③ 検討
本件は、自賠法16条(被害者請求)の事案であるが、その前提としての、Aが自賠法3条の運行供用者の責任を負うかが争点となっている。
・自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明したときは、この限りでない(自賠法3条)
(1)運行供用者性
ア 運行供用者性の判断基準
「自己のために自動車を運行の用に供する者」とは、
ⅰ 自動車の使用についての支配権を有し (運行支配)
ⅱ その使用により享受する利益が自己に帰属する (運行利益)
者をいう(二元説 最判昭和43年9月24日判時 539号40頁)。
イ 運行支配概念の拡大・規範化・抽象化
・自動車の運行について指示・制禦をなしうべき地位(最判昭和45年7月16日判時 600号89頁)
・自動車の運行を指示・制禦すべき地位(最判昭和47年12月20日民集27巻11号1611頁)
・自動車の運行を事実上支配、管理することができ、社会通念上その運行が社会に害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場(最判昭和50年11月28日民集29巻10号1818頁)
ウ 運行利益概念の客観化・抽象化
・運行を全体として客観的に観察する(最判昭和46年7月1日民集25巻5号727頁)
エ 運行供用者責任における証明責任の分配(なにが請求原因事実で、何が抗弁か)
α 抗弁説(実務)
β 請求原因説
(2)他人性
② 他人性の判断基準【抗弁2】
ア 「他人」とは
運行供用者及び広義の運転者(狭義の運転者と運転補助者)以外の者をいう。
○最判昭和47年5月30日民集26巻4号【3】(妻は他人判決)
抗弁とするのが実務・判例(最判平成10年12月17日交民31巻6号1659頁【4】)
イ 複数の運行供用者のうち、1人が被害者となった場合の「他人性」
・最判昭和50年11月4日民集29巻10号1501頁 【31】
所有者会社Aの従業員が業務外にAの取締役Bを乗せて起きた事故で、Aの運行支配が「間接的、潜在的、抽象的」であるのに対し、Bの運行支配は、「直接的、顕在的、具体的」として、他人性を否定(非同乗型)。
・最判昭和57年11月26日民集36巻11号2318頁 【32】
所有者Xが、飲酒後、友人Aに運転を委ねて同乗中に起きた事故(死亡)で、Xの自動車の具体的運行に対する支配の程度は、特段の事情ない限り運転していたAのそれに対して優るとも劣らないとして、他人性を否定(同乗型)
・最判平成9年10月31日民集51巻9号3962頁 【33】
所有者Xが飲酒後、自ら安全運転ができないことから、運転代行業者Yに代行運転を委託した事案で、Xの運行支配の程度は、Yに比べ間接的、抽象的であるとして、「特段の事情」あるとして、他人性を肯定(同乗型)。
ウ 最高平成20年9月12日判決の事案の特徴
ⅰ 50年判決【31】の事案では、被害者以外の運行供用者は 車外(非同乗型)
ⅱ 57年判決【32】、平成9年判決【33】の事案では、被害者以外の運行供用者は 車内(同乗型)
ⅲ 平成20年判決の事案では、
・ 被害者以外の運行供用者は 車内の友人Aと,車外の父・自動車所有者Bの2名(混合型)。
・ 車内の使用権者(X)と車外の保有者(B)間 非同乗型として判断
・ 車内の使用権者(X)と車内の運転した者(A)との間 同乗型として判断
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