナー側から、計画を取りやめ、別の計画に変えたいと考える場合、逆に、テナント側としても、建物利用計画が採算が合わないことがわかり、出店などの契約をやめたいと思う場合に、建築前に締結した予約契約の拘束力がどの程度なのかが問題になります。

 

オーナー側の予約契約違反の事例

まず、オーナー側が予約契約に反して、別の利用形態とした事案として、東京地裁平成15年9月26日の事案を紹介します。この事案は、オーナーは地元の土地所有者、テナントは大手スーパーマーケットを経営との事案で、オーナーとテナントとの間で、テナントの要望で3階建建物、1階は店舗、2階駐車場、3階・屋上は事務所・店舗との計画を立てて、同計画建物賃貸借の予約をしていたところ、オーナーは、3階の事務所・店舗を2階に移し、3階・屋上に駐車場を設置する案に建物を変更して建築し、更に、テナントが変更に応じないことから、別の大手スーパーマーケットに賃貸したというものです。
この事案では、2階駐車場をとりやめて、店舗・事務所としたことについて、オーナー側に変更権が認められるのか、別の大手スーパーに賃貸したことで履行不能となるのかが争われました。裁判所は、建物賃貸借予約契約の拘束力を認め、オーナーの変更権を否定しました。そして、変更権がない以上、賃借予定のスーパーには賃貸せず、他の大手スーパーに賃貸したことにより、この建物賃貸借予約契約は、オーナーの債務不履行による履行不能であると認めて、オーナーに損害賠償を命じる判決を言い渡しました。

 

 

テナント側の出店計画とりやめ解約を認めなかった事例

ついで、テナント側が出店契約をとりやめ、解約をしてきた事案として、名古屋地方裁平成29年5月30日の判決を紹介します。この事案は、駅ビル建築計画をもっていた大手鉄道会社子会社であるオーナー会社が建築計画前にプロポーザル方式でテナント募集をした上で、大手家電量販店のテナント会社との間で、定期建物賃貸借予約契約を締結し、オーナー会社は、同テナント入居を前提に、建築に入ったものです。ところが、建築が難航し、当初の完成予定から1年程度完成が遅れ、ビル開業が遅れることが明らかとなったことから、テナント会社は、オーナー会社に、予定時期に定期建物賃貸借を締結するとの目的達成不能を理由として、予約契約解除と予約金の返還等を求めたものです。
裁判所は、①開業時期につき、予約契約が「予定」という幅のある内容であったこと、開業時期遅れについて当事者間で同テナント出店を前提とする話し合い(テナントによる営業遅延補償の要求等もありました。)が続けられていたことなどから、確定的な開業日を前提とする建物賃貸借予約は認められないものとしました。②そして、目的達成不能との主張についても、開業時期が確定していないことなどから、目的達成不能とまでは認められないとして、テナント側の解約を認めないとの判決を言い渡しました。

 

まとめ・実務的な対応方法

以上、オーナー側が建物賃貸借予約契約に反した事例とテナント側が建物賃貸借予約を解約しようとした事例の双方についてみてみました。この二つの裁判例からは、建物賃貸借予約契約について、裁判所は一定以上の拘束力を認める傾向が認められます。
相談事例でも、事業用建物を前提とする予約契約を締結したものの、事業計画の不十分さから、これを解消して、別の計画にしたいというものがありました。最終的には訴訟とはせずに和解解決しましたが、訴訟になった場合には、困難多い事案でした。事業計画に対する慎重な検討が必要であり、建物賃貸借予約についても簡単には解消できないことには注意を要します。

 

 

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