02 債権回収

2009.04.05

譲渡禁止特約に反して債権譲渡をした債権者は、譲渡の無効を主張できるか?

債権の履行担保の目的で、債務者が有する債権の譲渡を受ける場合がある。
この場合、債務者と第三債務者との間で、譲渡禁止特約をしている場合があるが、これに反して、譲渡担保その他を理由として債権譲渡がなされた場合、債務者(譲渡債権の譲渡人)は、この債権譲渡が譲渡禁止特約に反することを理由に譲渡の無効を主張できるか。

近時 類似のケースがしばしばあり、気になる論点であったところ、下記のとおり最高裁判所がこの論点を含む事件の判決をなした。譲渡禁止特約は第三債務者の利益のための合意であることから、第三債務者が無効主張をすることが明らかでない場合は、譲渡禁止特約に違反して債権譲渡をなした譲渡人は、この無効主張をなしえないとするものである。
事案では、債権者不確知を理由に供託がなされていることから、無効主張する意思があきらかでないとしているところ、実務的にはこのような場合は供託されることが多いことから、債権譲渡を担保にとることの有効性に資する判決といえる。

最判平成21年 3月27日事件番号 平19(受)1280号 裁判所ホームページ http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=37486&hanreiKbn=01


「1 被上告人が上告人に譲渡した請負代金債権について,債務者が債権者不確知を供託原因として供託をした。本件本訴は,被上告人が,上記請負代金債権には譲渡禁止特約が付されていたから,上記債権譲渡は無効であると主張して,上告人に対し,被上告人が上記供託金の還付請求権を有することの確認を求めるものであり,本件反訴は,上告人が,被上告人に対し,上記債権譲渡が有効であるとして,上告人が上記供託金の還付請求権を有することの確認を求めるものである。
 2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
  (1) 被上告人は,平成17年3月25日に特別清算開始決定を受け,同手続を遂行中の株式会社である。
 上告人は,会員に対する貸付け,会員のためにする手形割引等を目的とする法人である。
  (2) 被上告人と上告人は,平成14年12月2日,被上告人が上告人に対して次のア記載の債権の根担保としてイ記載の債権を譲渡する旨の債権譲渡担保契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
   ア 被上告人と上告人との間の手形貸付取引に基づき,上告人が被上告人に対して現在及び将来有する貸付金債権及びこれに附帯する一切の債権
   イ 被上告人がA(以下「A」という。)に対して取得する次の債権のすべて
    (ア) 種類  工事代金債権
    (イ) 始期  平成14年6月2日
    (ウ) 終期  平成18年12月2日
    (エ) 譲渡債権額  1億5968万円
  (3) 被上告人は,Aに対し,上記(2)イ記載の債権に含まれる第1審判決別紙債権目録記載1ないし3の工事代金債権(以下,「1の債権」,「2の債権」などといい,これらを併せて「本件債権」という。)を取得した。
  (4) 本件債権には,被上告人とAとの間の工事発注基本契約書及び工事発注基本契約約款によって,譲渡禁止の特約が付されていた。
  (5) Aは,平成16年12月6日に1の債権について,平成17年2月8日に2の債権について,同年12月27日に3の債権について,それぞれ債権者不確知を供託原因として第1審判決別紙供託金目録記載1ないし3の各供託金額欄記載の金員を供託した。
 3 原審は,次のとおり判断して,被上告人の本訴請求を認容し,上告人の反訴請求を棄却すべきものとした。
 債権の譲渡禁止特約に反してされた債権譲渡は無効である。本件債権には譲渡禁止特約が付されており,その譲渡についてAの承諾があったと認めることはできないので,本件契約に基づく本件債権の譲渡(以下「本件債権譲渡」という。)は無効である。上告人は,本件債権譲渡の無効を主張できるのは債務者であるAだけであると主張するが,そのように解することはできない。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
  (1) 民法は,原則として債権の譲渡性を認め(466条1項),当事者が反対の意思を表示した場合にはこれを認めない旨定めている(同条2項本文)ところ,債権の譲渡性を否定する意思を表示した譲渡禁止の特約は,債務者の利益を保護するために付されるものと解される。そうすると,譲渡禁止の特約に反して債権を譲渡した債権者は,同特約の存在を理由に譲渡の無効を主張する独自の利益を有しないのであって,債務者に譲渡の無効を主張する意思があることが明らかであるなどの特段の事情がない限り,その無効を主張することは許されないと解するのが相当である。
  (2) これを本件についてみると,前記事実関係によれば,被上告人は,自ら譲渡禁止の特約に反して本件債権を譲渡した債権者であり,債務者であるAは,本件債権譲渡の無効を主張することなく債権者不確知を理由として本件債権の債権額に相当する金員を供託しているというのである。そうすると,被上告人には譲渡禁止の特約の存在を理由とする本件債権譲渡の無効を主張する独自の利益はなく,前記特段の事情の存在もうかがわれないから,被上告人が上記無効を主張することは許されないものというべきである。
 5 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。これと同旨をいう論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したところによれば,被上告人の本訴請求は理由がなく,上告人の反訴請求は理由があるというべきであるから,第1審判決を取り消した上,本訴請求を棄却し,反訴請求を認容することとする。」

2007.10.30

表明及び保証

M&Aの契約などで、表明及び保証条項を設ける例が多い。これは、契約締結前には、相手資産や業務等をデューデリジェンスにより調査するにしても、それには限界があり、また、デューデリジェンスの際に提出された資料に虚偽があった場合にそのリスクを買収側に負わせることはバランスを欠くことから、売主側に前提事実が真実であることを表明及び保証させ、事実と反する場合に生じた損害リスクの軽減を図る目的であると考えられる。
そして、表明及び保証条項は、近時、M&Aのみならず、一般の契約でも締結する際の前提事実が存在しないことが明らかとなった場合等のリスク回避の目的で、これを入れることが増えてきている。
以下の下級審の判例は、一つはM&Aの事例、もう一つは連帯保証契約の事例である。

M&Aの事例
東京地判平成18年 1月17日 判時1920号136頁

消費者金融会社の企業買収(M&A)を目的とする同社の全株式の譲渡契約中に、譲渡価格を同社の簿価純資産額より算出するとともに、株式の売主が買主に対し,同社の財務諸表が完全かつ正確であり、一般に承認された会計原則に従って作成されたものであること等を表明保証し,当該事項に違反した場合には、買主が現実に被った損害,損失を補償すること等を約していたところ、株式譲渡前の和解債権処理の方法が企業会計原則に違反しており、買主はそれにつき悪意重過失であったと認めることはできない等の場合には、売主は買主に対し、上記和解債権処理により不正に水増しされた株式の譲渡価格金額分について補償する義務を負うとされた。


連帯保証の事例   
東京地判平成18年10月23日金法 1808号58頁

 売掛金債務を連帯保証をする基本契約において、債権者が保証人に対して、債権者と主たる債務者との個別契約成立時に、主たる債務者が一切の債務について遅滞することなく、債務の本旨に従って、その履行がこれまでなされ、現在もなされていることなどを表明し,保証し、また、債権者には、主たる債務者が負担する金銭債務の支払の遅滞をするなどの事情が生じたときは、直ちに、債権者が連帯保証人に対し通知することが定められているにもかかわらず、実際には表明内容と異なり、また、遅滞の際の通知も怠った場合に保証人は、保証債務の責任を負わないとされた。

 

2007.10.13

債権譲受・回収と弁護士法及びサービサー法

弁護士法72条は、「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」とし、同法73条は、「何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によって、その権利の実行をすることを業とすることができない。」として、債権回収の委託を弁護士・弁護士法人以外の者についてはこれを禁じ、また、債権を譲り受けて行使することを業として行うことを禁じている。
また、債権管理回収業に関する特別措置法は、同法2条1項に定める特定金銭債権については、「法務大臣の許可を受けた株式会社」に限って、「弁護士又は弁護士法人以外の者が委託を受けて法律事件に関する法律事務である特定金銭債権の管理及び回収を行う営業又は他人から譲り受けて訴訟、調停、和解その他の手段によって特定金銭債権の管理及び回収を行う営業」(同法2条2項)を行うことができるものとして、そして、同法3条は、「債権管理回収業は、法務大臣の許可を受けた株式会社でなければ、営むことができない。」弁護士法72条、73条の例外を定めるとともに、特定金銭債権の管理回収業について弁護士または弁護士法人以外は、法務大臣の許可を受けた債権管理回収業者(サービサー)に独占させている。
ところで、債権譲渡を受けて、これを行使するとの例は、従来からあり、その場合と弁護士法73条や債権管理回収業に関する特別措置法3条に違反しないかが問題となる。

この点について、最高裁判所は、特定金銭債権以外の例(ゴルフ場運営会社に対する預託金返還請求権の例、債権管理回収業に関する特別措置法の適用ない事例)について、下記のように述べて、弁護士法73条の適用についての限定解釈を示した。

最判平成14年1月22日民集56巻1号123頁 判時1775号46頁

「弁護士法73条の趣旨は,主として弁護士でない者が,権利の譲渡を受けることによって,みだりに訴訟を誘発したり,紛議を助長したりするほか,同法72条本文の禁止を潜脱する行為をして,国民の法律生活上の利益に対する弊害が生ずることを防止するところにあるものと解される。このような立法趣旨に照らすと,形式的には,他人の権利を譲り受けて訴訟等の手段によってその権利の実行をすることを業とする行為であっても,上記の弊害が生ずるおそれがなく,社会的経済的に正当な業務の範囲内にあると認められる場合には,同法73条に違反するものではないと解するのが相当である。」
「ゴルフ会員権の売買には,ゴルフ会員権市場ともいうべき市場が存在し,その市場において多数の会員権の売買が日常的に行われていることは公知の事実である。そして,ゴルフ会員権の売買等を業とする者が,業として,上記市場から,会員権取引における通常の方法と価格で会員権を購入した上,ゴルフ場経営会社に対して社会通念上相当な方法で預託金の返還を求めたものであれば、・・・利益を得る目的で会員権を購入していたとしても,上記の見地から同条に違反するものではないと解される場合もあるというべきである。」

また、特定金銭債権については、下級審の判決例ではあるが、
東京地決平成16年11月12日季刊サービサー8号8頁は、特定目的会社(SPC)が特定金銭債権である貸金債権を譲りうけた後、債務者に対して、破産申立(債権者申立)をした事案について「債権管理回収業に関する特別措置法3条は、債権管理回収業は、法務大臣の許可を受けた株式会社でなければ、営むことができない旨規定しているが、同法は、金融機関等の有する貸付債権等(特定債権)の処理が緊喫の課題となっている状況にかんがみ、許可制度を実施することにより弁護士法の特例として債権回収会社が業として特定金銭債権の管理および回収を行うことができるようにするとともに、債権回収会社について必要な規制を行うことによりその業務の適性な運営の確保を図り、もって国民経済の健全な発展に資することを目的として定められた法律であるところ(同法1条参照)、弁護士法73条は、弁護士でない者が、権利の譲渡を受けることによって、みだりに訴訟を誘発したり、紛議を助長したりするほか、同法72条本文の禁止を潜脱する行為をして、国民の法律生活上の利益に弊害生ずることを防止する趣旨の規定であるが、形式的には、他人の権利を譲り受けて訴訟等の手段によってその権利の実行をすることを業とする行為であっても、譲受人の業務内容、当該権利の譲受けの方法・態様、権利実行の方法・態様等の事情からして上記弊害が生じるおそれがなく、社会経済的に正当な職務の範囲内にあると認められる場合には、同法73条に違反するものではないと解されるから、このような場合には、債権管理回収業に関する特別措置法3条の趣旨にも反しないと解される。」とした。


2007.09.22

甲乙二つの抵当権が順次設定されていた場合の先順位甲抵当権の消滅と法定地上権成立要件

土地建物が同一人所有者の場合に、その一方にのみ抵当権を設定し、競売によって土地建物の所有者が別人に帰するに至った場合、法定地上権が成立するが、甲抵当権設定時には、土地建物は別人の所有にあり、その後に、同一人に帰した後、乙抵当権が設定された場合で、甲抵当権が消滅後に乙抵当権が実行された場合に、法定地上権が成立するか。

この点につき最高裁判所は、法定地上権の成立を認めた(最判平成19年7月6日金融・商事判例1271号33頁

 民法388条は,土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において,その土地又は建物につき抵当権が設定され,その抵当権の実行により所有者を異にするに至ったときに法定地上権が設定されたものとみなす旨定めており,競売前に消滅していた甲抵当権ではなく,競売により消滅する最先順位の抵当権である乙抵当権の設定時において同一所有者要件が充足していることを法定地上権の成立要件としているものと理解することができる。原判決が引用する前掲平成2年1月22日第二小法廷判決は,競売により消滅する抵当権が複数存在する場合に,その中の最先順位の抵当権の設定時を基準として同一所有者要件の充足性を判断すべきことをいうものであり,競売前に消滅した抵当権をこれと同列に考えることはできない。

抵当権に基づく妨害排除請求

不動産に抵当権設定がなされた後、抵当権設定者(不動産の所有者)が、当該不動産を他人に賃貸借などして、占有させる場合がある。このような場合、かつては、抵当権詐害目的の詐害的な短期賃貸借については、これを解除請求することで、競売後に短期賃貸借として保護されないこととし、その後短期賃貸借保護制度を廃した現行法では、賃貸借期間の長短に拘らず、対抗関係により引渡命令等により、明渡を請求することができる。また、しかしながら、抵当不動産の占有自体が、抵当物件の評価を下げ、競売による換価自体が阻害されるような場合に、抵当権自体による賃借人等の占有の排除ができるかについては、論点が残っていた。

1 旧判例の立場
  妨害排除請求 不可
● 抵当権者は、民法395条但書の規定により解除された短期賃貸借ないしこれを基礎とする転貸借に基づき抵当不動産を占有する者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として又は抵当権設定者の所有物返還請求権の代位行使として、その明渡しを求めることはできない(最判平成3年3月22日民集45巻3号268頁)。 なお傍論で抵当権自体に基づく妨害排除請求も認める。
 
2 判例変更
  代位行使認める。
  ● 第三者が抵当不動産を不法占有することにより、競売手続の進行が害され適正な価額よりも売却価額が下落するおそれがあるなど、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、抵当不動産の所有者に対して有する右状態を是正し抵当不動産を適切に維持又は保存するよう求める請求権を保全するため、所有者の不法占有者に対する妨害排除請求権を代位行使することができる (最判平成11年11月24日民集第53巻8号1899頁)。

3 判例発展
直接請求認める(最判平成17年3月10日民集50巻2号356頁 判時1893号24頁)。
①占有権の設定に抵当権妨害目的が認められ
②その占有により、抵当不動産の交換価値の実現が妨げられ抵当権者の優先弁済権の行使が困難となる
場合に、占有が不動産所有者との関係で、適法である場合であっても、妨害排除請求としての占有状態の排除を認め、抵当権者が直接自己に対する抵当不動産の明渡請求をすることを認めた。但し、抵当権者は賃料相当の損害を被るものではないとして、損害賠償請求は否定した。

4 民事執行法による保全処分との関係
  なお、民事執行法にもとづく保全処分においては、従来から、このような場合の占有排除を認めていた。3の判例は、これを本訴において認めた点に意義がある。

2004.07.04

抵当権の実行と敷金返還請求権

抵当権設定登記後の契約・引渡がなされた建物賃貸借だが、平成16年3月31日以前契約・引渡の短期賃貸借であり、競売の際の物件明細書にも引受となる短期賃貸借として、記載のある短期賃貸借につき、競落以前に、賃貸借契約の合意解除・明渡しを終えていた場合、その後に競落した買受人に対し、敷金返還請求をなしうるか?

参考法令
民法  395条 附則7条(平成15年8月1日法律第134号)

1 昨年、標記のような事案に接しました。旧所有者は、競売をされている位ですから、資力もなく、また、競売の際の物件明細書には「引受けとなる短期賃貸借」の記載があり、かつ、鑑定もこのような権利があることを前提になされたものと考えられることから、競落人は、そもそもこのような短期賃貸借の引き受けを前提とする買受をしているのではないか、従って、敷金返還義務を負うのではないかとの問題提起です。近時の担保法の改正により、短期賃貸借制度はなくなりましたが、平成16年3月31日以前に契約・引渡のなされた短期賃貸借については、なお短期賃貸借の保護がなされることから、また、抵当権者に対抗できるいわゆる長期賃貸借についても買受前に明渡しをしてしまうと同じ法律関係になるのであり、今後も実益のある論点だと思われます。

2 結論的には、この場合、買受人は、以下に述べる理由により、敷金返還債務を負わないと考えます。論点は、賃貸人の地位承継の要件と物件明細書の性質論に分かれます。

3 賃貸人たる地位の不承継について
敷金返還請求権は、明渡時に発生するとされています。本件では、しかし、買受より前の段階で賃借人は、当時の所有者・賃貸人との間で、賃貸者契約を合意解除し、明渡しまで終えてしまっています。そうすると、買受人は、賃貸借契約が合意解約され、明渡しも完了した後に、本件建物を取得したことになるのであり、買受人は、旧所有者の賃貸人たる地位を承継せず、敷金返還債務も承継しないことになります。

4 物件明細書の記載の公信力について
次に競売の際に作られる物件明細書ですが、本件ではこれに、本件賃貸借契約及び敷金の存在が記載されています。そこで、このような記載を前提に手続きに入った以上、買受人は、賃貸借や敷金を引き受けるといえないかとの疑問もありえます。
しかしながら、物件明細書の記載は裁判ではなく、公信力も存在しません。そもそも、物件明細書というのは、物件明細書作成時点での競売不動産の明細及び権利関係について情報提供しようとするものにすぎないのであって、これによって、実体的権利関係が影響を受けることもありません。
したがって、物件明細書の記載内容如何にかかわらず、本来存続するべき物的負担は存続し、消滅すべき物的負担は消滅することになります。
5 結論
 以上のとおりですので、本件では、賃貸借は、買受人の引き受けにはならず、従って、敷金返還請求債務も負担しません。

2004.07.01

サービサー会社による債権回収と対抗要件

 貸金債権を有するA社が債権管理回収業に関する特別措置法による債権回収会社B(いわゆるサービサー会社)に、債権回収委託をした場合、債権回収委託について、債務者Cに対する対抗要件は必要か?

参考法令
債権回収業に関する特別措置法など
民法467条
弁護士法72条


1 昨年、とある案件で、このような問題に直面しました。実務的には、特に債務者に対する対抗要件(通知または承諾)なくして、サービサーは債権回収をしていることが多いと思われますし、裁判実務でも特に債務者に対する対抗要件の有無を確認せずに、請求を認めているようです。しかし、私は、以下の理由により、対抗要件が必要ではないかと考えます。

2 債権管理回収業に関する特別措置法(以下「サービサー法」と言います。)11条1項は、次のように定めています。
  すなわち、「債権回収会社は、委託を受けて債権の管理又は回収の業務を行う場合には、委託者のために自己の名をもって、当該債権の管理又は回収に関する一切の裁判上又は裁判外の行為を行う権限を有する。」とされています。
  これは、債権回収会社が、当該債権を買取らずに、回収の委託を受けた場合でも、自己の名をもって請求行為が裁判上または裁判外を問わずできることを規定しているものです。
  従来、他人の債権の回収委託を受けてこの取立てをなす行為は、弁護士法72条で「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」と定められ、禁止されていましたが、債権管理回収業として適式の要件を備え、認可を受けた債権回収会社については、同条但し書きによる「他の法律に別段の定めがある場合」の例として、他人の債権の回収委託を受け、これを取り立てることが許されることになりました。
  他人の債権の回収委託を受ける場合の法的関係としては、ひとつには、債権者の代理関係である場合があげられます。この場合は、代理人は、本人のためにすることを顕名の上、あくまで代理人として請求行為をすることになります。
もうひとつは、債権取立権限・回収権限のみを譲渡する場合があげられます。債権回収業に関する特別措置法以前では、手形の取立委任裏書が代表例でした。手形法18条は、「裏書に「回収の為」、「取立の為」、「代理の為」其の他単なる委任を示す文言あるときは所持人は為替手形より生ずる一切の権利を行使することを得」としており、取立委任裏書を認めています。この場合には、手形の取立委任裏書を受けた手形所持人は、実体上の債権者のために自己の名前で、債権の回収をすることとなり、訴訟提起をすることも、いわゆる任意的訴訟担当として、これがなしえるものとされています。
サービサー法11条1項による債権の回収も、手形の取立委任裏書の場合と同様、実体上の債権者に債権を残したまま、回収・取立権限のみがサービサー会社に与えられ、サービサー会社は自己の名をもって債権回収をすることになります。この場合に訴訟をすることも手形の取立委任裏書の場合と同様、任意的訴訟担当として、自己を訴訟上の当事者としてなすことが可能です。

3 私の疑問は、このように回収・取立権限を受けるに当たり、債務者に対する対抗要件が必要なのではないかという点にあります。手形の取立委任裏書については、裏書という手形法に定められた特別な対抗要件を要求しています。指名債権について、サービサー会社に回収・取立を委託する場合にも、民法が要求している債務者に対する対抗要件、通知または承諾が必要なのではないかということです。

4 債権譲渡とは、債権の買取の場合だけであると考えるのであれば、このような回収・取立委託については、債権譲渡には当たらず、対抗要件の問題は出てこないかもしれません。しかし、債権譲渡というのは、債権の売買だけに限られません。この点、 注釈民法(11)346頁は、「?Y 特殊の債権譲渡」 の項の中で、(1)取立のためにする債権譲渡 として、(ア)取立権能の授与 として、回収委託を与える場合も債権譲渡の一例としています。また、倉田卓次監修「要件事実の証明責任 債権総論」346頁以下も、取立のための債権譲渡の二類型として、「取立権能の授与」について触れており、従来から、取立・回収権限のみを与えるという形の債権譲渡もまた、債権譲渡の一態様として認められてきているものと思われます。

5 サービサー会社に債権回収を委託し、サービサー会社が自己の名をもって債権を回収・取立てる場合が、このような債権譲渡の一態様と認められるとすると、債権の売買の場合と同様、サービサー会社が債権回収をするには、債務者に対する対抗要件が必要となるとの結論が導かれると考えます。

6 また、実質的にも、債務者に対して実体上の債権者から回収委託をしたことについて何らの通知ないのに、回収委託を受けたとする債権管理回収業者から、請求があっても、この債権管理回収業者が真に債権回収委託を受けたものかは不明であり、債務の弁済をするべきか否かの判断ができないことは、債権の買取のような通常の債権譲渡の場合に、債務者に対する通知がないと債務者が弁済をするべきか否か判断できないのと全く変わらず、債権譲渡の対抗要件が必要と考えるべきと思われます。

7 このように考えた場合、大量の債権の管理・回収を行うサービサー会社の業務にマイナスになってしまうとの弊害がありますが、なんらかの立法措置によって解決するべきことなのではないでしょうか。

8 なお、私のように考えた場合でも、「サービサー会社が対抗要件を備えていないこと」が、サービサー会社から請求をされた債務者にとっての抗弁になると思われますので、現実の実務の大半でそのような抗弁が出ていないことから、サービサーの対抗要件の有無を確認しない現在の実務が直ちに違法になるわけではないと考えます。また、そのような抗弁が出た場合、実質的債権者に通知をさせればよいので、サービサー会社側が対抗要件を備えるのはそれほど難しいことではなく、余り実益のある議論ではないかもしれません。しかし、「対抗要件の具備がないので支払わない」と債務者が主張しているのに対し、サービサー会社側が何ら措置をとらない場合や、担保権実行の手続のように発令時の要件具備が問題になる事案に対する執行抗告においてかような主張がなされた場合などには、実益のある論点となろうかと思われます。


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