20気になる判例平成20年

2011.03.02

 交通事故の加害者が被害者に賠償すべき人的損害の額の算定に当たり、被害者の父が締結していた自動車保険契約の人身傷害補償条項に基づき被害者が支払を受けた保険金の額を控除する場合の控除の方法について。(その3) (最近の交通事故判例~平成20年から22年の最高裁判決を中心に(その11))

③検討

(1)保険法による解決
保険法
(請求権代位)
第25条  保険者は、保険給付を行ったときは、次に掲げる額のうちいずれか少ない額を限度として、保険事故による損害が生じたことにより被保険者が取得する債権(債務の不履行その他の理由により債権について生ずることのある損害をてん補する損害保険契約においては、当該債権を含む。以下この条において「被保険者債権」という。)について当然に被保険者に代位する。
1  当該保険者が行った保険給付の額
2  被保険者債権の額(前号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者債権の額から当該不足額を控除した残額)
2  前項の場合において、同項第一号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者は、被保険者債権のうち保険者が同項の規定により代位した部分を除いた部分について、当該代位に係る保険者の債権に先立って弁済を受ける権利を有する。
(強行規定)
第26条  第15条、第21条第1項若しくは第3項又は前2条の規定に反する特約で被保険者に不利なものは、無効とする。

(2)人身傷害保険の残された問題
・自賠責保険との関係(東京地方裁判所平成21年12月22日判決(平21(ワ)7992号外 【39】)


交通事故の加害者が被害者に賠償すべき人的損害の額の算定に当たり、被害者の父が締結していた自動車保険契約の人身傷害補償条項に基づき被害者が支払を受けた保険金の額を控除する場合の控除の方法について。(その2) (最近の交通事故判例~平成20年から22年の最高裁判決を中心に(その10))

②裁判経過

1審
神戸地姫路支判平成19年 2月21日交民 41巻5号1107頁

控訴審 
大阪高判 平成19年 9月20日 交民 41巻5号1139頁

総損害額-(総損害額×過失相殺)-自賠責保険 -既払保険金 -既払人傷保険金

上告審
最判平成20年10月7日判時2033号119頁

本件傷害保険金は,Xの父Aが訴外B保険会社との間で締結していた本件保険契約の本件傷害補償条項に基づいてXに支払われたものであるというのであるから,これをもってY1のXに対する損害賠償債務の履行と同視することはできない。
また,本件保険契約においては,本件保険契約に基づく保険金を支払った訴外B保険会社は同保険金を受領した者が他人に対して有する損害賠償請求権を取得する旨のいわゆる代位に関する約定があるというのであるから,
訴外B保険会社は,本件傷害保険金の支払によって,XのY1に対する本件損害賠償請求権の一部を代位取得する可能性があり,
訴外B保険会社が代位取得する限度でXは上記損害賠償請求権を失うことになるのであって,本件傷害保険金の支払によって直ちに本件傷害保険金の金額に相当する本件損害賠償請求権が消滅するということにはならない。
そして,原審が確定した前記事実関係からは,本件傷害補償条項を含めて本件保険契約の具体的内容等が明らかではないので,上記の代位の成否及びその範囲について確定することができず,訴外保険会社が本件傷害保険金の金額に相当する本件損害賠償請求権を当然に代位取得するものと認めることもできない
ところが,原審は,本件傷害補償条項を含む本件保険契約の具体的内容等について審理判断することなく,本件損害賠償請求権の額を算定するに当たり,Xの損害額からXの過失割合による減額をし,その残額から本件傷害保険金の金額を控除したものである。
しかも,Xは,原審において,本件傷害保険金のうちY1の過失割合に対応した金額に相当する本件損害賠償請求権を訴外B保険会社が代位取得する旨の合意がXと訴外B保険会社との間で成立している旨主張していることが記録上明らかであるが,原審は,この合意の有無及び効力についても何ら審理判断していない。

 交通事故の加害者が被害者に賠償すべき人的損害の額の算定に当たり、被害者の父が締結していた自動車保険契約の人身傷害補償条項に基づき被害者が支払を受けた保険金の額を控除する場合の控除の方法について。 (最近の交通事故判例~平成20年から22年の最高裁判決を中心に(その9))

①事案の概要

(1) 事故の概要と過失割合 損害額

  平成14年7月7日午前7時50分ころ,H県H市内の国道の交差点において,同交差点東側の横断歩道を北から南に向かって進行していたX(当時12歳)運転の自転車と,上記国道を西から東に向かって進行していたY1車とが衝突した。
本件事故におけるXとY1の過失割合は,いずれも5割。
本件事故により,Xは,脳挫傷,頭部打撲等の傷害を負い,入通院による治療を受けたが,平成15年5月27日,高次脳機能障害等の後遺障害を残して症状固定し,同後遺障害により労働能力を100%失った。
  Xに発生した弁護士費用を除く人的損害は1億7382万8332円
(治療費,将来の介護費,住宅改造費,逸失利益,慰謝料等の合計)
 
(2)任意保険(直接請求条項)

Y1とY2会社(任意保険会社)の間で,Y1がY1車によって第三者に加害を及ぼし損害を生じさせた場合に当該第三者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について,Y1と当該第三者との間で判決が確定し又は裁判上の和解若しくは書面による合意が成立したときに,当該第三者が直接Y2会社に上記金額の支払を請求することができる旨の約定を含む自動車保険契約を締結していた。

(3)人身傷害保険


Xの父Aは,本件事故当時,B保険会社との間で,Xも補償の対象者に含む人身傷害補償条項のある自動車保険契約を締結していた。
本件保険契約においては,本件保険契約に基づく保険金を受領した者が他人に損害賠償を請求することができる場合には,訴外保険会社は,その損害に対して支払った保険金の額の限度内で,上記の損害賠償に係る権利を取得する旨の約定がある。

(4)人身傷害保険の支払

Xは,本件傷害補償条項に基づき,訴外B保険会社から,本件事故によるXの人的損害について,567万5693円の本件傷害保険金の支払を受けた。


(5)自賠責保険の支払い

Xは,平成16年2月23日,自動車損害賠償責任保険から,本件事故の損害賠償として,3000万円の本件自賠責保険金の支払を受けた。



2011.02.26

AB共同して行っていた暴走行為車両の同乗者Bの被害事故について、暴走運転者Aの過失を被害者側の過失として、考慮することができるか(その4)。 (最近の交通事故判例~平成20年から22年の最高裁判決を中心に(その8))

③ 検討

(1)被害者側の過失論

被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる(民法722条2項)。
民法722条2項の被害者の過失には、 被害者本人の過失のみならず、被害者側の過失も含む(最高裁昭和34年11月26日判決判時206号14頁【34】)。

(2)被害者側の過失の従来の考え方
A 被害者と被用者・使用者の関係にある者である場合
  民法715条(使用者責任)の裏返しのような考え方
  使用者が加害者側にたった場合、被用者の過失について責任を負わされるのであるから、使用者が被害者側にたった場合も過失相殺においては、同様に被用者の過失について相応の負担をするのが公平であり、被用者の過失を被害者側の過失として斟酌するべき。

B 被害者と身分上ないしは生活上一体をなすと見られるような関係にある場合
ア 肯定判例
 ⅰ 夫婦 最判昭51年3月25日 民集30巻2号160頁 【35】
(夫の運転する自動車に同乗する妻が第三者と夫の過失の競合による交通事故で負傷した事例)
ⅱ 内縁の夫婦 最判平成19年4月24日判時 1970号54頁 【36】

イ 否定判例
ⅰ 職場の同僚 最判昭和56年2月17日 判時996号65頁【37】
 ⅱ 恋愛関係 最判平成9年9月9日 判時 1618号63頁 【38】

(3)最高平成20年7月4日判決の「被害者側の過失論」

ⅰ 従来の判例は、「財布は一つ」=「身分上、生活関係上、一体となすと見られるような関係」といえる場合に「被害者側の過失」を認めている。
ⅱ 本件では、ともに暴走行為を行った に過ぎず、「財布は一つ」とまではいえない。

本件での特殊事情   → 単なる同乗者ではない。
本件事故発生時点ではたまたまAが運転しておりBは同乗者にすぎないが、 B自身も、交代運転していた時間帯もあり、共同行為者とみれる事情があるといえそうである。

AB共同して行っていた暴走行為車両の同乗者Bの被害事故について、暴走運転者Aの過失を被害者側の過失として、考慮することができるか(その3)。 (最近の交通事故判例~平成20年から22年の最高裁判決を中心に(その7))

上告審 最高裁判所平成20年 7月4日判決4日判時2018号16頁

ⅰ AとBは,本件事故当日の午後9時ころから本件自動二輪車を交代で運転しながら共同して暴走行為を繰り返し,午後11時35分ころ,本件国道上で取締りに向かった本件パトカーから追跡され,いったんこれを逃れた後,午後11時49分ころ,Aが本件自動二輪車を運転して本件国道を走行中,本件駐車場内の本件小型パトカーを見付け,再度これから逃れるために制限速度を大きく超過して走行するとともに,一緒に暴走行為をしていた友人が捕まっていないか本件小型パトカーの様子をうかがおうとしてわき見をしたため,本件自動二輪車を停止させるために停車していた本件パトカーの発見が遅れ,本件事故が発生したというのである(以下,本件小型パトカーを見付けてからのAの運転行為を「本件運転行為」という。)。

ⅱ 以上のような本件運転行為に至る経過や本件運転行為の態様からすれば,本件運転行為は,BとAが共同して行っていた暴走行為から独立したAの単独行為とみることはできず,上記共同暴走行為の一環を成すものというべきである。
 したがって,上告人との関係で民法722条2項の過失相殺をするに当たっては,公平の見地に照らし,本件運転行為におけるAの過失もBの過失として考慮することができると解すべきである。

被害者側の過失論を採用?

AB共同して行っていた暴走行為車両の同乗者Bの被害事故について、暴走運転者Aの過失を被害者側の過失として、考慮することができるか(その1)。 (最近の交通事故判例~平成20年から22年の最高裁判決を中心に)(その5)

【16】最判平成20年7月4日判時2018号16頁
AB共同して行っていた暴走行為車両の同乗者Bの被害事故について、暴走運転者Aの過失を被害者側の過失として、考慮することができるか。


① 事案の概要

(1)  A及びBは,中学校時代の先輩と後輩の関係であり,平成13年8月13日午後9時ころから,友人ら約20名と共に,自動二輪車3台,乗用車数台に分乗して,集合,離散しながら,空吹かし,蛇行運転,低速走行等の暴走行為を繰り返した。Bは,ヘルメットを着用せずに,消音器を改造した本件自動二輪車にAと二人乗りし,交代で運転をしながら走行していた。
(2)  O警察K警察署のC警察官らは,付近の住民から暴走族が爆音を立てて暴走している旨の通報を受け,同日午後11時20分ころ,これを取り締まるためにC警察官が運転する本件パトカー及び他の警察官が運転する本件小型パトカーの2台で出動した。O県は,本件パトカーの運行供用者である。
(3)  C警察官は,本件国道を走行中,同日午後11時35分ころ,本件自動二輪車が対向車線を走行してくるのを発見し追跡したが,本件自動二輪車が転回して逃走したためこれを見失い,いったん本件国道に面した本件駐車場に入って本件パトカーを停車させた。また,本件小型パトカーも本件駐車場に入って停車していた。本件駐車場先の本件国道は片側1車線で,制限速度は時速40kmであった。
(4)  同日午後11時49分ころ,Aが運転しBが同乗した本件自動二輪車が本件国道を時速約40kmで走行してきたため,C警察官は,これを停止させる目的で,本件パトカーを本件国道上に中央線をまたぐ形で斜めに進出させ,本件自動二輪車が走行してくる車線を完全にふさいだ状態で停車させた。
 付近の道路は暗く,本件パトカーは前照灯及び尾灯をつけていたが,本件自動二輪車に遠くから発見されないように,赤色の警光灯はつけず,サイレンも鳴らしていなかった。
(5)  Aは,本件駐車場内に本件小型パトカーが停車しているのに気付き,時速約70~80kmに加速して本件駐車場前を通過し逃走しようとしたが,その際,友人が捕まっているのではないかと思い,本件小型パトカーの様子をうかがおうとしてわき見をしたため,前方に停車した本件パトカーを発見するのが遅れ,回避する間もなく,その側面に衝突した(以下「本件事故」という。)。
(6)  Bは,本件事故により頭がい骨骨折等の傷害を負い,同月14日午前1時13分ころ死亡した。

Xの友人Aが、Xの父親B所有の自動車を運転してバーに赴いてXと飲酒をした後、寝込んでいるXを乗せて同自動車を運転し、追突事故を起こした場合において、Bは自賠法3条の運行供用者にあたるか。 その2(最近の交通事故判例~平成20年から22年の最高裁判決を中心に(その4))

③ 検討

 

本件は、自賠法16条(被害者請求)の事案であるが、その前提としての、Aが自賠法3条の運行供用者の責任を負うかが争点となっている。

 

・自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明したときは、この限りでない(自賠法3条)
(1)運行供用者性
ア 運行供用者性の判断基準
「自己のために自動車を運行の用に供する者」とは、
ⅰ 自動車の使用についての支配権を有し (運行支配)
 ⅱ その使用により享受する利益が自己に帰属する (運行利益)
者をいう(二元説 最判昭和43年9月24日判時 539号40頁)。
イ 運行支配概念の拡大・規範化・抽象化
・自動車の運行について指示・制禦をなしうべき地位(最判昭和45年7月16日判時 600号89頁)
・自動車の運行を指示・制禦すべき地位(最判昭和47年12月20日民集27巻11号1611頁)
・自動車の運行を事実上支配、管理することができ、社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場(最判昭和50年11月28日民集29巻10号1818頁)
ウ 運行利益概念の客観化・抽象化
・運行を全体として客観的に観察する(最判昭和46年7月1日民集25巻5号727頁)

 

エ 運行供用者責任における証明責任の分配(なにが請求原因事実で、何が抗弁か)
α 抗弁説(実務)
β 請求原因説

 

(2)他人性
② 他人性の判断基準【抗弁2】
ア 「他人」とは
運行供用者及び広義の運転者(狭義の運転者と運転補助者)以外の者をいう。
○最判昭和47年5月30日民集26巻4号【3】(妻は他人判決)

 

 

抗弁とするのが実務・判例(最判平成10年12月17日交民31巻6号1659頁【4】)
イ 複数の運行供用者のうち、1人が被害者となった場合の「他人性」
・最判昭和50年11月4日民集29巻10号1501頁 【31】
所有者会社Aの従業員が業務外にAの取締役Bを乗せて起きた事故で、Aの運行支配が「間接的、潜在的、抽象的」であるのに対し、Bの運行支配は、「直接的、顕在的、具体的」として、他人性を否定(非同乗型)。

 

・最判昭和57年11月26日民集36巻11号2318頁 【32】
所有者Xが、飲酒後、友人Aに運転を委ねて同乗中に起きた事故(死亡)で、Xの自動車の具体的運行に対する支配の程度は、特段の事情ない限り運転していたAのそれに対して優るとも劣らないとして、他人性を否定(同乗型)

 

・最判平成9年10月31日民集51巻9号3962頁 【33】
所有者Xが飲酒後、自ら安全運転ができないことから、運転代行業者Yに代行運転を委託した事案で、Xの運行支配の程度は、Yに比べ間接的、抽象的であるとして、「特段の事情」あるとして、他人性を肯定(同乗型)。

 

ウ 最高平成20年9月12日判決の事案の特徴
ⅰ 50年判決【31】の事案では、被害者以外の運行供用者は 車外(非同乗型)
ⅱ 57年判決【32】、平成9年判決【33】の事案では、被害者以外の運行供用者は 車内(同乗型)
ⅲ 平成20年判決の事案では、
・ 被害者以外の運行供用者は 車内の友人Aと,車外の父・自動車所有者Bの2名(混合型)。
・ 車内の使用権者(X)と車外の保有者(B)間  非同乗型として判断
・ 車内の使用権者(X)と車内の運転した者(A)との間 同乗型として判断

 

2011.02.25

Xの友人Aが、Xの父親B所有の自動車を運転してバーに赴いてXと飲酒をした後、寝込んでいるXを乗せて同自動車を運転し、追突事故を起こした場合において、Bは自賠法3条の運行供用者にあたるか。 (最近の交通事故判例~平成20年から22年の最高裁判決を中心に(その3))

【1】最判平成20年9月12日交民41巻5号1085頁 判時2021号38頁
Xの友人Aが、Xの父親B所有の自動車を運転してバーに赴いてXと飲酒をした後、寝込んでいるXを乗せて同自動車を運転し、追突事故を起こした場合において、Bは自賠法3条の運行供用者にあたるか。

 

 

事案および判旨 (紹介済み。)

 

 

② 裁判経過

 

1審 名古屋一宮支判平成18年 9月12日交民 41巻5号1088頁 差戻前控訴審 名古屋高判平成19年 3月22日

 

⇒Bの運行供用者責任について(否定)

 

BはAとは面識もなく、Aの存在自体認識していなかったところ、使用借人であるXを介して、XがAに本件車の運転を依頼し、あるいはその運転を許容してはじめて、Aの運転する本件車に対する運行支配を及ぼすことが可能となり、運行供用者ということができる。
AがXの知人であること、Aは同人宅に帰宅した後にはXに本件車を返還する意思があったこと等の事実に照らしてみても、XにはAに対して本件車の運転を依頼する意思がなく、Xは泥酔していて意識がなかったため、Aが本件車を運転するについて指示はおろか運転していること自体を認識しておらず、また、Aは同人宅に帰宅するために本件車を運転していたに過ぎないことなどから、Xの本件車に対する運行支配はなかったのであるから、したがってまた、Xを介して存在していたBの本件車に対する運行支配も本件事故時には失われていたというほかない。

 

 

上告審 最高裁判所平成20年 9月12日判決判時2021号38頁

 

⇒Bの運行供与者性について(肯定)

 

ⅰ Xは実家に戻っているときにはBの会社の手伝いなどのために本件自動車を運転することをBから認められていたこと,
ⅱ Xは,親しい関係にあったAから誘われて,午後10時ころ,実家から本件自動車を運転して同人を迎えに行き,電車やバスの運行が終了する翌日午前0時ころにそれぞれの自宅から離れた名古屋市内のバーに到着したこと,
ⅲ Xは,本件自動車のキーをバーのカウンターの上に置いて,Aと共にカウンター席で飲酒を始め,そのうちに泥酔して寝込んでしまったこと,
ⅳ Aは,午前4時ころ,Xを起こして帰宅しようとしたが,Xが目を覚まさないため,本件自動車にXを運び込み,上記キーを使用して自宅に向けて本件自動車を運転したこと
ⅴ Xによる上記運行がBの意思に反するものであったというような事情は何らうかがわれない。
 
(まとめ)
これらの事実によれば,Xは,Bから本件自動車を運転することを認められていたところ,深夜,その実家から名古屋市内のバーまで本件自動車を運転したものであるから,その運行はBの容認するところであったと解することができ,また,Xによる上記運行の後,飲酒したXが友人等に本件自動車の運転をゆだねることも,その容認の範囲内にあったと見られてもやむを得ないというべきである。
そして,Xは,電車やバスが運行されていない時間帯に,本件自動車のキーをバーのカウンターの上に置いて泥酔したというのであるから,Aが帰宅するために,あるいはXを自宅に送り届けるために上記キーを使用して本件自動車を運転することについて,Xの容認があったというべきである。そうすると,BはAと面識がなく,Aという人物の存在すら認識していなかったとしても,本件運行は,Bの容認の範囲内にあったと見られてもやむを得ないというべきであり,Bは,客観的外形的に見て,本件運行について,運行供用者に当たると解するのが相当である。

 

差戻後 控訴審判決 名古屋高等裁判所平成19年3月19日 交民41巻5号【2】

 

⇒ 他人性(否定)
Aによる本件運行は,Bの容認の範囲内にあったと見られるから,Bも,本件運行について運行供用者に当たるとはいえるが,Bによる本件運行に対する支配は,あくまでXによるAに対する本件自動車の使用の容認・許諾を介するものであって,間接的,潜在的,抽象的であるといわざるを得ない。これに対し,Xによるそれは,Aの本件自動車の運転を容認することによって同人に同車の運転をゆだねたと評価できるものであるから,Bによるそれと比較して,より直接的,顕在的,具体的であったといえる。
 このような本件自動車の具体的な運行に対する支配の程度・態様に照らせば,Xは,運行供用者に該当し,かつ,同じく運行供用者に該当するBよりも,運行支配の程度態様がより直接的,顕在的,具体的であったから,Bに対する関係において法3条にいう「他人」に当たらないと解するのが相当である。

 

2008.10.17

自動車借主不知の間の友人の運転と所有者の運行供与者性

最高裁判所平成20年9月12日判決は、自動車を貸していた事案で、借主不知の間に第三者が運行した事案について、自動車の保有者は、自動車損害賠償保障法3条の運行供与者にあたるものとした。すなわち、
「A(昭和57年7月生)は、平成14年2月19日午前5時ころ、愛知県
一宮市内において、自己の運転する普通乗用自動車(以下「本件自動車」とい
う。)を、赤信号で停止していた普通貨物自動車に追突させる事故(以下「本件事故」という。)を起こした。上告人(昭和57年3月生)は、本件事故当時、本件自動車に同乗しており、本件事故により顔面に傷害を負った。」事案で、「本件自動車は、上告人の父親であるBが所有しており、同人の経営する会社の仕事等に利用されていた。」「上告人は、本件事故当時、一宮市内で独り住まいをし、キャバクラ等に勤務していたが、仕事が休みのときには、同市内にある実家に戻り、Bが経営する会社の仕事を手伝うことがあった。」「Bは、上告人が上記仕事を手伝う際などに本件自動車を運転することを認めていた。」「Aは、岐阜市内に居住し、ホストクラブに勤務していた。同人は、自動車を運転する能力はあったが、自動車の運転免許は有していなかった。」という事情のもと、
「上告人とAは、平成13年9月ころ、Aが上告人の勤務していたキャバク
ラに客として訪れたのを機に知り合い、その後、上告人は、Aの勤務するホストクラブに客として通うようになり、互いに携帯電話の番号を教え合う仲になった。Aが自動車の運転免許を有していないことは、上告人も知っていた。Bは、Aと面識がなく、Aという人物が存在することすら認識していなかった。」という場合に、上告人が運転してAを拾い、バーで午前0時ころからAと上告人で飲酒を始め、上告人は、酔いがさめたころに自ら本件自動車を運転して帰宅するつもりであったが、そのうちに泥酔して寝込んでしまった。Aは、同日午前4時ころ、上告人を起こして帰宅しようとしたが、上告人が目を覚まさなかったため、カウンターの上に置かれていた本件自動車のキーを使用して、上告人をその助手席に運び込んだ上で本件自動車を運転し、岐阜市内の自宅に向かった。Aは、自宅に到着してから上告人を起こして、本件自動車で帰ってもらうつもりであった。上告人は、Aが本件自動車を運転している間、泥酔して寝込んでおり、同人に対して本件自動車の運転を指示したことはなかった。Aは、その帰宅途上で本件事故を起こした。」という事案で、上告人は、本件自動車を被保険自動車とする自動車損害賠償責任保険の保険会社である被上告人に対し、Bが自動車損害賠償保障法(以下「法」という。)2条3項所定の保有者として法3条の規定による損害賠償責任を負担すると主張して、法16条に基づき損害賠償額の支払を求めた。
原審はこれを認めなかったが、最高裁判所は、次のように判示て、これを認めるべきものとして、本件を破棄差戻すとした。
すなわち、「本件自動車は上告人の父親であるBの所有するものであるが、上告人は実家に戻っているときにはBの会社の手伝いなどのために本件自動車を運転することをBから認められていたこと、上告人は、親しい関係にあったAから誘われて、午後10時ころ、実家から本件自動車を運転して同人を迎えに行き、電車やバスの運行が終了する翌日午前0時ころにそれぞれの自宅から離れた名古屋市内のバーに到着したこと、上告人は、本件自動車のキーをバーのカウンターの上に置いて、Aと共にカウンター席で飲酒を始め、そのうちに泥酔して寝込んでしまったこと、Aは、午前4時ころ、上告人を起こして帰宅しようとしたが、上告人が目を覚まさないため、本件自動車に上告人を運び込み、上記キーを使用して自宅に向けて本件自動車を運転したこと(以下、このAによる本件自動車の運行を「本件運行」という。)、以上の事実が明らかである。そして、上告人による上記運行がBの意思に反するものであったというような事情は何らうかがわれない。」「これらの事実によれば、上告人は、Bから本件自動車を運転することを認められていたところ、深夜、その実家から名古屋市内のバーまで本件自動車を運転したものであるから、その運行はBの容認するところであったと解することができ、また、上告人による上記運行の後、飲酒した上告人が友人等に本件自動車の運転をゆだねることも、その容認の範囲内にあったと見られてもやむを得ないというべきである。そして、上告人は、電車やバスが運行されていない時間帯に、本件自動車のキーをバーのカウンターの上に置いて泥酔したというのであるから、Aが帰宅するために、あるいは上告人を自宅に送り届けるために上記キーを使用して本件自動車を運転することについて、上告人の容認があったというべきである。そうすると、BはAと面識がなく、Aという人物の存在すら認識していなかったとしても、本件運行は、Bの容認の範囲内にあったと見られてもやむを得ないというべきであり、Bは、客観的外形的に見て、本件運行について、運行供用者に当たると解するのが相当である。」とした。

 

2008.07.05

賃料自動増減合意と借地借家法32条

借地借家法32条は、建物賃貸借における賃料につき、
1建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
2項以下略

 

としている。
他方、賃貸借契約において賃料自動改定特約があるものが、いわゆるサブリースの契約を中心に散見されるところ、同条と賃料自動改定特約との関係が従前から問題となっていた。

 

判平成20年2月29日裁時 1455号1頁は、
「借地借家法32条1項の規定は、強行法規であり、賃料自動改定特約によってその適用を排除することはできないものである(最高裁昭和28年(オ)第861号同31年5月15日第三小法廷判決・民集10巻5号496頁、最高裁昭和54年(オ)第593号同56年4月20日第二小法廷判決・民集35巻3号656頁、最高裁平成14年(受)第689号同15年6月12日第一小法廷判決・民集57巻6号595頁参照)。」としたうえで、「同項の規定に基づく賃料減額請求の当否及び相当賃料額を判断するに当たっては、賃貸借契約の当事者が現実に合意した賃料のうち直近のもの(以下、この賃料を「直近合意賃料」という。)を基にして、同賃料が合意された日以降の同項所定の経済事情の変動等のほか、諸般の事情を総合的に考慮すべきであり、賃料自動改定特約が存在したとしても、上記判断に当たっては、同特約に拘束されることはなく、上記諸般の事情の一つとして、同特約の存在や、同特約が定められるに至った経緯等が考慮の対象となるにすぎないというべきである。
 したがって、本件各減額請求の当否及び相当純賃料の額は、本件各減額請求の直近合意賃料である本件賃貸借契約締結時の純賃料を基にして、同純賃料が合意された日から本件各減額請求の日までの間の経済事情の変動等を考慮して判断されなければならず、その際、本件自動増額特約の存在及びこれが定められるに至った経緯等も重要な考慮事情になるとしても、本件自動増額特約によって増額された純賃料を基にして、増額前の経済事情の変動等を考慮の対象から除外し、増額された日から減額請求の日までの間に限定して、その間の経済事情の変動等を考慮して判断することは許されないものといわなければならない。本件自動増額特約によって増額された純賃料は、本件賃貸契約締結時における将来の経済事情等の予測に基づくものであり、自動増額時の経済事情等の下での相当な純賃料として当事者が現実に合意したものではないから、本件各減額請求の当否及び相当純賃料の額を判断する際の基準となる直近合意賃料と認めることはできない。
 しかるに、原審は、第1減額請求については、本件自動増額特約によって平成7年12月1日に増額された純賃料を基にして、同日以降の経済事情の変動等を考慮してその当否を判断し、第2減額請求については、本件自動増額特約によって平成9年12月1日に増額された純賃料を基にして、同日以降の経済事情の変動等を考慮してその当否を判断したものであるから、原審の判断には、法令の解釈を誤った違法があり、この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
 自動増額特約によって増額された純賃料は、本件賃貸契約締結時における将来の経済事情等の予測に基づくものであり、自動増額時の経済事情等の下での相当な純賃料として当事者が現実に合意したものではないから、本件各減額請求の当否及び相当純賃料の額を判断する際の基準となる直近合意賃料と認めることはできない。」として、原判決を破棄差戻した。

 

先にサブリースと借地借家法32条に関する判例として紹介した判例ともども、検討に値する判例と思う。

 

 

2021年8月
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