23気になる判例平成23年

2012.12.31

違法建築の請負契約を公序良俗違反無効とした例(最判平成23年12月16日)

最判平成23年12月16日判時 2139号3頁

平成22年(受)第2324号 請負代金請求本訴,損害賠償等請求反訴事件(破棄差戻し)

建築基準法,同法施行令及び東京都建築安全条例(昭和25年東京都条例第89号)に定められた耐火構造に関する規制,北側斜線制限,日影規制,建ぺい率制限,容積率制限,避難通路の幅員制限等に違反する違法建物の建築を目的とする請負契約が公序良俗に反し無効とされた。


「本件建築計画は,確認済証や検査済証を詐取して違法建物の建築を実現するという,大胆で,極めて悪質なものである。加えて,本件各建物は,当初の計画どおり建築されれば,耐火構造に関する規制違反や避難通路の幅員制限違反など,居住者や近隣住民の生命,身体等の安全に関わる違法を有する危険な建物となるものであって,本件各建物が完成してしまえば,事後的にこれを是正することが相当困難なものも含まれていることからすると,その違法の程度は決して軽微なものとはいえない。請負業者Xは,上記の大胆で極めて悪質な計画を全て了承し,本件各契約の締結に及んだのであり,本件各建物の建築に当たってXが注文者に比して明らかに従属的な立場にあったとはいい難い。」とした。


現実には、違法建築の依頼を受けて、発注者に押し切られる例もままあると思われるところ、違法建築の請負契約を無効としたものであり、実務的に参考になると思われる。


なお、建築基準法等の法令の規定に適合しない建物の建築を目的とする請負契約が締結されこれに基づく本工事の施工が開始された後に施工された追加変更工事の施工の合意については、公序良俗に反しないとされた。

2011.07.17

更新料有効最高裁判所判決

建物賃貸借において、更新の際に授受されることが多いと思われる 更新料 について、大阪高等裁判所で、3つの無効判決と1つの有効判決がなされていた。今般、これら全部について、最高裁判所が有効判決をなした。

 

最高裁判所ホームページに そのうちの大阪高等裁判所平成22年2月24日判決(一審 京都地方裁判所平成21年9月25日判決)についてのものが掲載されている。
ちなみに、従来の3つの訴訟は
① 一審有効(京都地方裁判所平成21年1月30日判決)→控訴審無効(大阪高裁平成21年8月27日版判決
② 一審有効→控訴審有効(大津地方裁判所平成21年3月27日判決)→控訴審有効(大阪高裁平成21年10月29日判決
③ 一審無効(京都地方裁判所平成21年9月25日)→控訴審無効(大阪高裁平成22年2月24日判決
と結論が更新料合意について有効と無効にわかれていた。

 

事案の概要 最高裁ホームページに記載されている判決の原審である前記大阪高裁平成22年2月24日判決の事案は次のとおりである。
(1)Xは、平成15年4月1日、Yとの間で、本件建物につき、期間を同日から平成16年3月31日まで(1年間)、賃料を月額3万8000円、更新料を賃料の2か月分、定額補修分担金を12万円とする本件賃貸借契約を締結し、平成15年4月1日、本件建物の引渡しを受けた。

 

(2) 本件賃貸借契約に係る契約書には、Xは、契約締結時に、Yに対し、本件建物退去後の原状回復費用の一部として12万円の定額補修分担金を支払う旨の条項があり、また、本件賃貸借契約の更新につき、
①Xは、期間満了の60日前までに申し出ることにより、本件賃貸借契約の更新をすることができる、
②Xは、本件賃貸借契約を更新するときは、これが法定更新であるか、合意更新であるかにかかわりなく、1年経過するごとに、上告人に対し、更新料として賃料の2か月分を支払わなければならない、
③ Yは、Xの入居期間にかかわりなく、更新料の返還、精算等には応じない
旨の更新料条項がある。

 

(3)Xは、Yとの間で、平成16年から平成18年までの毎年2月ころ、3回にわたり本件賃貸借契約をそれぞれ1年間更新する旨の合意をし、その都度、上告人に対し、更新料として7万6000円を支払った。

 

(4)Xが、平成18年に更新された本件賃貸借契約の期間満了後である平成19年4月1日以降も本件建物の使用を継続したことから、本件賃貸借契約は、同日更に更新されたものとみなされた。その際、Xは、Yに対し、更新料7万6000円の支払をしていない。

 

 

最高裁平成23年7月15日判決

 

本件条項を消費者契約法10条により無効とした原審の判断は是認することができないとし、その理由としては、次のとおりとした。

 

(1) 更新料は、期間が満了し、賃貸借契約を更新する際に、賃借人と賃貸人との間で授受される金員である。これがいかなる性質を有するかは、賃貸借契約成立前後の当事者双方の事情、更新料条項が成立するに至った経緯その他諸般の事情を総合考量し、具体的事実関係に即して判断されるべきであるが(最高裁昭和58年(オ)第1289号同59年4月20日第二小法廷判決・民集38巻6号610頁参照 (但し借地の事案))、更新料は、賃料と共に賃貸人の事業の収益の一部を構成するのが通常であり、その支払により賃借人は円満に物件の使用を継続することができることからすると、更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当である。

 

(2) そこで、更新料条項が、消費者契約法10条により無効とされるか否かについて検討する。
ア 消費者契約法10条は、消費者契約の条項を無効とする要件として、当該条項が、民法等の法律の公の秩序に関しない規定、すなわち任意規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重するものであることを定めるところ、ここにいう任意規定には、明文の規定のみならず、一般的な法理等も含まれると解するのが相当である。そして、賃貸借契約は、賃貸人が物件を賃借人に使用させることを約し、賃借人がこれに対して賃料を支払うことを約することによって効力を生ずる(民法601条)のであるから、更新料条項は、一般的には賃貸借契約の要素を構成しない債務を特約により賃借人に負わせるという意味において、任意規定の適用による場合に比し、消費者である賃借人の義務を加重するものに当たるというべきである。
イ また、消費者契約法10条は、消費者契約の条項を無効とする要件として、当該条項が、民法1条2項に規定する基本原則、すなわち信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであることをも定めるところ、当該条項が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか否かは、消費者契約法の趣旨、目的(同法1条参照)に照らし、当該条項の性質、契約が成立するに至った経緯、消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考量して判断されるべきである。
更新料条項についてみると、更新料が、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有することは、前記(1)に説示したとおりであり、更新料の支払にはおよそ経済的合理性がないなどということはできない。また、一定の地域において、期間満了の際、賃借人が賃貸人に対し更新料の支払をする例が少なからず存することは公知であることや、従前、裁判上の和解手続等においても、更新料条項は公序良俗に反するなどとして、これを当然に無効とする取扱いがされてこなかったことは裁判所に顕著であることからすると、更新料条項が賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載され、賃借人と賃貸人との間に更新料の支払に関する明確な合意が成立している場合に、賃借人と賃貸人との間に、更新料条項に関する情報の質及び量並びに交渉力について、看過し得ないほどの格差が存するとみることもできない。
そうすると、賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」には当たらないと解するのが相当である。
(3) これを本件についてみると、前記認定事実によれば、本件条項は本件契約書に一義的かつ明確に記載されているところ、その内容は、更新料の額を賃料の2か月分とし、本件賃貸借契約が更新される期間を1年間とするものであって、上記特段の事情が存するとはいえず、これを消費者契約法10条により無効とすることはできない。また、これまで説示したところによれば、本件条項を、借地借家法30条にいう同法第3章第1節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものということもできない。

 

今後の実務に与える影響

 

更新料慣習を否定しているわけではないので、賃貸借の契約実務自体はあまり変わらないかもしれない。
 また、実質家賃としては同額の場合、更新料により一時金が発生する契約と、更新料なしのかわりに、若干家賃が高額となる場合とでは、後者を望む賃借人が増えるかもしれない。もとより、従来からの賃貸借実務を承認する内容の判決ではあるが、最高裁判決がなされ報道されたことにより、賃借人の契約する際の意識に与える影響があるかもしれないとの感想を持った。
 なお、本件では「本件条項は本件契約書に一義的かつ明確に記載されているところ、その内容は、更新料の額を賃料の2か月分とし、本件賃貸借契約が更新される期間を1年間とするものであって、上記特段の事情が存するとはいえず、これを消費者契約法10条により無効とすることはできない。」としているが、単純に、賃貸借1年契約について更新料2カ月の場合に、常に有効とみるべきではなく、合意時点での当事者、特に賃借人の意思確認、更新料も含めた実質的賃料の観点から暴利とならない額に留まっているか等、個別具体的に信義則に反することのない額に範囲に留まっているかを検討するべきと思われる。
 さらに、更新料有効とすれば、若干長期の定期建物賃貸借型で契約するニーズが賃借人側に出るのではないかという気がしている。

 

2011.05.02

○ 居住用賃貸借において敷引特約が無効とはいえないとされた例

最近、賃貸実務上参考になる判例が出たので、以下紹介する。

 

 

判旨②の中で、更新料合意が有効ととれる部分があるのが興味深い。もっともいわゆる傍論なのかもしれないが。

 

 

 

○ 居住用賃貸借において敷引特約が無効とはいえないとされた例(最判平成23年3月24日 最高裁HP

 

 

 

1 関西方面では、賃貸借に敷引特約をしている例がままみられると言われている。敷引特約とは、賃貸借契約時に敷金として賃貸人が賃借人から預かった金員のうち、一定の額を「敷引き」あるいは「償却」と称して、賃貸借終了時には、全額を返還せず、「敷引き」「償却」として控除した残のみを返還するという方式の特約をいう。

 

2 これについての従来の裁判例は、有効な契約であることを前提としつつ、終了時点の個別事情により判断するもの、消費者契約法10条により無効とするものなどにわかれていたが、消費者契約法による判断をするものがやや多かったと思われる。

 

 

 

 最高裁判所は、阪神・淡路大震災時の家屋倒壊に関連して、賃貸借が終了したが、敷引特約が適用されるかについて、居住用の家屋の賃貸借における敷金につき、賃貸借契約終了時にそのうちの一定金額又は一定割合の金員を返還しない旨のいわゆる敷引特約がされた場合であっても、災害により家屋が滅失して賃貸借契約が終了したときは、特段の事情がない限り、右特約を適用することはできないとしていた(最判平成10年9月3日民集 52巻6号1467頁)が、通常の終了については、最高裁判所の判断はまだなかった。

 

平成23年3月24日判決はこの問題について、まず、消費者契約法による無効となる場合があるとの一般論を述べ、次に当該契約については、無効にあたらないとして、当該敷引契約を有効とした。

 

 

 

(判旨)

 

① 消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額,賃料の額,礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし,敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には,当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって,消費者契約法10条により無効となる。

 

② 本件特約は,契約締結から明渡しまでの経過年数に応じて18万円ないし34万円を本件保証金40万円から控除するというものであって,本件敷引金の額が,契約の経過年数や本件建物の場所,専有面積等に照らし,本件建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額を大きく超えるものとまではいえない。また,本件契約における賃料は月額9万6000円であって,敷引金の額は,上記経過年数に応じて上記金額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることに加えて,賃借人は,本件契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには,礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない。そうすると,本件敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず,本件特約が消費者契約法10条により無効であるということはできない。

 

弁護士&more ANEX

 

 

 

2011.03.19

生物学的父子関係はないが、法的には実親子関係があるされる場合の、離婚後の子の監護費用

表題の論点について、3月18日に最高裁判所に判決をいただいた。

 

具体的事例の中身を検討のうえ、権利濫用により否定したもの。
過去には、この論点にふれた最高裁判決はないことから、裁判所ホームページのリンクをつけて、紹介する。

 

平成21(受)332 離婚等請求本訴,同反訴事件  
平成23年03月18日 最高裁判所第二小法廷 判決

2011.01.27

抵当権者に対抗要件で遅れた借地権と時効

1月21日に最高裁判所第二小法廷で私が被上告人代理人を務めている事件の判決をいただいた。
裁判所ホームページ内でも紹介されていた。


賃借権の対抗力を具備する前に、抵当権設定登記がなされた場合、その後に賃借権の対抗要件を具備しても、抵当権実行後の第三者に対抗できないのは、対抗要件法理では当然であり、私も、かつて、某大学で借地借家法の講義をしていた際に 事例をあげてそのように講義をしてきたところである。

ただ、抵当権設定登記後時効期間経過の場合にどうかについては、明確な判例はなかったところ、今般の最高裁判所判決で明らかにしていただいたもの。
民事施行実務上、有益な判例といえるのではないだろうかと思い紹介する。

最判平成23年1月21日 最高HP
平成21(受)729 建物収去土地明渡等請求事件(棄却)

抵当権の目的不動産につき賃借権を有する者は,当該抵当権の設定登記に先立って対抗要件を具備しなければ,当該抵当権を消滅させる競売や公売により目的不動産を買い受けた者に対し,賃借権を対抗することができないのが原則である。このことは,抵当権の設定登記後にその目的不動産について賃借権を時効により取得した者があったとしても,異なるところはないというべきである。

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