5気になる判例平成20年

2011.03.02

 交通事故の加害者が被害者に賠償すべき人的損害の額の算定に当たり、被害者の父が締結していた自動車保険契約の人身傷害補償条項に基づき被害者が支払を受けた保険金の額を控除する場合の控除の方法について。(その3) (最近の交通事故判例~平成20年から22年の最高裁判決を中心に(その11))

③検討

(1)保険法による解決
保険法
(請求権代位)
第25条  保険者は、保険給付を行ったときは、次に掲げる額のうちいずれか少ない額を限度として、保険事故による損害が生じたことにより被保険者が取得する債権(債務の不履行その他の理由により債権について生ずることのある損害をてん補する損害保険契約においては、当該債権を含む。以下この条において「被保険者債権」という。)について当然に被保険者に代位する。
1  当該保険者が行った保険給付の額
2  被保険者債権の額(前号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者債権の額から当該不足額を控除した残額)
2  前項の場合において、同項第一号に掲げる額がてん補損害額に不足するときは、被保険者は、被保険者債権のうち保険者が同項の規定により代位した部分を除いた部分について、当該代位に係る保険者の債権に先立って弁済を受ける権利を有する。
(強行規定)
第26条  第15条、第21条第1項若しくは第3項又は前2条の規定に反する特約で被保険者に不利なものは、無効とする。

(2)人身傷害保険の残された問題
・自賠責保険との関係(東京地方裁判所平成21年12月22日判決(平21(ワ)7992号外 【39】)


交通事故の加害者が被害者に賠償すべき人的損害の額の算定に当たり、被害者の父が締結していた自動車保険契約の人身傷害補償条項に基づき被害者が支払を受けた保険金の額を控除する場合の控除の方法について。(その2) (最近の交通事故判例~平成20年から22年の最高裁判決を中心に(その10))

②裁判経過

1審
神戸地姫路支判平成19年 2月21日交民 41巻5号1107頁

控訴審 
大阪高判 平成19年 9月20日 交民 41巻5号1139頁

総損害額-(総損害額×過失相殺)-自賠責保険 -既払保険金 -既払人傷保険金

上告審
最判平成20年10月7日判時2033号119頁

本件傷害保険金は,Xの父Aが訴外B保険会社との間で締結していた本件保険契約の本件傷害補償条項に基づいてXに支払われたものであるというのであるから,これをもってY1のXに対する損害賠償債務の履行と同視することはできない。
また,本件保険契約においては,本件保険契約に基づく保険金を支払った訴外B保険会社は同保険金を受領した者が他人に対して有する損害賠償請求権を取得する旨のいわゆる代位に関する約定があるというのであるから,
訴外B保険会社は,本件傷害保険金の支払によって,XのY1に対する本件損害賠償請求権の一部を代位取得する可能性があり,
訴外B保険会社が代位取得する限度でXは上記損害賠償請求権を失うことになるのであって,本件傷害保険金の支払によって直ちに本件傷害保険金の金額に相当する本件損害賠償請求権が消滅するということにはならない。
そして,原審が確定した前記事実関係からは,本件傷害補償条項を含めて本件保険契約の具体的内容等が明らかではないので,上記の代位の成否及びその範囲について確定することができず,訴外保険会社が本件傷害保険金の金額に相当する本件損害賠償請求権を当然に代位取得するものと認めることもできない
ところが,原審は,本件傷害補償条項を含む本件保険契約の具体的内容等について審理判断することなく,本件損害賠償請求権の額を算定するに当たり,Xの損害額からXの過失割合による減額をし,その残額から本件傷害保険金の金額を控除したものである。
しかも,Xは,原審において,本件傷害保険金のうちY1の過失割合に対応した金額に相当する本件損害賠償請求権を訴外B保険会社が代位取得する旨の合意がXと訴外B保険会社との間で成立している旨主張していることが記録上明らかであるが,原審は,この合意の有無及び効力についても何ら審理判断していない。

 交通事故の加害者が被害者に賠償すべき人的損害の額の算定に当たり、被害者の父が締結していた自動車保険契約の人身傷害補償条項に基づき被害者が支払を受けた保険金の額を控除する場合の控除の方法について。 (最近の交通事故判例~平成20年から22年の最高裁判決を中心に(その9))

①事案の概要

(1) 事故の概要と過失割合 損害額

  平成14年7月7日午前7時50分ころ,H県H市内の国道の交差点において,同交差点東側の横断歩道を北から南に向かって進行していたX(当時12歳)運転の自転車と,上記国道を西から東に向かって進行していたY1車とが衝突した。
本件事故におけるXとY1の過失割合は,いずれも5割。
本件事故により,Xは,脳挫傷,頭部打撲等の傷害を負い,入通院による治療を受けたが,平成15年5月27日,高次脳機能障害等の後遺障害を残して症状固定し,同後遺障害により労働能力を100%失った。
  Xに発生した弁護士費用を除く人的損害は1億7382万8332円
(治療費,将来の介護費,住宅改造費,逸失利益,慰謝料等の合計)
 
(2)任意保険(直接請求条項)

Y1とY2会社(任意保険会社)の間で,Y1がY1車によって第三者に加害を及ぼし損害を生じさせた場合に当該第三者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について,Y1と当該第三者との間で判決が確定し又は裁判上の和解若しくは書面による合意が成立したときに,当該第三者が直接Y2会社に上記金額の支払を請求することができる旨の約定を含む自動車保険契約を締結していた。

(3)人身傷害保険


Xの父Aは,本件事故当時,B保険会社との間で,Xも補償の対象者に含む人身傷害補償条項のある自動車保険契約を締結していた。
本件保険契約においては,本件保険契約に基づく保険金を受領した者が他人に損害賠償を請求することができる場合には,訴外保険会社は,その損害に対して支払った保険金の額の限度内で,上記の損害賠償に係る権利を取得する旨の約定がある。

(4)人身傷害保険の支払

Xは,本件傷害補償条項に基づき,訴外B保険会社から,本件事故によるXの人的損害について,567万5693円の本件傷害保険金の支払を受けた。


(5)自賠責保険の支払い

Xは,平成16年2月23日,自動車損害賠償責任保険から,本件事故の損害賠償として,3000万円の本件自賠責保険金の支払を受けた。



2011.02.26

AB共同して行っていた暴走行為車両の同乗者Bの被害事故について、暴走運転者Aの過失を被害者側の過失として、考慮することができるか(その4)。 (最近の交通事故判例~平成20年から22年の最高裁判決を中心に(その8))

③ 検討

(1)被害者側の過失論

被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる(民法722条2項)。
民法722条2項の被害者の過失には、 被害者本人の過失のみならず、被害者側の過失も含む(最高裁昭和34年11月26日判決判時206号14頁【34】)。

(2)被害者側の過失の従来の考え方
A 被害者と被用者・使用者の関係にある者である場合
  民法715条(使用者責任)の裏返しのような考え方
  使用者が加害者側にたった場合、被用者の過失について責任を負わされるのであるから、使用者が被害者側にたった場合も過失相殺においては、同様に被用者の過失について相応の負担をするのが公平であり、被用者の過失を被害者側の過失として斟酌するべき。

B 被害者と身分上ないしは生活上一体をなすと見られるような関係にある場合
ア 肯定判例
 ⅰ 夫婦 最判昭51年3月25日 民集30巻2号160頁 【35】
(夫の運転する自動車に同乗する妻が第三者と夫の過失の競合による交通事故で負傷した事例)
ⅱ 内縁の夫婦 最判平成19年4月24日判時 1970号54頁 【36】

イ 否定判例
ⅰ 職場の同僚 最判昭和56年2月17日 判時996号65頁【37】
 ⅱ 恋愛関係 最判平成9年9月9日 判時 1618号63頁 【38】

(3)最高平成20年7月4日判決の「被害者側の過失論」

ⅰ 従来の判例は、「財布は一つ」=「身分上、生活関係上、一体となすと見られるような関係」といえる場合に「被害者側の過失」を認めている。
ⅱ 本件では、ともに暴走行為を行った に過ぎず、「財布は一つ」とまではいえない。

本件での特殊事情   → 単なる同乗者ではない。
本件事故発生時点ではたまたまAが運転しておりBは同乗者にすぎないが、 B自身も、交代運転していた時間帯もあり、共同行為者とみれる事情があるといえそうである。

AB共同して行っていた暴走行為車両の同乗者Bの被害事故について、暴走運転者Aの過失を被害者側の過失として、考慮することができるか(その3)。 (最近の交通事故判例~平成20年から22年の最高裁判決を中心に(その7))

上告審 最高裁判所平成20年 7月4日判決4日判時2018号16頁

ⅰ AとBは,本件事故当日の午後9時ころから本件自動二輪車を交代で運転しながら共同して暴走行為を繰り返し,午後11時35分ころ,本件国道上で取締りに向かった本件パトカーから追跡され,いったんこれを逃れた後,午後11時49分ころ,Aが本件自動二輪車を運転して本件国道を走行中,本件駐車場内の本件小型パトカーを見付け,再度これから逃れるために制限速度を大きく超過して走行するとともに,一緒に暴走行為をしていた友人が捕まっていないか本件小型パトカーの様子をうかがおうとしてわき見をしたため,本件自動二輪車を停止させるために停車していた本件パトカーの発見が遅れ,本件事故が発生したというのである(以下,本件小型パトカーを見付けてからのAの運転行為を「本件運転行為」という。)。

ⅱ 以上のような本件運転行為に至る経過や本件運転行為の態様からすれば,本件運転行為は,BとAが共同して行っていた暴走行為から独立したAの単独行為とみることはできず,上記共同暴走行為の一環を成すものというべきである。
 したがって,上告人との関係で民法722条2項の過失相殺をするに当たっては,公平の見地に照らし,本件運転行為におけるAの過失もBの過失として考慮することができると解すべきである。

被害者側の過失論を採用?

AB共同して行っていた暴走行為車両の同乗者Bの被害事故について、暴走運転者Aの過失を被害者側の過失として、考慮することができるか(その1)。 (最近の交通事故判例~平成20年から22年の最高裁判決を中心に)(その5)

【16】最判平成20年7月4日判時2018号16頁
AB共同して行っていた暴走行為車両の同乗者Bの被害事故について、暴走運転者Aの過失を被害者側の過失として、考慮することができるか。


① 事案の概要

(1)  A及びBは,中学校時代の先輩と後輩の関係であり,平成13年8月13日午後9時ころから,友人ら約20名と共に,自動二輪車3台,乗用車数台に分乗して,集合,離散しながら,空吹かし,蛇行運転,低速走行等の暴走行為を繰り返した。Bは,ヘルメットを着用せずに,消音器を改造した本件自動二輪車にAと二人乗りし,交代で運転をしながら走行していた。
(2)  O警察K警察署のC警察官らは,付近の住民から暴走族が爆音を立てて暴走している旨の通報を受け,同日午後11時20分ころ,これを取り締まるためにC警察官が運転する本件パトカー及び他の警察官が運転する本件小型パトカーの2台で出動した。O県は,本件パトカーの運行供用者である。
(3)  C警察官は,本件国道を走行中,同日午後11時35分ころ,本件自動二輪車が対向車線を走行してくるのを発見し追跡したが,本件自動二輪車が転回して逃走したためこれを見失い,いったん本件国道に面した本件駐車場に入って本件パトカーを停車させた。また,本件小型パトカーも本件駐車場に入って停車していた。本件駐車場先の本件国道は片側1車線で,制限速度は時速40kmであった。
(4)  同日午後11時49分ころ,Aが運転しBが同乗した本件自動二輪車が本件国道を時速約40kmで走行してきたため,C警察官は,これを停止させる目的で,本件パトカーを本件国道上に中央線をまたぐ形で斜めに進出させ,本件自動二輪車が走行してくる車線を完全にふさいだ状態で停車させた。
 付近の道路は暗く,本件パトカーは前照灯及び尾灯をつけていたが,本件自動二輪車に遠くから発見されないように,赤色の警光灯はつけず,サイレンも鳴らしていなかった。
(5)  Aは,本件駐車場内に本件小型パトカーが停車しているのに気付き,時速約70~80kmに加速して本件駐車場前を通過し逃走しようとしたが,その際,友人が捕まっているのではないかと思い,本件小型パトカーの様子をうかがおうとしてわき見をしたため,前方に停車した本件パトカーを発見するのが遅れ,回避する間もなく,その側面に衝突した(以下「本件事故」という。)。
(6)  Bは,本件事故により頭がい骨骨折等の傷害を負い,同月14日午前1時13分ころ死亡した。

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