015 民事手続法

2014.11.24

投資信託の解約金支払請求と相殺禁止

  最判平成26年6月5日判時2233号109頁損害賠償等請求及び独立当事者参加事件

 再生債務者Xが支払停止前に再生債権者Y(銀行)から購入した投資信託受益権につき,支払停止後の信託契約の解約によりYがXに対して負担することとなった解約金支払債務(本件債務)は、民事再生法93条2項2号にいう「支払の停止があったことを再生債権者が知った時より前に生じた原因」に基づく場合に当たらないとして、Yによる相殺が許されないとした。

(判旨)
本件債務は,Xの支払の停止の前に,XがYから本件受益権を購入し,本件管理委託契約に基づきその管理をYに委託したことにより,Yが解約金の交付を受けることを条件としてXに対して負担した債務であると解される。本件信託契約が解約されるまでXが有していた投資信託委託会社に対する信託受益権に対しては全ての再生債権者が等しくXの責任財産としての期待を有している。XがYに対して取得した解約金支払請求権は信託受益権と実質的には同等の価値を有する。その上,解約実行請求はYがXの支払の停止を知った後にされたものであるから,同請求権を受働債権とする相殺に対するYの期待は合理的とはいい難い。また,Yが本件受益権を管理している間に,Xが本件受益権を他の振替先口座へ振替えた場合には,YがXに対して解約金の支払債務を負担することは生じ得ないから,YのXに対する本件債務の負担が確実であったということもできない。さらに,本件においては,Yが相殺をするためには,他の債権者と同様に,債権者代位権に基づき,Xに代位して本件受益権につき解約実行請求を行うほかなかった。そうすると,Yが本件債務をもってする相殺の担保的機能に対して合理的な期待を有していたとはいえず,この相殺を許すことは再生債権についての債権者間の公平・平等な扱いを基本原則とする再生手続の趣旨に反する。

2013.01.06

最判平成24年3月16日(取得時効と抵当権)

最判平成24年3月16日民集 66巻5号2321頁平成22年(受)第336号 第三者異議事件(棄却)

本件各土地につき抵当権の設定を受けていた上告人が,抵当権の実行としての競売を申し立てたところ,本件各土地を時効取得したと主張する被上告人が,この競売の不許を求めて第三者異議訴訟を提起した事案。


事実関係の概要

  (1) Aは,昭和45年3月当時,平成17年3月に本件各土地に換地がされる前の従前の土地(以下「本件旧土地」という。)を所有していた。同人は,昭和45年3月,被上告人に対し,本件旧土地を売却したが,所有権移転登記はされなかった。
 被上告人は,遅くとも同月31日から,本件旧土地につき占有を開始し,サトウキビ畑として耕作していた。
  (2) Aの子であるBは,昭和57年1月13日,本件旧土地につき,昭和47年10月8日相続を原因として,Aからの所有権移転登記を了した。
 また,Bは,昭和59年4月19日,本件旧土地につき,上告人のために,本件抵当権を設定し,同日付けでその旨の抵当権設定登記がされた。
 しかし,被上告人は,これらの事実を知らないまま,上記換地の前後を通じて,本件旧土地又は本件各土地をサトウキビ畑として耕作し,その占有を継続した。また,被上告人は,本件抵当権の設定登記時において,本件旧土地を所有すると信ずるにつき善意かつ無過失であった。
  (3) 上告人は,本件各土地を目的とする本件抵当権の実行としての競売(以下「本件競売」という。)を申し立て,平成18年9月29日,競売開始決定を得た。これに対し,被上告人は,本件競売の不許を求めて本件訴訟を提起した。なお,本件競売手続については,被上告人の申立てにより,平成20年7月31日,停止決定がされた。
  (4) 被上告人は,平成20年8月9日,Bに対し,本件各土地につき,所有権の取得時効を援用する旨の意思表示をした。

1審 鹿児島地名瀬支判平成21年 6月24日金法 1955号107頁<参考収録>事件番号 平20(ワ)287号

本件土地は、10年の取得時効完成後に、被告が抵当権設定登記を経由しているから、原告はこの時点で取得時効を援用したとしても、被告に対して時効による所有権取得を対抗できないものの、原告は、本件抵当権設定登記経由後も、同経由事実を知らないまま所有の意思をもって平穏公然に本件土地の占有を継続し、本件土地を所有すると信じるにつき善意無過失でさらに10年間占有を継続していたから、本件取得時効の起算点は被告の抵当権設定登記経由時であって、原告は、被告に対し、登記を経由しなくとも取得時効をもって対抗し得るとした上で、原告は、取得時効の援用により、本件土地の所有権を原始取得したとして、原告の請求を全部認容

原審 福岡高宮崎支判平成21年11月27日金法 1955号106頁<参考収録>事件番号 平21(ネ)116号

本件では、被控訴人が短期取得時効の要件を満たした状態で本件土地の占有を開始して10年経過した後に、控訴人が本件土地につき抵当権を設定し、被控訴人がその事実を知らないままその後もさらに10年間占有を継続していたものであるところ、本件取得時効の起算点は、被控訴人による本件土地の占有開始時ではなく、控訴人による抵当権の設定登記経由時であり、また、被控訴人が本件土地を時効取得したことによって、控訴人の抵当権は消滅したとして、被控訴人の請求を認めた原判決を維持し、控訴を棄却した


控訴人は、上告したが最高裁判所は次のように論じて、上告棄却。

「所論は,時効取得者と取得時効の完成後に抵当権の設定を受けてその設定登記をした者との関係は対抗問題となり,時効取得者は,抵当権の負担のある不動産を取得するにすぎないのに,これと異なり,被上告人の取得時効の援用により本件抵当権は消滅するとした原審の判断には,法令の解釈を誤る違法があるというのである。」

(判旨)
(1) 時効取得者と取得時効の完成後に抵当権の設定を受けてその設定登記をした者との関係が対抗問題となることは,所論のとおりである。しかし,不動産の取得時効の完成後,所有権移転登記がされることのないまま,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了した場合において,上記不動産の時効取得者である占有者が,その後引き続き時効取得に必要な期間占有を継続したときは,上記占有者が上記抵当権の存在を容認していたなど抵当権の消滅を妨げる特段の事情がない限り,上記占有者は,上記不動産を時効取得し,その結果,上記抵当権は消滅すると解するのが相当である。

その理由として、
ア 取得時効の完成後,所有権移転登記がされないうちに,第三者が原所有者から抵当権の設定を受けて抵当権設定登記を了したならば,占有者がその後にいかに長期間占有を継続しても抵当権の負担のない所有権を取得することができないと解することは,長期間にわたる継続的な占有を占有の態様に応じて保護すべきものとする時効制度の趣旨に鑑みれば,是認し難いというべきである。

イ そして,不動産の取得時効の完成後所有権移転登記を了する前に,第三者に上記不動産が譲渡され,その旨の登記がされた場合において,占有者が,上記登記後に,なお引き続き時効取得に要する期間占有を継続したときは,占有者は,上記第三者に対し,登記なくして時効取得を対抗し得るものと解されるところ(最高裁昭和34年(オ)第779号同36年7月20日第一小法廷判決・民集15巻7号1903頁),不動産の取得時効の完成後所有権移転登記を了する前に,第三者が上記不動産につき抵当権の設定を受け,その登記がされた場合には, 占有者は,自らが時効取得した不動産につき抵当権による制限を受け,これが実行されると自らの所有権の取得自体を買受人に対抗することができない地位に立たされるのであって,上記登記がされた時から占有者と抵当権者との間に上記のような権利の対立関係が生ずるものと解され,かかる事態は,上記不動産が第三者に譲渡され,その旨の登記がされた場合に比肩するということができる。また,上記判例によれば,取得時効の完成後に所有権を得た第三者は,占有者が引き続き占有を継続した場合に,所有権を失うことがあり,それと比べて,取得時効の完成後に抵当権の設定を受けた第三者が上記の場合に保護されることとなるのは,不均衡である。

(2) これを本件についてみると,前記事実関係によれば,昭和55年3月31日の経過により,被上告人のために本件旧土地につき取得時効が完成したが,被上告人は,上記取得時効の完成後にされた本件抵当権の設定登記時において,本件旧土地を所有すると信ずるにつき善意かつ無過失であり,同登記後引き続き時効取得に要する10年間本件旧土地の占有を継続し,その後に取得時効を援用したというのである。そして,本件においては,前記のとおり,被上告人は,本件抵当権が設定されその旨の抵当権設定登記がされたことを知らないまま,本件旧土地又は本件各土地の占有を継続したというのであり,被上告人が本件抵当権の存在を容認していたなどの特段の事情はうかがわれない。

 そうすると,被上告人は,本件抵当権の設定登記の日を起算点として,本件旧土地を時効取得し,その結果,本件抵当権は消滅したというべきである。

 5 原審の前記3の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

2013.01.01

担保権の設定されている物権の共有物分割(最決平成24年2月7日)

最決平成24年2月7日判時 2163号3頁
平成23年(許)第31号 担保不動産競売手続取消決定に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件(棄却)


(経過等)

(1) Xら及びYらが共有する本件不動産には,前所有者により金融機関のために極度額合計2億6500万円の根抵当権が設定されていたところ,Xらを原告,Yらを被告とする共有物分割請求訴訟において,本件不動産を競売に付し,その売却代金から競売手続費用を控除した金額を,共有持分の割合で分割することを命ずる判決が言い渡され,確定した。
この判決に基づくXらの申立てにより本件不動産につき競売手続が開始されたが,執行裁判所は,Xらに対し,本件不動産の買受可能価額約3700万円が,手続費用及び差押債権者の債権に優先する債権の見込額の合計額約2億6600万円に満たない旨の民事執行法63条1項2号に基づく通知をし,Xらが同条2項所定の対応をしなかったことから,本件の競売手続を取り消す旨の原々決定をした。

(2) Xらは,執行抗告をしたが,原決定は,
①同法195条は,共有物分割のための不動産競売につき何らの留保なく同法63条を準用していること
②先順位抵当権者が本件不動産の値上がりを待つなどする換価時期選択の利益を無視して,無剰余であるにもかかわらず,共有物分割のための不動産競売の手続を進行させることは相当ではないとして,抗告を棄却すべきものとした。
(東京高決平成23年 3月31日 金法 1959号101頁<参考収録>東京高等裁判所平22(ラ)2289号)

(3) これに対して,Xらが,共有物分割のための不動産競売に,民事執行法63条は準用されないと解すべきであるとして,許可抗告を申し立てた。

(判旨)

 共有物の分割において民法258条2項所定の競売を命ずる判決に基づく不動産競売については,民事執行法59条(売却に伴う権利の消滅)及び63条(剰余を生ずる見込みのない場合の措置)が準用される。

賃借権存在確認の訴えと賃料確認(最判平成24年1月31日)

最判平成24年1月31日裁判集民 239号659頁
平成21年(受)第1766号 建物収去土地明渡等請求及び賃借権確認請求独立当事者参加事件(破棄差戻し)

当事者が土地賃借権そのものを有することの確認を求め、地代額の確認まで求めたとはいえないのに、地代額の確認をも求めているとして主文で地代額を確認した裁判所の判断には、当事者が申し立てていない事項について判決をした違法があるとした例。


(本件の経過等)  

(1) 承継前被上告人亡Aは,第1審判決別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)の賃借人である被上告人Yが,妻の姉である上告人に賃借権の無断譲渡又は無断転貸をしたことを理由に,賃貸借契約を解除した旨主張して,被上告人Yに対し,本件土地上の同目録記載2の建物(以下「本件建物」という。)を収去して本件土地を明け渡すことなどを求める訴訟(以下「本件被参加訴訟」という。)を提起した。

(2) 上告人は,本件土地の賃借人は被上告人Yではなく上告人であると主張して,本件被参加訴訟の原告であるAを相手方として独立当事者参加の申出をした(以下,上記の参加の申出に係る訴訟を「本件参加訴訟」という。)。
 上記の参加の申出書(以下「本件申出書」という。)には,請求の趣旨として,「原告と参加人との間において,参加人が別紙物件目録記載の土地につき,貸主を原告とする建物所有目的の賃借権を有することを確認する」と記載され,請求原因として,B(以下「B」という。)が,昭和45年1月,Aとの間で,本件土地につき,木造建物及びその他の工作物の設置を目的とし,期間を20年,地代を年額で固定資産評価額の1000分の60に相当する金額とする賃貸借契約を締結したこと,Bの死亡により,Bの長女である上告人が本件土地の賃借権を相続により承継したことなどが記載されている。

(3) 第1審においては,本件参加訴訟では,専ら,上告人がBから本件土地の賃借権を相続により承継したか否かが争点となり,本件土地の地代額が争点となることはなかった。

(4) 第1審判決は,主文において,本件被参加訴訟に係るAの請求を棄却するとともに,本件参加訴訟について,上告人が,本件土地につき,Aを貸主として,地代を年額で固定資産評価額の1000分の60に相当する金額とし,木造建物及びその他の工作物の設置を目的とする賃借権を有することを確認した。

(5) 上告人は,第1審判決に対し,第1審においては単に賃借権の確認を求めたのであって,地代額の確認は求めていなかったなどと主張して控訴した上,原審において,上告人が本件土地につきAを貸主として地代を年額6万8160円とし木造建物及びその他の工作物の設置を目的とする賃借権を有することの確認を求める旨の訴えの変更の申立てをした。なお,上記金額は,第1審口頭弁論終結当時の本件土地の固定資産評価額の1000分の60に相当する金額より低額である。

原審は,本件申出書における請求原因の記載によれば,上告人は,地代を年額で固定資産評価額の1000分の60に相当する金額とする賃借権の確認を求めていたと認められ,第1審判決は上告人の請求を全部認容したのであるから,控訴の利益を認めることができないとして,上告人の控訴を却下した。

(判旨)
「しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 土地賃借権を有すると主張する者は,土地所有者に対し,地代額の確認を求めずに,土地賃借権そのものを有することの確認のみを求めることができるところ(最高裁昭和44年(オ)第500号同年9月11日第一小法廷判決・裁判集民事96号539頁参照),本件申出書における請求の趣旨の記載に加え,第1審における審理の経過等を併せ考慮すると,上告人は,第1審において,本件土地の賃借権そのものを有することの確認を求めたのであって,地代額の確認まで求めたものとはいえず,本件申出書における請求原因中の地代額の記載は,自らが相続により承継したと主張する上記賃借権の発生原因であるBとAとの間で締結された当初の賃貸借契約の内容として,その地代額を主張したものにすぎないことが明らかである。
 しかるに,第1審判決の「事実及び理由」中の「参加人の請求」及び「参加人の主張(請求原因)」には,上告人が本件土地につき地代を年額で固定資産評価額の1000分の60に相当する金額とする賃借権の確認を求める旨の記載がされているのであって,第1審は,上告人が上記地代額の確認をも求めているものとして,上告人の請求を認容する判決をしたと認められ,第1審判決の主文に記載された地代額に係る部分が,係争法律関係に関してされた判断ではないということはできない。
 したがって,第1審判決には,当事者が申し立てていない事項について判決をした違法があり,この違法を看過し,控訴の利益がないとして第1審判決に対する控訴を却下した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。」

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