03 賃貸借

2019.05.06

新現代の借地・借家法務 第8回 定期建物賃貸借の裁判例概観(その6)

定期建物賃貸借にまつわる重要判例について、契約締結前説明と定期建物賃貸借条項(その1)、賃料不減額合意(その2)、中途解約禁止(その3)、終了通知(その4)、再契約(その5)などをご紹介してきました。今回も、引き続き、定期建物賃貸に関するものをご紹介します。今回は、普通建物賃貸借の定期建物賃貸借への切替えをテーマにして裁判例を紹介します。
定期建物賃貸借は、既に説明してきたとおり、期間満了による終了や家賃減額請求を合意により排除できるなど賃貸人にとって多くのメリットがあります。そこで、従前の更新型の契約を定期建物賃貸借に切替えできないのかとのご相談を受ける場合があります。

 

平成12年2月までの居住目的旧賃貸借からの切替え まず、改正借地借家法施行以前の建物賃貸借を定期建物賃貸借に切替えることはできるのでしょうか。改正借地借家法は、制定時に附則で、借地借家法改正による定期建物賃貸借の規定の施行前にされた居住の用に供する建物の賃貸借の当事者が、その賃貸借を合意により終了させ、引き続き新たに同一の建物を目的とする賃貸借をする場合には、当分の間、定期建物賃貸借の規定を適用しないとしています(良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法附則第3条)。改正法の施行は平成12年3月1日ですから、同年2月末日までに締結された居住用の普通借家契約を、定期借家契約に切替えることできないことになります。借地借家法改正に伴う経過措置において、定期借家契約の意味や法的効果を十分に理解しないまま切替えに応じてしまった賃借人が不利益を受ける危険を避けるという趣旨です。

 

新法施行後の居住目的普通建物賃貸借からの切替え では、改正後の普通建物賃貸借は、定期建物賃貸借に切替えることはできるでしょうか?
この点、前回再契約に関して紹介した東京地裁平成27年2月24日判決は、第2契約を普通建物賃貸借と認定していることから(第1契約は定期建物賃貸借)、第3契約で普通建物賃貸借を定期建物賃貸借に切替えようとした事案ともみることができます。この事案では、判決は、本件契約は、普通建物賃貸借である前賃貸借契約の期間満了に伴って合意されたものであるところ、更新に際し作成された契約書が、定期建物賃貸借に使用される契約書であり、その旨の説明書が交付されたとしても、そのことのみでは、前賃貸借契約の更新契約が定期建物賃貸借に変更されるものではないとしており、普通建物賃貸借を定期建物賃貸借に切替えることを認めなかった事案とみることができます。

 

事業用賃貸借の場合 改正借地借家法制定時の附則は、先に述べたように「居居住の用に供する建物の賃貸借」を定期建物賃貸借に切替えることを禁止していますが、「事業の用に供する」場合には、切り替えを禁止していないように読めます。しかし、第7回でご紹介した平成27年2月24日判決(REITO No101・114頁)の事案は、実は賃借人は賃借物件を調剤薬局として使っていた事案であり、事業の用に供する目的での賃貸借の事案でした。この裁判例では、事業の用に供する目的での賃貸借といえども、改正借地借家法施行前後を問わず、旧賃貸借契約終了時に事前説明と定期建物賃貸借の書式での新契約書を作成しただけでは、更新型の賃貸借契約を定期建物賃貸借に切替えることはできないとしたと考えられます。

 

どのような場合に切替えができるか そこで、どのような場合に旧借地借家法下の建物賃貸借契約や新法下での普通賃貸借契約を定期建物賃貸借契約に切替えることができるのでしょうか。
まず、旧借地借家法下の建物賃貸借契約については、居住用の建物賃貸借を現時点では、定期建物賃貸借に切替えることはできないことは、前述のとおりです。
これに対し、事業用建物賃貸借(改正前後を問わず)や改正借地借家法施行後の更新型建物賃貸借(居住用事業用を問わず)の場合、一定の要件を充たせば、定期建物賃貸借に切替える余地があると考えます。
この点、前述の平成27年2月24日判決が次のように述べている点が参考になります。すなわち、「第2契約は普通建物賃貸借契約であるから,借地借家法26条,28条により、約定の賃貸借期間が満了する1年前から6か月前までの間に更新しない旨の通知をし,当該通知に正当の事由があると認められる場合でなければ賃貸借が終了することはない」とし、また、「本件契約が定期建物賃貸借として契約されるためには、賃貸人である原告が、賃借人である被告会社に対し、普通建物賃貸借として更新された第3契約を終了させ、より不利益な内容となる定期建物賃貸借契約をすることの説明をしてその旨の認識をさせた上で合意することを要するものと解すべきである」としています。
この判決からは、私見ですが、定期建物賃貸借への切替えの要件は、①1年前から6ヶ月前の間に更新拒絶の通知、②正当事由、③定期建物賃貸借が従来の更新型の契約に比べ不利益であることの説明となると考えられます。

 

まとめ・実務的な対応方法 いったん更新型契約を締結している場合、定期建物賃貸借に切替えることは、難易度が高いと考えるべきでしょう。正当事由の存否の判断は弁護士に相談すべきと考えます。

 

新現代の借地・借家法務第7回(定期建物賃貸借の裁判例概観(その5))

定期建物賃貸借にまつわる重要判例について、契約締結前説明、定期建物賃貸借条項、賃料不減額合意、中途解約禁止、終了通知などをご紹介してきました。今回も、引き続き、定期建物賃貸に関するものをご紹介します。今回は、再契約をテーマにします。
定期建物賃貸借では、再契約をする例を頻繁に見かけます。また、「再契約を妨げない」のような再契約条項を入れている場合もあります。
この再契約によっても定期建物賃貸借性は維持されるのでしょうか。更新型の賃貸借でも更新の都度契約書を締結し直す例も多く、再契約と区別つきにくいように思いわれます。では、再契約により、定期建物賃貸借でのは失われ、更新型の契約になってしまうのでしょうか。もしそうなると期間来ても正当事由が認められない限り、賃貸借は終了しないことになってしまいます。

 

再契約に関する裁判例 借地借家法は、再契約の可否について直接の規定はありません。また、今のところ(令和元年5月6日現在)最高裁判所の判例は見当たりません。
この点について、東京地方裁判所平成27年2月24日の判決(REITO No101・114頁)は、第一契約締結の際に、定期建物賃貸借の事前説明をした上で定期建物賃貸借を内容とする契約を締結したものの、賃貸人は「賃借の状況がよければ、契約を更新する」としていた事案で、契約期間終了前には、賃貸人は終了通知をしつつ、「再契約の意思があれば連絡してほしい」としたが、漫然と時間経過し、契約期間終了後3年ほど経過してから、「定期建物賃貸借契約」の再契約をした事案では、最初の契約終了から「定期建物賃貸借」の再契約をするまでの間を普通建物賃貸借とみた上で、再契約後も普通建物賃貸借とみています。

 

これに対し、東京地方裁判所平成21年7月28日判決は、定期建物賃貸借の事前説明の上、定期建物賃貸借契約を内容とする契約を締結する際に、「再契約可能である」との文言をいれた事案につき、「本件賃貸借契約を,契約の更新がない旨の合意がない状態で締結する意思を有していなかったこと」は,明らかであるとしたうえで、「本件再契約の記載と本件合意の存在とは矛盾するものではないこと」を認めて、再契約条項があっても、定期建物賃貸借性は失われないものとしています。

 

この二つの裁判例は、平成27年判決は「更新する」との文言であったのに対し、平成21年判決は「再契約」としていること、平成27年判決の事案では、賃貸借期間終了後、漫然と経過しており、定期建物賃貸借期間終了時の終了通知がない状態となっていた後に、定期建物賃貸借契約書による再契約をしていることなどが異なります。

 

これらの判決をみると、裁判所も定期建物賃貸借の再契約自体は、それによって、すべて更新型の普通建物賃貸借になるとはみていないが(平成21年判決)、再契約の手続が適切に行われていない場合には、普通建物賃貸借となるとみている(平成27年判決)ものと考えられます。なお、平成27年判決では、契約段階で「更新する」としていたことも期間満了後の契約に定期建物賃貸借性を失わせる要素の一つになったのではないかと推察しています。

 

再契約の手続 以上のとおり、裁判例を踏まえて考えると、定期建物賃貸借契約において、契約書に「再契約できる」といれるだけであり、また「再契約」をすること自体は、定期建物賃貸借性を失わせることにはならないといえます。
ただ、再契約の手続きが不十分であると、定期建物賃貸借性を失わせることになります。
定期建物賃貸借性を維持するためには、賃貸借期間終了後、漫然と経過してから再契約するのではなく、終了通知をだすべき1年前から6ヶ月前の間に、再契約の意思を確認し、契約終了前までに、再契約をするべきと考えます。また、その場合、定期建物賃貸借締結の要件である事前説明と書面による契約は、必須といえます。

 

原状回復をどうするか
なお、定期建物賃貸借を再契約した場合、再契約後の賃貸借期間終了時に生じる賃借人の原状回復の範囲について、契約時点の状態に戻すことを原状回復としてしまうと、最初の契約締結時点での原状とは異なる(最初の契約期間中に設置した什器等存在している状態となる)ことから、原状回復の範囲が問題になることが懸念されます。そこで、再契約前に、当初の定期建物賃貸借契約締結にもとづく原状回復すべき部分の範囲を確認し、その義務が再契約後も存続することが確認できるよう合意に工夫する必要があります。

 

まとめ・実務的な対応方法
定期建物賃貸借を選ぶ賃貸人としては、一定期間終了後かならず出て欲しいという考えと、しかし、出たあと空き室になっては困るという懸念と双方をお持ちと思います。「再契約」によって、一見、後者の懸念を回避できるように思いますが、契約文言の選択は慎重にすべきであり、また、再契約の手続きに疑念ないようにしておく必要があります。契約文言が不十分であったり手続きが不足していた場合には、契約書上「定期建物賃貸借」とされていても、普通建物賃貸借とされてしまう可能性が高いことは、忘れないようにしていただきたいと思います。

 

2018.11.05

新現代の借地・借家法務( 第6回 定期建物賃貸借の裁判例概観 その4)


定期建物賃貸借にまつわる重要判例について、今回は、終了通知に関する判例を紹介したいと思います。
 
終了通知に関する規定
借地借家法は、契約期間の終了により、賃貸借が終了して、賃借人に対して、賃貸物件の返還を無条件で求めることのできる「定期建物賃貸借」の制度を設けています。平成12年3月1日から施行されていますので、そろそろ施行20年が近づいています。さて、定期建物賃貸借において、約束どおり、期間満了で終了するためには、一定の手続きを要します。それが、「終了通知」となります。法律は、次のように規定しています。「建物の賃貸人は、期間の満了の一年前から六月前までの間(以下この項において「通知期間」という。)に建物の賃借人に対し期間の満了により建物の賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を建物の賃借人に対抗することができない。ただし、建物の賃貸人が通知期間の経過後建物の賃借人に対しその旨の通知をした場合においては、その通知の日から六月を経過した後は、この限りでない。」
定期建物賃貸借を締結した以上、契約期間満了で賃借人に明渡していただかないとその意味はありません。しかし、そのためには、契約終了前、1年から6ヶ月までの間に「定期建物賃貸借ですので、契約とおり、●年●月●日に終了します。」との通知をしておく必要があるということになります。

終了通知をしない場合にどうなるか
そこで、終了通知を失念した場合に、契約期間終了後の賃貸人と賃借人との関係はどうなるでしょうか。条文は、「対抗できない」とあります。また、「通知期間(終了半年前まで)の経過後に」通知(期限後通知)をした場合は「通知の日から六ヶ月を経過した後」は、対抗できるものとしています。しかし、借地借家法の条文には、漫然と賃貸借期間経過してしまい、期限後通知もしていなかった場合の関係について明示していません。
そのため、定期建物賃貸借契約終了後に、賃借人は建物の使用収益を継続し、従前と同様の賃料を支払っているのだから、新たな賃貸借契約が成立しているといえないのかが問題となります。
この点、東京地裁平成20年12月24日判決は、平成20年6月9日までを賃貸借期間とする定期建物賃貸借において(通知期間は、平成19年12月9日まで)、終了通知が、期間後の平成20年6月12日に到達したという事案につき、同日から6ヶ月経過後の平成20年12月12日に当該定期建物賃貸借が終了すると判断し、明渡を認めています。
また、東京地裁平成21年3月19日判決も、借地借家法38条4項の終了通知を賃貸人が期間満了までに行わなかった場合、定期建物賃貸借契約は期間満了によって確定的に終了するが、賃借人に終了通知がされてから6か月後までは、賃貸人は賃借人に対して定期建物賃貸借契約の終了を対抗することができないため、賃借人は明渡しを猶予されると解するのが相当であるとしたうえで、終了通知から6か月が経過した後の契約終了と明渡しを認めています。なお、この判決は、契約期間終了後、賃貸人が、長期間放置している場合のように、賃借人の地位が不安定になる場合について、「黙示的に新たな普通建物賃貸借契約が締結されたものと解し,あるいは法の潜脱の趣旨が明らかな場合には,一般条項を適用するなどの方法で,統一的に対応するのが相当というべきである。」として、終了通知を何時しても良いとはしていない点も注目されます。

まとめ・実務的な対応方法
以上の裁判例を踏まえて考えると、定期建物賃貸借契約において、期間満了後に終了通知をした場合は、短期間の遅れの場合には、終了通知から6ヶ月後の契約終了が認められるものの、漫然と長期間放置し、その間、賃借人が建物の使用収益を継続し、従前と同様の賃料を支払っている場合には、新たな賃貸借契約が成立しているとされる可能性があるということになります。
建物を定期建物賃貸借契約で賃貸する場合、契約終了で明け渡して欲しいと考えてのことと思います。しかし、終了通知の時期を誤ってしまうと、係争となり、あまりに長期間漫然と賃借人に使用収益させ、また、家賃収受していた場合には、せっかくの定期建物賃貸借であったのに、普通建物賃貸借とされる余地があるということになります(今のところずばり普通建物賃貸借として明渡を否定した裁判例はないと思いますが)。
建物オーナーの方々は、借地借家法の原則を守り、1年前から6ヶ月前までの終了通知を厳守していただくことが、もっとも安全であろうと存じます。万が一にも、終了通知期間を経過している事案や、契約期間終了してしまっている事案については、早急に弁護士にご相談いただくことがベターです。


新現代の借地・借家法務( 第5回 定期建物賃貸借の裁判例概観 その3)

定期建物賃貸借にまつわる重要判例、今回は、中途解約禁止合意に関する判例を紹介したいと思います。
 
借地借家法の中途解約に関する規定
賃貸借契約において、賃借人からの中途解約を禁止または制限する例は頻繁にみられるところです。賃貸人からすると、中途解約による空き室の発生は、賃貸経営で生じるリスクとしてはインパクトもあり、銀行借り入れをして家賃で返済している場合には、返済に影響がでてくる事態でもあります。できるだけ回避したいと考える方が多いと思います。しかしながら、借地借家法38条5項は、次のように、小規模な住宅の提起建物賃貸借契約においては、賃借人からの中途解約を制限する合意には規制をし、賃借人にやむを得ない事情がある場合に賃借人から中途解約の申入れをすることができ、中途解約の申し入れかの日から、1ヶ月の経過で、その定期建物賃貸借は終了するものとしています。
「第一項の規定による居住の用に供する建物の賃貸借(床面積(建物の一部分を賃貸借の目的とする場合にあっては、当該一部分の床面積)が二百平方メートル未満の建物に係るものに限る。)において、転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から一月を経過することによって終了する。」
そして、同条6項は、この規定に反する特約で、賃借人に不利な内容、たとえば、中途解約は一切許さないとか、中途解約申入れから6ヶ月後に賃貸借が終了する等の特約は、無効としています。
 すなわち、「前二項の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。」としています。
中途解約に関する判例
 中途解約に関しては、次の東京地方裁判所平成20年9月25日判決が参考になります。この判決の事案では、賃貸人(原告・法人)と賃借人(被告・個人)では、賃貸人の17㎡のワンルームマンションについて、賃借人居住の目的で、2年間の定期建物賃貸借を締結しましたが、契約書には、「中途解約の場合、契約期間の残金を支払った場合に限り,解約できる。契約期間残金を支払わない場合中途解約は事由の如何を問わず一切主張できない。」との規定がありました。
賃借人は、契約直後から、賃料の延滞があったようであり、賃貸人は催促を重ねましたが、支払いはなく、契約後2ヶ月ほど経過してから、賃借人から「本件物件は既に退去した,賃料等は支払えない」との連絡がありました。そこで、賃貸人は、賃借人に対し、経過期間の未払い賃料と契約終了までの賃料のトータル2年分の賃料の請求をしました。
しかしながら、裁判所は、「退去した」との通知から1ヶ月分までの家賃については認めましたが、その後の家賃については、次のように述べて否定しました。「賃借人である被告において中途解約ができない旨の規定や契約期間の残金を支払った場合に限り中途解約ができ,契約期間残金を支払わない場合の中途解約は事由の如何を問わず一切主張できない旨の規定が置かれているところ,これらは,いずれも借地借家法38条5項の規定に反する建物の賃借人に不利なものであるから,無効といわなければならない。」
 「原告は,これらの規定を無効とすることは契約自由の原則等に反する旨を主張するが,借地借家法38条6項によれば同条5項はいわゆる片面的強行規定であると解され,原告の主張は理由がない。」
まとめ・実務的な対応方法
200㎡未満の住宅について定期建物賃貸借契約に賃借金からの中途解約に関する条項をいれる場合、借地借家法38条5項に沿った、「転勤、療養、親族の介護その他のやむを得ない事情により、建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったとき」に中途解約でいるものとし、解約申入れから1年で終了するとの合意内容としておくことが必要です。
中途解約条項についても、普通建物賃貸借では、これを禁止する条項が入っていることが多いことから、いままで使っていた普通建物賃貸借契約ひな形を定期建物賃貸借になおして使うような場合には注意が必要です。
なお、以上の規制は、200㎡未満の居住を目的とする定期建物賃貸借に限定されますので、200㎡以上の定期建物賃貸借であれば、居住を目的としていても、該当しません。また、事業用の賃貸借については、その面積の広狭を問わず適用がありません。その場合でも、解約後期間の賃料等の支払いを解約の条件とした場合に、損害額として相当か、また、賃借人が個人の場合に消費者契約法9条1号の「平均的な損害の額を超えるもの」として超過部分が無効とならないかなどの検討は別途必要です。

2018.11.04

新現代の借地・借家法務 (第4回 定期建物賃貸借の裁判例概観 その2)

定期建物賃貸借にまつわる重要判例、前回は、定期建物賃貸借契約締結前説明に関するもの、定期建物賃貸借条項に関するものをご紹介しました。これに引き続き、今回は、賃料不減額合意に関する判例を紹介したいと思います。
 
借地借家法32条は、賃料の増減請求について規定をしており、賃料が租税その他の負担の増減、土地・建物の価格の上昇または低下、その他の経済事情の変動や近傍同種建物の借賃に比較して不相当の場合に、当事者が増減請求できるものとしており(同条1項)、賃料を増額しない特約は有効ですが、減額しない特約をしても、上記の各変動要素が認められる場合には、減額が認められる結果となってしまいます。新規にアパートなどの賃貸用物件を建築する際に、銀行から融資を受けている場合を考えると、賃料額が減額されたのでは、支払いが困難になってしまいます。これに対し、定期建物賃貸借契約の場合には、賃料改定に関する特約がある場合には借地借家法32条の規定を適用しないものとしており(同法38条7項)、減額しない合意や、スライド増額する合意なども可能となっています。
どのような合意をすれば良いか
  そこで、定期建物賃貸借契約を締結したうえ、賃料減額請求をふせぎたいと考えた場合に、どのような合意をすれば、よいのかが問題となります。
この点、定期建物賃貸借契約を締結し、「賃料の改定は行わないこととし、借地借家法32条の適用はないものとする」との条項を定めたにも関わらず「協議のうえ、●年●月●日に賃料を改定することができる」と相矛盾する定めをした特約があった場合、このように協議により賃料を改定することができるとの特約は、「賃料の改定は行わないこととし、借地借家法32条の適用はない」との定めを排除する趣旨と解するのが相当として、同法38条7項によることはできず、同法32条の適用があるとした例があることが注目されます(東京地方裁判所平成21年6月1日)。
この判決では、「定期建物賃貸借は、平成11年の借地借家法改正において、建物賃貸借における私的自治ないし契約自由の原則尊重という基本的立場から、一定の要件の下に期間の満了により終了する(契約の更新のない)類型 の建物賃貸借として導入された制度である。そして、法38条7項は、上記の基本的立場に立脚して導入された定期建物賃貸借における家賃の改定に関しても、当事者の合意を優先させることにより家賃の改定をめぐる紛争ないしこれに伴う訴訟を回避することを可能とする趣旨で設けられたものであるところ、その趣旨に かんがみれば、借賃改定特約は、家賃額を客観的かつ一義的に決定する合意であって、経済事情の変動等に 即応した家賃改定の実現を目的とした借賃増減額請求権の排除を是認し得るだけの明確さを備えたものでなければならないと解するのが相当である。」としています。
そして、同項に該当する合意の例として、「『賃貸借期間中家賃の改定を行わない』旨の不改定特約、『一定の期間経過ごとに一定の割合で家賃を増額あるいは減額する』旨ないし『一定の期間経過ごとに特定の指標(例えば、消費者物価指数)の変動率に従って家賃を改定する』旨の自動改定特約」について、「借賃改定特約に該当する」としています。
これに対し、協議改定条項については、「家賃額の決定に関する外形的方法を定めるにすぎず、改定後の家賃額を客観的かつ一義的に決定するものとはいえないから、上記のような法38条7項の趣旨に照らし、借賃改定特約には該当しない」としています。そして、不改定条項と協議改定条項が両方入っている事案について、不明確さを欠くことから、不改定条項につき効力を否定しています。
なお、「単なる『法32条の適用はない』ないし『法32条の適用を排除する』旨の合意のみでは借地借家法38条7項の「借賃改定特約に該当するものでない」と明示していることにも着目すべきです。
まとめ・実務的な対応方法
まず、借地借家法38条の定期建物賃貸借成立要件(前回お話した事前説明と書面による契約)が必要です。
そして、不改定特約や自動改定特約が「借賃改定特約に該当する」としていますので、これにより、賃料減額請求を排除することができます。但し、協議改定条項をいれてしまうと、賃料減額請求を排除できなくなりますので注意を要します。市販の契約書用紙などには協議改定条項がはいっていますので、これに特約として定期建物賃貸借条項や借賃改定特約をいれても、賃料減額請求を排除できないので注意を要します。
契約書については管理依頼先に任せていることが多いと思いますが、契約締結時までに十分にチェックいただくようお勧めします。

2018.06.28

新現代の借地・借家法務第(3回 定期建物賃貸借の裁判例概観(その1))

新現代の借地・借家法務の第3回からは、定期建物賃貸借の裁判例を概観します。

賃貸事業をする場合に、定期建物賃貸借による例もみられるところです。定期建物賃貸借の家主にとってのメリットとしては、①契約の更新がなく、それに関連して、②立退料が要らない、③ 賃料減額請求権の排除などがありますが、手続としては、ア 契約書の作成、イ 事前説明の必要、ウ 終了通知の必要などの要件があり、これらを見過ごすと普通建物賃貸借となってしまったり、期間満了時に明渡ができなかったりしますので注意を要します。
定期建物賃貸借契約締結前説明に関する判例
定期建物賃貸借契約締結前には、事前説明文書を交付して、締結する契約が定期建物賃貸借であることを説明する必要があります。そして、賃貸借契約書とは別の独立した書面として作成する必要があります。
この点、契約書原案を事前に交付している場合があり、これで事前説明書面といえないかが問題となった事案がありました。一見、事前説明書面に代替できないかと思うとろですが、最高裁判所はこれを明確に否定しています(最判平成24年9月13日民集66巻9号3263頁 このブログでも紹介の最判平成22年7月16日集民234号307頁・判例時報2094号58頁・判例タイムズ1333号111頁も参照してください。)。
また、交付したことの証明方法として、契約書の中に条文を設け、「この契約が定期建物賃貸借であり、契約の更新がなく、期間満了で明け渡すべきことについて、説明書面を交付して説明した」との条文を設け、これで立証しようとする例もありますが、この点についても、最高裁判所は、立証方法としては不十分であるとしています(最判平成22年7月16日集民234号307頁)。この事案では、定期建物賃貸借契約をあえて公正証書としたうえで、契約条項に前述のような記述をいれたのですが、最高裁判所は、証拠として不足としました。賃借人に交付する事前説明文書のコピーをとり、原本は賃借人に交付し、コピーに「この事前説明文書を受け取り、説明を受けました。」という趣旨の記載を入れた書面に賃借人の署名捺印をもらい、その原本を保管するなど、立証方法に工夫が必要でしょう。
そして、説明も賃借人となろうとする者が理解できるように丁寧にする必要があります。この点、下級審判決ですが、東京地判平成24年3月23日判例時報2152号52頁は、賃貸借契約の締結に際し、説明書面は交付されているものの、その記載には誤記や不明確な点がある上、担当者の説明は契約条項の読み上げ程度にとどまり、被告らにおいて定期建物賃貸借契約という制度の概要を正しく理解することができる程度の説明がされていたとは認められないとして、定期建物賃貸借にはあたらない(普通建物賃貸借となる)としていますので、注意を要します。

定期建物賃貸借契約条項に関する判例
 定期建物賃貸借は、書面で契約することを要するとされており、その契約書に記載する文言は趣旨が明確でなければならず、特に「契約の更新がないこと」について、他の文言との矛盾があると、無効とされることがあります。当職は、実際に、定期建物賃貸借契約としながら、更新料条項のある賃貸借契約書を拝見したことがあり、普通建物賃貸借として取り扱う他はありませんでした。この点、下級審判決にはなりますが、東京地判平成20年6月20日ウエストローは、契約書に賃料減額請求をしない文言があるものの、契約更新条項を設けており、定期建物賃貸借性を否定し、賃料の減額を認めています。定期借家契約を締結する際の契約書には、各種ひな形が用いらることが多いと思いますが、適切なひな形を事前に用意し、これを使えば、このような矛盾がでてくる心配は比較的少ないと思われます。ひな形といっても、普通建物賃貸借契約のひな形を用いて、特約に定期建物賃貸借となるよう、更新がない等の条項をいれるような場合、矛盾する条項が生じている可能性が大といえます。家主さんとしては、おおいに注意をしていただきたい部分です。
実務的な対応方法
 定期建物賃貸借締結時の注意点としては、事前説明と書面契約の2点に尽きますが、実際にはこれが不十分なために、いざ契約期間が満了して明渡を求めようというときになり、定期建物賃貸借性を否定され、思わぬ結果になっていることがあります。契約締結にあたって、宅地建物取引業者に依頼することも多いと思いますが、この類型の契約に十分に経験のある(既に法が施行されて15年を経過しています)業者に依頼する必要があろうと思います。ご自分で契約をするという場合は、弁護士など専門家への相談をしていただくことがベターです。

2018.02.11

定期建物賃貸借の事前説明書面

最判平成22年7月16日集民234号307頁・判例時報2094号58頁・判例タイムズ1333号111頁

判例要旨
賃貸人が定期建物賃貸借契約の締結に先立ち説明書面の交付があったことにつき主張立証をしていないに等しいにもかかわらず、賃貸借契約に係る公正証書に説明書面の交付があったことを相互に確認する旨の条項があり、賃借人において上記公正証書の内容を承認していることのみから、借地借家法38条2項において賃貸借契約の締結に先立ち契約書とは別に交付するものとされている説明書面の交付があったとした原審の認定には、経験則又は採証法則に反する違法がある。


認定事実

  (1) 被上告人は,平成15年10月29日,上告人との間で,「定期賃貸借建物契約書」と題する契約書を取り交わし,期間を同年11月16日から平成18年3月31日まで,賃料を月額20万円として,本件建物部分につき賃貸借契約(以下「本件賃貸借」という。)を締結した。

  (2) 本件賃貸借について,平成15年10月31日,定期建物賃貸借契約公正証書(以下「本件公正証書」という。)が作成された。本件公正証書には,被上告人が,上告人に対し,本件賃貸借は契約の更新がなく,期間の満了により終了することについて,あらかじめ,その旨記載した書面を交付して説明したことを相互に確認する旨の条項があり,その末尾には,公証人役場において本件公正証書を作成し,被上告人代表者及び上告人に閲覧させたところ,各自これを承認した旨の記載がある。

  (3) 被上告人は,期間の満了から約11か月を経過した平成19年2月20日,上告人に対し,本件賃貸借は期間の満了により終了した旨の通知をした。

判旨

 前記事実関係によれば,本件公正証書には,説明書面の交付があったことを確認する旨の条項があり,上告人において本件公正証書の内容を承認した旨の記載もある。しかし,記録によれば,現実に説明書面の交付があったことをうかがわせる証拠は,本件公正証書以外,何ら提出されていないし,被上告人は,本件賃貸借の締結に先立ち説明書面の交付があったことについて,具体的な主張をせず,単に,上告人において,本件賃貸借の締結時に,本件賃貸借が定期建物賃貸借であり,契約の更新がなく,期間の満了により終了することにつき説明を受け,また,本件公正証書作成時にも,公証人から本件公正証書を読み聞かされ,本件公正証書を閲覧することによって,上記と同様の説明を受けているから,法38条2項所定の説明義務は履行されたといえる旨の主張をするにとどまる。
 これらの事情に照らすと,被上告人は,本件賃貸借の締結に先立ち説明書面の交付があったことにつき主張立証をしていないに等しく,それにもかかわらず,単に,本件公正証書に上記条項があり,上告人において本件公正証書の内容を承認していることのみから,法38条2項において賃貸借契約の締結に先立ち契約書とは別に交付するものとされている説明書面の交付があったとした原審の認定は,経験則又は採証法則に反するものといわざるを得ない。
(破棄差戻)


新現代借地・借家法務(第2回 サブリースと契約の解除)

第1回では、賃料増減についてお話し、サブリースの場合の問題点にふれました。第2回及は、サブリースに関連し、賃貸借契約が解除された場合のサブリース契約の帰趨についてお話したいと思います。

転貸借についての法律関係
民法は、賃貸人に無断で、賃借人が転貸をすることを禁止していますが、賃貸人が承諾する場合には、転貸することができます。家賃保証等との説明の場合、転貸をしていることが多いと思います。この場合は、賃貸人(大家さん)と賃借人(転貸業者)との間の賃貸借契約(以下では単に「賃貸借契約」といいます。)、賃借人(転貸業者)と転借人(入居者)との間の賃貸借契約(以下では「サブリース契約」といいます。)の二つの賃貸借契約が存在することになります。サブリース契約は、賃貸借契約を前提としていますので、賃貸借契約が存在しない場合には、前提がなくなり、同様に存在しないことになるはずです。しかし、実際には、転借人保護の観点からそう単純な結論とはなりません。 

賃貸借契約合意解除とサブリース契約
まず、賃貸借契約について、賃貸人と賃借人(転貸業者)との間で、合意解除してもその効力は、転借人(入居者)には対抗できないとされています。この場合の法律関係ですが、判例の考え方などからは、賃借人(転貸業者)との間のサブリース契約の賃貸人の地位が賃貸人に引き継がれるとするのが妥当と思われます。
そうすると、たとえば賃借人(転貸業者)が、倒産するなどして、転借人(入居者)に対する賃料請求権が賃借人(転貸業者)の債権者(銀行など)に差し押さえられた場合、差押さえ後に合意解約してもその地位を債権者に対抗できないし、差押さえ前に合意解約した場合も賃借人(転貸業者)のサブリース契約上の地位を承継したとして、内容証明郵便などで通知をして、転貸業者の債権者に対抗できるようにする必要があります。
賃貸借契約債務不履行解除とサブリース契約
ついで、賃借人(転貸業者)が賃料を支払わない等の場合ですが、まず、賃貸人は、転借人(入居者)に直接に賃料の支払いを請求できます。更に、賃料の支払いがないことは、債務不履行に該当しますので、賃借人(転貸業者)との賃貸借契約を解除することも考えられます。この場合には、合意解除の場合と異なり、転借人(入居者)のサブリース契約上の地位も前提となる賃貸借契約が債務不履行に基づき解除され、存在しなくなりますので、サブリース契約も消滅し、転借人(入居者)は明け渡しをせざるをえないことになります。

賃貸借契約正当事由による更新拒絶とサブリース

ついで、建物が老朽化等の場合に、賃貸借契約を更新拒絶により終了させたい場合があります。この場合、賃貸借契約の終了について、正当事由が必要となり、また、契約期間の6ヶ月前までの更新拒絶の意思表示等の手続きも必要となります。この場合、転借人(入居者)の建物の使用の継続を建物の賃借人がする建物の使用の継続とみなして転借人(入居者)との間での正当事由も必要となります。また、正当事由が存在する場合でも、転借人(入居者)に対する賃借人にするとは別の通知が必要であり、通知をしてから6ヶ月経過していることが転貸借終了の要件となります。

賃借人の賃貸借契約中途解除・更新拒絶とサブリース契約
最後に、賃借人(転貸業者)からの、中途解除(契約書中にある中途解除や契約期間が長い場合の事情変更による等理由付けは様々です。)や、期間満了の場合の更新拒絶の場合のサブリース契約の帰趨を考えたいと思います。
賃貸人としては、中途解除により家賃が入らなくなるのが最も困惑する事態であり、建物建築費用について銀行借入れなどをしている場合には、その返済をどうするかを考える必要も出てきます。
このような事案では、まず、中途解除が可能な事案かを十分に検討する必要があります。中途解除文言について、当初の説明と異なるのではないか、事情変更を言う場合にも契約当初の状況との経済事情等の変更が本当にあるのかどうか等を検討し、中途解除や更新拒絶が権利濫用にあたらないか、事情変更を否定できないかなどを考えます。
賃借人からの中途解除や更新拒絶が認められた場合でも、合意解除の場合と同様その効果は、転借人(入居者)には対抗できないと考えられます。中途解除の場合と同様に、賃借人(転貸業者)との間のサブリース契約の賃貸人の地位が賃貸人に引き継がれることになると思われます。したがって、この場合にも、賃借に(転貸業者)に対する内容証明等による通知をしたうえで、以後は、直接の契約関係にもとづき、家賃収受をしていくべきです。

実務的な対応方法
サブリース業者と賃貸借契約を締結している場合、合意解除の場合とサブリース業者からの中途解除もしくは更新拒絶の場合が問題が大きいと思われます。
まず、いずれの場合においても、終了通知を転借人(入居者)に内容証明郵便等でしていない場合に、家賃の差押さえをしようとするサブリース業者の債権者に対抗できないとの問題があり注意を要します。
加えて、その後の賃貸物件の賃貸管理をどうしていくかを考える必要があり、サブリース業者に代わり、賃貸管理をできる業者を選定することがベターな場合が多いと思います。
このような複雑な権利関係となり、諸手続きも必要となることから、なるべく早い段階で弁護士に相談するべきと考えます。 

新現代の借地・借家法務(第1回 賃料増減請求とサブリース)

本年も昨年に引き続き、現代の借地・借家法務について、ご紹介していきたいと思います。第1回は、賃貸物件オーナーの皆様にとって切実な問題と思われる賃料増減請求について、判例の動向をご紹介します。

賃料増減についての法制度
借地借家法32条1項は次の場合に賃料増減が請求できるとしています。建物の家賃が、①ⅰ土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減、ⅱ土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下、ⅲその他の経済事情の変動 ②近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となった場合を家賃増減の要件としており、手続きとしては、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができます。
 なお、家賃増減の請求をしても協議が整わない場合、いきなり訴訟をするのではなく、調停前置といいまして、まず、調停をするとの手続とされています(民事調停法24条の2、)。
 そして、家賃の増減請求があった場合、当事者間に協議が整うか、裁判の確定で家賃が明確にされるまでの間、増減請求を受けた相手方は、相当と認める家賃を当面の家賃としておき、後に裁判が確定するなどして、新家賃が発生した場合に、増額のときは、賃借人が差額とこれに対する年1割の割合による利息金を支払うものとし、減額の場合も同様、賃貸人が差額とこれに対する1割の割合による金利を返還するものとされています。

 
賃料設定時の特殊事情の考慮
では、単純に経済一般が好況であったり不況であったりしたために、これらの経済一般の事情の変動や近隣の土地建物の価格の変動のみが増減の考慮要素なのでしょうか。この点、判例は、当事者が賃料額決定の要素とした事情その他諸般の事情を総合的に考慮すべきであり、賃料額が決定されるに至った経緯、約定賃料額と当時の近傍同種の建物の賃料相場との関係、賃借人の支予測にかかわる事情、預かり敷金の額や、融資を受けた建築資金の返済の予定にかかわる事情等をも考慮すべきとしています。

サブリースの場合の増減請求
 ところで、以上のような賃料増減請求についての考え方は、サブリースについても妥当するのでしょうか。
 サブリース型の契約では、最低賃料保証や賃料自動増額特約が合意されていることが多く、賃貸人は、これらの合意を前提にして、銀行融資を受け、賃貸物件を建築し、サブリース事業者の設定した内容で不動産賃貸事業を実施していることから、安易に家賃減額が認められるとすると、事業収支に大きく影響が出てしまい、銀行融資の返済も困難になるなどの問題もあるところです。
この点、かつては、サブリース型の契約については、賃貸借契約ではなく共同事業の契約であるなどとして、借地借家法の適用はないものとする考え方もありましたが、現段階では、判例は、「不動産賃貸業等を営む甲が、乙が建築した建物で転貸事業を行うため、乙との間であらかじめ賃料額、その改定等についての協議を調え、その結果に基づき、乙からその建物を一括して賃料自動増額特約等の約定の下に賃借することを内容とする契約(いわゆるサブリース契約)についても、借地借家法32条1項の規定が適用される」としており、サブリース型の契約であっても、賃貸借契約であるとみたうえで、借地借家法の適用があるものとして、増減請求が認められるとしています。
 最低賃料保証や賃料自動増額特約についても、判例は、賃料自動増額特約について、「本件契約には本件賃料自動増額特約が存するが、借地借家法32条1項の規定は、強行法規であって、本件賃料自動増額特約によってもその適用を排除することができないものであるから、本件契約の当事者は、本件賃料自動増額特約が存するとしても、そのことにより直ちに上記規定に基づく賃料増減額請求権の行使が妨げられるものではない」として、自動増額特約があっても減額請求を妨げないものとしており、最低家賃保証についても同様に考えられます。

実務的な対応方法
 賃貸物件のオーナーとしては、転貸人から賃料の減額請求をされたのでは収支が狂い大きな問題となります。賃料自動増額特約や最低家賃保証については、定期建物賃貸借ではその効力が認められます。すなわち、借地借家法38条7項は、第32条の規定は、第1項の規定による建物の賃貸借(定期建物賃貸借)において、借賃の改定に係る特約がある場合には、適用しないとしています。そこで、定期建物賃貸借を使うということも一案と思われます。
 賃料増減請求の案件は、さほどに難しい問題を含んでいます。実際に増額・減額請求に直面した場合、専門家に相談するなどして、慎重に対応すべきでしょう。

2016.02.07

民法(債権法)改正案を考慮した不動産賃貸借契約書

建物賃貸借契約書も作成してみました。
建物賃貸借契約書については、国土交通省http://www.mlit.go.jp/index.htmlの賃貸住宅標準契約書http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000019.htmlというものがあり、これを参考にしました。

【改訂】
改正民法も平成32年4月1日の施行がきまりました。
私の改正案を考慮した不動産賃借契約書を改訂しました。

「新民法を考慮した不動産賃貸契約書」をダウンロード

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