5 気になる判例平成20年

2011.02.26

Xの友人Aが、Xの父親B所有の自動車を運転してバーに赴いてXと飲酒をした後、寝込んでいるXを乗せて同自動車を運転し、追突事故を起こした場合において、Bは自賠法3条の運行供用者にあたるか。 その2(最近の交通事故判例~平成20年から22年の最高裁判決を中心に(その4))

③ 検討

本件は、自賠法16条(被害者請求)の事案であるが、その前提としての、Aが自賠法3条の運行供用者の責任を負うかが争点となっている。

・自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明したときは、この限りでない(自賠法3条)
(1)運行供用者性
ア 運行供用者性の判断基準
「自己のために自動車を運行の用に供する者」とは、
ⅰ 自動車の使用についての支配権を有し (運行支配)
 ⅱ その使用により享受する利益が自己に帰属する (運行利益)
者をいう(二元説 最判昭和43年9月24日判時 539号40頁)。
イ 運行支配概念の拡大・規範化・抽象化
・自動車の運行について指示・制禦をなしうべき地位(最判昭和45年7月16日判時 600号89頁)
・自動車の運行を指示・制禦すべき地位(最判昭和47年12月20日民集27巻11号1611頁)
・自動車の運行を事実上支配、管理することができ、社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場(最判昭和50年11月28日民集29巻10号1818頁)
ウ 運行利益概念の客観化・抽象化
・運行を全体として客観的に観察する(最判昭和46年7月1日民集25巻5号727頁)

エ 運行供用者責任における証明責任の分配(なにが請求原因事実で、何が抗弁か)
α 抗弁説(実務)
β 請求原因説

(2)他人性
② 他人性の判断基準【抗弁2】
ア 「他人」とは
運行供用者及び広義の運転者(狭義の運転者と運転補助者)以外の者をいう。
○最判昭和47年5月30日民集26巻4号【3】(妻は他人判決)


抗弁とするのが実務・判例(最判平成10年12月17日交民31巻6号1659頁【4】)
イ 複数の運行供用者のうち、1人が被害者となった場合の「他人性」
・最判昭和50年11月4日民集29巻10号1501頁 【31】
所有者会社Aの従業員が業務外にAの取締役Bを乗せて起きた事故で、Aの運行支配が「間接的、潜在的、抽象的」であるのに対し、Bの運行支配は、「直接的、顕在的、具体的」として、他人性を否定(非同乗型)。

・最判昭和57年11月26日民集36巻11号2318頁 【32】
所有者Xが、飲酒後、友人Aに運転を委ねて同乗中に起きた事故(死亡)で、Xの自動車の具体的運行に対する支配の程度は、特段の事情ない限り運転していたAのそれに対して優るとも劣らないとして、他人性を否定(同乗型)

・最判平成9年10月31日民集51巻9号3962頁 【33】
所有者Xが飲酒後、自ら安全運転ができないことから、運転代行業者Yに代行運転を委託した事案で、Xの運行支配の程度は、Yに比べ間接的、抽象的であるとして、「特段の事情」あるとして、他人性を肯定(同乗型)。

ウ 最高平成20年9月12日判決の事案の特徴
ⅰ 50年判決【31】の事案では、被害者以外の運行供用者は 車外(非同乗型)
ⅱ 57年判決【32】、平成9年判決【33】の事案では、被害者以外の運行供用者は 車内(同乗型)
ⅲ 平成20年判決の事案では、
・ 被害者以外の運行供用者は 車内の友人Aと,車外の父・自動車所有者Bの2名(混合型)。
・ 車内の使用権者(X)と車外の保有者(B)間  非同乗型として判断
・ 車内の使用権者(X)と車内の運転した者(A)との間 同乗型として判断

2011.02.25

Xの友人Aが、Xの父親B所有の自動車を運転してバーに赴いてXと飲酒をした後、寝込んでいるXを乗せて同自動車を運転し、追突事故を起こした場合において、Bは自賠法3条の運行供用者にあたるか。 (最近の交通事故判例~平成20年から22年の最高裁判決を中心に(その3))

【1】最判平成20年9月12日交民41巻5号1085頁 判時2021号38頁
Xの友人Aが、Xの父親B所有の自動車を運転してバーに赴いてXと飲酒をした後、寝込んでいるXを乗せて同自動車を運転し、追突事故を起こした場合において、Bは自賠法3条の運行供用者にあたるか。


事案および判旨 (紹介済み。)


② 裁判経過

1審 名古屋一宮支判平成18年 9月12日交民 41巻5号1088頁
差戻前控訴審 名古屋高判平成19年 3月22日

⇒Bの運行供用者責任について(否定)

BはAとは面識もなく、Aの存在自体認識していなかったところ、使用借人であるXを介して、XがAに本件車の運転を依頼し、あるいはその運転を許容してはじめて、Aの運転する本件車に対する運行支配を及ぼすことが可能となり、運行供用者ということができる。
AがXの知人であること、Aは同人宅に帰宅した後にはXに本件車を返還する意思があったこと等の事実に照らしてみても、XにはAに対して本件車の運転を依頼する意思がなく、Xは泥酔していて意識がなかったため、Aが本件車を運転するについて指示はおろか運転していること自体を認識しておらず、また、Aは同人宅に帰宅するために本件車を運転していたに過ぎないことなどから、Xの本件車に対する運行支配はなかったのであるから、したがってまた、Xを介して存在していたBの本件車に対する運行支配も本件事故時には失われていたというほかない。


上告審 最高裁判所平成20年 9月12日判決判時2021号38頁

⇒Bの運行供与者性について(肯定)

ⅰ Xは実家に戻っているときにはBの会社の手伝いなどのために本件自動車を運転することをBから認められていたこと,
ⅱ Xは,親しい関係にあったAから誘われて,午後10時ころ,実家から本件自動車を運転して同人を迎えに行き,電車やバスの運行が終了する翌日午前0時ころにそれぞれの自宅から離れた名古屋市内のバーに到着したこと,
ⅲ Xは,本件自動車のキーをバーのカウンターの上に置いて,Aと共にカウンター席で飲酒を始め,そのうちに泥酔して寝込んでしまったこと,
ⅳ Aは,午前4時ころ,Xを起こして帰宅しようとしたが,Xが目を覚まさないため,本件自動車にXを運び込み,上記キーを使用して自宅に向けて本件自動車を運転したこと
ⅴ Xによる上記運行がBの意思に反するものであったというような事情は何らうかがわれない。
 
(まとめ)
これらの事実によれば,Xは,Bから本件自動車を運転することを認められていたところ,深夜,その実家から名古屋市内のバーまで本件自動車を運転したものであるから,その運行はBの容認するところであったと解することができ,また,Xによる上記運行の後,飲酒したXが友人等に本件自動車の運転をゆだねることも,その容認の範囲内にあったと見られてもやむを得ないというべきである。
そして,Xは,電車やバスが運行されていない時間帯に,本件自動車のキーをバーのカウンターの上に置いて泥酔したというのであるから,Aが帰宅するために,あるいはXを自宅に送り届けるために上記キーを使用して本件自動車を運転することについて,Xの容認があったというべきである。そうすると,BはAと面識がなく,Aという人物の存在すら認識していなかったとしても,本件運行は,Bの容認の範囲内にあったと見られてもやむを得ないというべきであり,Bは,客観的外形的に見て,本件運行について,運行供用者に当たると解するのが相当である。

差戻後 控訴審判決 名古屋高等裁判所平成19年3月19日 交民41巻5号【2】

⇒ 他人性(否定)
Aによる本件運行は,Bの容認の範囲内にあったと見られるから,Bも,本件運行について運行供用者に当たるとはいえるが,Bによる本件運行に対する支配は,あくまでXによるAに対する本件自動車の使用の容認・許諾を介するものであって,間接的,潜在的,抽象的であるといわざるを得ない。これに対し,Xによるそれは,Aの本件自動車の運転を容認することによって同人に同車の運転をゆだねたと評価できるものであるから,Bによるそれと比較して,より直接的,顕在的,具体的であったといえる。
 このような本件自動車の具体的な運行に対する支配の程度・態様に照らせば,Xは,運行供用者に該当し,かつ,同じく運行供用者に該当するBよりも,運行支配の程度態様がより直接的,顕在的,具体的であったから,Bに対する関係において法3条にいう「他人」に当たらないと解するのが相当である。

2008.10.17

自動車借主不知の間の友人の運転と所有者の運行供与者性

最高裁判所平成20年9月12日判決は、自動車を貸していた事案で、借主不知の間に第三者が運行した事案について、自動車の保有者は、自動車損害賠償保障法3条の運行供与者にあたるものとした。すなわち、
「A(昭和57年7月生)は、平成14年2月19日午前5時ころ、愛知県
一宮市内において、自己の運転する普通乗用自動車(以下「本件自動車」とい
う。)を、赤信号で停止していた普通貨物自動車に追突させる事故(以下「本件事故」という。)を起こした。上告人(昭和57年3月生)は、本件事故当時、本件自動車に同乗しており、本件事故により顔面に傷害を負った。」事案で、「本件自動車は、上告人の父親であるBが所有しており、同人の経営する会社の仕事等に利用されていた。」「上告人は、本件事故当時、一宮市内で独り住まいをし、キャバクラ等に勤務していたが、仕事が休みのときには、同市内にある実家に戻り、Bが経営する会社の仕事を手伝うことがあった。」「Bは、上告人が上記仕事を手伝う際などに本件自動車を運転することを認めていた。」「Aは、岐阜市内に居住し、ホストクラブに勤務していた。同人は、自動車を運転する能力はあったが、自動車の運転免許は有していなかった。」という事情のもと、
「上告人とAは、平成13年9月ころ、Aが上告人の勤務していたキャバク
ラに客として訪れたのを機に知り合い、その後、上告人は、Aの勤務するホストクラブに客として通うようになり、互いに携帯電話の番号を教え合う仲になった。Aが自動車の運転免許を有していないことは、上告人も知っていた。Bは、Aと面識がなく、Aという人物が存在することすら認識していなかった。」という場合に、上告人が運転してAを拾い、バーで午前0時ころからAと上告人で飲酒を始め、上告人は、酔いがさめたころに自ら本件自動車を運転して帰宅するつもりであったが、そのうちに泥酔して寝込んでしまった。Aは、同日午前4時ころ、上告人を起こして帰宅しようとしたが、上告人が目を覚まさなかったため、カウンターの上に置かれていた本件自動車のキーを使用して、上告人をその助手席に運び込んだ上で本件自動車を運転し、岐阜市内の自宅に向かった。Aは、自宅に到着してから上告人を起こして、本件自動車で帰ってもらうつもりであった。上告人は、Aが本件自動車を運転している間、泥酔して寝込んでおり、同人に対して本件自動車の運転を指示したことはなかった。Aは、その帰宅途上で本件事故を起こした。」という事案で、上告人は、本件自動車を被保険自動車とする自動車損害賠償責任保険の保険会社である被上告人に対し、Bが自動車損害賠償保障法(以下「法」という。)2条3項所定の保有者として法3条の規定による損害賠償責任を負担すると主張して、法16条に基づき損害賠償額の支払を求めた。
原審はこれを認めなかったが、最高裁判所は、次のように判示て、これを認めるべきものとして、本件を破棄差戻すとした。
すなわち、「本件自動車は上告人の父親であるBの所有するものであるが、上告人は実家に戻っているときにはBの会社の手伝いなどのために本件自動車を運転することをBから認められていたこと、上告人は、親しい関係にあったAから誘われて、午後10時ころ、実家から本件自動車を運転して同人を迎えに行き、電車やバスの運行が終了する翌日午前0時ころにそれぞれの自宅から離れた名古屋市内のバーに到着したこと、上告人は、本件自動車のキーをバーのカウンターの上に置いて、Aと共にカウンター席で飲酒を始め、そのうちに泥酔して寝込んでしまったこと、Aは、午前4時ころ、上告人を起こして帰宅しようとしたが、上告人が目を覚まさないため、本件自動車に上告人を運び込み、上記キーを使用して自宅に向けて本件自動車を運転したこと(以下、このAによる本件自動車の運行を「本件運行」という。)、以上の事実が明らかである。そして、上告人による上記運行がBの意思に反するものであったというような事情は何らうかがわれない。」「これらの事実によれば、上告人は、Bから本件自動車を運転することを認められていたところ、深夜、その実家から名古屋市内のバーまで本件自動車を運転したものであるから、その運行はBの容認するところであったと解することができ、また、上告人による上記運行の後、飲酒した上告人が友人等に本件自動車の運転をゆだねることも、その容認の範囲内にあったと見られてもやむを得ないというべきである。そして、上告人は、電車やバスが運行されていない時間帯に、本件自動車のキーをバーのカウンターの上に置いて泥酔したというのであるから、Aが帰宅するために、あるいは上告人を自宅に送り届けるために上記キーを使用して本件自動車を運転することについて、上告人の容認があったというべきである。そうすると、BはAと面識がなく、Aという人物の存在すら認識していなかったとしても、本件運行は、Bの容認の範囲内にあったと見られてもやむを得ないというべきであり、Bは、客観的外形的に見て、本件運行について、運行供用者に当たると解するのが相当である。」とした。

2008.10.14

土地区画整理事業の決定の行政処分性

都市計画決定等計画段階にすぎないいわゆる青写真の段階で、その計画の決定ができるかについては、従来はそのことによる権利の制限があったとしても付随的効果に過ぎず、抗告訴訟の対象にはならないとされている。その中で、最判平成20年9月10日大法廷判決(平成17年(行ヒ)第397号事件)は、土地区画整理事業の事業計画の決定について、決定の違法を主張して、その取消しを求めた事案で、市町村の施行に係る土地区画整理事業計画の決定は、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたるとして、原判決を破棄し、1審に差し戻した。

1 事案は、 「被上告人は、新浜松駅から西鹿島駅までを結ぶ遠州鉄道鉄道線(西鹿島線)の連続立体交差事業の一環として、上島駅の高架化と併せて同駅周辺の公共施設の整備改善等を図るため、本件土地区画整理事業を計画し、土地区画整理法(平成17年法律第34号による改正前のもの。以下「法」という。)52条1項の規定に基づき、静岡県知事に対し、本件土地区画整理事業の事業計画において定める設計の概要について認可を申請し、同月17日、同知事からその認可を受けた。被上告人は、同月25日、同項の規定により、本件土地区画整理事業の事業計画の決定(以下「本件事業計画の決定」という。)をし、同日、その公告がされた。」というものであり、本件土地区画整理事業の施行地区内に土地を所有している上告人から、「本件土地区画整理事業は公共施設の整備改善及び宅地の利用増進という法所定の事業目的を欠くものである」などと主張して、本件事業計画の決定の取消しを求めて、行政処分の取り消し訴訟が提起された。

2  原審(東京高等裁判所平成17年9月28日判決(平成17年(行コ)第127号事件)は、「土地区画整理事業の事業計画は、当該土地区画整理事業の基礎的事項を一般的抽象的に決定するものであって、いわば当該土地区画整理事業の青写真としての性質を有するにすぎず、これによって利害関係者の権利にどのような変動を及ぼすかが必ずしも具体的に確定されているわけではない。事業計画が公告されることによって生ずる建築制限等は、法が特に付与した公告に伴う付随的効果にとどまるものであって、事業計画の決定ないし公告そのものの効果として発生する権利制限とはいえない。事業計画の決定は、それが公告された段階においても抗告訴訟の対象となる行政処分に当たらないから、本件事業計画の決定の取消しを求める本件訴えは、不適法な訴えである。」として、本件訴訟を却下していた。

3 最高裁判所は、
「(1)ア市町村は、土地区画整理事業を施行しようとする場合においては、施行
規程及び事業計画を定めなければならず(法52条1項)、事業計画が定められた場合においては、市町村長は、遅滞なく、施行者の名称、事業施行期間、施行地区その他国土交通省令で定める事項を公告しなければならない(法55条9項)。そして、この公告がされると、換地処分の公告がある日まで、施行地区内において、土地区画整理事業の施行の障害となるおそれがある土地の形質の変更若しくは建築物その他の工作物の新築、改築若しくは増築を行い、又は政令で定める移動の容易でない物件の設置若しくはたい積を行おうとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならず(法76条1項)、これに違反した者がある場合には、都道府県知事は、当該違反者又はその承継者に対し、当該土地の原状回復等を命ずることができ(同条4項)、この命令に違反した者に対しては刑罰が科される(法140条)。このほか、施行地区内の宅地についての所有権以外の権利で登記のないものを有し又は有することとなった者は、書面をもってその権利の種類及び内容を施行者に申告しなければならず(法85条1項)、施行者は、その申告がない限り、これを存しないものとみなして、仮換地の指定や換地処分等をすることができることとされている(同条5項)。
また、土地区画整理事業の事業計画は、施行地区(施行地区を工区に分ける場合には施行地区及び工区)、設計の概要、事業施行期間及び資金計画という当該土地区画整理事業の基礎的事項を一般的に定めるものであるが(法54条、6条1項)、事業計画において定める設計の概要については、設計説明書及び設計図を作成して定めなければならず、このうち、設計説明書には、事業施行後における施行地区内の宅地の地積(保留地の予定地積を除く。)の合計の事業施行前における施行地区内の宅地の地積の合計に対する割合が記載され(これにより、施行地区全体でどの程度の減歩がされるのかが分かる。)、設計図(縮尺1200分の1以上のもの)には、事業施行後における施行地区内の公共施設等の位置及び形状が、事業施行により新設され又は変更される部分と既設のもので変更されない部分とに区別して表示されることから(平成17年国土交通省令第102号による改正前の土地区画整理法施行規則6条)、事業計画が決定されると、当該土地区画整理事業の施行によって施行地区内の宅地所有者等の権利にいかなる影響が及ぶかについて、一定の限度で具体的に予測することが可能になるのである。そして、土地区画整理事業の事業計画については、いったんその決定がされると、特段の事情のない限り、その事業計画に定められたところに従って具体的な事業がそのまま進められ、その後の手続として、施行地区内の宅地について換地処分が当然に行われることになる。前記の建築行為等の制限は、このような事業計画の決定に基づく具体的な事業の施行の障害となるおそれのある事態が生ずることを防ぐために法的強制力を伴って設けられているのであり、しかも、施行地区内の宅地所有者等は、換地処分の公告がある日まで、その制限を継続的に課され続けるのである。
そうすると、施行地区内の宅地所有者等は、事業計画の決定がされることによって、前記のような規制を伴う土地区画整理事業の手続に従って換地処分を受けるべき地位に立たされるものということができ、その意味で、その法的地位に直接的な影響が生ずるものというべきであり、事業計画の決定に伴う法的効果が一般的、抽象的なものにすぎないということはできない。
イもとより、換地処分を受けた宅地所有者等やその前に仮換地の指定を受けた宅地所有者等は、当該換地処分等を対象として取消訴訟を提起することができるが、換地処分等がされた段階では、実際上、既に工事等も進ちょくし、換地計画も具体的に定められるなどしており、その時点で事業計画の違法を理由として当該換地処分等を取り消した場合には、事業全体に著しい混乱をもたらすことになりかねない。それゆえ、換地処分等の取消訴訟において、宅地所有者等が事業計画の違法を主張し、その主張が認められたとしても、当該換地処分等を取り消すことは公共の福祉に適合しないとして事情判決(行政事件訴訟法31条1項)がされる可能性が相当程度あるのであり、換地処分等がされた段階でこれを対象として取消訴訟を提起することができるとしても、宅地所有者等の被る権利侵害に対する救済が十分に果たされるとはいい難い。そうすると、事業計画の適否が争われる場合、実効的な権利救済を図るためには、事業計画の決定がされた段階で、これを対象とした取消訴訟の提起を認めることに合理性があるというべきである。
(2) 以上によれば、市町村の施行に係る土地区画整理事業の事業計画の決定
は、施行地区内の宅地所有者等の法的地位に変動をもたらすものであって、抗告訴訟の対象とするに足りる法的効果を有するものということができ、実効的な権利救済を図るという観点から見ても、これを対象とした抗告訴訟の提起を認めるのが合理的である。したがって、上記事業計画の決定は、行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に当たると解するのが相当である。」として、本件訴えを不適法な訴えとして却下すべきものとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとして、原判決のうち被上告人に関する部分は破棄し、本件を第1審に差し戻すべきとした。

(以下 私見)
なお、本件は土地区画整理事業決定に基づく個別の権利変換がなされた時点で違法性を問うたとしても、事情判決となる可能性が高く、権利を侵害されている者に対する救済とはならないことが大きく着目されたものと思われる。したがって、青写真の全てが取消訴訟の対象となるのではなく、個別具体的な権利侵害の時点でなお救済の余地あるものについては、訴えの利益なしとされると解する。

2008.07.05

賃料自動増減合意と借地借家法32条

借地借家法32条は、建物賃貸借における賃料につき、
1建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2項以下略

としている。
他方、賃貸借契約において賃料自動改定特約があるものが、いわゆるサブリースの契約を中心に散見されるところ、同条と賃料自動改定特約との関係が従前から問題となっていた。

判平成20年2月29日裁時 1455号1頁は、
「借地借家法32条1項の規定は、強行法規であり、賃料自動改定特約によってその適用を排除することはできないものである(最高裁昭和28年(オ)第861号同31年5月15日第三小法廷判決・民集10巻5号496頁、最高裁昭和54年(オ)第593号同56年4月20日第二小法廷判決・民集35巻3号656頁、最高裁平成14年(受)第689号同15年6月12日第一小法廷判決・民集57巻6号595頁参照)。」としたうえで、「同項の規定に基づく賃料減額請求の当否及び相当賃料額を判断するに当たっては、賃貸借契約の当事者が現実に合意した賃料のうち直近のもの(以下、この賃料を「直近合意賃料」という。)を基にして、同賃料が合意された日以降の同項所定の経済事情の変動等のほか、諸般の事情を総合的に考慮すべきであり、賃料自動改定特約が存在したとしても、上記判断に当たっては、同特約に拘束されることはなく、上記諸般の事情の一つとして、同特約の存在や、同特約が定められるに至った経緯等が考慮の対象となるにすぎないというべきである。
 したがって、本件各減額請求の当否及び相当純賃料の額は、本件各減額請求の直近合意賃料である本件賃貸借契約締結時の純賃料を基にして、同純賃料が合意された日から本件各減額請求の日までの間の経済事情の変動等を考慮して判断されなければならず、その際、本件自動増額特約の存在及びこれが定められるに至った経緯等も重要な考慮事情になるとしても、本件自動増額特約によって増額された純賃料を基にして、増額前の経済事情の変動等を考慮の対象から除外し、増額された日から減額請求の日までの間に限定して、その間の経済事情の変動等を考慮して判断することは許されないものといわなければならない。本件自動増額特約によって増額された純賃料は、本件賃貸契約締結時における将来の経済事情等の予測に基づくものであり、自動増額時の経済事情等の下での相当な純賃料として当事者が現実に合意したものではないから、本件各減額請求の当否及び相当純賃料の額を判断する際の基準となる直近合意賃料と認めることはできない。
 しかるに、原審は、第1減額請求については、本件自動増額特約によって平成7年12月1日に増額された純賃料を基にして、同日以降の経済事情の変動等を考慮してその当否を判断し、第2減額請求については、本件自動増額特約によって平成9年12月1日に増額された純賃料を基にして、同日以降の経済事情の変動等を考慮してその当否を判断したものであるから、原審の判断には、法令の解釈を誤った違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
 自動増額特約によって増額された純賃料は、本件賃貸契約締結時における将来の経済事情等の予測に基づくものであり、自動増額時の経済事情等の下での相当な純賃料として当事者が現実に合意したものではないから、本件各減額請求の当否及び相当純賃料の額を判断する際の基準となる直近合意賃料と認めることはできない。」として、原判決を破棄差戻した。

先にサブリースと借地借家法32条に関する判例として紹介した判例ともども、検討に値する判例と思う。

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