24気になる判例平成24年

2014.04.19

原案の送付と定期建物賃貸借の成否

最判平成24年 9月13日民集 66巻9号3263頁

近時、借地借家法38条に規定する定期建物賃貸借の形式でありながら、同条2項の事前説明がなく、定期建物賃貸借とみれない契約例に接した。この点については、最高裁判所が判決を出している。

事案の概要

1 賃貸人Aは、賃借人Bとの間で「定期建物賃貸借契約書」と題する書面(以下「本件契約書」という。)を取り交わし,期間を同日から5年、賃料を月額90万円として、本件建物につき賃貸借契約を締結した。本件契約書には,本件賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により終了する旨の条項(以下「本件定期借家条項」という。)がある。
2 Aは,本件賃貸借の締結に先立つ日に,Bに対し、本件賃貸借の期間を5年とし、本件定期借家条項と同内容の記載をした本件契約書の原案を送付し、Bは,同原案を検討した。
3 Aは,賃貸借開始から5年経過する6ヶ月前までに、Bに対し,本件賃貸借は期間の満了により終了する旨の通知をした。
4 A→B 建物明渡しを請求し、係争。
判旨

 期間の定めがある建物の賃貸借につき契約の更新がないこととする旨の定めは,公正証書による等書面によって契約をする場合に限りすることができ(法38条1項),そのような賃貸借をしようとするときは,賃貸人は,あらかじめ,賃借人に対し,当該賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて,その旨を記載した書面を交付して説明しなければならず(同条2項),賃貸人が当該説明をしなかったときは,契約の更新がないこととする旨の定めは無効となる(同条3項)。
 法38条1項の規定に加えて同条2項の規定が置かれた趣旨は,定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って,賃借人になろうとする者に対し,定期建物賃貸借は契約の更新がなく期間の満了により終了することを理解させ,当該契約を締結するか否かの意思決定のために十分な情報を提供することのみならず,説明においても更に書面の交付を要求することで契約の更新の有無に関する紛争の発生を未然に防止することにあるものと解される。
 以上のような法38条の規定の構造及び趣旨に照らすと,同条2項は,定期建物賃貸借に係る契約の締結に先立って,賃貸人において,契約書とは別個に,定期建物賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により終了することについて記載した書面を交付した上,その旨を説明すべきものとしたことが明らかである。そして,紛争の発生を未然に防止しようとする同項の趣旨を考慮すると,上記書面の交付を要するか否かについては,当該契約の締結に至る経緯,当該契約の内容についての賃借人の認識の有無及び程度等といった個別具体的事情を考慮することなく,形式的,画一的に取り扱うのが相当である。
 したがって,法38条2項所定の書面は,賃借人が,当該契約に係る賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により終了すると認識しているか否かにかかわらず,契約書とは別個独立の書面であることを要するというべきである。
 これを本件についてみると,前記事実関係によれば,本件契約書の原案が本件契約書とは別個独立の書面であるということはできず,他に被上告人が上告人に書面を交付して説明したことはうかがわれない。なお,上告人による本件定期借家条項の無効の主張が信義則に反するとまで評価し得るような事情があるともうかがわれない。
 そうすると,本件定期借家条項は無効というべきであるから,本件賃貸借は,定期建物賃貸借に当たらず,約定期間の経過後,期間の定めがない賃貸借として更新されたこととなる(法26条1項)。
(Aの明渡し請求は請求棄却)

2013.01.06

人身傷害保険の支払と代位する損害賠償請求権の範囲(最判平成24年2月20日)

最判平成24年2月20日 民集66巻2号742頁
平成21年(受)第1461号 損害賠償請求事件(変更)

 
本件は,交通事故によって死亡したAの両親である第1審原告らが,加害車両の運転者である第1審被告Y1に対しては民法709条に基づき,加害車両の保有者である第1審被告Y2に対しては自動車損害賠償保障法3条に基づき,損害賠償を求める事案である。第1審原告らは,第1審原告X1が自動車保険契約を締結していた保険会社から,上記保険契約に適用される普通保険約款中の人身傷害条項に基づき,保険金の支払を受けたことから,上記保険会社による損害賠償請求権の代位取得の範囲等が主たる争点となった。

論点 1
人身傷害条項に基づき被害者が被った損害に対して保険金を支払った保険会社(以下「保険会社」という。)は,損害金元本に対する遅延損害金の支払請求権を代位取得するか。

論点 2
人身傷害条項の被保険者である被害者に過失がある場合,保険金を支払った保険会社が,代位取得する損害賠償請求権の範囲。
論点2につき
既出 交通事故の加害者が被害者に賠償すべき人的損害の額の算定に当たり、被害者の父が締結していた自動車保険契約の人身傷害補償条項に基づき被害者が支払を受けた保険金の額を控除する場合の控除の方法について。 その2 その3


(事実関係の概要等)
(1)  Aは,平成17年5月1日午後6時40分頃,横断歩道の設けられていない道路を横断中,前方注視を怠るなどして上記道路を進行してきた第1審被告Y1が運転し,第1審被告Y2が保有する普通乗用自動車に衝突され,脳挫傷,気管挫裂傷等の傷害を負い(以下,この事故を「本件事故」という。),入院治療を受けたが,同年11月26日,死亡した。

(2)  本件事故によりAが被った損害は合計7828万2219円であるが,本件事故におけるAの過失割合が10%であることから,上記割合により過失相殺をすると,Aが第1審被告らに対して賠償請求をすることができる損害金(以下,単に「Aの損害金」という。)の額は,7045万3997円となる。Aの両親である第1審原告らは,Aの第1審被告らに対する損害賠償請求権を2分の1ずつ相続により取得した。

(3)  第1審原告らは,本件事故によりAが被った損害につき,公立学校共済組合から123万9297円の,第1審被告Y2から793万0904円の各支払を受けた。その結果,第1審原告らが第1審被告らに対して賠償請求をすることができるAの損害金の残元本は,上記(2)の7045万3997円から上記各支払額を控除した6128万3796円となった。
(4)  第1審原告X1固有の損害は,270万円であり,第1審原告X2固有の損害は,160万円である。

(5)  第1審原告X1は,本件事故当時,B(以下「訴外保険会社」という。)との間で,人身傷害条項のある普通保険約款(以下「本件約款」という。)が適用される自動車保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結しており,Aは,上記条項に係る被保険者であった。
(6)  本件約款中の人身傷害条項には,要旨,次のような定めがあった。
ア  訴外保険会社は,日本国内において,自動車の運行に起因する事故等に該当する急激かつ偶然な外来の事故により,被保険者が身体に傷害を被ることによって被保険者又はその父母,配偶者若しくは子が被る損害に対し,保険金を支払う。
イ  訴外保険会社は,被保険者の故意又は極めて重大な過失(事故の直接の原因となり得る過失であって,通常の不注意等では説明のできない行為(不作為を含む。)を伴うものをいう。)によって生じた損害に対しては,保険金を支払わない。
ウ  訴外保険会社が保険金を支払うべき損害の額は,本件約款所定の算定基準に従い算定された金額の合計額(以下「人傷基準損害額」という。)とする。
エ  訴外保険会社が支払う保険金の額は,人傷基準損害額から①保険金請求権者が賠償義務者から既に取得した損害賠償金の額及び②上記アの損害を補償するために支払われる給付で保険金請求権者が既に取得したものがある場合はその取得額等を差し引いた額とする。
オ  保険金請求権者が他人に損害賠償の請求をすることができる場合には,訴外保険会社は,その損害に対して支払った保険金の額の限度内で,かつ,保険金請求権者の権利を害さない範囲内で,保険金請求権者がその他人に対して有する権利を取得する(以下「本件代位条項」という。)。

(7)  本件約款には,訴外保険会社が上記(6)アの損害の元本に対する遅延損害金を支払う旨の定めはない。

(8)  Aについての人傷基準損害額は,6741万7099円である。第1審原告らは,平成19年10月25日,本件事故によりAが被った損害につき,訴外保険会社から,本件約款中の人身傷害条項に基づき,保険金として,上記の人傷基準損害額から上記(3)の各支払額を差し引いた5824万6898円(以下「本件保険金」という。)の支払を受けた。

(9)ア  第1審原告X1の請求(当審における減縮後のもの)は,以下の金員の支払を求めるものである。
 (ア) Aの損害金の残元本の2分の1である924万3908円
 (イ) 固有の損害金元本330万円及びこれに対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金(民法所定年5分の割合によるもの。以下同じ。)41万0465円
 (ウ) 上記(ア)の924万3908円及び上記(イ)の330万円の合計1254万3908円に対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金

イ  第1審原告X2の請求(当審における減縮後のもの)は,以下の金員の支払を求めるものである。
 (ア) 上記ア(ア)と同じ
 (イ) 固有の損害金元本210万円及びこれに対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金26万1205円
 (ウ) 上記ア(ア)の924万3908円及び上記(イ)の210万円の合計1134万3908円に対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金

ウ  第1審原告らは,主位的には,本件保険金を支払った訴外保険会社はAの損害金の残元本に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金の支払請求権を代位取得すると主張して,上記ア及び上記イの各(ア)のAの損害金の残元本を請求しているが,予備的に,仮に,本件保険金を支払った訴外保険会社が上記遅延損害金の支払請求権を代位取得しないのであれば,第1審原告らは上記遅延損害金の2分の1の支払請求権を有していると主張しており,それぞれ,Aの損害金の残元本の2分の1である543万2560円及び上記遅延損害金の2分の1である381万1348円を請求しているとみられることは,記録上明らかである。

(原審)
 札幌高判平成21年 4月10日金商1391号34頁<参考収録>平20(ネ)359号

第1審原告らが第1審被告らに対して請求することができるAの損害金の元本を各532万9797円とし,第1審原告らの請求を,上記の532万9797円と第1審原告ら各自の固有の損害金元本(第1審原告X1につき270万円,同X2につき160万円)との合計額及びこれに対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を求める限度で,これを認容すべきものと判断したが,第1審原告ら各自の固有の損害金元本に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金の支払請求については,特段の理由を示すことなくこれを棄却すべきものと判断した。
(原審判断の理由)
(1)  本件保険金は,民法491条に準じて,まず,上記2(3)のAの損害金の残元本に対する本件保険金支払日までの遅延損害金762万2696円に充当される。
(2)  本件保険金のうち上記(1)のとおり充当された残額である5062万4202円については,その全額が上記2(3)のAの損害金の残元本に充当され,その結果,Aの損害金の残元本は,1065万9594円となる。

(最高裁の判断)

(1)  本件約款中の人身傷害条項に基づき,被保険者である交通事故等の被害者が被った損害に対して保険金を支払った訴外保険会社は,上記保険金の額の限度内で,これによって塡補される損害に係る保険金請求権者の加害者に対する賠償請求権を代位取得し,その結果,訴外保険会社が代位取得する限度で,保険金請求権者は上記請求権を失い,上記請求権の額が減少することとなるところ(最高裁昭和49年(オ)第531号同50年1月31日第三小法廷判決・民集29巻1号68頁参照),訴外保険会社がいかなる範囲で保険金請求権者の上記請求権を代位取得するのかは,本件保険契約に適用される本件約款の定めるところによることとなる。
(2)  本件約款によれば,上記保険金は,被害者が被る損害の元本を塡補するものであり,損害の元本に対する遅延損害金を塡補するものではないと解される。そうであれば,上記保険金を支払った訴外保険会社は,その支払時に,上記保険金に相当する額の保険金請求権者の加害者に対する損害金元本の支払請求権を代位取得するものであって,損害金元本に対する遅延損害金の支払請求権を代位取得するものではないというべきである。

(以上 論点1)

(3)  次に,被保険者である被害者に,交通事故の発生等につき過失がある場合において,訴外保険会社が代位取得する保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権の範囲について検討する。
 本件約款によれば,訴外保険会社は,交通事故等により被保険者が死傷した場合においては,被保険者に過失があるときでも,その過失割合を考慮することなく算定される額の保険金を支払うものとされているのであって,上記保険金は,被害者が被る損害に対して支払われる傷害保険金として,被害者が被る実損をその過失の有無,割合にかかわらず塡補する趣旨・目的の下で支払われるものと解される。上記保険金が支払われる趣旨・目的に照らすと,本件代位条項にいう「保険金請求権者の権利を害さない範囲」との文言は,保険金請求権者が,被保険者である被害者の過失の有無,割合にかかわらず,上記保険金の支払によって民法上認められるべき過失相殺前の損害額(以下「裁判基準損害額」という。)を確保することができるように解することが合理的である。
 そうすると,上記保険金を支払った訴外保険会社は,保険金請求権者に裁判基準損害額に相当する額が確保されるように,上記保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である。

(4)  なお,第1審原告ら固有の損害の賠償債務は,本件事故時に発生し,かつ,何らの催告を要することなく,遅滞に陥ったものであるから(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照),第1審原告ら固有の損害金元本に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金の支払請求が否定される理由はない。

(以上 論点2)

5(1)  前記事実関係等及び上記4で説示したところによれば,訴外保険会社は,本件保険金5824万6898円とAの損害金元本7045万3997円との合計額1億2870万0895円が,本件事故によりAが被った損害である前記2(2)の7828万2219円を上回る部分である5041万8676円の範囲で,Aの損害金元本の支払請求権を代位取得し,その限度で第1審原告らが第1審被告らに請求することができるAの損害金の残元本の額が減少することとなる。そして,前記2(3)のAの損害金の残元本6128万3796円から上記の5041万8676円を控除すると,第1審原告らが第1審被告らに請求することができるAの損害金の残元本は,1086万5120円となる。

(2)ア  そうすると,第1審原告X1の請求は,以下の金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。
 (ア) 上記Aの損害金の残元本の2分の1である543万2560円及び前記2(3)のAの損害金の残元本6128万3796円に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金の2分の1である381万1348円
 (イ) 固有の損害金元本270万円及びこれに対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金33万5835円
 (ウ) 上記(ア)の543万2560円及び上記(イ)の270万円の合計813万2560円に対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金

イ  また,第1審原告X2の請求は,以下の金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。
 (ア) 上記ア(ア)と同じ
 (イ) 固有の損害金元本160万円及びこれに対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金19万9013円
 (ウ) 上記ア(ア)の543万2560円及び上記(イ)の160万円の合計703万2560円に対する本件保険金支払日の翌日から支払済みまでの遅延損害金


(裁判官宮川光治の補足意見)
 本件約款の人身傷害条項は,自動車事故によって被保険者が死傷した場合に所定の基準により算定された損害の額に相当する保険金を支払うという傷害保険を定めるものである。同保険では,被保険者は迅速な損害塡補を受けることができるのであるから,判決による遅延損害金をも塡補している賠償責任条項とは異なって,損害金元本に対する遅延損害金を塡補していない。保険代位の対象となる権利は,保険による損害塡補の対象と対応する損害についての賠償請求権に限定されるのであるから(対応の原則),原審が本件保険金について民法491条を準用し損害金元本に対する本件事故日から本件保険金支払日までの遅延損害金に充当するとしたことは,相当でない。
 被害者に過失がある場合において,保険金を支払った保険者が代位取得する損害賠償請求権の範囲については,諸説がある。法廷意見は,人身傷害保険の趣旨・目的に照らすといわゆる裁判基準差額説と呼ばれている見解が合理的であるとするものであるが,本件約款の人身傷害条項においては損害や保険金を過失割合に応じて按分するという考えを採っていないこと,保険法25条1項が一部保険に関していわゆる差額説を採用したことにも相応すること,そして,そもそも平均的保険契約者の理解に沿うものと認められることから,支持できると思われる。本件約款の人身傷害条項は,賠償義務者から既に取得した損害賠償金の額等がある場合は,保険金の額はそれらの合計額を差し引いた額とすると定めている。これを字義どおり解釈して適用すると,一般に人身傷害条項所定の基準は裁判基準を下回っているので,先に保険金を受領した場合と比較すると不利となることがある。そうした事態は明らかに不合理であるので,上記定めを限定解釈し,差し引くことができる金額は裁判基準損害額を確保するという「保険金請求権者の権利を害さない範囲」のものとすべきであると考えられる。

最判平成24年3月16日(取得時効と抵当権)

最判平成24年3月16日民集 66巻5号2321頁平成22年(受)第336号 第三者異議事件(棄却)

本件各土地につき抵当権の設定を受けていた上告人が,抵当権の実行としての競売を申し立てたところ,本件各土地を時効取得したと主張する被上告人が,この競売の不許を求めて第三者異議訴訟を提起した事案。


事実関係の概要

  (1) Aは,昭和45年3月当時,平成17年3月に本件各土地に換地がされる前の従前の土地(以下「本件旧土地」という。)を所有していた。同人は,昭和45年3月,被上告人に対し,本件旧土地を売却したが,所有権移転登記はされなかった。
 被上告人は,遅くとも同月31日から,本件旧土地につき占有を開始し,サトウキビ畑として耕作していた。
  (2) Aの子であるBは,昭和57年1月13日,本件旧土地につき,昭和47年10月8日相続を原因として,Aからの所有権移転登記を了した。
 また,Bは,昭和59年4月19日,本件旧土地につき,上告人のために,本件抵当権を設定し,同日付けでその旨の抵当権設定登記がされた。
 しかし,被上告人は,これらの事実を知らないまま,上記換地の前後を通じて,本件旧土地又は本件各土地をサトウキビ畑として耕作し,その占有を継続した。また,被上告人は,本件抵当権の設定登記時において,本件旧土地を所有すると信ずるにつき善意かつ無過失であった。
  (3) 上告人は,本件各土地を目的とする本件抵当権の実行としての競売(以下「本件競売」という。)を申し立て,平成18年9月29日,競売開始決定を得た。これに対し,被上告人は,本件競売の不許を求めて本件訴訟を提起した。なお,本件競売手続については,被上告人の申立てにより,平成20年7月31日,停止決定がされた。
  (4) 被上告人は,平成20年8月9日,Bに対し,本件各土地につき,所有権の取得時効を援用する旨の意思表示をした。

1審 鹿児島地名瀬支判平成21年 6月24日金法 1955号107頁<参考収録>事件番号 平20(ワ)287号

本件土地は、10年の取得時効完成後に、被告が抵当権設定登記を経由しているから、原告はこの時点で取得時効を援用したとしても、被告に対して時効による所有権取得を対抗できないものの、原告は、本件抵当権設定登記経由後も、同経由事実を知らないまま所有の意思をもって平穏公然に本件土地の占有を継続し、本件土地を所有すると信じるにつき善意無過失でさらに10年間占有を継続していたから、本件取得時効の起算点は被告の抵当権設定登記経由時であって、原告は、被告に対し、登記を経由しなくとも取得時効をもって対抗し得るとした上で、原告は、取得時効の援用により、本件土地の所有権を原始取得したとして、原告の請求を全部認容

原審 福岡高宮崎支判平成21年11月27日金法 1955号106頁<参考収録>事件番号 平21(ネ)116号

本件では、被控訴人が短期取得時効の要件を満たした状態で本件土地の占有を開始して10年経過した後に、控訴人が本件土地につき抵当権を設定し、被控訴人がその事実を知らないままその後もさらに10年間占有を継続していたものであるところ、本件取得時効の起算点は、被控訴人による本件土地の占有開始時ではなく、控訴人による抵当権の設定登記経由時であり、また、被控訴人が本件土地を時効取得したことによって、控訴人の抵当権は消滅したとして、被控訴人の請求を認めた原判決を維持し、控訴を棄却した


控訴人は、上告したが最高裁判所は次のように論じて、上告棄却。

「所論は,時効取得者と取得時効の完成後に抵当権の設定を受けてその設定登記をした者との関係は対抗問題となり,時効取得者は,抵当権の負担のある不動産を取得するにすぎないのに,これと異なり,被上告人の取得時効の援用により本件抵当権は消滅するとした原審の判断には,法令の解釈を誤る違法があるというのである。」

(判旨)
(1) 時効取得者と取得時効の完成後に抵当権の設定を受けてその設定登記をした者との関係が対抗問題となることは,所論のとおりである。しかし,不動産の取得時効の完成後,所有権移転登記がされることのないまま,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合において,上記不動産の時効取得者である占有者が,その後引き続き時効取得に必要な期間占有を継続したときは,上記占有者が上記抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り,上記占有者は,上記不動産を時効取得し,その結果,上記抵当権は消滅すると解するのが相当である。

その理由として、
ア 取得時効の完成後,所有権移転登記がされないうちに,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了したならば,占有者がその後にいかに長期間占有を継続しても抵当権の負担のない所有権を取得することができないと解することは,長期間にわたる継続的な占有を占有の態様に応じて保護すべきものとする時効制度の趣旨に鑑みれば,是認し難いというべきである。

イ そして,不動産の取得時効の完成後所有権移転登記を了する前に,第三者に上記不動産が譲渡され,その旨の登記がされた場合において,占有者が,上記登記後に,なお引き続き時効取得に要する期間占有を継続したときは,占有者は,上記第三者に対し,登記なくして時効取得を対抗し得るものと解されるところ(最高裁昭和34年(オ)第779号同36年7月20日第一小法廷判決・民集15巻7号1903頁),不動産の取得時効の完成後所有権移転登記を了する前に,第三者が上記不動産につき抵当権の設定を受け,その登記がされた場合には, 占有者は,自らが時効取得した不動産につき抵当権による制限を受け,これが実行されると自らの所有権の取得自体を買受人に対抗することができない地位に立たされるのであって,上記登記がされた時から占有者と抵当権者との間に上記のような権利の対立関係が生ずるものと解され,かかる事態は,上記不動産が第三者に譲渡され,その旨の登記がされた場合に比肩するということができる。また,上記判例によれば,取得時効の完成後に所有権を得た第三者は,占有者が引き続き占有を継続した場合に,所有権を失うことがあり,それと比べて,取得時効の完成後に抵当権の設定を受けた第三者が上記の場合に保護されることとなるのは,不均衡である。

(2) これを本件についてみると,前記事実関係によれば,昭和55年3月31日の経過により,被上告人のために本件旧土地につき取得時効が完成したが,被上告人は,上記取得時効の完成後にされた本件抵当権の設定登記時において,本件旧土地を所有すると信ずるにつき善意かつ無過失であり,同登記後引き続き時効取得に要する10年間本件旧土地の占有を継続し,その後に取得時効を援用したというのである。そして,本件においては,前記のとおり,被上告人は,本件抵当権が設定されその旨の抵当権設定登記がされたことを知らないまま,本件旧土地又は本件各土地の占有を継続したというのであり,被上告人が本件抵当権の存在を容認していたなどの特段の事情はうかがわれない。

 そうすると,被上告人は,本件抵当権の設定登記の日を起算点として,本件旧土地を時効取得し,その結果,本件抵当権は消滅したというべきである。

 5 原審の前記3の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

2013.01.05

保険料不払の場合の保険契約失効と消費者契約法10条(最判平成24年3月16日)

最判平成24年3月16日民集 66巻5号2216頁平成22年(受)第332号 生命保険契約存在確認請求事件 (破棄差戻し)

保険料の払込みがされない場合に履行の催告なしに保険契約が失効する旨を定める約款の条項は,消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」にはあたらないとされた。

 本件各保険契約においては,保険料は払込期月内に払い込むべきものとされ,遅滞しても直ちに保険契約が失効するものではなく,この債務不履行の状態が民法541条により求められる催告期間よりも長い1か月の期間内に解消されない場合に初めて失効する旨が明確に定められている。加えて,払い込むべき保険料等の額が解約返戻金の額を超えないときは,自動的に上告人が保険契約者に保険料相当額を貸し付けて保険契約を有効に存続させる旨の自動貸付条項が定められていて保険契約者が保険料の不払をした場合にも,その権利保護を図るために一定の配慮がされているものといえる。
 さらに,保険会社において,本件各保険契約の締結当時,保険料支払債務の不履行があった場合に契約失効前に保険契約者に対して保険料払込みの督促を行う態勢を整え,そのような実務上の運用が確実にされていたとすれば,保険契約者は保険料支払債務の不履行があったことに気付くことができると考えられる。

安全配慮義務違反にもとづく損害賠償請求と弁護士費用(最判平成24年2月24日)

最判平成24年2月24日判時 2144号89頁平成23年(受)第1039号 損害賠償請求事件(一部破棄差戻し・一部棄却)

 労働者が,使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求するため訴えを提起することを余儀なくされ,訴訟追行を弁護士に委任した場合には,その弁護士費用は,事案の難易,請求額,認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り,上記安全配慮義務違反と相当因果関係に立つ損害というべきである。

 労働者が,就労中の事故等につき,使用者に対し,その安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償を請求する場合には,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合と同様,その労働者において,具体的事案に応じ,損害の発生及びその額のみならず,使用者の安全配慮義務の内容を特定し,かつ,義務違反に該当する事実を主張立証する責任を負うのであって(最高裁昭和54年(オ)第903号同56年2月16日第二小法廷判決・民集35巻1号56頁参照),労働者が主張立証すべき事実は,不法行為に基づく損害賠償を請求する場合とほとんど変わるところがない。そうすると,使用者の安全配慮義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権は,労働者がこれを訴訟上行使するためには弁護士に委任しなければ十分な訴訟活動をすることが困難な類型に属する請求権であるということができる。

2013.01.03

入札談合と独占禁止法(最判平成24年2月20日)

最判平成24年2月20日民集 66巻2号796頁
平成22年(行ヒ)第278号 審決取消請求事件(破棄自判,被上告人らの請求棄却)

訴外公社の発注した土木工事につき、原告らを含む33社が談合を行い、独占禁止法3条の不当な取引制限を行ったとして、被告公正取引委員会が、原告らを含む30社に対して課徴金の納付を命じる審決をした。

これに対し、原告らが同審決の取消しを求めた。

原審(東京高判平成22年 3月19日平20(行ケ)25号 ・ 平20(行ケ)26号 ・ 平20(行ケ)32号 ・ 平20(行ケ)38号公正取引委員会ウェブサイト)は、
本件で、独占禁止法2条6項所定の「一定の取引分野」において「競争」を「実質的に制限」する場合とは、本件工事の入札に関し、建設業者が自由で自主的な営業活動を行うことを停止あるいは排除することにより、特定の建設業者が、ある程度自由に本件工事の受注者あるいは受注価格を左右することができる状態に至っていることをいうところ、本件では同項所定の行為があったとの事実を認定するに足りる実質的証拠はないから、不当な取引制限の結果原告らが各物件を受注したとの事実を認定するに足る実質的証拠もないとして、本件審決を取り消した。

公正取引委員会による上告がなされ、最高裁判所は次のように判断して、原審を破棄し、原告(被上告人)の請求を棄却した。
 
 独禁法(平成14年法律第47号による改正前のもの)2条6項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」とは,当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい,(本件基本合意のような)一定の入札市場における受注調整の基本的な方法や手順等を取り決める行為によって競争制限が行われる場合には,当該取決めによって,その当事者である事業者らがその意思で当該入札市場における落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいうものと解されるとした上,都市基盤整備事業を行う法人が特定の地域において指名競争入札の方法により発注する一定規模以上の土木工事について複数のゼネコンがした受注予定者の決定等に関する合意が受注調整の結果として受注予定者の落札率が97パーセントを超えた等の事情によれば「不当な取引制限」に当たる。

2013.01.02

区画整理における照応原則に関する判例(最判平成24年2月16日)

最一判平成24年2月16日 判時 2147号39頁
平成23年(行ヒ)第166号 建築物等移転通知及び照会処分取消請求事件(破棄自判,被上告人らの請求棄却)


 事業計画に基づきマンション区分所有者らに対し現在仮換地の方法による仮換地が行われたことについて照応原則違反が争われた事案であるが,原審が,事業計画による廃止前の道路の存在を前提として照応原則違反を判断したこと,換地処分後に確定して生じる清算金負担を前提として照応原則違反を判断したことについて,前者は事業計画により道路廃止が予定されており且つ廃止について違法な点は窺えないことから廃止を前提に判断すべきこと,後者は仮換地処分時点の事情ではないことを理由に何れも誤りであるとした上,仮換地により不整形になった事情はあるものの地積が増加しており不整形部分は増加に係る地積部分に対応していること,設置道路の幅員が増加しマンション敷地としての利便性が低下したとは認められないこと,電線や排水管等の設備面でも利便性が低下したとは認められないこと等から,照応原則違反はないと判断された。

土壌汚染対策法3条の通知と行政行為(最判平成24年2月3日)

最判平成24年2月3日民集 66巻2号148頁
平成23年(行ヒ)第18号 土壌汚染対策法による土壌汚染状況調査報告義務付け処分取消請求事件(上告棄却)

土壌汚染対策法3条は、使用が廃止された有害物質使用特定施設に係る工場又は事業場の敷地であった土地の調査について、1項で

「使用が廃止された有害物質使用特定施設(水質汚濁防止法第2条第2項に規定する特定施設(以下「特定施設」という。)であって、同条第2項第1号に規定する物質(特定有害物質であるものに限る。)をその施設において製造し、使用し、又は処理するものをいう。以下同じ。)に係る工場又は事業場の敷地であった土地の所有者、管理者又は占有者(以下「所有者等」という。)であって、当該有害物質使用特定施設を設置していたもの又は次項の規定により都道府県知事から通知を受けたものは、環境省令で定めるところにより、当該土地の土壌の特定有害物質による汚染の状況について、環境大臣が指定する者に環境省令で定める方法により調査させて、その結果を都道府県知事に報告しなければならない。ただし、環境省令で定めるところにより、当該土地について予定されている利用の方法からみて土壌の特定有害物質による汚染により人の健康に係る被害が生ずるおそれがない旨の都道府県知事の確認を受けたときは、この限りでない。」

として、都道府県知事が特定施設の敷地であった土地の所有者等に対して、2項の通知をした場合に、原則、土壌の調査、報告を課している。
そして、2項の通知とは、

「 都道府県知事は、水質汚濁防止法第10条の規定による特定施設(有害物質使用特定施設であるものに限る。)の使用の廃止の届出を受けた場合その他有害物質使用特定施設の使用が廃止されたことを知った場合」において、
「当該有害物質使用特定施設を設置していた者以外に当該土地の所有者等があるときは、環境省令で定めるところにより、当該土地の所有者等に対し、当該有害物質使用特定施設の使用が廃止された旨その他の環境省令で定める事項を通知するものとする。」としている。

なお、通知をうけても、1項に規定の調査・報告をしない場合
「都道府県知事は、第1項に規定する者が同項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたときは、政令で定めるところにより、その者に対し、その報告を行い、又はその報告の内容を是正すべきことを命ずることができる。」とされる(同3項)。

本判決は、「土壌汚染対策法(以下「法」という。)3条1項所定の有害物質使用特定施設に係る事業場の敷地であった土地の所有者である被上告人が,当該施設の使用の廃止に伴い,法に規定する都道府県知事の権限に属する事務を行う旭川市長から同条2項による通知を受け,上記土地の土壌汚染状況調査を実施してその結果を報告すべきものとされたことから,上記通知が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たることを前提にその取消しを求めている事案」であり、
1審は、「土地所有者等に対する法的効力が確定的に発生し、同条1項所定の調査報告義務の実質的要件を充足しているかどうかの最終的な判断がなされるのは、同条3項の命令発令時である上、同条3項の命令が発せられるのを待って抗告訴訟を提起すれば救済を受けることが可能であることなどからすれば、同法は本件通知の行政処分性を否定しているものと解される」として、訴えを却下していた(旭川地判平成21年 9月 8日判例地方自治 355号38頁<参考収録> 平20(行ウ)9号)。

これに対し、原審は、通知の処分性を認めて、一審を破棄差し戻ししていたが(札幌高判平成22年10月12日判例地方自治 355号44頁<参考収録>平21(行コ)14号)、上告人(原審被控訴人)は、これを争って上告した。

最高裁判所は、本件上告について、つぎのとおり述べて、上告を棄却した。

「都道府県知事は,有害物質使用特定施設の使用が廃止されたことを知った場合において,当該施設を設置していた者以外に当該施設に係る工場又は事業場の敷地であった土地の所有者,管理者又は占有者(以下「所有者等」という。)があるときは,当該施設の使用が廃止された際の当該土地の所有者等(土壌汚染対策法施行規則(平成22年環境省令第1号による改正前のもの)13条括弧書き所定の場合はその譲受人等。以下同じ。)に対し,当該施設の使用が廃止された旨その他の事項を通知する(法3条2項,同施行規則13条,14条)。その通知を受けた当該土地の所有者等は,法3条1項ただし書所定の都道府県知事の確認を受けたときを除き,当該通知を受けた日から起算して原則として120日以内に,当該土地の土壌の法2条1項所定の特定有害物質による汚染の状況について,環境大臣が指定する者に所定の方法により調査させて,都道府県知事に所定の様式による報告書を提出してその結果を報告しなければならない(法3条1項,同施行規則1条2項2号,3項,2条)。これらの法令の規定によれば,法3条2項による通知は,通知を受けた当該土地の所有者等に上記の調査及び報告の義務を生じさせ,その法的地位に直接的な影響を及ぼすものというべきである。
 都道府県知事は,法3条2項による通知を受けた当該土地の所有者等が上記の報告をしないときは,その者に対しその報告を行うべきことを命ずることができ(同条3項),その命令に違反した者については罰則が定められているが(平成21年法律第23号による改正前の法38条),その報告の義務自体は上記通知によって既に発生しているものであって,その通知を受けた当該土地の所有者等は,これに従わずに上記の報告をしない場合でも,速やかに法3条3項による命令が発せられるわけではないので,早期にその命令を対象とする取消訴訟を提起することができるものではない。そうすると,実効的な権利救済を図るという観点から見ても,同条2項による通知がされた段階で,これを対象とする取消訴訟の提起が制限されるべき理由はない。
 以上によれば,法3条2項による通知は,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である(最高裁昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁等参照)。」

2013.01.01

担保権の設定されている物権の共有物分割(最決平成24年2月7日)

最決平成24年2月7日判時 2163号3頁
平成23年(許)第31号 担保不動産競売手続取消決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件(棄却)


(経過等)

(1) Xら及びYらが共有する本件不動産には,前所有者により金融機関のために極度額合計2億6500万円の根抵当権が設定されていたところ,Xらを原告,Yらを被告とする共有物分割請求訴訟において,本件不動産を競売に付し,その売却代金から競売手続費用を控除した金額を,共有持分の割合で分割することを命ずる判決が言い渡され,確定した。
この判決に基づくXらの申立てにより本件不動産につき競売手続が開始されたが,執行裁判所は,Xらに対し,本件不動産の買受可能価額約3700万円が,手続費用及び差押債権者の債権に優先する債権の見込額の合計額約2億6600万円に満たない旨の民事執行法63条1項2号に基づく通知をし,Xらが同条2項所定の対応をしなかったことから,本件の競売手続を取り消す旨の原々決定をした。

(2) Xらは,執行抗告をしたが,原決定は,
①同法195条は,共有物分割のための不動産競売につき何らの留保なく同法63条を準用していること
②先順位抵当権者が本件不動産の値上がりを待つなどする換価時期選択の利益を無視して,無剰余であるにもかかわらず,共有物分割のための不動産競売の手続を進行させることは相当ではないとして,抗告を棄却すべきものとした。
(東京高決平成23年 3月31日 金法 1959号101頁<参考収録>東京高等裁判所平22(ラ)2289号)

(3) これに対して,Xらが,共有物分割のための不動産競売に,民事執行法63条は準用されないと解すべきであるとして,許可抗告を申し立てた。

(判旨)

 共有物の分割において民法258条2項所定の競売を命ずる判決に基づく不動産競売については,民事執行法59条(売却に伴う権利の消滅)及び63条(剰余を生ずる見込みのない場合の措置)が準用される。

賃借権存在確認の訴えと賃料確認(最判平成24年1月31日)

最判平成24年1月31日裁判集民 239号659頁
平成21年(受)第1766号 建物収去土地明渡等請求及び賃借権確認請求独立当事者参加事件(破棄差戻し)

当事者が土地賃借権そのものを有することの確認を求め、地代額の確認まで求めたとはいえないのに、地代額の確認をも求めているとして主文で地代額を確認した裁判所の判断には、当事者が申し立てていない事項について判決をした違法があるとした例。


(本件の経過等)  

(1) 承継前被上告人亡Aは,第1審判決別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)の賃借人である被上告人Yが,妻の姉である上告人に賃借権の無断譲渡又は無断転貸をしたことを理由に,賃貸借契約を解除した旨主張して,被上告人Yに対し,本件土地上の同目録記載2の建物(以下「本件建物」という。)を収去して本件土地を明け渡すことなどを求める訴訟(以下「本件被参加訴訟」という。)を提起した。

(2) 上告人は,本件土地の賃借人は被上告人Yではなく上告人であると主張して,本件被参加訴訟の原告であるAを相手方として独立当事者参加の申出をした(以下,上記の参加の申出に係る訴訟を「本件参加訴訟」という。)。
 上記の参加の申出書(以下「本件申出書」という。)には,請求の趣旨として,「原告と参加人との間において,参加人が別紙物件目録記載の土地につき,貸主を原告とする建物所有目的の賃借権を有することを確認する」と記載され,請求原因として,B(以下「B」という。)が,昭和45年1月,Aとの間で,本件土地につき,木造建物及びその他の工作物の設置を目的とし,期間を20年,地代を年額で固定資産評価額の1000分の60に相当する金額とする賃貸借契約を締結したこと,Bの死亡により,Bの長女である上告人が本件土地の賃借権を相続により承継したことなどが記載されている。

(3) 第1審においては,本件参加訴訟では,専ら,上告人がBから本件土地の賃借権を相続により承継したか否かが争点となり,本件土地の地代額が争点となることはなかった。

(4) 第1審判決は,主文において,本件被参加訴訟に係るAの請求を棄却するとともに,本件参加訴訟について,上告人が,本件土地につき,Aを貸主として,地代を年額で固定資産評価額の1000分の60に相当する金額とし,木造建物及びその他の工作物の設置を目的とする賃借権を有することを確認した。

(5) 上告人は,第1審判決に対し,第1審においては単に賃借権の確認を求めたのであって,地代額の確認は求めていなかったなどと主張して控訴した上,原審において,上告人が本件土地につきAを貸主として地代を年額6万8160円とし木造建物及びその他の工作物の設置を目的とする賃借権を有することの確認を求める旨の訴えの変更の申立てをした。なお,上記金額は,第1審口頭弁論終結当時の本件土地の固定資産評価額の1000分の60に相当する金額より低額である。

原審は,本件申出書における請求原因の記載によれば,上告人は,地代を年額で固定資産評価額の1000分の60に相当する金額とする賃借権の確認を求めていたと認められ,第1審判決は上告人の請求を全部認容したのであるから,控訴の利益を認めることができないとして,上告人の控訴を却下した。

(判旨)
「しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 土地賃借権を有すると主張する者は,土地所有者に対し,地代額の確認を求めずに,土地賃借権そのものを有することの確認のみを求めることができるところ(最高裁昭和44年(オ)第500号同年9月11日第一小法廷判決・裁判集民事96号539頁参照),本件申出書における請求の趣旨の記載に加え,第1審における審理の経過等を併せ考慮すると,上告人は,第1審において,本件土地の賃借権そのものを有することの確認を求めたのであって,地代額の確認まで求めたものとはいえず,本件申出書における請求原因中の地代額の記載は,自らが相続により承継したと主張する上記賃借権の発生原因であるBとAとの間で締結された当初の賃貸借契約の内容として,その地代額を主張したものにすぎないことが明らかである。
 しかるに,第1審判決の「事実及び理由」中の「参加人の請求」及び「参加人の主張(請求原因)」には,上告人が本件土地につき地代を年額で固定資産評価額の1000分の60に相当する金額とする賃借権の確認を求める旨の記載がされているのであって,第1審は,上告人が上記地代額の確認をも求めているものとして,上告人の請求を認容する判決をしたと認められ,第1審判決の主文に記載された地代額に係る部分が,係争法律関係に関してされた判断ではないということはできない。
 したがって,第1審判決には,当事者が申し立てていない事項について判決をした違法があり,この違法を看過し,控訴の利益がないとして第1審判決に対する控訴を却下した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。」

2021年8月
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